砂漠に眠る者
グラングリフォン級はエアーズ大陸完全制圧軍の艦船数隻と砂漠地帯を航行中、突然中型艦メザ級3艦と共和国の新鋭の大型艦艦ゴモウラ級1艦に襲われていた。
戦争の常態化したこの世界では、ハイエンド機配備の王族や政治家や著名人の乗ったプロパガンダ艦というのは合衆国、共和国共にそう珍しい物でもない。
ミチヒコ達のグラングリフォン級は悪目立ちはしていたが優先順位は低い程度の位置付けで、交戦空域は合衆国のテリトリーの端辺りであり、戦略的にはやや不可解な突貫攻撃であった。
「いやに本艦に喰い付くな。砂漠の上で消耗戦にしかなってないが?? 識別は?」
艦長は防護スーツへの着替えに手間取りながら、困惑してオペレーターに聞いた。
「砂塵とジャマーコロイドでわかり難いですが・・出してきた機体の士官機とみられる機体のいくつかに、共和国本土の・・東北部の貴族らしきエンブレムが有る、ような、無いような・・」
地上で起こっている砂嵐の影響は上空まで達していた。
「あやふやなっ! だが、貴族の私怨ならば納得がいく。ミチヒコ機かニシュー機、都合の良い方にシグナルトーチで相手のゴモウラ級に圧を掛けるように伝えてくれ。道理の無い相手なら逃げるか激昂して墓穴を掘るだろう!」
「了解っ!」
グラングリフォン級からニシュー機にシグナルトーチで指令が撃ち出された。
「ん~? 圧って、チンピラの喧嘩じゃないんですから」
シグナルトーチでそう事細かな情報が伝わるワケでもない。それでもニシューはヴァル・サバトを駆って複雑な軌道でゴモウラ級へと突入を始めた。
「お? やるか?」
環境適応優先で火力は低い砂漠地帯戦型パックのヴァル・ユンノスで先行していたミチヒコは、視覚で相手が東北部貴族の軍だと把握はしていたので主旨は察っせられた。
露払いを買って出ることにした。いずれも砂漠地帯戦型の、ゼップ系にはヒートライフルで、簡易アーマーのドト系にはバルカンで、無人機群にヒートクラスター弾で対応する。
「ミチヒコいい仕事しますねぇ。後でメロングミあげましょうっ!」
露払いのお陰で全ての敵機を振り切ってゴモウラ級に迫るヴァル・サバト。
「閣下っ! ヴァル・サバト来ますっ!!」
「前面最大でバリアを張れっ! バリアをっ!!」
ブリッジの艦長席に座る共和国東北部の子爵ムン・ノウザ・イーは滝の汗であった。
これだけ敵艦に近いと熱源探知でバリア展開後に艦隊からの一斉砲撃を受けるリスクがあったが、副官が早々反論できる相手ではなく、また猶予も無かった。
ゴモウラは艦前面の電磁バリアを最大展開した。
「この距離でっ? 今までで一番チキン対応ですっ!」
アンチレイガス弾を撃つには遠く、間に敵機も多かった。が、無理に自機で対処する必要も無かった。
ニシューはあっさり自軍艦の射線上から離れた。ミチヒコも退避済み。他の機体は付いて来ていなかった。
グラングリフォン級とエアーズ大陸完全制圧軍の艦船からの一斉砲撃がゴモウラに撃ち込まれた。
バリアで受けるとはいえ、衝撃を受け続けるゴモウラ級。
「どぅああーーっ?!! なぜ自機で来ないっ! ニシューっ!! あの泥人形っ!!!」
「閣下持ちませんっ! プラズマクラスター打てっ! 反転しろっ、メザ級を間にっ!!」
「了解っ!!」
「コラッ?! 勝手に指示を出すなっ。私が艦長だぞっ!!」
「閣下っ! ここは転身ですっ!! 全機後退させろっ!!」
「くっそっっ・・・タリッタめっ! あの女のっ! せいで私まで前線にっ!! おのれぇ~っっっ!!!」
「撤退っ! 撤退っ!! いやっ、転身だぁっ!!」
ゴモウラ級はメザ級1艦を犠牲に、共和国のテリトリー内へと撤退していった。
「・・ううっ、砂塵越しに、程度の低い意識の流れの感触がしますねっ!!」
深追いせずにそれを見送りながら、ヴァル・サバトの中で身震いするニシュー。
ミチヒコのヴァル・ユンノスが近付いてワイヤーで接触回線を繋いだ。
「あれは、姫の元嫁ぎ先関係じゃないか?」
