③
「呑み過ぎだよ」
モテ子嬢に、自信の新作『自動魔石蒸気銃』を向けたら、夫・ジンジャーに怒られた。
「恐ぁい。酔っ払って武器を出すなんてぇ」
ベルとか言う子が、ジンジャーにしがみつこうとする。秘術に驚かないとは、こいつ、図太いな。
でも、お生憎様。ジンジャーの「呑み過ぎだよ」は、騒ぎを起こすなって意味なんだ。泥酔妻を軽蔑してる訳じゃない。何時も似たようなニコニコ顔だから、良く解らないだろうけどね。
だって、アタシの一族は、いくら呑んでも酔わないからね。アタシは自慢の新作銃を、素直に秘術で片付けた。直ぐに呑み損ねた透明な酒瓶を目指して戻る。
「酒には酔わないけどさぁ」
ジンジャーは不服そうだ。ベルなんか無視して、追いかけてくる。
「今日はもう帰ろ」
ベルも、しつこくジンジャーに着いて来る。その後ろには、何やらきらびやかな青年が数人。ネロまで居る。
異様な集団だよね。会場の注目を浴びてるよ。恥ずかしいったら無い。
チラリと視れば、ビアンカ嬢が消えていた。
あ、了解。お酒は諦めるよ。
「あのお酒、呑みたかったの?今度買ってあげるからね」
ジンジャーはアタシに追い付いて、腰を引き寄せ、こめかみにチュッとする。アタシたちは美男美女じゃ無い夫婦者だから、特に歓声は上がらない。
ジンジャーは、秘術の移動法で、瞬く間にアタシを会場の外へ連れ出した。これは、隠れ里の秘術だ。
里の者にしか伝授しない事になっている。なのに、こいつときたら、里長やってるアタシの親父を丸め込んで習得しやがったのさ。抜け目の無い男だよ。
「出遅れたね」
「ベルが意識を反らす役かな。だとしても、許せないね」
他人の夫にベタベタすんな。おじさんが皆、若い子にデレッとする訳じゃないんだ。だいたいジンジャーは、まだ若い。小娘なんか、お呼びじゃないよ。
それに、アタシのダーリンは、身持ちが固くて、仕事も出来る。その上子煩悩の満点パパだ。多少不審な行動をするのは、否めないけど。
モテて自信家のベルからみりゃ、チョロそうで地味なおじさんなんだろう。侮ったね。
急ぎながらも、アタシが不機嫌を口にする。ジンジャーは、素早くアタシの唇にチュッとした。嬉しそうにするんじゃないよ。良い歳してさ。
アタシ達は、ほんわか気分を振り払い、気を引き締めて外へと向かう。パーティー会場は、獅子翁城の中にあった。騒ぎからあまり時間は経って無い。ビアンカ嬢は、まだ城内を引き摺られているに違いないよ。
他国の騒動には、基本関与しない方針だ。だけど、ジンジャーが何かを嗅ぎ付けたみたい。神獣王国に害があるなら、放って置くことなんか出来ないよ。
「ビアンカ嬢を連れて行ったのは、獅子翁王国の国境守備隊だった」
国境守備隊?即刻国外退去にでもなったの?まさかね?
「この国では、重罪人を辺境の森に捨てる」
「重罪人?婚約破棄されると重罪になるの?」
アタシは、獅子翁王国の正気を疑う。
「ダイシー、ネロの演説聞いてなかったでしょ」
「興味ない」
「殺人未遂、暴行、傷害、窃盗、脅迫その他諸々。即決裁判で連れてかれたよ。」
ええっ、あの『ゆっくり御令嬢』が?計画思い付くだけでも、3年くらいかかりそうなんだけど?
何でも視てる不審者ジンジャー