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隣国のゆっくり御令嬢ビアンカ篇、最終話
「ビアンカさん」
声が届く距離になって、ジンジャーが声を掛ける。何時もの優しげでわざとらしいニコニコ顔から、穏やかで嘘臭い声を発する。
そんな嘘臭い語りかけじゃ、心は動かせないんじゃないかね?
かといって、アタシはどうやって声をかけたら良いのか解んない。御令嬢でも、イーヴォーみたいな奴なら、すぐに仲良く慣れるのに。
ジンジャーの呼び掛けに、ワンテンポ遅れて、ビアンカ嬢が立ち止まる。アタシ達は、尚も近付く。ビアンカ嬢は、酷くゆっくりと此方に顔を向けた。木々の隙間から、不思議そうに下がる金色の眉が覗いている。
あと数メートルで、手が届く。
と、その時、淡々とした声が、薄暗い森に響く。
「あれえ、どうしたの?君、随分汚れちゃってるけど」
黒い霧を纏った青年がいる。アロエ王子だ。
ジンジャーが走り出す。
「ビアンカさん」
掛ける声は優しい。けれども、ビアンカ嬢は、もう私達を見ていない。ちょっぴり朱が射した頬が、ちらりとみえた。
アタシは、銃を構えて『酔蒸気』を、黒いアロエ王子に吹き付ける。
「その手はもう古いよ」
アロエは、にやついた顔をアタシに近付ける。
「くそっ大人になって、酒に強くなりやがった」
アタシは、次々違う銃を取り出す。蒸気に混ぜる魔法も変えてみる。どれも効かない。相談できる歯車卿ターロッホは、ずっと向こうの車に残ってる。
「まあ、お優しくて、お強いのねえ」
ゆったりとした優しい声が、ボロを纏った御令嬢から聞こえてきた。空色の瞳が、嬉しそうに輝いた。
「ビアンカさん、駄目だ」
ジンジャーが、あきれる。
「君こそ、優しいひとだねえ」
アロエの声に、感情が宿る。2人は黙って手を取り合って、微笑んだ。それからまたアロエは、あからさまな侮蔑を乗せて、アタシに向かって言ったのさ。
「無様だね」
アロエは、黒い霧になる。ビアンカ嬢は、嬉しそうにその霧に身を任す。
嘲る声が静かに消えて、ビアンカ嬢はもう居ない。
「見てたのに、簡単に連れてかれた。目の前で、また」
ジンジャーは、アロエ王子が連れ去られた時の事を思い出したのだろう。
「でもさ。なんかお似合いだったよ」
「ダイシーは気楽で良いよね」
滅多に見せない泣き笑いをして、ジンジャーはアタシをギュとした。しばらくじっとしたあとで、アタシを見詰めて微笑んだ。とても自然な笑顔だよ。
アタシがにっこり見詰め返すと、初めて会ったあの頃みたいに、
「神獣城に帰ろう。私の素敵な可愛いダイシー。大好きだよ」
って、アタシの頬にチュッとした。
fin.
最後まで読んで下さりありがとうございました。
この作品を投稿したとき、メリーバッドエンドという言葉は知っておりました。この作品をメリバと読むか、否か、は人それぞれと思います。少し迷ったのですが、タグつけてみました。
※「ハピエンタグに騙された(#`皿´)」の方、ご一読くだされば幸いです
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ビアンカ婚約破棄初出――シリーズ第1話『緑玉に映る少年』
ビアンカ魔の者化初出――シリーズ第4話『魔絃の奏者』
追記『神獣王国完結編』にもこのカップルの姿があります。
神獣王国シリーズを通して、ゆっくり御令嬢の婚約破棄事件は散見されます