「姫には私からやんわり言っときます」
「やんわり、な」
ゴモウラ級艦隊を撃退したヴァルユンノスはエアーズ大陸完全制圧軍と別れ、西部戦線への合流予定を変更して近くのオアシス都市に隣接しているパープルワラビー基地へ向かった。
姫のストレスと、特異な状況の清算を本営軍から求められたことを鑑みた結果であった。
着港から3時間後のパープルワラビー基地士官エリアの屋内プールにミチヒコ達はいた。砂漠地帯では相当な贅沢であった。
主にブリッジチームとパイロットチーム。それ以外にも手の空いた艦の上級乗員や関係者もいた。
「・・・」
ここで泳げと言われたので10キロ程軽く泳いではみたが、落ち着かず、プールの中で立ってゴーグルを上げるミチヒコ。
ニシューや他の船員は大騒ぎしていた。感覚器が発達しているのに、ニシューは手袋もせずに水着でヴェックや他の男女の船員でふざけあっている。別に触れて洗脳する風でもない。
「よくやるよ」
解釈に困惑し、ミチヒコはプールから上がった。基地付きの雑務担当の者がタオルをくれたので礼を言って受け取り、プールサイドチェアに座った。
座った側から頼んでないのに雑務担当の者が西瓜ベースのノンアルコールカクテルを持ってきてまた困惑させられるミチヒコ。
「ありがとう・・」
取り敢えず飲みはした。甘い。ミントが利いている。と、
「カーガワから出航以来、戦闘続きで休みが無かったからねっ!」
近くのチェアに座って同じドリンクを飲んでいた艦長が話し掛けてきた。観光客のような格好をしている。
「他の船員も交代で一通り休ませる。手当ても払ったよ。この艦、稼いでるからさ」
ニシューの私掠船、という言い様を思い出すミチヒコ。
「姫への私怨絡みとみられる艦の清算を促されたはずですが・・」
「まずは情報だよ、ミチヒコ君。ワケもわからず砂漠に追撃に行くのは正気じゃないっ! ツテも頼ってるが、調査部にも払い込んだ」
「はぁ」
器用にコネと金を使う男だと、感心するやら呆れるやらのミチヒコ。
「今回は君のお仲間からの接触は無いの?」
接触していたことはバレているようだった。
「いやぁ、無いですね。いつも向こうから勝手に来るので」
「君の仲間はアレなのかな?」
「はい?」
「正義の味方活動をしているのかな?」
冗談めかしているが、艦長のサングラスの奥の目は冷めていた。
「いえ、オズマ博士の遺志を継いで活動しているんだと思います」
「亡くなった主人の命令をずっと実行しているんだ。律儀だね」
「プラス1としては、俺やニシューより仲間達の方が真っ当な動きをしていますよ」
プールではしゃぐニシューは、プールサイドの奥の方で、水着は着ているがパーカーを羽織って帽子も被り、取り巻きの囲まれて特別高価なプールサイドチェアに座っているタリッタ姫に手を振っていた。
小さく振り返す姫。
「私から見ると、君とニシュー君も、人の有り様をなぞっているように見える。一方で」
西瓜のノンアルコールカクテルをストローで一口飲む艦長。
「なぞられる我々の方が偽物のような気にもなってくるよ」
「・・解釈が難しいですね」
「ねぇ」
艦長は照れ臭くなったのか、その後は金と政治の話ばかりしていた。
その日の夕方には一通りの情報が出揃った。狙ってきていたのがムン・ノウザ・イー子爵の艦であったことも知れた。
ムン子爵の叔父がタリッタ姫の2番目の夫で、離縁を切っ掛けにイー氏は勢力が衰えていた。
ムンは降格して子爵となった挙げ句、末っ子であった為に前線に駆り出されたが戦果を上げられず、さらなる降格をさけるべく、タリッタ姫の『成敗』に己の命運を賭けたようだった。
が、今日の敗走で更に立場が悪くなり、旧式の大型機とその輸送艦を付けるのと引き替えに残った護衛艦2隻の随行権も剥奪。相当に追い詰められている様子であった。
・・夕食後にニシューとミチヒコは、適当な私服と日除けカバー付きのテンガロンハットにポンチョといった格好で、パープルワラビー基地に隣接したパープルワラビー市に買い物に出掛けた。
