首都攻略戦
シオモリラボの壊滅から約20日間、中央大海で合衆国と共和国は互いに試作機を多数投入しつつ、この100年の中ではもっとも激しい全面交戦となったが、オズマNo.達と合衆国の工作部が暗躍した極東域、東南域、東部域、内陸中北部域での反乱により、共和国軍は混乱。情勢は一変した。
共和国側も合衆国本国南の星宮大陸で反乱工作を仕掛けたが、合衆国はこれをほぼ無視し、背水の構えで合衆国本国への大規模突貫作戦を断行した。
突貫開始からわずか7日後、親共和国であった中立中東域勢がオズマNo.による強硬派要人の暗殺と合衆国の懐柔交渉に屈し、共和国と決別。これにより、大勢は決した。
合衆国は素早く条約違反兵器の仕様と共和国工作員の活動が顕著な合衆国西部聖杯連邦での破壊暗殺活動を避ける為に交渉を開始。
離脱する王族を含む主な有力者の生命及び資産、大企業の非軍事施設、致命的なインフラ、文化遺産、根幹的な諸権利、民間人の離脱猶予の保証を共和国と確約した。
交渉開始から17日後、合衆国軍の最大戦力が大半の有力者達と民間人が遁走した、ほぼ軍属のみが待ち構える空虚な共和国首都パイロンジュピトンへと進行を始めた。
「そんなことはないのに、貴女は永く仕えてくれている気がします。ニシュー、貴女は私の夢から出てきてくれたよう。懐かしい友達と逢えた気でいます。私に友達等いなかったのに」
タリッタ姫はグローブを取ることを許した、メイド服のニシューに、鏡台の前で髪を解いてもらっていた。
グラングリフォン級は首都攻略参戦は3次作戦であった為、戦闘空域に入るまでまだ少し猶予があった。
禁酒したワケでもなかったが、酒量が随分減ったタリッタ姫は別人のように精悍な表情をするようになっていた。猫背まで直っている。
「タリッタ姫。髪を一房貰えませんか?」
姫はすぐに引き出しから美しく装飾された鋏を取り出し、首元からザクザクと切り始めました。最初はギョッとしたが、それを見詰めるニシュー。
「とてもスッキリしました」
涙を一筋溢して、短髪になった姫は髪を差し出した。
ニシューは櫛を置き、ハンカチで包むようにそれを受け取り、知り合ってから一番良い笑顔を姫にしてみせた。
ミチヒコはパイロットスーツは着ていないが、ドッグでユンノス・レリックのコクピットで機体と装備の調整に付き合っていた。非公式の合衆国パイロットチームの歌を歌いながら作業をしている。
オー、打ち払う荒鷲。鉄の翼。竜巻も越ゆ。
倒れた者、連なる道。我、錆の味のポークビーンズと水袋を換装した! プレイガールのピンナップを友に、いざいざっ!!
オー、オー、オー。車載保険には入れ。お前は英雄。
オー、オー、オー・・
「ミッチ」
「んん?」
同じくドッグで機体調整をしていたヴェックが動画通信を繋いできた。
「もう機体と装備のパワーが違い過ぎてよ、サポートできねぇけど」
「いいよ、船と姫を任せたぜ」
「・・一人の兵士が戦局をどうこうする、ってのはいいことじゃあねぇんだよ、たぶんさ」
ミチヒコは作業の手を止めた。
「揃いも揃って、どうしようなくてよ。それで仕方ねぇから手打ちにしようか、ってそんなもんだろ? 戦争って」
「どっちかが一方的に勝たなきゃな」
「ただの兵士で、役回りをこなしてる。そんな気を、忘れないでくれよ、ミッチ」
「・・ああ、わかった。解釈できた。ありがとう、ヴェック」
「おうよ」
ヴェックは通信を切った。ミチヒコはまた歌いだした。
オー、遠い道行き。くたびれたホロ馬車。彼女は嫁いだろう。
倒れた者、連なる道・・
3次作戦、首都中心部への攻撃が始まった。といっても議会も国王も退避しているので、名目上の総司令である共和国第3王子が搭乗するノセ級超大型艦が陣取る旧王宮上空の制圧を目的としていた。
グラングリフォン級は艦長の尽力により3次作戦参戦勢力の中では比較的後方に配置されていたが、ミチヒコの制圧艇パック換装ユンノス・レリックとニシューのワルプルガ・ジルバは予備エネルギーパックと高速飛行ユニット装備で最前線へと出撃していった。
「戦争本体はもう終わってるんだよね。終戦交渉の為だけの戦いだよ。・・だが、勇者達はここにしかいない。なんてね」
艦長は自嘲気味に呟いて、護りを固めるようにクルーに命じ始めた。
『大丈夫なのか? その子』
ミチヒコはアイカメラライトの明滅信号で伝えた。
ワルプルガ・ジルバの後部席スペースには透明の安定槽が剥き出しのパイロットカプセルが設置されていた。
中に入っているのは南極で唯一回収できたプラス2のオリジナル個体が入っていた。念入りに再調整された上にニシューの接触侵食能力で改造されてすっかり大人しくなってる他、見た目も何やら丸っこくはなっていた。
(ギョーザは大丈夫ですっ! 中々良い子ですよっ。テレパシー補助もこの通りっ!)
