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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』六幕『成長の始まり』

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大瘴域を裂く、闇夜の決戦

 皆、寝静まったと思われた薄暗い寝室で、動きがあった。三人ならぶベッドの左端に寝ていたはずの少女は、ゆっくりと起き上がり、部屋の様子を確認している様だった。

 そして、小声でその場の空気を微かに震わした。


「ふむ。二人とも眠ったか……。では、カイトの状態を探るかのう」


 隣に寝ていた少年の額へと手を伸ばし、触れた。何かを感じ取っているのか、伸ばされた腕を覆っていた衣服が揺らめく。


「ふぅむ。今のところは、おぞましき悪夢を見ておる兆しはないな。朝方、口より儂の気を送り込んだが、どれほどの力を持つか。……厄介な呪いじゃ、あれだけで封じられるとも思えぬ」


 少女は、少年の額から手を引き、何事かを思案している様子だった。


「この呪いの本性が表れぬ事には、これ以上は動き様もないな。吸い上げた負の感情が何処へ送られておるのかも、今はようとして掴めぬ。長丁場となりそうじゃ」


 少女は、少年の顔を見つめ、そっと近づき額にキスをした。それから愛おしそうに言葉が紡がれる。


「何があろうとも、儂はおんしの味方じゃ、今は、心安らかに眠るが良いぞ」


 そこで、少女は何かに気付き、驚きの声を上げる。


「この気配は――! もしや」


 「おっと、危うく二人を起こす所であったわ」再び声を落とし、少女は、少年の頭の周囲に見え始めた、薄く輝く何かを吸い込まれる様に、見つめた。


「ただの一日の修行で、これほどの成果を生むとはのう……。この上ない喜びとなるじゃろう。明日、目覚めた時が楽しみじゃ」


 その言葉を最後に、少女も再び眠りについたのか、夜は静かに更けて行った。




※ ※ ※ 




 月明りもほとんど届かない、暗い、暗い森の中で激しい咆哮が轟いていた。その中心に立つ巨大な人型の怪物を、少し離れた巨木の陰から探る者がいた。


「まじぃな。薄明りでおぼろげだが、漂うこの匂いと、あの巨大さは間違いねぇ、トロルだ――! ちっ。あんな化け物、行きにはいなかったじゃねぇか! 大瘴域を舐めすぎてたか? 報告書にまた一つ特記事項が増えちまうな」


 口惜しそうに、紡がれた言葉に、比較的、冷静なもう一つの声が重なる。


「あの場の様子……。恐らく、魔物どうしで、争いがあったんでしょうね。奴の周りには幾つも死体らしきモノが転がっています。それであんなに興奮しているんでしょう」


 焦った様子のもう一人が振り向かずに問いかける。


「驚いたぜ。お前、こんな闇の中でそこまで見えるのか?」


 問いかけられた者は、何の感慨もないかの様に、呟いた。


「自分は昔から、夜目が効くんです。それだけですよ……。しかし、困りましたね。過去の帝国兵士との交戦記録を遡っても、トロルには、基本的な装備の歩兵であれば、最低でも小隊いじょうの人数で当たり、全周を囲い込むのが定石とされています。……それでも全滅した例も多くあったはずですが」


 冷静な一人は、振り返り、寝かされていた人物を見た。


「隊長がこの状態では、奴を倒すのは厳しいでしょうね……」


 もう一人は、心を落ち着かせるように、冷静な者に尋ねる。


「お前、槍が失われて、短剣だけになっても、まるで、そいつを扱うのが天職だったみてぇに、魔物どもを切り裂いていたな……? 俺も一端の戦士だ、どの武器が得意かなんて、戦いを見れば分かるぜ。……俺たちに、隠してることがあるんじゃねぇのか?」


