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どうも。ダイシーです。夫は神獣王国第1王子。最近、こいつはアタシの事を『酔蒸気妃』なんてからかうんだよ。
世界を揺るがす魔の者は、体を黒い霧に変えて、命有るものに害をなす。そいつらに、安酒を含ませた霧をお見舞いして、撃退してるからなんだ。
撃退した中には、魔の者に成ってしまった、神獣王国第3王子アロエもいた。ジンジャーは、内心複雑だろうね。
でも、ジンジャーは、黒い霧だけに関わっている訳じゃあない。英雄王子ネロが活躍し出してから、隣国の『獅子翁王国』と揉めている。神獣王国領内にある『黒影の森』を、ネロが自国領だと主張し始めたんだ。
『黒影の森』にある隠れ里が、アタシの故郷さ。だから、アタシにも他人事じゃあ無くて。使節団に入れて貰ったんだよ。
「私も離れたくない、ダイシー!ちょっと危険かも知れないけど、一緒においで」
うん。
そう言う事じゃ無いけどね。
まあ、こいつのことだ。どうせ、全部承知の上なんだろ。
なんて考えて着いて来たら。変な寸劇がはじまっちゃったよ。
「無垢なる臣民ベル、これへ!」
今度の娘は、庶民派モテ子嬢だね。快活な健康美人てとこか。背の低い生意気そうなガキに、付き添われて進み出る。
ガキは、魔法使いっぽいローブ姿だ。ねちっこくモテ子の手を引いてるな。こっちの娘の事は、誰も引き摺らないんだね。
ビアンカ嬢は、固まったまま棒立ち。彫像のように、微動だにしないよ。うんとも、すんとも、言わないね。
まあ、アタシには関係無いけどね。
夫が、会場の隅で『魔鍵蒸気笛琴』を弾き出した。なかなかの腕前じゃないかな。
給仕さんが、軽食が並ぶバイキングテーブルの上に、氷で冷やした瓶を置く。繊細な彫刻が施された金属の容器に、魔法で凍り続けるロックアイスが入っている。
そこに、スッキリと飾りの無い透明な瓶が、3本程刺さっているんだ。瓶の中身は、それぞれ違う。見た目はそっくりなんだけど、アタシの特技は液体鑑定。どんなに隠された液体だって、丸裸にしちゃうよ。
どれどれ、先ずは薄味スッキリ、やや辛口のヤツから行くか。と、手を伸ばした瞬間に、嫌ぁな声が耳に届いた。
「ジンジャー様でしょお~」
快活な見た目に反して、やや間延びした話し方。鼻に掛かった甘い声で、素早く他国の王子に擦り寄る。その人、奥さん大好きで有名な既婚者ですよ。最愛の妻は、アタシだ。
アタシは夫の隣にたって、故郷・隠れ里の秘術を使う。他の人には、虚空から物を取り出したように見えるだろうね。
秘術は、特別の魔法だよ。オリジナルだったり、精霊や古文書から教わるものだったり、様々な特殊魔法がある。アタシが今使うのは、遠くの物を取り寄せる秘術。
アタシは、神獣城にしまってあった、自慢の『魔石蒸気銃』を取り寄せた。こいつは自信の最新作。
『媒体片帯』も3本取り寄せる。2本は胸の前で交差させて、両肩から掛ける。残りの1本は、銃にセット。
『媒体片帯』から自動装填された『魔法媒体金属片』を連続的に発射出来るのさ。
他国の騒動は基本スルーな夫婦