サンタクロースに届いたプレゼント
今日は十二月二十二日。山の上に木でできたログハウスがありました。ログハウスにはサンタクロースと、二頭のトナカイが住んでいました。あたりは雪が降って真っ白です。
サンタクロースは細くて背が高く、ヒゲはあごまでしか生えていません。ログハウスの玄関ドアを開け、外に出ました。空は青く、雪はサンタクロースのかかとぐらい積もっています。
「あれっ。どうしてこんなところに花が。昨日まで何もなかったのに」
ログハウスの前に、赤いポインセチアの花がぽつん、とひとつ咲いています。
ポインセチア、ミサの好きな花だったな。カノジョは今、どうしているんだろう。ひょっとしてこの近くにミサが花を植えにきてくれたのか、な……。
サンタクロースは、ほほをゆるめてログハウスに入り、「ここにきてもう、十年になるのか」
テーブルにあるピンク色の花びんを眺めてつぶやきました。
ミサというのは昔、まだサンタクロースが大人になりたての男性だった頃、つきあっていたカノジョです。その時は、となり町の丘の近くにある家で、ミサと一緒に暮らしていました。
けれども男性はサンタクロースになるための試験にパスしてすぐに、ミサと別れてしまいました。
そのあと山へ引っ越してきたのです。
僕がもっとミサに優しくしていれば。僕がサンタクロースになるための勉強をしていた時、ミサはいつも応援してくれていたのに……。
ため息をつき、壁にかけられた時計に目を向けました。午前、十一時です。
「ぼつぼつプレゼントを配る準備をしないと。このところプレゼントを配る地域が増えて、準備に時間がかかってしまう」
サンタクロースはとなりの部屋のドアを開け、中に入りました。まわりにはぬいぐるみやお人形、プラモデルやゲームソフトなど、子どもたちに配るプレゼントが部屋中に積んでありました。片すみに白いふくろがあります。プレゼントを1つずつ包装してリボンを結び、白いふくろに詰めていきました。毎年、サンタクロースはクリスマス、イブの二日前から、プレゼントを詰める仕事をしていました。一年で1番、忙しい時です。
次の日の夜、日が暮れて外は真っ暗です。
「クゥゥー、グゥゥー」 二頭のトナカイが、ログハウスの裏にあるプレハブ小屋で鳴いています。
サンタクロースは最後のプレゼントを白いふくろに入れ、急いでプレハブ小屋へ行きました。
「お腹がすいているのに、待たせて悪かったな」
小屋の棚にある銀色のボールを二つ持って、冷蔵庫へ行きました。中からきのこを取り出し、ボールいっぱいに盛りました。
二頭のトナカイはサンタクロースが銀色のボールを置くと、ムシャムシャきのこを食べ始めました。
「プレゼントを配る準備ができた。気分転換しよう」
サンタクロースはログハウスを通り抜け、外に出ました。ピュウ、ビュー。北風がなびいています。
「おお寒い、寒い。けれども夜風にあたると体がしゃん、として気持ちいい」
両手を広げ、深呼吸して空を見上げました。暗い空に粒くらいの星が無数、散らばっています。
ミサと星を見る時間が楽しかった。カノジョは小柄で頭も小さかったなぁ。帽子をかぶると顔が半分くらいかくれて「前が見にくい」って僕のあとをついてきていた。可愛かった。けど僕はサンタクロースの仕事が好きで好きで、ミサの事をほったらかしにしてしまった。カノジョが風邪をひいて寝込んでいた時に、「少しだけそばにいて」と言ったのに、風邪をうつされてプレゼントを配りに行けなくなるのが嫌だったから、何も言わずに出て行った。あれからずっとミサのことが心にひっかかる。今さら会いたいと思っても無理だ。僕がミサを傷つけたのだから。プレゼントを配り終えて朝、僕が家に帰るとミサはいなかった。ピンク色の花びんに、一本の白いポインセチアを残して……。
クションッ。
あまり長く外にいて風邪を引いたら、プレゼントを配りに行けなくなってしまう。
サンタクロースは急いでログハウスに戻りました。暖炉のそばで体を温めてから、プレハブ小屋をそっとのぞきに行きました。二頭のトナカイはスース―、寝息をたてています。
明日は一番の大仕事。よろしく頼むぞ。
サンタクロースは二頭のトナカイに微笑むと、ベッドに入りました。
十二月二十四日。
サンタクロースは朝から、プレゼントの入った白いふくろをかついでソリに積んでいました。ソリはログハウスから三十メートルほど下がった平たい所に止めています。
最後の白いふくろを肩にかつぎ、ログハウスのドアをあけて歩き始めた時です。
ズルズル、ステーン。バサッ。