 冷静な一人は、その言葉に少し慌てた様子を見せる。


「こんな時に、何を言い出すんですか? 先輩……。でも、そう、ですね。もし、生きて帰れたなら、全てを話します」


 先輩と呼ばれたもう一人は、それ以上は追及せずに頷いた。


「そうだな、今は、この状況をどう切り抜けるかだ……」


 そこで監視を続けていたトロルに動きがあった。その醜く尖り、イボだらけの巨大な鼻をひくつかせ、何かを探っている様だ。

 それに先輩と呼ばれた者は、焦りを隠せず、慄いた。


「やべぇぞ! あいつ、こっちの匂いを察知しやがったかもしれねぇ! こうなったら、玉砕かくごで――」


 意を決した様に、振り向き「俺が囮になる、その隙にそいつを抱えて――いや! お前!」驚き見開かれた目には、立ち上がる巨漢が映っていた。

 その様子にもう一人も振り向いた。その声がわずかに明るくなる。


「隊長! 目が覚めたんですか? しかし、その身体では……」


 隊長と呼ばれた者は、達観した様な冷徹な雰囲気を身に纏っていた。その唇がおもむろに開かれる。


「玉砕は、許さん。あの興奮する化け物の前には、私が立つ。まずは、あの場所からおびき出す、暗闇で死体を踏みつけてはかなわんからな」


 慌てた様子で、言葉を挟む二人を制し、隊長は作戦を簡潔に述べて行く。

 他の二人は、それを聞き、覚悟したのか、同時に、自らの心の内を確かめる様に頷いた。

 隊長は、腰にぶら下げられていた籠手を嵌め、呟いた。


「盾は失われようとも、これがあれば何とでもなる。だが、私が打てるのは出来て三度だ――お前達の奮起に期待する」


 「行くぞ!」と言う隊長の掛け声と共に、全員が同時に動き出した。

 トロルは招かれざる客の動きを完全に察知し、更なる雄叫びを上げた。


 隊長は二メートルをゆうに超える巨躯であったが、目の前に立ちはだかる怪物は、その三倍は巨大だった。それに臆する気配も見せず、徐々に間合いを詰めて行く。


 トロルは、眼前を見据え、忌々しそうに唸りながら、右腕を大きく振りかぶった。その手には巨木をそのまま削り出した様な、棍棒が握られている。

 それが、容赦なく隊長へと向けて、振り下ろされる――!


 何もできず、その巨躯が叩き潰されたかに思われた。


 しかし――!


 まるで何かが爆発する様な、音が響き、トロルの棍棒は、それを持った腕ごと上部へ弾き飛ばされていた。そこへ小さく声が聞こえる。


「ふっ。力まかせに殴りつけるしか、知らんか。所詮ばけものだな。軌道をそらせば何と言うことはない……!」


 なんと、隊長は凄まじい速度で振り下ろされる棍棒を、その軌道を見切り、側面から強烈な力で殴りつけ、弾いたのだ!


 自らの腕で視界を覆われたトロルは、不愉快そうに唸り、もう一度、棍棒を振り下ろそうとするが、その巨大な身体は、重心が崩され、後傾し、しばしの間うごけなくなっていた。

 その寸時の硬直を見逃さず、隊長は、トロルの無防備な右膝へ一撃を加えた。今回も大気を震わす爆発音が響く!

 骨が砕ける音と共に、トロルは悲鳴を上げ、膝をついた。そこへ隊長の後ろに隠れていた一人がすかさず飛び掛かり、折りたたまれた膝を太腿から脛へとつなぐ様に、槍を突き立て、貫いた!


「やったな! 右脚を縫い付けるのに成功したぜ! だが、こいつぁ、トロルだ! すぐに傷が塞がり始める! 時間はねぇぞ!」


 トロルは痛みに呻きながら、右腕を後ろへ振りかぶったが、そこで、違和感に気付いた様だ。

 なんと、その巨大な棍棒の先端に、一人が飛びついていたのだ!


 そのまま地面に叩きつけようと、棍棒が真上に掲げられた瞬間、そこにしがみついていた一人は、真下にあった、トロルの頭へと飛び移り、その両目へ、短剣と、金属で作られた鞘を突き立てた!


 断末魔の叫びにも近い、恐慌を感じさせる、轟音がその場を埋め尽くして行くが、戦士たちは、至って冷静に状況を判断していた。


「もうそろそろ、黙ってもらう!」


 頭に飛びついた一人が、姿勢を変え、トロルの喉を短剣で裂く! 夥しい量の血液が滝の様に、噴き出し辺りを覆う。トロルは、動きが鈍くなっていたが、まだ息がある様だった。左腕が頭にとりついた一人めがけて襲い来る。


 だが、自身に致命傷を与えた、一人に意識が向き、隙を見せたトロルの右膝を蹴り、もう一人が、右耳に向けて、短剣を突き立てた!


 度重なる致命的な攻撃に、トロルは堪らず、前へと崩れ落ち、その裂かれた喉が地面へと近づいて来る。


 そこへ、その時を待っていたかの様に、隊長の影が揺らめき、大きく踏み込みながら、渾身の力を込めて振りかぶる。


「頼んだぜ、こいつには、お前しかトドメは刺せねぇ!」

「お願いします! 隊長!」


 二人の声が同時に重なり、頭から離れていく。

 そして、崩れ落ちるトロルの喉元へ、最後の一撃が加えられた。轟音が大気を震わし、裂けた喉が抉れ、巨大な頸椎がもげ、その首が回転し、血しぶきを上げながら、宙を舞った!