姫とよく顔を合わせるクルーへの土産の買い出しと、ざっと今の街の様子を見ておきたいというのもあった。
ずっと戦い、管理された空間にいると、何かのシュミレーションに参加しているような感覚になってくる。
ラボ育ちのミチヒコとニシューにはそれがストレスであった。
他のNo.に接触の機会を与える主旨も無いではなかった。
ほんの短い間にニシューは山の様に買い物をして、その半分をミチヒコは持たされた。
既に夜になっていた。ニシューと買い物をして街を出歩く等初めてのことで、不思議でしょうがなかった。
砂漠の街に夜、急激に冷える。エアーズ大陸では特にタブーではないので、酔客が目立ち出す。昼の暑さを避け、夜になってから大通りを元は輸入された物だというラクダに乗って案内されている観光客もいた。
戦争中であっても200年も続けばもはやそれは日常で、戦闘常態では無いと判断されたエリアでは粛々と日常が営まれていた。
それは長期に渡る疫病の流行とよく似ていて、人はリスクに関係無く、その抑圧に耐え切れなかった。物理的に経済を維持できないという事情もあった。
「買い過ぎじゃないか、ニシュー」
「買い物は買う為に買うのが醍醐味ですよ?」
「浪費だよ・・」
そのまま通りを歩いていると、ニシューが不意に裏通りの方に入った。
「ニシュー?」
「ミチヒコ。プラス1です8体」
ニシューが感覚で気付いた。
「共和国の暗殺型ですね。常態のいい個体群ですよ、これはっ!」
物陰から物陰へと移動しながら囲みだしたそれらにミチヒコも視界に捉えた。
「1体は捕獲しよう」
2人が臨戦態勢を取ろうとすると、ドォンっ!!! 2人の前に筋肉の塊のような大男が地面を割るようにして着地した。首にマフラーをしている。
少し振り返ってニッと笑ってきた。
「っ?! 貴方はっ」
「No.5っ!! ハリオッサっ!」
「話しは後だぁよ?」
のんびり言ったそのすぐ後に全身の筋肉を異様に盛り上がらせ、暗殺型プラス1達に襲い掛かった。
ドドドドドドドッッッッ!!!!!
圧倒的フィジカルで、素手で暗殺型プラス1達を肉塊に変えてゆくハリオッサ。瞬く間に暗殺型プラス1を全滅させた。
浅く負った手傷は即、再生していた。No.5、『白兵戦型』プラス1のハリオッサの身体強化は筋肉。未登録能力は超回復であった。
「共和国は姫より、思ったより戦果を上げてるお前達を危険視してるどぉ? 気を付けるだぁよ。あと、情報取るのに頭はいるよなぁよ?」
ハリオッサは近くに転がっていた暗殺型プラス1の頭部を拾ってニシューの足元に転がすハリオッサ。
「相変わらずデリカシーが足りませんねっ? ハリオッサっ!」
顔をしかめるニシュー。
「んんっ??」
「わざわざ助けに来てくれたのか?」
「違う、話すついでだぁよ。コレ」
ハリオッサはメモリーキーをミチヒコに投げ渡した。
「またか。敵の情報か?」
「違う違うよぉ。貴族の痴話喧嘩なんて知らないさぁ。そのキーの場所に、俺達が管理してた旧世紀のハイエンド機のいいパーツがある。機体を強化しろよぉ」
思ってもみない話しだった。たじろぐミチヒコ。
「いいのか? 兵器の過剰発達はオズマ博士は望んでなかったと思うぞ?」
「シオモリ博士のプラス2が想定より早く完成するんだぁよ」
「っ?」
「プラス2?」
戸惑うミチヒコとニシュー。
「プラス1の発展系だ。もう人の形してないぞぉ。対応した機体も仕上がってきてる。これで合衆国の戦勝は固くなるけどよぉ。アレは暴走するなぁ。その時はお前らでなんとかしてくれよぉ」
「ええっ?」
顔を見合わせるミチヒコとニシュー。
「暴走するのわかってるなら開発を止めろよ。お前達ならいけるだろ?」
「そうですよ。なんか、秘密結社っぽいのやってるじゃないですか」
「ダメだぁ。どんな形であれ、プラス2に類する物はいつか現れる。今、はっきり敵になるとわかる形で現れて、それを理性的なプラス1が退治することが大事なんだぁ」
