鉱山の光
南極にもっとも近い島、キウイランド。各種兵器条約の甘かった100年以上前に致命的な被害を受け、島の3割が崩壊して海となり、5割が重汚染され、残る2割も汚染されていた。
現在、周辺の不干渉エリアにある離島の合衆国と共和国の基地を除いて無人地帯と化している。
・・はずであったのだが、その地下にミチヒコとニシューを除くオズマシリーズのNo.達の拠点があった。
ムツネを抱いたコダマとモノシダは無数の保護ケースの納められた世界中の文化遺産が並ぶ広大なフロアを歩いていた。
コダマはなるべくムツネに能力を使わないようにしていたが、状況が状況なので眠らせていた。
文化遺産フロアを抜け、迷路になったフロアを全く迷わず抜け、特に出入口での認証等無く、その先のフロアに入った。認証は迷路フロアを抜ける過程で何重にも受けていた。
その部屋は清潔な土を使った多数の観葉植物やハーブのポットやプランターが整然と置かれた部屋であった。
身体に変質のあるプラス1とみられる者達数名が慎重に世話をしている。
コダマ達が入ってきても特に関心は示さなかった。洗脳されてる風でもなく、いちいち反応する意味が無いから反応しない、といったところだった。
フロアの奥は書斎になっており、ゆったりとした服装のNo.7がハーブティを飲んでいた。
「随分遅かったね、No.4」
「いやぁ、まぁ、よぉ・・」
バツが悪そうなモノシダ。
「ミイラ取りがミイラという言葉もある」
「うっ・・コダマ」
手に負えないと、パスするモノシダ。コダマは鼻から、ふんっ、と息を吐いてから話しだした。
「No.7っ! ルッカっ。コダマさんをこの子、ムツネちゃんを育てることにしたよ!!」
「なぜ? 他の劣化クローンは全て処理されていた。なぜその子だけ? 最後の1人だから?」
No.7、ルッカは淡々としていた。
「この子は身体能力は普通の人間とあまり変わらない。ちょっと耳と声帯と免疫が強い、くらい」
「だから?」
「デチューンされ過ぎて、オズマ博士のロックが外れてるんだよ」
「具体的に」
冷や汗をかくコダマとモノシダ。モノシダが口を開いた。
「この子は子孫を残せるみたいなんだぁ。買い手が自前で繁殖できるなら商売になるとでも思って、オーダーしたんだろうけどよぉ」
ルッカの周囲に光が集まりだした。即、防護シートでムツネを守るコダマ、コダマとムツネの前に出るモノシダ。熱で周囲の観葉植物やハーブが萎れだす。
作業している変質したプラス1達は迷惑顔をした。
「それは、ダメだね。人間と戦争になる。交配できるプラス1の出現はオズマ博士の計画ではもっと先だ。人間同士の戦争すら克服していない今、現れては人類は破綻する」
「待って、ルッカ! この子はそれだけじゃないっ。これは偶然だと思う。買い手の連中どころかもう潰した開発メーカーのヤツらも気付いてなかった。だけとコダマさんは、聴いて、すぐわかった! この子は・・」
防護シート越しにコダマは愛おしそうに眠るムツネを撫でた。
「コダマさんの、サイキック、を引き継いでる」
「っ!」
ルッカは光を集めるのを止めた。
「僕達の生体データにはサイキックの再現性は無いはずだよ?」
「生殖能力を獲得する為に劣化させてロックが外れた結果だと思う。それでも相当な低確率だけど、この子は選ばれたんだ」
「人間性を失わない、ほんの少しの人類の進化。そのオズマ博士の計画からはちょっと外れるがよぉ、これもその可能性なんじゃねぇかぁ? この子はたぶん、人類、だぜぇ? ルッカぁ」
「・・・」
ルッカは細い目をさらに細め、大きく溜め息を吐いた。
「検査はする。コダマは暫くその子に付いていること」
「っ?! ホントにっ?! モノシダっ!」
「おうっ」
ハイタッチするコダマとモノシダ。
「モノシダは予定を変更して、残存の僕達の劣化クローンの調査に専念してくれ。他にもイレギュラーがあるかもしれない」
「わかったっ。じゃ、コダマ。ムツネぇ。俺は行ってくるぜ!」
