閑話 1-1 垣 凌魔の場合
俺の名前は垣 凌魔。
高校生だ。
よく大仰な名前だなって周りの人からかわれているけど、魔を凌ぐってすごくかっこよくて自分でも気に入ってるしそれをつけてくれた親にとても感謝している。
部活はサッカー部をしている。
スポーツは全般に好きだけれど、中でもサッカーは小学生の低学年の時から地元のクラブに所属しててその関係で中学と高校もずっと続けてきた。
別にだからといって学校が強豪高校って訳ではないし、俺自身もうまいって訳ではないけれどな。
毎日部活の朝練があって今日も早起きをしたのだが、そのせいで眠気と戦いながら授業を受ける日々だ。
しかし今日のこの時間の授業だけは眠れない。
この授業では寝ている生徒に対してペナルティが課されるのだ。
自分からそんなペナルティを受けたがるやつはいないので、この白鳥先生の授業は寝るやつはまずいない。
それなのにも関わらず、今日はおかしい。
いつもよりも一段と眠気がひどい。
そんなに普段と違う練習をしていたというわけでは無いはずだ。
昨日友達と夜更かしを少しだけしちゃったからかな？
とにかくこれは抗えないやつだ。
少しだけばれないように寝ようかな、なんて思い机の周りに少しだけのバリケード築こうかななんて思いついでに他の石の奴らを見てみると・・・。
おかしい。
周りのやつ、いやそれだけじゃない。
教室中の奴らが、先生までも寝てる。
いや、一人だけ他にも起きてるやつがいた。
あいつはクラスでも有名なゲーム好きのやつ。
友達は特に居なさそうで、でもいつも楽しそうにゲームをやってる姿はすごく印象に残っている。
って、そんなことは今はいい！
明らかにおかしい異常事態だ。
なにかの組織がこの教室に催眠ガスでも流布しているのか？
だめだ、思考がまとまらない。
そして、光の波が襲ってきたとき俺の意識は完全に無くなってしまった。
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ううん・・・。
なんだ此処？
目が覚めて初めて見た景色は全く見覚えがない場所で会った。
何を言っているか分からないかもしれないけど、ホントのことなんだぜ？
意識も次第にはっきりとしだして、気を失う前の状況を思い出す。
そうだ！
教室の奴ら全員意識を失ってて、それで・・・。
そうだ！あいつら・・・、隼佑や孝司、詩葉に萌花は無事なんだろうか。
いつも一緒につるんでいたおそらく教室で居て俺と一緒に寝てしまっただろう奴らのことが心配になる。
がちゃ。
考え事をしていると、部屋の中に誰かが侵入してくる。
めちゃくちゃイケメンと美女だ。
どちらも到底日本人とは思えない顔つきで、当然俺の知り合いにこのような顔に覚えは無い。
あの～、どちらさまでしょうか？なんて問いかけようとしてみると、
「うぅぅうぅ～」
なんてキーが高めのうなり声が出た。
混乱していると、彼らは寝ている俺に近づいてくると、ひょいと俺を持ち上げてしまった。
そこで、ようやく俺の体を自分で見下ろすことが出来た。
短い足、ぷにぷにのお手々、ずんぐりとした胴体。
これは、まさか・・・！
「よく生まれてきてくれたね！私たちのかわいい赤ちゃん！」
「他の兄弟達と一緒に、是非この国を支えるように育ってほしいね」
もしかして、転生しちゃってる？
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俺が生まれてから１０年の月日が流れた。
流れてしまった。
最初のうちは夢かなんかじゃないかと思った。
でも時間が経つにつれてこれは現実なんだって言う実感は強くなっていくし、こちらの家族にだって情が芽生えてくる。
だから長い時間は掛かってしまったけれど、今はもう割り切ってこの世界で暮らしている。
俺が生まれてからまず一番驚いたところはここが地球じゃ無いって事。
日本どころか地球じゃ無いって・・・。
そして次に驚いたことが俺がこの国の王子様だって事。
びっくりだろ？
今まで、日本で高校生やってたやつがいきなり異世界で王子様になってるんだぜ？
自分でも全く信じられないよ。
ただ、王子様になって良かったと思ったことがいくつかある。
もちろんひとつは生活に不自由がないってことだ。
この世界でも貧富の差はある。
王様も、つまりこっちの世界の俺の親父も亡くそうとは努力しているみたいだけど難しそうだ。
毎年飢えて死んでしまう人もいるのだとか。
父がそんな性格なので、想像するような王族の豪華絢爛な生活とまではいかなくても、生活に困るなんてことには一度も遭遇したことが無い。
そしてもうひとつは知識だ。
この世界の名前はラスティア。
なんとこの世界には大陸がひとつしかないらしい。
そのひとつの大陸に、俺が今暮らしている王国含めて５つの国が存在していて、それぞれがどんな状況なのかを知ることが出来たのはかなり大きいんじゃないかな？
小さいうちからそんなことばっか聞くことに少しばかし不信感をもたれたけどね。
今この５つの国はバチバチな状態だ。
いつ戦争が始まってしまってもおかしくない。
本当にそれだけはいやなので、是非とも回避したいところだ。
俺の今の第一目標がそれ。
自分に何が出来るかは知らないけれど、王子って立場がせっかくあるんだし、止められるなら止めたい。
そして次に、他の転生者の捜索だ。
あの光の波。
あれが俺を転生させた原因でほぼ間違いが無いような気がする。
つまり俺の他にもこの世界に転生している可能性が有るって事だ。
だから、俺は他の転生者、中でもあいつらを見つけ出したいと思ってる。
そして最後の目標。
これは完全に俺の趣味だ。
この世界には大陸はひとつしかないけど、大陸並みに大きな島が存在するらしい。
その島の存在は皆誰もが知っているけど、その島については誰も知らない。
噂によると、過酷な環境と凶暴な生物がひしめき合っているんだそうだ。
だからまず島まで行けないし、行っても死んでしまうんだとか。
そんなの聞いたら男心がくすぐられるに決まってるじゃん。
絶対にその島までたどり着いて、冒険をしてみたいなー。
そのためにも強くらなくては。
幸い王宮では剣術指南や魔術教習をうけることが王子の責務だ。
そう、魔法だ。
もうね、わくわくしか無いよ！
毎日が楽しい。
ただ、サッカーを出来ないことだけが少し物足りないかな。
そんなわけで、異世界は異世界で楽しんでいるのでお袋と親父はあんまり心配しなくて良いからな。