「それもオズマ博士の計画なのか?」
「そうだぁ。お前達でも、俺達でも、勝てない形のプラス2が発生する可能性もある。それは困るさぁ」
筋肉の塊の身体でしかし、本当に困った顔をするハリオッサ。
「博士の弟子のシオモリなら、やることがある程度予想がつくし純粋にパイロット性能で勝とうとしてくる。シオモリはぁ、オズマシリーズの中でもミチヒコしか認めてないからさぁ」
「執着されてるんですか?」
「いや別に」
むしろ淡々と検体として扱われた記憶しかなかった。
「とにかく軍に入ってる、薬物に頼らない、自我のあるプラス1が倒すことも重要だぁ。核や共和国式のクローン兵で倒しちまうと、普通の自我のあるプラス1は不用になっちまう。結局、核が一番簡単だと人類が思い出しちまう。ミチヒコぉ、ニシューぅ。ピンと来ないかもしれないけどさぁ。ここが分岐点なんだぁ」
つぶらな瞳で、大真面目に言うハリオッサ。
「・・わかった。やってはみるよ。兵器の発達は心配だけど」
「私は姫を守りたいだけなんですけどね」
「頼むだぁよ? んじゃあ」
巨体をゴム毬のように跳ねさせて、No.5ハリオッサは跳び去っていった。
翌朝早朝、事前に共和国側にただの移動の為、という偽情報を流した上で、グラングリフォン級と小型のゾリオーデン級耐久艦1隻がパープルワラビー基地を出港した。
もう少し護衛艦を増やすか、強力な艦を付けたいところであったが、ムン子爵に逃げられたり大規模な艦隊を組まれてしまっては薮蛇になる。
メモリーキーに記された目的の汚染エリア近くの砂漠で、ムン子爵のゴモウラ級と、大型機搭載とみられる小型輸送艦ザンギが例によって突貫してきた。戦術も何も無い。
ザンギから早々に砂漠戦用の旧型大型機甲アーマー、ザッハークが砂漠に降下させられた。
「ニシューっ! 護衛艦を護るんだよっ? 有益遺物を発掘はデリケートなんだっ。我々だけで発掘するのは色々不味いっ!」
出撃前のヴァル・サバトに通信を繋いでくる艦長。
「ハイハイ、やりますやりますっ」
「ニシュー、繋がってますか?」
「姫ぇっ?!」
ブリッジに装飾された防護スーツを着たタリッタが来ていた。
「ブリッジに来てみました。頑張って下さいね」
「はいっ、よろこんでーっ!! ニシューっ! ヴァル・サバトっ!! 出ますっ!!!」
ヴァル・サバトは勢い込んでカタパルトから飛び出していった。
「ミチヒコも頑張って下さい。私の為にすいませんね」
「しつこい男には肘鉄喰らわす物らしいですよ? 姫! ミチヒコっ。ヴァル・ユンノスっ、出るっ!!」
ヴァル・ユンノスも出撃していった。
「横から入ってすいません」
「いえいえ」
姫に、艦長は最大級の営業スマイルで応えた。
ミチヒコの役割はザッハークの処理であった。旧型ながら、局所で運用される局所戦機は厄介であった。
ザッハークの砂上機動能力は高く、砂塵を撒き散らしことで撹乱もする。
重熱弾砲を二問装備し、重シールド装甲の上半身は熱弾兵器も熱線兵器も通り難い。
事前情報が無ければ火力の低い砂漠地帯戦型パックでは手間取っていたところであったが、把握済みであった。
「テンプレでいくっ!」
視覚を解放し、ヒートブラスターを避けつつ、投網弾を連発するヴァル・ユンノス。
ザッハークは避け切れない網を電磁バリアで弾きに掛かったが、そこへヴァル・ユンノスはマイクロミサイルの直射を連発した。
バリアでマイクロミサイルを受け続けるザッハーク。しかし、バリア内の超高温化で武装や部位の誘爆や破損が起こりだし、ついにバリア展開器が破損した。
バリアが解除され、マイクロミサイルの直撃を受け爆破されるザッハークから脱出ポットが射出され、通常照明弾で投降を伝えてきた。
「身も蓋も無いなっ! さてっ」
確認すると、ザッハークを射出したザンギはザッハークの敗北を見ると、速攻で撤退を始めた。だが、ゴモウラ級はグラングリフォンに向けて突進を始めた。自軍機まで対応に困惑している。