「優しさも程々にしときなよ?」
「ケッ、よく言うぜっ」
モノシダは放電と共に加速して消えていった。
「No.2、コダマ。君も早くその子を検査に」
「ルッカも抱っこしてみるっ?」
ニンマリしてムツネを近付けようとするコダマ。
「早く、行きなさい!」
カッ、と細目を開いて一喝するルッカ。
「こっわっ! ムツネちゃん、このロン毛のお兄ちゃん怖いでちゅねぇ? おー、よしよしっ・・じゃ、コダマさん、検査行ってきまーす!」
コダマも加速して駆け去っていった。
「・・まったく、自由にするのはニシューとミチヒコだけのはずなのに、皆、タガが外れてきてるんじゃないかな?」
ルッカは光を操って、近くにオズマ博士の姿を造りだした。
「オズマ博士、昔から僕がワリを食ってる気がするんだけど?」
幻影のオズマ博士は応えない。ルッカは幻影を消した。
「ま、皆がスペシャルになるなら、誰かはノーマルでいないと、ね」
ルッカは自嘲気味に呟いていた。
いずれも重装甲の拠点防衛型の共和国の機甲アーマーゼップとゼップガナー、それから簡易アーマーのドトを、ミチヒコのヴァル・ユンノスとニシューのヴァル・サバトを中心としたグラングリフォン級の部隊が圧倒し、鉱山地帯中部から退けた。
「防衛型、硬いけど鈍いからそうでもなかったですね。あら、梅味」
ワイヤーでミチヒコ機に接触通信を繋ぎつつ、ヘルメットのシールドを上げて経口補水液を飲むニシュー。
「パイロットの生存率は高い。捕虜はウチじゃ対応しきれないから、本営軍に渡さないとな」
ミチヒコは最近パイロットチーム内で流行ってるゴムのようなドロップをぐむぐむと齧っていた。
「グラングリフォンは私掠船ですしね」
「・・まぁ、解釈は色々ある」
ミチヒコ達は帰投した。
グラングリフォン級はマイタイ島の南にある。無政府状態のエアーズ大陸の鉱山地帯開放作戦に参加していた。
合衆国本営軍が周辺で陽動している内に共和国の実効支配地を開放する。戦術としてはこれまでと変わらなかったが、鉱山地帯は広く、まだ北部が残っていた。
グラングリフォン級は補給する為、資源を掘り尽くされ地域のクリーンシステムも破損して環境が悪化して共和国に放棄された、鉱山地帯南部の合衆国拠点に一旦寄港することになった。
「外に出たいのです。わたくしは、外に出たいのですっ」
お付きの者達と共にグラングリフォンのブリッジに初めて現れたタリッタ姫は既に出掛ける格好をしていた。
帽子を被り、日傘を差し、旅行鞄も持っていた。
外は低濃度とはいえ有毒の南部鉱山地帯であった。
隔離された拠点のクリーンエリアを散歩する、というのは姫の『お出掛け』のオーダーから外れるらしく、艦長は2分程度の会話であっさり説得を諦め、帰投後のメディカルチェックを受けていた半袖半ズボンの検査着のニシューとミチヒコをブリッジに呼び出した。
「え~っと、姫。無理です。作戦終了後にもっとマシな所に移動してから散歩しましょう」
ついこの間まで引き籠っていたのに、急になんだ? と困惑するミチヒコ。
「わかりました。環境スーツを着て頂いて、廃鉱を少し見て回りましょう」
「ニシュー?」
「わかりましたっ。スーツを着て、早速お出掛けしましょうっ!」
姫はいつになく元気一杯だった。
20分後には、ヴァル・サバトとヴァル・ユンノスは整備中だった為、ニシューはタリッタ姫を乗せて通信型ユンノスに、ミチヒコはユンノス改に、仮眠を取りたいと面倒がったが無理に連れてきたヴェックは汎用型のユンノスに乗って南部鉱山地帯の中でも、比較的で安全で環境の安定したエリアに向かっていた。
ミチヒコは接触回線で文章でのみ、ヘルメットの中だけに音声を通すようにニシューに伝えた。
ニシューは一応、姫に南洋風の楽しげな音楽を勧めて聴かせた上でヘルメット内の音声を繋いだ。
「何ですか?」
「姫、どうしたんだ? 何かの発作か?」
「引き籠り復帰ハイ、です」
「は?」
