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「被告不在の代理予審で、証拠や証言の確認は終わってた。罪も決定してたんだよ」
あんまりだ。何でそんなことに。神獣王国と違って、司法に信頼が置けない国だね。
「誰の目論見だい?」
「そこは私達に関係無い」
あ、そうなの?
「黒影の森に捨てられた人間は、20年くらい前から、皆、魔の者に堕ちている」
ジンジャーの弟アロエ王子が、神獣城から魔の国へ拉致されたのも、その頃だね。
この国で言う『辺境の森』とは、『黒影の森』だ。勝手に自分とこの『辺境』とか言うんじゃないよ。アタシら隠れ里の人間にとっちゃ、森が世界の中心さ。他はみんな、『周辺諸国』にすぎないんだ。
その点、神獣王国は好感が持てる。建国の昔から、『黒影の森』って呼んでくれてる。これは、神獣王国や隠れ里が出来る前からの、森に付けられた正式名称なんだって。
一体誰が付けたのか、何故、神獣王国や隠れ里が、その名前を知ったのか。その辺は、ハッキリしないんだ。皆、正式名称を呼ぶ権利を、『森の加護』がある、って言ってるけどね。
つまり、『辺境の森』なんて馬鹿にしてくる獅子翁王国は、拒否してるのか、権利が無いかのどっちか。加護は、無いね。
黒影の森は広大で、その森を擁する神獣王国では、建国以来調査が続いている。調査が済んでるのは、まだほんの入り口まで。
森の一部には、恐ろしい獣が出る。ジンジャーも調査隊の中心メンバーだから、出掛ける度に心配だよ。
最も、当の本人は、行くたんびに隠れ里から、何かしら情報や技術を受け取って来る。油断のならない男だよ。人の良さそうな顔してさ。
加えて、魔の者が仲間に引き入れるとは。捨てられた罪人なんて、人間を恨むだろうさ。もしかしたら死ぬかも知れない魔の霧に、ずっと触れ続ける事くらい、何でもないんだね。そうでなくても、いずれ野垂れ死ぬだろうし。
「あ」
ビアンカ嬢が見えた。ホールで見かけた時とは違う男に、引っ張られて行く。まだ状況を理解してないのかね。御令嬢、悲鳴もあげないよ。痛くないのかね?
ドレスの裾がボロボロだよ。薄汚れて、雑巾みたいだ。土足で歩く石の床を引き摺られたからねえ。靴も片方どっかに行っちゃってる。
国賓を迎えるパーティーだ。ドレスもなかなかの高級品だろうに。可愛そうだな。神獣王国と違って、ここの貴族や金持ちは着飾るの好きだからね。
「ダイシー」
ジンジャーが、此方を見ずに声を掛ける。
「ごめん、解らない」
何か秘術が使われてる。隠れ里の移動法でも、ちっとも距離が縮まらないんだ。
「しまった」
「あの部屋は何だい?」
ビアンカ嬢が、大きな扉に吸い込まれた。
「転移室だ」
他国の、機密っぽくない?何でも知ってるよね。不審者め。