(姉ちゃっ!)
ギョーザと呼ばれたプラス2は得意気にテレパシーを繋いできた。
(なら、いいけどさ・・)
もう艦に戻らないだろうニシューは処分前に連れ出してやるつもりでヴァル・サバトのワルプルガへの改修時にプラス2搭乗仕様にオーダーを変えたに違いなかった。
言いたいことは色々あったが、テレパシーでは露骨過ぎる。ミチヒコは会話を切り上げることにした。
(一段階目は手筈通りっ! 後は流れに任せようっ)
(了解っ!!)
(姉ちゃっ!)
2機は二手に分かれていった。
ユンノス・レリックのミッションはクローン体プラス2が搭乗するゼップワームが現時点でもっとも多く展開するエリアの掃討であった。
ゼップワーム隊はグラングリフォン級を含む、要人の多い合衆国後衛艦群の襲撃を狙っていた。
クローン体プラス2が仕えるのは基本的な視覚予知とテレパシー。普通のパイロットではテレパシー干渉がある為に中近距離戦を挑めず、遠距離戦は予知で避けられる。
合衆国ら共和国のようにプラス1兵をクローン量産していない為、プラス2タイプに物量で攻められると厄介であった。
「結果的に、お前達と戦うことは変わらないか」
ミチヒコは呟き、確定未来視を解放し、脳波だけて正確に時限及び突入軌道設定した耐久プラズマクラッカー弾を機体の3倍は大きさある制圧艇パックから大量に放った。空になったポッドは即パージされる。
弾道前面を電磁バリアで守る耐久弾は予知の挙動を予知してゼップワーム群に迫り、更なる対応を取られる前に炸裂してプラズマ球を一斉にバラ撒いた。
オリジナルプラス2とユンノスbis程の性能を持たないクローン体プラス2とゼップワームはプラズマ球に激突、ないしバリアを破られて次々と爆散していった。
一気に7割程度のゼップワームが減ったところに突入し、制圧艇から2門露出させた実体貫通弾を放つ近接物理砲で、次々と電磁バリアや耐熱弾シールドを撃ち抜いて撃墜してゆくユンノス・レリック。
ゼップワームの反撃はミサイル缶をパージしたとはいえ制圧艇パックのせいで巨大な機体で、踊るように自在に回避してゆく。
(マンマーっ!)
(マンマっ!)
