表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/69

9授業参観

「じゃあ行ってらっしゃーい。参観楽しみにしてるわよ。」

私はシーノに手を振る。

今日は午後からシーノの学校の授業参観だ。

「私は残念だが行けないな。シーノのことを見ておいで。」

ジョーンズが笑っている。

(そうだ、メイド長…誘うか。)

私は洗濯をしているエレンに声をかける。

「シーノの授業参観、メイド代表で行かない?」

「え?わた、私はその、仕事がありますので…。」

「そんなの後ででいいからさ。着替えてらっしゃーい。」

「は、はい!」

エレンは慌てて駆け出した。


「これで、いいでしょうか?」

エレンはメイド服から普段着に姿を変えていた。

「もうちょいおしゃれしない?」

「授業参観ってこういう格好で行くものだと思いますが。」

「せめて髪の毛を結びましょうよ。」

「私そんなに髪の毛長くないですよ~。」

「…確かに。」

「今更!?」

エレンの髪の毛を結ぶことはあきらめて私たちは学校へ向かった。

「時間どおりですね。」

腕時計は一時半を示していた。一時五十分に学校につけば間に合う。

「良かったわね。仲良くなれて。」

「誰とです?」

「かわいいかわいい七歳。」

「…。」

エレンは黙り込む。

「ユミリーは私とジョーンズがシーノに一目惚れしたって言ってたけど、本当に一目惚れしたのはあなたなのかもしれないわね。」

「私は嫌われものでしたからね。」

リリはシーノのようにエレンに近づくことはない。

「もう部屋を出ていいよ。」

「私と話してもいいけど、仕事もやらないと怒られるよ。」

「お茶は自分で淹れるからもう来なくていいよ。」

この言葉はまだエレンに刺さっているのか。

私は知っている。目の前の人物がどれだけ……のか。

なのに○○に好かれない。

「学校に着きましたよ。入りましょう。」

既にたくさんの保護者が学校に集まっている。

「教室はあっちね。」

ドアの前にたくさんの人々が群がっている。

「では皆さん、入ってください。」

先生の声で私たちは教室の後ろに固まる。

「いつも通り授業を始めるよ。」

先生の言葉に子供たちは元気よく返事をする。

が、それでも気になるのか、時々後ろをちらちら見ている子もいる。

(シーノはしっかり話を聞いているわね…。)

失敗したとはいえユミリーの授業を受けたからだろうか。

「今日はお父さんとお母さんに感謝の気持ちを伝える作文を読みますよ。まずはこの列のみんなから…。」

どうやら私たちに感謝の気持ちを伝えてくれるらしい。

「では、シーノさん。お願いします。」

「はい!」

いよいよシーノの番だ。エレンもほほ笑んでいる。

「私のお母様は優しくて、一緒に遊んでくれます。この前は一緒にクッキーを作りました。とてもおいしかったです。お父様はお仕事が忙しくてあまり話したりしないけど、立派な人です。お父様のおかげで私たちは生活できます。あと、メイドのエレンやユミリーもいい人です。ユミリーは本を読んでくれるし、エレンはお話してくれます。とっても優しいです。」

エレンは目を輝かせている。私もうれしくなった。

他の人が作文を読み終わったとき、みんな拍手をしたので、私たちは拍手をした。

(…ん?)

何だか拍手の音が小さい。

見ると、拍手をしているのは私とエレンとシーノの隣の席の子だけだった。

エレンはにこにこしながら大きな拍手を送っている。隣の席の子もほほ笑みながら拍手をしている。

でもほかの人たちは動揺したように頭を揺らすだけだった。

隣の女の子もえ?え?というようにきょろきょろしている。

やがて、となりからひそひそ声が聞こえてくるようになった。

「お母様に、お父様に、メイド?どんな家庭なのよ。」

「英才教育とかしてそうだわ…。関わらない方がいいかも。」

私はとびかかりそうになるエレンを慌てておさえる。

「違う…違う!シーノ様は、そんなんじゃない…。」

エレンが小声でつぶやく。

「で、では、次。リリカさん。読んでください。」

「あ、はい…。」

隣の席の女の子が立ち上がる。

シーノはなにも気付いていないようで、首をかしげている。

そして授業参観は終わり、私たちは家へ帰った。

「私たちって、おかしいのかしらね。」

「いや、そんなことないです!私はおかしいかもしれませんが、シーノ様とレイ様は、ご主人様もリリ様も、おかしくないです!」

「あなたはおかしくなんてないのよ…。」


家へ帰ってしばらく。シーノが帰ってきた。

「ねえ、私の作文良かった?」

「はい、もちろん!」

「ええ、もちろん!」

私たちは同時に言った。

「それに、私が優しいって言ってもらえて、すごくうれしかったです。こんなこと、子供に言われたことなかったので。」

「だってエレンは私と仲良くしてくれるんだもん!すっごく優しいよ!」

「う、シーノ、さまあ…。」

エレンは泣いていた。

〇〇が好きなのに、〇〇に嫌われてしまうんだから…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