「おいおい」
ミチヒコはシグナルトーチで『ゴモウラ、特攻、兆候』と伝え、背後を取りに向かった。
「行けっ! グラングリフォンを墜とさねばっ、我らに後はないっ」
装飾拳銃片手に血走った目でムン子爵がゴモウラのブリッジで叫ぶ。近くには射殺された副官が転がっていた。
オペレーター達は目配せをし合い、ブリッジ以外に既成音声で緊急退避勧告を行った。ゴモウラから、船員達が、一斉に脱出挺や分離艦で離脱を始めた。
無人機以外は対応が別れた。グラングリフォンへの特攻へ付き合う者は少数で、大半は撤退を始めるが、破損機は脱出ポットを射出して投降を始めた。
「あ~あぁっ! 酷いことになりましたよっ。姫を脱出挺へっ! シグナルトーチで相手方の・・オペレーターに交渉しろっ。味方を逃がしてるなら余地はあるっ!! 回避行動しつつプラズマクラッカーっ! 特攻等付き合うなっ」
姫が従者達に脱出挺へ案内される中、艦長は小心者を追い込み過ぎたことを後悔していた。
「姫っ?! コイツぅうっ!!!」
少数の特攻機の大半をへビィレイで消し飛ばし、ゴモウラの無謀な特攻砲火を回避しつつアンチレイガス弾を撃ち込み、艦に取り付くと、全てのテンタクルアンカーを外装の破損部に打ち込み、触覚を解放し、艦内を探った。
触覚感覚をブリッジに超高速で向かわせ、艦長席で銃片手にいきり立つムン子爵を捉えた。
「ぐっ?!」
ニシューは命じた。
「お前の頭の血管は弾けるっ!!!」
ブチブチブチッッ!!!
ムン子爵は痙攣し、鼻と耳から出血して絶命した。
「っ?!」
それを確認したオペレーターや操舵主達は、降伏を通常照明弾で伝えつつ激突コース避けた。
「ニシューのヤツ、能力で直に倒しましたねっ! 目立ち過ぎですっ!!」
ゴモウラの後ろを取って落としに掛かろうとしていたミチヒコは思わず口に出し、慌ててレコーダーに記録を削除した。後で、ヴァル・サバトの記録も消しておかなければならなかった。
「ふぅ~っ、いや、一応、ギリ墜とせそうだったけどね。・・喉がカラカラだ。氷温庫にまだメェンゴォあったかな?」
グラングリフォン艦長も一息ついていた。随行のゾリオーデンも無事であった。
想定外の大量捕虜とボロボロながらゴモウラ級をまるごと鹵獲できてしまった為に、一番近い合衆国本営軍を呼ばねばならず、午前中に撃退したにも係わらず、そう遠くない目的の汚染地帯の採掘ポイントに着いたのは夕方になってからだった。
旧世紀の古戦場の大穴の側面から、小型機甲アーマー隊で遺跡と呼ぶより他ない構造物の中へと入ってゆく。
「探検ですねっ!」
ニシュー機の複座に乗ってきてしまったタリッタは上機嫌であった。
「姫、小型機は揺れるのだ舌を噛まないように気を付けて下さいね」
「了解ですっ、ニシュー隊長っ!」
「まぁ可愛い一等兵さんっ」
萌えるニシュー。
「はぁ、私まで同行するとは・・」
艦長はゾリオーデン級の年上で階級も上の艦長が調査隊に加わってしまったので同行せざるを得なくなっていた。
「正確なマップだな。奥は整備されてる」
視覚解放気味のミチヒコが先導していた。ミチヒコは大きな機甲アーマーよりも、自分で操縦している感じが強い小型アーマーの方が好きであったので、姫ではないが、存外楽しんでいた。
「この穴だ」
遺跡内はジャマーコロイドが濃厚。ミチヒコは前方の機体1機分程度の穴の前で自分が様子を見てくる旨をアイカメラの明滅信号で伝えた。
そしてライトを強め、スラスターとブラスターをコントロールしながら穴を降り始めた。が、すぐに姫を乗せたニシュー機が付いてきた。
「様子を見ると言ったのに」
呆れつつ、放っておくミチヒコ。底まで降りると、その先には・・
「!」
「ユンノス系ですね。ちょっと凝り過ぎですが」
「綺麗・・」
遺跡の底に、かなり装飾的な外観の、大きく破損し砂や埃を被り、一部は耐毒植物にも覆われてはいたが、錆びた様子は無い、ユンノス系の、旧世紀の機甲アーマーが静かに横たわっていた。