(マンマ・・)
クローン体も思念の内容に大差はなかった。
「お前らの、オリジナルも見付けてやらないとな」
苦々しく言って、ミチヒコはさらに加速して残存のゼップワームを仕止めに掛かった。
「酷い配置です。搦め手で戦う機体なのに」
「姉ちゃ?」
ワルプルガ・ジルバは現時点で最大の、クローン体プラス1が搭乗するダイルジフフレアとゼップフレアの混成部隊に接近していた。
「在庫整理です・・」
共和国のクローン体プラス1は人間性が乏しく、薬漬けにしなければ維持もできず、合衆国の法治にそぐわない。戦後、大量に抱えても扱いかねる代物であった。
何より、量産性、維持の容易さ、性能。全てクローン体プラス2が上回る。共和国の判断は容赦が無かった。
ダイルジフフレアとゼップフレアの混成部隊は補給も生還も考慮しない正面突撃を敢行し、その物量と性能で、短期的には相当な戦果を上げていた。
「終わらせてやりますよっ! ギョーザっ」
「姉ちゃーっ!!」
死の行軍を続ける混成部隊の上空を位置取ると、ワルプルガ・ジルバの両肩上部に咲いた花のような砲を露出させ、そこからニシューの接触侵食能力を乗せたギョーザのテレパシーを増幅させて真下の広域に放った。
思念砲であった。
「っ?!」
混成部隊のプラス1達は精神を侵され、一斉に動きを止め、オート制御による浮遊のみ状態となった。
これに、これまで為す術無く墜とされていた合衆国機や艦隊が一斉攻撃を放ち、一瞬で9割以上の機体を撃破した。
すぐに正気を取り戻した残存の混成部隊機は、テレパシーに触れたことで相手がオズマシリーズとまともな調整を受けたらしいプラス2だと了解し、かつてない憎悪を覚え、1機残らず、雄叫びを上げて頭上のワルプルガ・ジルバへ殺到しだした。
「うわっ? ギョーザっ、テレパシーの範囲絞って下さいっ! 凄いネガティブっ!!」
「止めちゃっ!」
仕切り直し、猛烈な砲撃を掻い潜り、ワルプルガ・ジルバは自機の周りにアンチレイガスとスモークの混ざった、粒子の重い黒い煙、黒色白兵幕を放った。
カーニバルガストはある程度、ニシューとギョーザの意思を反映し、攻撃しながら上昇してきていた残存混成部隊を包んだ。
「???」
ガスの中では機体の動きが鈍った。正確にはパイロットの操縦判断、知覚が鈍ったがそれは気付けない。戸惑う混成部隊クローン体プラス1達。
ワルプルガ・ジルバはそれらをより長く強く鋭く攻撃できるように強化されたテンタクルアンカーで凄まじい勢いで貫き、引き裂き撃破していった。
カーニバルガストの中はニシューとギョーザの感覚器の中と変わらず、認識力はむしろ増していた。
「コクピットは外しますよ。ヌルっとしますからねっ!」
「ヌルちゃ?」
闇の中の殺戮は続いた。
「オズマシリーズは素晴らしい戦果だな。改造されたプラス2も」
マツダ『中佐』は満足そうに呟いた。前衛に出る気が全く無いこともあってグラングリフォン級とは位置が離れていたが、マツダ中佐はグラングリフォン級の姉妹規格の艦マンティコア級の艦長に収まっていた。
タレ目の副官と、ネルソンの姿もブリッジにあった。
「量産投入したハイユンノスと再調整した汎用プラス1もバッチリですよ?」
すっかり落ち着いて、またさらに太った様子のネルソン。
「自作自演のようでもありますがね」
「チューズっ!」
チューズという名だったタレ目の副官を叱責するマツダ中佐。
「失礼。遺憾です」
「最終的に合衆国の勝利はもはや確定した。全てはその道行き上の、些細な齟齬だ。Dr.シオモリもよくやってくれたよ。ふふ、ははははっ!!!」
マンティコア級ブリッジにマツダ中佐の高笑いが響いた。
混成部隊を壊滅させ、カーニバルガストを機体に吸い寄せて回収していると、カッ! レールガンの強烈な熱線がワルプルガ・ジルバを襲った。
「っ!」