「姫は気が済むまで引き籠った後は、気晴らしにお出掛けしないと、ヒステリーを起こしちゃうんです」
「・・了解」
10代前半で放り出されたから、あの姫の内面はそれぐらいの年頃で止まっているのかもしれない、とミチヒコは呆れるやら哀れむやら、なんとも言えない気持ちになった。
着陸させて簡単にカモフラージュさせて置いてゆく機体の見張りはヴェックに任せ、タリッタ姫は主にニシューと話しながら、おっかなびっくりに廃鉱を見て回った。
「わーっ! 大きな穴ですよっ? ニシューっ!!」
「わたくし達以外、誰もいないっ! 人が滅びた後の世界みたいですね、ニシュー」
「ニシューっ! こんな毒気の強い場所にあんな大きなトカゲがっ、何匹もっ!!」
「月や火星や、アステロイドの鉱山は、今はどうなっているのでしょうね、ニシュー・・」
ミチヒコは対人ヒートアサルトライフルを手に、黙々と先導していた。
ずっと軍に身を起き、なまじ能力が高い為に、無意味に散歩する、という行為が以前したのがいつか思い出せないくらい久し振りで、ミチヒコは夢の中を歩いているような気がしていた。
もう何年もこうして3人で人のいない世界を歩き回ってきたような、奇妙な気分。
(こんな時間なのかもしれない)
横目で確認すると、ニシューは見たこともない穏やかな顔をしていた。タリッタは意図せず、このような時間をニシューに与え続けてきたんだろう。それが掛け替えなかったのかもしれない。
ミチヒコはそんな解釈を空想していた。
すると、
「っ! ミチヒコっ」
「っ?!」
ニシューが熱線銃を地面に向けながら姫を庇っていた。
(地中っ? まさかっ)
「待て待て待てっ、降参だ! お前と相性悪過ぎるな」
地面を水のように掻き分けて、ゴーグルを付けた青年が上半身を出した。ギョッとする姫。
「No.8っ! ヤミィっ」
「ようっ、ミチヒコもっ! 直に話すは子供ん時以来だな」
ゴーグルを外すヤミィ。
「あの、この方は??」
「姫、私達の仲間でヤミィです。彼は嗅覚が発達していて、物質を透過したり、揺らめかせたりできます」
「???」
「姫っ! 透過中でもオイラの鼻は利くんだぜっ?」
「はぁ」
「姫、肝臓が疲れてるニオイがするぜ? 飲み過ぎ注意っ!」
「はい、申し訳ない・・」
ヘルメットのシールドの向こうで赤面するタリッタ姫。
「ヤミィ、そんなことを話しに来たんですか?」
「おっと、そうだった。ミチヒコっ!」
ヤミィはメモリーキーをミチヒコに投げ渡した。
「共和国は条約違反の気化弾を1発仕込んだ機体を手持ちのプラス1に当てがった。導入されたのは2時間前だ。お前の目なら見切れはするが、通常の追尾耐久対艦弾に偽装してる。初見殺しだな。バリアだけだと蒸し焼きにされる。コーティングしとけっ!」
「わかった。あの艦長なら情報の出所をそう勘繰ったりしないだろう。詳細を確認する」
「うん。よし。じゃ、な。ニシューも、姫もっ!」
ゴーグルを付けるヤミィ。
「ごきげんよう、ヤミィさん」
「ごきげんよう、だってさっ! へへっ。あ、そういや、コダマがなんか子供拾って育てるらしいぜ?」
「ええっ?」
「子供が子供を育てるんですか?」
「それ、本人に言ったらブッ飛ばされるヤツっ! ハハハッ」
ヤミィは笑って地中に消えた。
「タリッタ姫、散歩は終わりです」
「帰りましょう、姫」
「個性的なお友達でしたね」
ミチヒコとニシューは苦笑するしかなかった。
同日深夜、共和国側から強気に奪われた中部鉱山地帯に攻め込まれ、本営軍が応戦したことでなし崩しで戦闘が再開した。
グラングリフォン級は本営軍の先導と陽動で東回りに迂回し、本営軍の中でも強硬なエアーズ大陸完全制圧軍と共に北部鉱山地帯の空域へと攻め入った。
敵方の戦力、配置、展開はヤミィからもたらされた情報でほぼ知れていた。
エアーズ大陸完全制圧軍はやや無謀な突貫攻撃が目立ったが、合衆国側は有利に戦況を運び、機を見たグラングリフォン級艦長が、
『共和国劣勢明白、撤退すれば交渉の余地有り』
