プラス2
単独でキウイランド西部の比較的汚染のマシなエリアに着陸したグラングリフォン級から、予備エネルギーパックを付けた無人飛行ユニットのセッターに乗ったユンノス・レリックが発進していった。
ユンノス・レリックは積極的な戦闘を目的としない耐久水戦パックを換装している。
コクピットで操縦するのはミチヒコであったが、2つ作られた後部複座にはニシューとタリッタ姫が乗っていた。
「一応言っときますけど、姫、No.7達とは政治的な交渉は難しいですよ。会ってはくれるようですが」
「構いません。わたくしは保身と惰性で今日まで船に乗ってきましたが、世界の為に活動するという者達に興味があります」
「姫ぇ、そんなヒーローじゃないですよ? アイツら。博士が死んじゃったけど、自分じゃ何していいかわかんないからしつこく命令通り動いてるだけです。ただの暇人グループですよ」
「ニシュー、解釈が酷い」
セッターに乗せたユンノス・レリックはキウイランドを東の沿岸まで来ると、セッターを近くの枯れた森に隠し、アーマーの自力飛行で沖合いまで出ると機体性能とミチヒコとニシューの能力で周囲に観測者がいないことを確認し、海中に入った。
沿岸の深い位置にある岩に偽装された隠し入り口の扉を開かせて中へと入っていった。
「やぁ、久し振りふたりとも。それから、姫。人間がここに来たのは初めてのことです」
No.7、ルッカは他のNo.と共に、ハーブと観葉植物だらけの部屋でミチヒコ達を迎えた。変質プラス1達は変わらず無関心に植物の手入れをしていた。
「光栄です」
「というかコダマっ! 子供そんなたくさんだったんですかっ?!」
ツッコまずにはいられないニシュー。ムツネを抱えるコダマの周りには多数の電動ベビーカーが置かれ、そこには30人以上の赤子が眠っていた。
「いや、世界中でモノシダに探してもらったら保護対象がどんどん増えちゃって・・」
苦笑いするNo.2、コダマ。
「全員、サイキック持ちで不安定でよぉ。コダマはそっちの対応で動けなくなっちまった」
赤子の一人と目が合うと、全身に植物の蔓で絡まりだし、慣れた様子でそれを電撃で払うNo.4、モノシダ。
「お陰でオイラ達も人手不足になっちまってんだ。・・No.1とNo.6は抜けちまうし、No.5、ハリオッサは殺されちまったしな」
暗い顔になり、目に殺気を帯びるNo.8、ヤミィ。
「ルッカ、たぶんここからは博士の計画通りにはいかない。自分達の身を護ることと、ヌーヌー達の暴走を止めることに専念した方がいいんじゃないか?」
「うん・・イレギュラーが多くはなってきた。だけど、修正は諦めてない。これまで手も汚してきた。投げ出したくないんだ」
「ルッカ、手段が目的になってませんか?」
「ホントにね」
力無く笑うルッカ。
「ミチヒコ」
不意にタリッタ姫が呼び掛けた。
「はい?」
「わたくし、この子達を護ります」
No.達は少なからず驚いた。
「ここに残る、ということですか? それは、もう少し段取りを踏まないと、後戻りもできませんし」
「いいえ。わたくしは立場を回復し、皆さんを陰ながら後援します。ようやく生き抜く目的を見付けた気がします」
「姫」
「姫ぇ」
タリッタ姫は赤子達の元へ歩み寄った。慌てるコダマ。
「あ、ちょっ、結構危ないからっっ」
赤子達が反応し、力を発揮し始め、助けに入ろうとしたニシューに片手を上げて止める姫。
炎、念力、植物化、物質の分裂、売価、塩への変換、重力、音波、肉の触手、氷、精神派、透過、透明化、読心、光、等々・・
様々な力が姫を威嚇し、探り、無邪気に振るわれ、姫の衣服はボロボロに変質し、火傷や凍傷や裂傷や骨折まで被り、意識も掻き乱されたが、構わず、姫は近付き、そっと、コダマが抱えたムツネの頬に触れた。
「・・ま~ま?」
呟くムツネ。
「そう、わたくしもママです」
涙を溢して微笑み掛けるタリッタ姫。
「キャッキャ」