「っ?」
機外に残ったカーニバルガストを咄嗟に操って受け切るワルプルガ・ジルバ。超遠距離攻撃であった。
「・・冷やせばね、連射できる砲身をチビ助に発明させた。まずはお前から処分する。 No.3」
エルコンロン改修機、ネクロコンロンに搭乗したNo.6、パイはヘルメットのシールドの奥で呟き、機体を急加速させながら砲身が凍り付くレールガンを連射させだした。
「ヌーヌーのトンデモ発明ですね! ギョーザっ、撃ち気を教えて下さい」
「姉ちゃっ!」
ワルプルガ・ジルバはカーニバルガストを小出しに噴出させてレールガンの熱線を受け流しつつ、回避に専念しだした。
意図は不明だが、相手は接近しつつあった。
「退け、退け。不合理」
偶発的に居合わせて前面に出る、ないし側面の近い距離から攻撃しようとする合衆国機体はへビィブラスターで排除してゆくネクロコンロン。
「ニシュー。お前が一番嫌いだ。お前は・・不合理」
「なんか、嫌な感じっ! ギョーザっ、手の内わかりますか?」
だいぶ接近してきたのでへビィブラスターで威嚇しだすワルプルガ・ジルバ。
「んーっ」
ギョーザはテレパシーでパイの思考を読もうとしたが、コクピットのテレパシー対策が強く、わからなかった。だが、機体を整備した者達の意識は少し残っていた。
「・・水、ちゃ?」
「水? あっ」
思い至った、瞬間。接近したネクロコンロンは腰部の左右から露出させた短い砲身から特殊弾を合わせて8発連射してきた。
それらは空中で炸裂し、圧縮された水を爆発させた。
炸裂した瞬間、全ての水分が凍り付いた。ワルプルガ・ジルバは電磁バリアを展開したが、わずか足先が凍り付き、この凍結が見る間に脚部全体に拡がりだす。
「ヤバいですっ!」
「姉ちゃーっ??」
「・・凍り付け」
泥や粉塵やナパーム剤を取る為に使う外装電磁展開で凍り付きを払おうとするが、パイの近くでパイの凍結現象に触れてしまった事実は覆らず、脚部の凍結化が止まらない。
そうしている間にもバリアでは防ぎ難いレールガンを至近距離で連発するネクロコンロン。ギョーザが機体のコクピット以外の部位に伝わる撃ち気をなんとか読んで回避する。
「脚なんてっ!」
ワルプルガ・ジルバの両足をパージして胸部装甲を開いてへビィレイを放って威嚇し、距離を取るニシュー。
ネクロコンロンは先程撒き散らした無数の氷欠片を周囲に集め出した。
「わたしはパイロット型じゃないが、アーマー戦と相性がいいんだ。お前は死ぬ。ニシュー」
氷片の3割をワルプルガ・ジルバに投射するパイ。同時にレールガンも構える。と、
カッ!!!!
ワルプルガ・ジルバの後方から放たれたレールガンの熱線が放たれた3割の氷片とネクロコンロンの凍り付くレールガンを精密に撃ち抜き、氷片を消滅させ、凍り付くレールガンを誘爆させた。
ユンノス・レリックだった。制圧艇から露出させたレールガンを使っていたが、ヌーヌーの異常な発明ではないので連射はできず、通常冷却とエネルギー充填を待って第2射を放ちつつ、近付いたので回避した先を予知してへビィブラスターも放った。
氷片をさらに4割失いながら避けたところをへビィブラスターの熱弾の直撃を受けるネクロコンロン。
だが、ヌーヌーが開発した耐熱カルシウム合成物でコーティングされた表面が焼かれただけだった。コーティングはすぐに継ぎ足された。
(ヌーヌーのビックリ科学ショーになってますよ、ミチヒコっ!)
(兄ちゃっ!)
(アイツは本人が出てこない方が強いからな)
ユンノス・レリックはワルプルガ・ジルバの隣で一旦止まった。
残り3割の氷を圧縮した30程の氷の槍に変えるパイ。
(共闘したいとこだが、お前達の能力と機体と相性悪過ぎるみたいだ。南方面の艦隊も押されてる。そっちのフォロー頼む)
(・・わかりました。気を付けて下さいね)
(ちゃっ!)