シグナルトーチをしつこく撃ち、共和国に協力していたエアーズ大陸独立自治派ゲリラの大半を中途離脱させたことで、共和国の不利は決定的となった。
「艦長っ、絶対裏付け浅いのに吹きましたねっ!!」
ニシューはヴァル・サバトのテンタクルアンカーで纏わり付いてきた自爆型の無人機群を蹴散らした。
この調子で敵陣奥の大型艦、オミシキ級防衛型まで切り込もうとしたが、後続隊が思いの外モタついていることに気付いた。
「?? ああっ、夜間戦闘か。人間は疲れちゃうよね」
グラングリフォン級はその特殊な立場からパイロットの補充が難しい。ニシューは珍しく、自軍のパイロットのフォローに回った。
敵も疲れているはずだが、共和国兵はわりと低いハードルでカンフル剤を使うので短期的な消耗戦に強い所があった。
一方ミチヒコは、あまり戦闘に付き合わず、高機動パックを換装した耐熱コーティング済みのヴァル・ユンノスでオミシキ級防衛艦に迫っていた。
事前情報通りなら出してくるはずだった。
「来たっ!」
カタパルトではなく、予備ハッチから、ゼップ系ではなく重量のあるダイルジフ系の急ごしらえのワンオフ機。
あちらも耐熱コーティング済みで高機動パックを装備している。背には長大なコンテナを携帯。
基本動力に対して機体も装備も重過ぎる上に調整の甘い機体で、持久戦は想定していない。それどころか、パイロットの生還をさほど考慮されていない。
搭乗しているのはオズマシリーズと直接的な関わりの無い、共和国の量産型のプラス1だ。型番ごとのクローンで個は薄く、薬物漬けで死を厭わない。
(気にいらない)
不快なミチヒコ。ニシューと再開する以前から、成り行きとはいえ合衆国に所属し続けた1つの理由でもあった。
「ネタは割れてるっ!」
周囲の、無人機と簡易アーマー機は変わらずヴァル・ユンノスを狙ったが、まともなパイロットが乗っているはずのゼップ系は強化ダイルジフを見ると慌てて、離れていった。
下位兵は知らされていない。ミチヒコはよっぽどシグナルトーチで知らせてやりたかったが、こちらが知っていることを知られると、ターゲットを変えられてしまう。
「ドローンで倍、固めても効果は同じだろうっ!」
ミチヒコは火力の低いヒートクラスターで雑魚を払いつつ、強化ダイルジフに専念した。
量産型プラス1の型番はニョ061号。この型のクローンは作戦行動に専念はするが、戦闘では威嚇を多様。強い光にも反応する。
強化ダイルジフは背負い熱弾砲撃って、一定の距離を保ってきた。こちらの性能とパターンを学習している。ミチヒコはこれには付き合わず、間合いを詰めた。
これにあっさりヒートバズーカを棄て、マシンガンに持ち換え、背部にマウントした切り札のカバーもパージする強化ダイルジフ。
ミチヒコは視覚予知を開放した。相手が並みのパイロットなら撃つ前に墜とせるが、薬物漬けのプラス1相手ではそうもいかない。
ヒートライフルを精確に連発してプレッシャー掛ける。合間に通常効果が薄いのであまり使われない閃光弾も数発撃ち込む。
「眩しい、うるさい・・っっ」
強い光のストレスと、重い切り札を抱えたまま、これ以上持ち堪えるのは不可能と強化ダイルジフのプラス1兵は判断した。
プラズマクラッカーをバラ撒いて威嚇した後、気化爆弾が装填された追尾耐久弾を放った。
追尾耐久弾は弾頭自体がカメラ認識することでジャマーコロイド散布下でもある程度追尾機能を確保している。
さらに直撃寸前まで先端部に錐状の電磁バリアを張る為、迎撃は困難であり、本来非常に高価な対艦武器であるこの特殊弾を近距離で機甲アーマーに撃たれた場合、オート設定しない限り電磁バリア展開も難しかった。
普通のパイロットならば、
「っ!」
見切ったミチヒコは左腕の裏に耐熱ジェルを仕込んだシールドをパージして追尾耐久弾を命中させつつ、アイカメラのカバーを下ろし、最大展開で電磁バリアを張った。
ゴォオオオーーーーーーーーンンンッッッ!!!!!