ムツネが機嫌好く笑うと、他の赤子達は連動して笑いだし、周囲に黄金の粒子が飛び交い、姫の傷は全て癒え、服も復元された。
圧倒されるNo.達。
黄金の粒子は勢いを増し、コダマが読み聞かせた絵本や童話の世界の幻影を周囲に投影し始めた。
デフォルメされた兎や熊が元気よく2足歩行で走り回ったりしだす。
「兎さんと、熊さんがっ?! もぅ~っっ、姫ってばぁ~っ!!」
感涙して姫に抱き付くニシュー。
「あら、ここにも大きなベイビーさん!」
「デヘヘっ」
ミチヒコの側にルッカが歩み寄って肩に手を置いた。
「生のゲシュタルトだね。博士の計画だと人が外宇宙にもう一度挑戦できる頃にほんの一時の間、達成できるはずの可能性の光だった。許されるなら、このまま僕達だけで月にでも移住してしまいたいよ」
「そこは絵本じゃないから、めでたしめでたしじゃ終われないですよ。ルッカ」
「哀しいね・・」
オズマNo.達は穢れた大地の底で密かに起こった黄金の光を眩しそうに見詰めていた。
南極、シオモリラボ外周のメインゲートの前に、吹雪とジャマーコロイドと操作された氷片の幻影に紛れ、唐突に、絵本や童話に出てくる冬の妖精のような可愛らしい防寒着を着たNo.1、ヌーヌーと、服はウラジオージー基地の時と変わらないが、首にハリオッサのマフラーを巻いたNo.6、パイが現れた。
「子供っ?! 何者だっ!!」
寒冷地警備用の小型機甲アーマーのパイロットがスピーカーで言い放った。
他の小型アーマー群と小型陸上無人機も反応する。
「何者か? と聞かれたら・・悪者だと応える正直なボクと相棒だよっ!!」
嗤って応えると同時にヌーヌーは目につく全ての小型アーマーパイロットにテレパシーを送り、パイは全ての無人機とゲートその者を氷の塊で破壊した。
小型アーマー同士は同士撃ちで全機壊滅した。吹雪を焼くようにして拡がる爆炎の中、警報が鳴り響く。
「ヌーヌー、わたしは何も応えてないし、別にお前の相棒でもない」
無表情のパイ。
「口上の様式美さっ! さぁ、ゆこうっ! 博士の計画にスパイスを一振りだっ!!」
ヌーヌー達の背後の氷片の幻影が解除され、共和国のバトルスーツを着た百人余りの白兵戦型プラス1達が姿を表し、無造作にラボへと進み出すヌーヌーとパイに続いた。
「Dr.シオモリっ! No.1とNo.6ですっ。共和国のプラス1を率いています」
「思ったより早かったな。例の試験体達を」
「はっ!」
警報の鳴り響くドッグの観察ルームにいたシオモリは冷静だったが、周囲を見回して、やや面食らった顔をした。
「マツダは?」
ラボ付きの合衆国軍人マツダの姿がなかった。
「いえ、先程からいらっしゃいませんが・・」
「俗物がっ! まだ中央に返り咲くつもりだったかっ」
シオモリ博士は忌々しげに置き忘れられたマツダの軍帽を取って、ゴミ箱へ投げ棄てた。
「あっ」
構内移動用のモービルを最大加速で移動させながら、マツダは軍帽を被っていないことに気付いた。
「帽子を忘れてしまった」
「遺憾ですね」
シラけた顔で言い、モービルを運転しつつ、前方でまごついていた研究員2人を顔色1つ変えず跳ね飛ばしてゆくタレ目の若い副官の男。
モービルの後部の荷台には端末だけ持った太った黒い肌の研究員の男が震えがっていた。
「ネルソン君。Dr.シオモリの研究を引き継げるのは君だけだ。頼む」
微笑み掛けるマツダ。
「は、はひぃっ、マツダ少佐っ!!」
「よろしい。ただ、もう少し現実的な機体とパイロットで頼む。あくまで製品だからな」
「イエッサーっ!!」
「お、随分古風な返事を知っている。感心だ。後で感謝のステップの踏み方も教えてやろう」
とモービルの前方に凍結現象が拡がり、通り掛かった兵士が一人、凍結した両足を砕かれ悲鳴を上げ、倒れた後、全身も砕かれていた。益々震え上がるネルソン。
モービルを素早く操って接地面上に拡大する凍結現象を回避する副官。
「少佐、隔壁を無視されてるようです。凍結能力は厄介ですね。ルートを変えましょう」