「ああっ! 足が、イタタタッ」 サンタクロースは雪道で転んでしまいました。その拍子にプレゼントの入った白いふくろが、投げ出されてしまいました。
「ふ、ふくろはどこだ!」
あたりを見渡すと、白いふくろは玄関ドアのすぐそばに落ちていました。
「おおっ! プレゼントが飛び出ていなくて助かった」
サンタクロースは白いふくろを取りに行こうと、おしりに力を入れて立ち上がろうとしました。けれどもケガをした左足に力が入らず、なかなか立てません。
「どうしよう。この足じゃ、プレゼントを配りに行くのはむずかしい。困ったなぁ。だけど、僕を待っているたくさんの子どもたちのために……」
雪の中に両手をついておしりを起こし、ゆっくりと両足に力を入れました。だんだん視線が高くなり、立ち上がることができました。左足を引きずりながら、白いふくろが落ちているところに来ました。
「ああーっ! は、花が。ポインセチアの赤い花が」
白いふくろの下に、ポインセチアの折れた茎がはみ出ていました。
ミサの好きな花なのに……。前に残していった白いポインセチアも枯らしてしまっていたのに。
サンタクロースは白いふくろを持って、ぼつぼつ歩いてソリに積み込みました。そして、雪の上で倒れていた赤いポインセチアの花を両手で拾い、赤い服の胸ポケットにしまいました。
その時です。
目の前が急に光り出し、スーッ、と人影がうつりました。
「だ、だれだ!」
すると、「サ、ン、タ、ク、ロース、、、。タ、カ、シ……」
少し高い声が、サンタクロースの耳に届きました。同時に人影がだんだん外へ現れます。
「ミ、ミサ、なの、か……」
光の中からサンタクロースと同じ格好をした人が出てきました。背は小さく、かぶっている帽子がぶかぶかです。
ミサに似ている。それに僕の名前まで知っていた……。
「もしかして……。あなたは僕と昔、つきあっていたミサでは?」
サンタクロースは思い切って、目の前の小さなサンタクロースにたずねました。小さなサンタクロースは、ゆっくり顔をあげました。ほほにキズがあります。
「き、きみはだれ? ひょっとして、ミサの知り合い、なの、か……」
小さなサンタクロースは首を横に振り、「わたしはミサさんの知り合いではありません。ただ、あなたに伝えることがあります」
軽くサンタクロースに頭を下げました。
「あなたがミサの知り合いじゃなかったら一体…… それにどうして僕と同じ格好をしているんだ」
サンタクロースは、小さなサンタクロースをジロッ。
けれども小さなサンタクロースは笑みながら「ミサさんは去年の冬、サンタクロースになってプレゼントを配り終えてすぐ、事故でこの世から消えてしまいました。わたしはカノジョ生まれかわりです」
「う、生まれかわりって……。ミサ、は死んでしまった、の、か」
「カノジョはあなたに自分のことを覚えておいてほしいあかしに、とポインセチアに魂を宿したのです」
「僕のこと、忘れてなかったんです、ね。けどカノジョには、ひどいことをしてしまいました……」
サンタクロース声をふるわせています。
「いいえ。ミサはあなたがサンタクロースになって子どもたちに夢をもたせようと、必死で頑張っている姿に幸せを感じ、自分もサンタクロースになってあなたに会いに行こうとしていたのです」
「ミ、ミサ……。ごめん」
サンタクロースの目から、しずくほどの涙がホロッ、とこぼれおちました。涙はサンタクロースの左足をつたってケガをしたひざの上で止まりました。
すると、少しはれていたひざのはれがひいて、足の痛みがだんだん消えていきました。
「ミサの想いです。これから子どもたちにプレゼントを配りに行って下さい」
小さなサンタクロースはニコッ、と笑顔を見せるとサンタクロースの前からいなくなりました。
ずっと引っかかっていたミサへの気持ちが解けてホッとした。
いつのまにか日は暮れかけて、うす暗くなっています。
サンタクロースは二頭のトナカイが引くソリに乗って山を下り、プレゼントを配りに町へ向かいました。子どもの家に着くと、「メリークリスマス」と一人一人の子どもに声をかけ、プレゼントを渡していきました。
全部のプレゼントを配り終えたサンタクロースは山へ帰りました。真夜中です。
サンタクロースは胸ポケットにしまっていた、折れた赤いポインセチアの花を、白いハンカチで包みベッドの枕元に置きました。
「メリークリスマス、ミサ」
翌朝、サンタクロースが外に出るとあたり一面に、赤と白のポインセチアの花が咲いていました。
了