表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

「転移室は許可が無いと、扉が魔法ロックされるんだよ」


『黒影の森』に行くのは解ってる。でも、森の何処だか解んない。ジンジャーは、抜かりなく『追跡マーカー』をつけただろうけど。早くしないと、魔の者に連れていかれちゃうよ。


「任せなさいな」


 ひゅう~と生暖かい風が吹く。


「イーヴォー?!」


 ジンジャーがぎょっとする。ジンジャーのニコニコを消せるのって、アタシとイーヴォーくらいじゃないかな。イーヴォーは、アタシの呑み友達で、若い頃一緒に冒険した親友さ。


「ふふっ、面白そうな事してるわね」

「面白くない」

「イーヴォー、国もひとっ飛びなら、時計屋にツナギとってよ」


 時計屋は、神獣王国で代々魔の者と闘ってきたという、『歯車卿』を継ぐ者だ。


 咥え煙草で安酒を喰らう、怪しげなからくり技師だが、腕は確かだ。若い頃、共に『王者の歯車』を求めて、黒影の森を抜けた。魔の者にも詳しい。



「ビアンカちゃんに憑いてこうと思ったのに~」


 イーヴォーは酒呑みだ。酒呑みに取り憑いて、酒を呑む幽霊だ。


「あんた、魔の国の酒、狙ってるでしょ」

「そうよ。森に捨てられた気の毒な御令嬢が、魔の国でどうなるのかも見たいしね」


 イーヴォーは、気の良い幽霊だった。こんな邪悪な覗き趣味はない筈なのに。


「お前、何度も魔の国へ渡ったね?」


 ジンジャーが怖いニコニコ顔になった。幽霊でも、黒い霧に汚染されるのかも。



「ええっ、イーヴォー」


 アタシは、ちっとも気付かなかった。親友失格じゃないか。悔しさに唇を噛み締めて、『魔石蒸気銃(スチームトリガー)』を取り出す。


「幽霊にも効くの?新作?」


 ジンジャーが、ワクワクと聞いてくる。


「さてね。物は試しだ」


 イーヴォーは酔っ払い幽霊だから、足止め目的の『酔蒸気(ヤスザケスチーム)』は効かないだろう。

 だから、アタシは泣く泣く、神獣王国の秘酒、『深淵覗(リターンアイズ)』を、秘術で取り寄せる。


「乾杯だよ!イーヴォー」


 極上の銘酒が、蒸気となってイーヴォーを包む。


「何これ、美味しいわ!」


 イーヴォーの表情から、悪質な野次馬根性が消えた。

 美酒を濃厚に含む蒸気の中を、嬉々として泳ぎ飛び回る。くそう。封切りだったのに。ほんの一口しか残ってないじゃあないか。


「呑んだらさっさと、時計屋に行きな」

「ご馳走様~じゃあね」


 イーヴォーは、晴れやかな顔をして消えた。本当に時計屋へ行くのか解らないが。魔の国の酒を呑む為に、ビアンカに取り憑くのは止めたらしい。ジンジャーは、嫌な顔を一瞬だけ見せた。


「森に急ごう」

「そうだね」

ツナギとって――連絡を着けて。白浪(盗賊)物や時代劇の用語。主に悪党同士が連絡を着ける時に使う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