「ヌーヌーちゃんの攻撃範囲から外れればいいと思ったけど難しいものだ」
「アイツらわざと広域攻撃してますよ? 離陸後のルートも変えましょう。おそらく待ち伏せしてます」
「任せた。ようやく私にも運が向いてきた。幸運は、赤ん坊のように、大事に護りきらないとな」
マツダ少佐はほくそ笑み、すれ違いに敵前逃亡かっ?! 等と銃口を向けようとしてきた系統違いの兵士の額を熱線銃で撃ち抜き、頭部を炎上させた。
一方、隔壁を氷と錯乱した兵士の乗った小型アーマーの突進で突き破ったヌーヌー達は広間になったフロアまで来た。
前方にケース越しに剥き出しになったプラス2達が搭載された体長3メートル程度のパワードスーツが8体配置されていた。
「No.1っ! No.6っ! プラス2に対応した機甲アーマーの開発があくまで主題ではあるが、オズマシリーズの未登録能力、サイキックは全て想定済みだ」
シオモリ博士の音声がスピーカー越しに響くとパワードスーツのプラス2達を覆うカバーが閉じられ、それぞれ、思念波、音波、接触侵食、放電、再生可能な半有機構造の身体、凍結、光子操作、物質透過の力を誇示しだした。
「まぁ、君達と違って長持ちはしないが、私がその気になれば、No.9未満の出来損ないの泥人形等、いくらでも再現可能ということだ」
「よっぽどミチヒコがお気に入りなんだねぇ。嫉妬しちゃうなぁ、その関係性っ!」
「わたし達を排除したいならフロアごと爆破するなりすればいいのに、不合理。まぁ起爆はさせないが」
背後に控えるバトルスーツのプラス1達も身構えた。
「お前達は回り道してユンノスbisと調整槽の破壊を」
バトルスーツのプラス1達はヌーヌーの命に従い、通路の暗がりに消えていった。
「あらゆる点でっ! 私はDr.オズマに勝っているのだっ。ゆけっ! プラス2どもっ」
「マンマーっ!!」
パワードスーツのサイキックプラス2達は叫び、一斉にヌーヌーとパイに襲い掛かった。
「駒のクセにっ、博士とミチヒコにビチャビチャ絡むなって、言ってんのっっ!!!!」
ヌーヌーは精神波を使う個体により強力なテレパシーをぶつけ、脳その物である内部のプラス2を破裂させ、パイも凍結能力を使い個体を凍結能力ではなく、単純な骨の槍の高速撃ち出しによる物理攻撃で氷ごと貫いて仕止めた。
そのまま乱戦になっていった。
グラングリフォン級と合衆国国南極公正防衛軍が急行する頃には、シオモリラボ全域が爆発炎上し、ラボの周辺は共和国軍の艦隊に占拠されていた。
脱出できたのはマツダ少佐と副官と研究員1人のみであった。
「こりゃまた派手に計画が変わるな」
「ルッカ達、後手に回りましたね」
ユンノス・レリックに搭乗したミチヒコと、改修中のヴァル・サバトの変わりにユンノスフレア改に乗ったニシューは接触回線で話していた。
「シオモリ博士は心配じゃないんですか?」
「え? どうだろう? あまりまともに話したことがないんだ。あの人はオズマ博士にコンプレックスが強過ぎたし、俺を完成された特別な機体パーツみたいに見ていたから、正直どう接していいかわからなかった」
「ミチヒコがちゃんとコミュニケーション取れてたら、プラス2ももうちょっとマシな感じに仕上がったんじゃないですか?」
「それ、俺のせいなのか??」
ミチヒコが困惑する中、程無く、無人機同士の激突と観測弾の射ち合いが始まり、開戦した。
ラボ周辺の占拠した共和国艦隊の最奥の耐久性の高いゴモウラ級防衛艦のブリッジにヌーヌーとパイはいた。
2人とも傷だらけで、ヌーヌーは多機能電動車椅子に乗って点滴と呼吸補助マスクを付けられ、パイも折れた左腕を固定して左目に眼帯もしていた。ハリオッサのマフラーもボロボロになっている。
他のクルーと揃いの、額にテレパシー対策のバンドを付けた豊満な女の艦長は呆れ顔であった。
「無駄に白兵戦に応じるからそんなことになる。本当にI.Q400もあるのか? ヌーヌー」