ワルプルガ・ジルバは南方面へ飛び去った。
「・・No.6、パイ。お前と、ちゃんと話したことなかったな」
「No.9、ミチヒコ。お前が、アーマーを持って他のNo.を殺す為に製造されてことをわたしは知っている。わたしは、お前の性能を越えるっ!!」
パイは氷の槍による全方位攻撃をユンノス・レリックに放った。だが、これがフェイクで圧縮した氷の炸裂による機体への氷片付着が狙いだとミチヒコは予知していた。
電磁バリア高出力展開後に周囲に解放し、全ての氷片を吹き飛ばした。
それを前提に、前面にバリア展開で突進してくるネクロコンロンの挙動も読んでいて、高速後退しながら、アンチレイガス弾とマイクロミサイルを続けて撃ち、バリアを剥がし、物理的な衝撃で耐熱カルシウム装甲の内部外装に損傷を与えた。
「ウフフっ! ああ、笑ってる。わたしが笑ってる。なぁハリオッサっ!! 楽しいってこういうことかっ?!」
パイロットスーツの腰周りに帯としてボロボロになったハリオッサのマフラーを巻いていたパイ。
「超えてみせるっ! わたしをちゃんと作らなかった。博士の思い通りにさせないっ」
損傷部位に耐熱カルシウムで補いながら最大加速でユンノス・レリックに食い下がるネクロコンロン。
明らかに直接接触による凍結を狙っており、蝎の尾状の振動多節槍も放ってきたが、冷静に避けるユンノス・レリック。
ミチヒコは相手を見れば見る程学習し、予知の精度を上げてゆく。交戦で次々武器を使いきり、軽量化と被弾面の縮小の為に部位パージを繰り返し、すっかり制圧艇パックは汎用空戦パックと変わらないサイズになった。
「・・見て、わかる。パイは絶対許さない。博士が与えた役割分担。上手く、やれなかったんだな」
アンタレスを避ける挙動を読んで振るったライトキャリバーをさらに避け、ユンノス・レリックは超至近距離でレールガンを放ち、嗤うパイの乗ったコクピットもろとも、機体を真っ二つに撃ち抜いた。
「君が一番普通でしたよ。平気でいる、僕達がどうかしてたんだ」
ミチヒコは言って、パイ撃破をシグナルトーチで報せた。
ノセ級を中心とした艦隊に加わっていた。南極のシオモリラボ強襲部隊を率いていた豊満なゴモウラ級艦長は、ネクロコンロン撃墜の報せに、本来ブリッジでは禁忌の吸っていた煙草を携帯灰皿にしまうように棄て、溜め息を吐いた。
「・・最後は人形劇だったな。潮時だ。我々は首都聖堂修道院にいらっしゃる第4王子リキウ様を救出に向かう」
クルーにどよめきと戸惑いが拡がった。
「聖堂は首都の郊外ですし、攻撃対象外では?」
初老の副官も困惑していた。
「罪状が多過ぎて、議会と王から見棄てられた狂人と心中はしないということだ。気にいらない者は船から降りるなり、私を射殺するなりすればよいっ」
「・・本艦は、第4王子の救出に向かうっ! 全速後退っ」
「了解っ!!」
副官の号令で、ゴモウラ級は艦隊から離脱を始め、これを機に艦隊の約3割が続々とそるぞれに離脱を始め、共和国軍に動揺を与え、ノセ級に座する第3王子は逆上のあまり昏倒してしまい、後に艦が墜とされるまで特別医務室から出てくることはなかった。
ノセ級の艦隊の混乱はすぐに合衆国陣営にも伝わった。
マンティコア級でもクルーは沸き立っていた。
「吉報じゃないかっ! ネルソン君っ、喜びのステップを踏もうっ」
「あ、はいっ。こうでしたっけ?」
踊り出すマツダ中佐とネルソン。マンティコア級は後方で全く戦闘に参加しないので、暇ではあった。
「おいっ、チューズっ! 君も・・ん? チューズ??」
副官のチューズの姿がブリッジに見えなかった。
チューズはマンティコア級の機関部にテレポートで現れた。
「・・くだらないヤツらだ」
一人、作業員が通り掛かってギョッとしていたが、チューズが片手を掲げると作業員の目の前に作業員の心臓が出現し、それが床に落ち。作業員は痙攣して吐血して死んでいった。
「ふんっ。オズマNo.2人の始末、プラス2規格の普及阻止、全体主義の強力な軍事惑星国家の成立回避。まぁこんなもんだろう。あとは火星本国次第だ」
コードネーム、チューズはポーチから対消滅爆弾を取り出しで機関部の一部の壁面に張り付けた。
「ネルソンは始末しておかないとな。まったく、遺憾な」
ドッ! 突如背後に光と共に出現したNo.7、ルッカが対人ライトキャリバーでチューズの首を切断した。
「やはり火星にも人類が残っていたんだね。詳しい情報は君の脳に」
転がったチューズの頭部を拾おうとすると、ピーッ! 対消滅爆弾の装置が反応した。次の瞬間、
ヴゥンッ!!!!