 頭を失った身体は、力なく崩れ落ち、ほどなくして、頭が地面に叩きつけられる音が響く。


 三人の戦士たちは、静寂の中、勝利の余韻に浸っている様だったが、突然、隊長がふらつき、倒れそうになり、それを他の二人が支えた。


「ははっ! 流石だったぜ、ゴドフリート流の『爆発呼吸』! トロルの野郎も、こんな奴が相手だとは、夢にも思わなかったろうぜ!」


 そう言った後に、暗い顔になり、悔しそうに言葉を漏らした。


「人の集まる場所や、集落ふきんでの戦闘では、極力、声を出す事を避ける――今回の任務での禁止事項。その戒めがなければ、あの野郎に――!」


 一人が何に苛立っているのか察した隊長は、荒い息を吐きながら、諫めた。


「過ぎたことだ――それに、我々の存在を隠す事は、優先事項だった。……確かに、あの戦いには悔いが残るが、相手もただでは済んでいないだろう。あれほどの脅威を無力化できたと思えば、釣りがくる」


 「そうかも知れねぇが……」と呟き、トロルの死体に刺さった槍に手を伸ばしたが、びくともせず、肉に食い込んで抜ける様子はなかった。


「ダメだ、この槍は、ここに置いて行くしかねぇ。はぁ。俺も残った武器は、短剣いっぽんになっちまったぜ」


 息を整えた隊長は、冷静に、他の二人に声をかける。


「絶対に、三人で生きて帰るのだろう? ならば、まだ道半ばだ。迷っている時間はない、行くぞ」


 二人はその言葉に頷き、隊長を両脇から抱え、暗い森の奥へと進んで行った。




※ ※ ※ 




「うん? 朝なのぉ? ふわぁ」


 隣でアイシャの声が、聞こえ、寝ぼけていた意識がはっきりと覚醒し始めた。伸びをしようと思ったが、昨日のこのベッドの状態を思い起こし、躊躇する。


 下手に動いたら『豊かな実り』と『銀閃の双丘』に腕が触れてやばい事になりそうだな……。ジジのやつは喜ぶかもしれないが。

 アイシャは俺が起きた事に気付いたらしく、こっちを見た様だ。


「ふわぁ。カイトも目が覚めてるの? おはよ――、って! ええ!?」


 何だ!? 昨日の朝もこのパターンだったな、まさか、ジジのやつがまた何か仕出かしたのか!?

 そう思って、左隣を見たが、ジジはまだ眠っていて――その、視界には、何か不思議なモノが見えた――。


 枕に乗っている何かを見て驚きの声を上げる。


「な、何だ! これぇ!?」


 その声に、目を覚ましたジジがにんまりと笑いながら、こちらを見つめる。


「ほう。気付いた様じゃな?」


 起き上がり、これもジジの仕業なのかと尋ねようと思ったら、枕の片側だけではなく、両側に何かが乗っているのに気付いた。


 それの様子を交互に観察する。


 片方は――数センチ程度の大きさだが、まるで、地中から堅い鉱物をそのまま取り出した様な、中心からウニの如く放射状に岩の棘が幾つも伸びた姿。

 もう片方は――大きさはほぼ同じで、黒光りする泥の様な質感を持ち、その軟体を思わせる身体には、所々に硬質の石らしきモノが混じっている。


 観察していると、その物体たちは、おもむろに浮き上がり、俺の頭の周囲をまるで生き物でもあるかの様に、飛び回った。どことなく嬉しそうにも見える。小動物が喜んで懐いて来ている姿を連想する。


「な、何なんだ!? こいつら――!?」


 ジジは最初から答えを知っていた風で、驚いた様子も見せず答える。


「そやつらはな――おんしの――『固有精霊』じゃ!」


 固有精霊!?


「決して主を裏切らず、その身が朽ち果てるまで付き従う、忠心の徒よ!」


 アイシャは成り行きを見守っていた様だが、ジジの言葉に驚いて早口で話はじめる。


「固有精霊って! カイトは、昨日、修行を始めたばっかりなんでしょ!? どうしていきなりそうなるの!?」


 ジジは首を傾げた。


「さあ? それは、儂にも分からぬ。ただ、カイトに与えられた運命が、その力を欲しておるのじゃろう」


 いや、何がどうなってるのか、さっぱり分からねぇ!

 だが――。

 頭の周りをはしゃぐ様に、飛び回る二体を見ていると、だんだんと愛着が湧いて来た。

 その精霊たちに名前をつける事にする。


「お前は、見るからに堅い岩石っぽいから『イシ』だっ! それで、こっちのお前は、柔らかそうな泥みたいな質感だから……『デイ』だっ! 二人とも、よろしく頼むぞ!」


 飛び回る精霊たちは、嬉しそうに頷いた気がした。


 アイシャは、驚いて言葉を挟んで来る「ええっ! カイト、順応するの早すぎだよっ! それにしても、そのネーミングどうにかならないのっ!?」命名に不満がある様だな。

 ジジは目を細めて楽しそうに笑った。


「くふふっ。儂の名と同じく適当な名づけじゃのう。しかし、主が愛着を持つことが最も重要じゃ! さすれば、そやつらも、自然とその名を受け入れるじゃろう」


 ジジの言葉を受けて、深く頷きながら、頭の周りを飛び回る二体の精霊を見つめた。こんな事が起きるとは、予想もしていなかったが、それは、この上ない吉兆に思えた――。

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