「黙れ乳牛っ!! 3周程回って思考すれば明白だっ。あの女にっ! どっちが上かっ! わからせてやったっ!!」
マスク越しに息も絶え絶えに豪語するヌーヌー。
「動物の喧嘩ではないか・・。捕獲したDr.シオモリの洗脳は完璧なんだな?」
「問題無いよっ! あのビチャビチャ女っ!! ボクのテレパシーで脳ミソをトゥルントゥルンにしてやったっ。バチバチにボクの勝ちだっ!!」
「オノマトペを使い過ぎると可愛くなるから話がイマイチ入ってこないな。まぁいい。折角だ、鹵獲した1部を使ってみるか?」
「いいぞっ! ・・やれっ! シオモリっ!!」
ドッグのモニタールームで虚ろな顔で拘束されていたシオモリ博士は、ヌーヌーのテレパシーにビクリと反応した。
技官がシオモリ博士にマイクを近付けた。
「坊や達、殺ってしまいなさいっ!!」
「マンマーっ!!!」
ドッグに置かれた、唯一回収できた3機のユンノスbisの内、音声の接続されていた2機のパイロットケースに納められたパイロット型プラス2達が応えた。機体が出撃体勢に入る。
「ユンノスbis1号機と2号機、出せそうですが、よろしいんですね?」
冷や汗をかいている技官。
「構わん。自爆コードは全士官機で共有している。おそらくまともにデータが取れるのはこれきりだ。出せっ!」
「了解っ! ・・一応、味方機は離れるよう伝達っ。2機共出させろっ!!」
ユンノスbis2機はゴモウラ級から発進した。
「マママママっ!!!」
「殺ちゅ殺ちゅ殺ちゅ殺ちゅ殺ちゅ殺ちゅっ!!!」
ユンノスbis2機は回転しながら、背部に4機装備した多関節式の速射熱弾砲を連射しだした。
全弾遠距離認識の超精密射撃であった。
「っ?!」
「え?」
「ばっ?」
合衆国パイロット達はワケもわからぬ内に認識外からの狙撃を受けて撃墜されていった。
「アハハハっ!!」
「ばーん、って! ばーん、って!」
無邪気に笑いながら合衆国軍を超高速で蹂躙してゆくプラス2達。通常のハイエンド機の範囲を一段越えた、交戦が不成立な程の圧倒的な戦力であった。
ミチヒコとニシューもすぐに気付いた。
「2機でアレかっ! ルッカ達の計画通りで勝てたのか俺達?」
「状況設定が違ったんでしょう。私、今、汎用機に乗ってますし」
「ニシューは無人機を絡めて1機足止めしてくれ。俺が1体、まず減らすっ」
「了解!」
ミチヒコはシグナルトーチで無人機を集め、他の有人機や艦船は離れるように手配をヴェック達通信型部隊に伝えた。
ユンノス・レリックとユンノスフレア改は運悪く居合わせた合衆国のトンチャ級艦を遠距離からの対艦熱弾銃の狙撃でバリアを張る判断をさせる間も無く撃沈させたユンノスbis2機の側面を取りにゆく形で突入を始めた。
先行はユンノス・レリック。bisの2号機に向けて重粒子銃を精密に射って回避行動を取らせた隙に、1号機に突進する。
猛烈高性度のエンゼルガンとハイパーヒートライフルの狙撃を視覚予知とユンノス・レリックの超高機動で回避して間合いを詰める。
(マンマーっ!!!)
接近すると未分化なテレパシーを感じた。顔をしかめるミチヒコ。先程の2号機の回避反応から未分化な視覚予知さえ獲得しているのはわかった。
予知の掛け合いで消耗戦になるのは避けたい。ミチヒコはギリギリまで接近すると、バルカンとライトキャリバーによる格闘戦を挑んだ。
機体性能はユンノス・レリックが上回ったが、プラス2の未分化で複合的な力や厄介であった。
「シオモリ博士に母性を求めるのは無理があるぜっ?!」
ラボで過剰なまでに慎重に、距離を取られた少年の頃を思い出しながらミチヒコは言い、撹乱にヒートクラスターを一撃放った。
「キツいですねっ。接触して力比べしてやりたくなりますっ!!」
早くもフレアピクシーを全機墜とされたニシューは遅れてきた無人機をbis2号機にけしかけながら焦っていた。
プラス2の乗るbisと戦うにはユンノスフレア改では低スペック過ぎた。
(殺ちゅっ!!)