大爆発が起こり、周囲に喰い下がろうとした簡易アーマーのドト群や無人機が消し飛ばされ、雲が押し流されて稲光りが起こった。気流も激しく乱れる。
ヴァル・ユンノスの表面は焼かれたが、コーティングのお陰で誘爆する程ではない。アイカメラも無事であった。
ミチヒコは素早く判断して、使えない装備や誘爆の危険のある装備を全てパージした。高機動パックごとパージするハメになったが。腰背部の耐熱コンテナには無傷でフルチャージのヒートライフルとライトキャリバーをマウントしていた。
「やれるっ!」
ヘルメット内に眼精疲労緩和ガスを入れつつ、既に視覚予知は切れていたが、視覚による加速認識だけは発動させて、戦闘を継続させるミチヒコ。
「・・耐熱コーティング?? スパイか、スパイがいたんだなっ! ワタシの失点じゃないっ!!」
ボロボロになった強化ダイルジフでヴァル・ユンノスに突進する共和国プラス1。オーバードーズで顔面に血管が浮き出ていた。
使える武装は光刃薙刀と護身用のサブマシンガンだけであった。
ヴァル・ユンノスはサブマシンガンを躱し、ヒートライフルで精確にサブマシンガンと左足を撃ち抜いた。
「お前はいい調整をしてもらったんだろうっ?!」
認識の限界を越え、鼻血を出してヒートライフルの熱弾を躱して突進する強化ダイルジフ。
ミチヒコ射撃を止め、左腕のライトキャリバーに集中した。
両機が交錯する。ヴァル・ユンノスのライトキャリバーが強化ダイルジフのコクピットと機関部を切断した。
爆散する強化ダイルジフ。
「カンニングで勝てた、な」
ミチヒコは苦々しく言うのと、ニシューのヴァル・サバトとエアーズ大陸完全制圧軍の特殊部隊機群が競うようにアンチレイガスまみれにされたオミシキ級防衛艦を撃墜するのはほぼ同時だった。
エアーズ大陸の鉱山地帯は、合衆国によって完全に奪還された。
タリッタ姫はエアーズ大陸完全制圧軍の司令との会見に引っ張り出されたり、先勝パーティーに散々引っ張り出されたりしたせいで、また私室に引き籠ってしまったが、ともかくミチヒコ達は鉱山南部の拠点から出航する運びとなった。
と、見れば拠点近くの旧国道の封鎖ゲートの前に環境スーツを着た一団がデモをして大騒ぎになっていた。
ブリッジに呼ばれ、ニシューが姫の看病に付いていたのでまたヴェックを連れて来ていたミチヒコは、例によって艦長に振る舞われた、鉱夫の定番だという合成カンガルー肉のカレーシチューの缶詰めを2人して立ったまま食べるハメになりながら、画面でそれを見ていた。
「なんの騒ぎですか?」
「スーツまで着てデモしなくてもよ」
「解放後も現鉱夫や独立自治派の権利を強めに認めたから、当てが外れた旧権利者と近くの街の失業者だねぇ」
他人ごとみたいに言いつつ、お付きの兵に天然胡椒を持ってくるよう命じる艦長。
「艦長が安請け合いしたからじゃないですか?」
「ミッチっ?」
「中央の代議士に言われたんだよ? 落とし所でも代議士が自分じゃ提案できないからね。『現場のバカな軍人が勝手に言った』ってことにしたワケよ」
「艦長の立場、大丈夫ですか?」
「ミッチってっ」
「立場があったらこんなトコに座って酷い味の、キャレー、の缶詰めを食べてないよ? ミチヒコ君」
艦長は持ってこさせた天然胡椒をたっぷりカレー缶に振り掛けだした。
グラングリフォン級は、エアーズ大陸中央の砂漠地帯へと進路を向けた。