巨大な球形の対消滅の衝撃がマンティコア級を抉り、ブリッジのマツダとネルソンものみ込まれ、消滅させられた。
上空で爆散するマンティコアの下方の地表の首都の廃墟の一角に、光と共に服が傷んだ荒い息遣いのルッカが出現した。片手に脳の肉片を持っている。
「生体反応式かっ。脳の一カケだけでも奪えただけよしとしよう。・・ん?」
近くの瓦礫の一角で押し潰されたらしい子供の遺体の一部が見えた。辺りはほぼ全て廃墟だった。この辺りは1次作戦で攻められたエリアだが、1次の時点では状況を把握していない一般市民も少なくなかったと資料にはあった。
「・・よし、だけでは済まないか。修正が、必要だね」
ルッカは細目を開いてこの光景を見詰めてから、光と共に消えていった。
ニシューとギョーザのワルプルガ・ジルバと合流したユンノス・レリックのミチヒコは、このままノセ級艦隊を攻めるべきか、別の隊をサポートにゆくべきか? ニシューの離脱のタイミングを踏まえ、少し逡巡していた。
すると、やたらと帯電した1機の合衆国の簡易アーマー、ベルー改が近付いてきた。
アイカメラライトの明滅信号で『俺、優しい』と伝えてきた。ニシューはギョーザにテレパシーを繋げさせた。
(どんな自己紹介ですか? No.4)
(優し、ちゃっ)
(なんだよモノシダ?)
(No.7から報せが入った。予定変更だ。途中まで案内する。お前達はシオモリ博士を救出しろ。時間がねぇっ!)
もう軍の規律では動いていない。ヴェックの言葉を思い出した上でミチヒコに断る理由は無かった。ニシューとギョーザも同上であった。ギョーザはニシュー次第であったが。
(・・そう言えば、他にもなんか忘れてる気がしませんか?)
(ちゃ?)
(なんだっけ?)
(ああ?)
一行は疑問を感じつつ、徐々に戦闘箇所が絞られつつある戦場の中、シオモリ博士が幽閉されているという地下施設への入り口を目指していった。
「・・クククッ。来るな。ボクのIQ400を持ってすれば容易に読めていたっ!」
薄暗い、人気も無い地下施設の最奥に、その者は拘束されていた。頭部にはテレパシー対策の大き過ぎる奇妙なヘルメットを被せられていた。
「フフフフッ。全て手の内だよっ! オズマ博士の計画は半世紀はショートカットされたっ! 宇宙の人類が生存していたとしてもなんら問題無いっ。全て対処可能っ!! ボクの頭脳があればねっ」
地下施設に虚しく独り言が響く。
「・・・」
ヘルメットが重いから首が痛いな、と思うその者。
「・・・」
想定ではそろそろミチヒコ達が来るから、今朝も強制的に穿かされた紙オムツは今日に限って断固として使用していなかったが、そろそろ限界だった。
「・・というか、ボクを活用しろっ!! この状況の切っ掛け大体ボクだぞっ? ボクの言う通りにしてたら共和国も勝てたのにっ! クソッ、パイのヤツっ。ああいう虫みたいにその場で判断するヤツ苦手だっ。ボクを切りやがってっ。お前なんかじゃミチヒコに勝てないよっ。あ~っ、もうっ! ちょっと誰かいないのぉっ?! 歯を磨きたいんだけど?! ボクの香水も取ってきてっ。誰・・っっ」
ズズッ。目の前の薄暗い床が揺らめいて、既にゴーグルを取ったNo.8、ヤミィが上半身を出して現れた。
「呼んだか? No.1、ヌーヌーっ! このっ、裏切り者っ!!」
「ヒィッ?! No.8、ヤミィっ! お前は呼んでないっ。い~やぁああーーーっ!!!!」
ジタバタするが、拘束具で動けないヌーヌーの悲鳴が地下施設に響き渡った。