無邪気な程、シンプルな害意のテレパシーを浴びせられながら、ニシューはユンノスbisのエンゼルガンのラッシュに耐えていた。
「オオッ!!」
ミチヒコはbis1号機のエンゼルガンをどうにか2機破壊し、長大で当て易かったハイパーヒートライフルも切断して破壊していた。
bis1号機は高出力ライトキャリバー二刀流に切り替えた。こうなると接近戦に付き合う方がリスキーであった。
ユンノス・レリックは素早く距離を取りへビィブラスターと特殊弾による近距離砲戦に切り替えた。
視覚予知のさらなる予知、無自覚の確定未来視で動きを読みながらプラズマクラッカーを射ち、発生したプラズマ球の効果範囲外ギリギリをbis1号機が通る瞬間を予知してへビィブラスターで撃ち抜きに掛かる。
止まった時の中のような体感時間の中で、劣っていても視覚予知と、テレパシーの使える1号機のプラス2とミチヒコは明確に視線を合わせた。
(お前はなんなの? なんでそんなに強いの?)
(俺はミチヒコ。お前達を倒す為に造られたんだ。だからそういう種類の性能なんだよ)
(お前から、ママの心の匂いがする。音がする。感触と、味もする。・・読み込める)
(俺はそんなにシオモリ博士と関わってないよ)
(違うよ。お前は見守られていた。ママはお前を使って証明しようとしていた。ママの想いがお前に残ってる)
(証明?)
(ママは、お前達のパパの考えが一番だって証明しようとしてた。その思いが、お前を守っていた。お前はただ道具だけど、とても、大事に使われた。私達よりも)
(・・俺達が憎いか?)
(違うよ。私達はこうして殺し合う、そういう道具。パパとママはお前を大事に扱ったけど、お前はもっと勝手に動こうとしている。私達は違う。私は違う。私はママだけの道具。お前より、いい道具。・・ママ)
bis1号機は撃ち抜かれ、爆散した。
「・・・」
一方、ニシューは、
「どぉりゃあああーーーっっ!!!!」
機体をボロボロにされながらも強引にbis2号機に取り付き触覚洗脳で精神攻撃を入れていた。
「殺ちゅちゅちゅちゅっっ?????」
プラス2も触覚洗脳や他の全てのNo.の未分化な力が使えたが、ニシューの圧倒的な自我には為す術が無く、パイロットカプセルの中で昏倒させられた。
プラス2越しに自爆機構を解除させる。
抵抗はやめ、機体のオート制御だけで浮くbis2号機。
「わはははっ!! 完全勝利ですっ。そのまま破裂」
「待てっ!」
ミチヒコがユンノス・レリックで直接機体を掴んで回線を繋いできた。
「なんですかぁ? この子達の有り様があんまりだから可哀想になっちゃったんですか? 技術も流出しましたし、これからまだまだ殺ってかなくちゃならないんですよ? ミチヒコ」
「尚更だ。サンプルは必要だし、俺達はヌーヌーとは違うやり方で行くんだろ?」
「・・豆チビを引き合いに出すのはちょっとズルくないですか?」
ニシューは渋々機体から手を離した。
「ふぅん・・撤退信号!」
bis2機の敗北を通信型ゼップの中継フォローを介して確認したゴモウラ級艦長は細長い煙草を吸いながら命じた。
共和国艦隊は撤退を始めた。合衆国側も追撃する余力は無かった。
「あのNo.2人とあの青い機体、異常だな」
「ニシューのバカはもはやアーマー戦関係無い手口だったけどねっ」
ある程度回復してきて、マスクを取るヌーヌー。
「あの青いのはわたしが殺るよ。シオモリの玩具じゃ無理だ」
パイが淡々と言った。ムッとするヌーヌー。
「ミチヒコはボクが」
「どうせ好き過ぎて殺せないだろ? バカバカしい」
「ちょっ?! 違っ! ちょっ?? なっ? うわぁーーーーっ!!!!!」
テレパシーを解放して絶叫しだすヌーヌー。パイには通用しなかったが、テレパシー対策装備をしているとはいえ、かなりの衝撃で、艦の運行に支障をきたした。
「オイッ、氷女っ! やめさせろっ。酷い兵器だっ!!」
「・・心等実装するから不合理なことになる。ただのバグだ」
パイは冷え冷えした顔で、折れていない方の腕で、叫ぶヌーヌーにプラス1用の強力な鎮静剤をたっぷりと射ち込んだ。