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短編『おしゃれ貴族』

作者: 森岡幸一郎


『カランカラン♪』


今日は祝日の昼下がり。


可愛いドアベルが音を鳴らし、都の仕立て屋にお客がやって来ました。


そう、わたしとお父様です。


「ガーネットフリューゲル公爵様⁉ 如何されましたかこんな下界まで。確かお伺いするのは来週の予定だった筈ですが・・・」


テーラーさんはお父様とわたしが突然お店に来て大慌てです。


奥からも従業員の人が慌てて飛び出してきます。


ふふんいい気分♪ お貴族様はこうでなくっちゃ。


「ごきげんよう。テーラーさん」


「あ、ああ、これはノアお嬢様、ご機嫌麗しゅう存じます」


このお店はお父様御用達の仕立て屋さんで、月に一度、新しいお洋服を仕立てるために屋敷まで来てもらうのですが、今日はお父様とお出かけする用事があったのでわがままを言ってお店まで来ちゃいました。


「たまにはこちらから出向いてみようと思ってな。なに、ほんの気まぐれだ、許せ」


「とっ、とんでもございません。ありがたき幸せ、光栄の極みでございます」


「では早速、社交用に新しい物を2、3着頼みたい」


「かしこまりました。どうぞ奥へ。ちょうど閣下にお見せしたいと思っておりましたものがこちらに・・・」


お父様は帝国一のオシャレさんと言っても過言ではありません。


お城の衣裳部屋だけでは入りきらずとうとう服の為に新しくお屋敷を建ててしまう程。


かく言うわたしも可愛いお洋服は大好き。


お父様がこんな性格だからわたしも一度袖を通したドレスは二度と着ません。


あっでもまだ呆れないでください。


一度着たお洋服は街の孤児院に寄付したり、日曜のフリーマーケットでわたし自ら配ったりして有効活用しています。


いいアイデアでしょう?


「これなどいかがでございましょう? これからのシーズンにもピッタリかと存じます」


仕立て屋のご主人が、濃いグレーの生地を棚から運んで来てお父様に見せます。


中々ステキな色です。


「いい色だな。何処の物だ?」


お父様は、生地を受け取ってその質感を確かめます。


「はい、こちらは老舗ティターニア社製の物で、大陸原産のウールを使用しております。特に着心地の良さで言うならば右に出る物はないかと」


「うむ。では生地はこれで良い」


「かしこまりました。ボタンはいかがいたしましょう」


「木製で。三つ揃えの、段返りに」


「かしこまりました。襟はいつもの通りでよろしいでしょうか」


「うむ」


お父様は本当にカッコよくて、ロマンスグレーって言うんですか? 立派なお髭なんか生やして、白髪の混じった髪をオールバックにして、メガネの奥の目は理知的にキリっとしています。


昔は相当モテモテであったとか。


あ、今もでしたね。


それにお父様は帝国の魔導陸軍大佐で、五十代目前と言えども、最前線で戦う現役の軍人さんですから、その身体に衰えは全くなく、大柄で筋骨隆々な逞しいマッチョさんです。


まさに顔良し、地位良し、スタイル良し!


「あ! これお父様に似合いそう!」


お店の中をウロウロしていたわたしは、目の前にあった生地を取ってお父様と仕立て屋さんの所へもって行きました。


「どう? お父様、この柄すごくいいと思わないかしら? これでお洋服を作ったらすごくオシャレだと思うの」


「い、いえ、お嬢様それはカーテンを作るための生地ですからそれで服はちょっと・・・」


「作れ」


「え?」


「その生地で服を作れと言っている」


「いやしかし、これはカーテンの・・・」


「貴様、私に可愛いノアの申し出を断れと、この子の無邪気な笑顔を踏みにじれと、そう言うのか?」


「い、いえ、滅相もない!」


「では、ティターニア(これ)は無しだ。早急にこの生地で服を仕立てろ」


「か、かしこまりました・・・直ぐにご用意を・・・」


「それでよろしい。ありがとうノア。わざわざ私の為に選んで来てくれたのかい。確かに素晴らしい孔雀の絵だ。我が家名に実に相応しい。ありがとうノア。お前は本当に良い子だなぁ」


お父様は早速鏡の前に立ち、生地を体に当てて具合を確かめます。


お父様の体に合わせて、大きな紅い孔雀が長い尾を垂れていてすごくカッコよかったのを覚えています。


お父様はわたしの事が大好き。わたしもお父様が大好き。


「親バカが・・・」


仕立て屋さんがぼそりとこぼした言葉を、わたしは聞き逃しませんでした。



その年の帝国では、柄物のスーツやドレスが大流行。


簡単な幾何学模様でびっしりな物から、絵画を一枚丸々服にしたり、自家を象徴する動物をあしらったり、その有り様は多種多様。


なんと公の式典では皇帝陛下までもが国旗をそのままお召し物に。そら見たことか!


もちろんこの流行の発端は大東帝國、四大貴族の一人、「レオナルド・ノイエラグーネ=ガーネットフリューゲル」公爵その人・・・ではなく、その娘「ノア・ガーネットフリューゲル」であることはごく一部の人間にしか知られていません。


おわり


2021.05/09執筆

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