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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』五幕『異端の来訪者』

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その名は

少女は不満気な表情を浮かべ、本格的に身をよじりこちらを上目遣いでねめつける。


「どうしたのじゃ? ふむ。美しすぎて言葉もないか……? じゃがのう、おなごは言葉を欲しがるものじゃぞ? ……さあ、カイト。おんしの本心からの言葉をここに――!」


 そう言いながらも少女はこちらを疑っているのか、指先で太腿を突いて来た。そのまま指をくねらせながら弄ぶ。


 うおおお!? やめろぉぉぉ!? 太腿ぐりぐりするんじゃねぇ!?


 や、止めさせるには、言う、しかないのか!?

 隣にいたアイシャに目をやると殺気だった視線を送って来ていた。


「う、う、う、う」


 だあああ!? ダメだ、面と向かって言えとか言われても無理がある!

 少女は不満そうに指先に更に力を込めた。もはや肉も抉れそうだ。


「うおおいててて!?」


 張り付いた様な笑顔を崩さず言葉を続ける。


「どうしたのじゃ? う、う、う、などと唸って。腹でも下したのかの? ……はあ、まったく意気地がないのう。……このままその体たらくを続けるのなら、くふふっ。ももではなく、そこを擦ってやるぞ?」


 そこって何処だよ!? このヘンタイめぇぇぇ!?


「わ、分かったから。い、言うよ――う、う、う」


 ぶすっ。


 奇妙な擬音を連想するほど力強く、太腿を突かれて、痛みに悲鳴を上げる。

 少女は拗ねたのか、向こうを見てしまった。


「はあ、いって! 幾らなんでも強く突きすぎだぞ!?」


 隣からアイシャの棘のある言葉が聞こえて来る。


「そんな事いっちゃって、カイトったら可愛い女の子に太腿をぐりぐりされて喜んでたんでしょ? ……ヘンタイ!」


 うぐ。この状態でさらに追い打ちかけて来るか普通!? そ、それに、ヘンタイは俺じゃなくてこいつだぁぁぁ!


「もうよい。言えぬのなら何時か言わせて見せるわ。それよりも、今はこちらが先じゃ。のう? カイト。まだおんしの好む衣を生み出しておらぬぞ?」


 少女はそう言うと、俺の手を取り、集中し始めた。こちらは完全に感情が置いてけぼりだが、流れに従うしかない。


「さて、此度はどの様な――」


 「おお!? おお!」少女は今までにない感嘆の声を上げた。

 何だ? そんなに良いモノが揃ってたか?


「これは――どの様な衣もよりどりみどりではないか! ふぅむ。カイトよ。おんしは意気地がないが、心は捨てたものではないな!」


 アイシャはまた羨ましそうに頬を膨らました。少女のこれまでの変身ぶりから未来を予見したのだろう。いや、服を早く着せなきゃって言ってたのは君だからね……?


「ず、ずるいよ! もう、先の展開が読めちゃうんだからぁ! また綺麗で可愛い服がぱっと出てくるんでしょ!? う、羨ましくなんかないもん!」


 そして自らの普段着を見回して悲嘆にくれている様だ。

 ううん。アイシャの服は何かハンターらしいと言うべきか、戦闘服と普段着を兼ねている感じだからな。可愛いとはかけ離れているかも。


 そうこうしている内に、また少女から歓声が上がった。


「これ。このわふく? とは何じゃ? この地方とは趣の異なる衣服の様じゃが……?」


 「え? わふく? って何かな?」アイシャも不思議そうに復唱する。

 あ、これ、俺が説明するパターン? でも、そんなに詳しくないぞ!?


「ああ、ええと。俺の故郷に残ってる伝統的な衣服だよ。具体的にどんなのが見えてるのかは分からないけど……」


 少女は頷きながら再び検索に入った様だ。


「ふぅむ。先ほどのわふくも捨てがたいが……。これ、これなるメイド服、とは何じゃ? 何やらたなびく雲の様な上品な飾りが幾重にも施されておるが。ほれ、これじゃ!」


 その言葉と共に、少女の姿が現代風のメイド喫茶で見られる様な衣装に変わった。

 それはフリルやレースの飾りが施された黒と白の複雑な重ね合わせの服だった。アイシャが何処か不思議そうな様子で異論を挟む。


「え? メイドって貴族のお屋敷とかで働いてる人の事だよね? そこの主の趣味もあるかもしれないけど、そんなふわふわした飾りは付いてないと思うよ? ホントにメイド服なの? それ」


 少女は顔を半分だけこちらに向けて問いかける。


「だそうじゃが、これなるは一体どこの部族の衣じゃ? 見た目は悪くないと思うが……」


 答えに窮する。こんな形で地球上の情報が露呈するとは考えていなかった。どう答えるべきなのだろうか。


 少女は何かを思案している様子で、頷いた。


「ふむ。答えたくないのならば、良い。儂はやはり先ほどのわふくが気になる。さて――」


 答えなくて済んで心底、安堵していた。出来るだけ俺の出自については、伏せておきたい。だが、和服でも同じだろうか?


 少女の姿は再び一瞬で変わり、着物の振袖らしき赤や金の花模様が散りばめられた豪奢な衣装になる。

 アイシャは驚愕の様子で震える声を上げたが、その目は輝いていた。


「な、何それぇ!? そんな服、見た事ないよ!」


 少女は立ち上がり、嬉しそうに一回転してみせる。銀色の髪もそれに従い優雅に宙を踊る。窓から射しこむ朝の光がその情景を際立たせ、白銀の雫を舞い散らせている様だった。


「ふむ。これは、装いも美しく、何よりもこの袖の在り様よ。これが儂にいたく似合うておる! 舞えば、まるで蝶の様じゃな!」


 少女は感嘆の声を上げながら何度も回転してみせた。その様子を歯噛みしながらアイシャが見守る。

 俺、俺は――、その美しさに魂を奪われ――放心していた。


 だが、一つ問題点があった様だ。


「ふぅむ。気に入ったが、ちと胸が苦しいのがまずいのう。それに――」


 少女は息を呑んで見入っていた俺に、怪しげな視線を投げかける。


「くふふっ。おんしはこの姿では、愛する膨らみが目に入らず寂しかろう?」


 んなぁ!? お、俺は一言もそんな事いってないぞ!


「みなまで言わずとも良い。おんしの心は手に取る様に分かる。ほれ! これでどうじゃ!」


 少女の一声と共に、目を覆いたくなる様な珍事が眼前に展開されるのだった。

 一瞬で服の正面が緩み、胸元から両肩までがはだけて露わになる。『銀閃の双丘』のお目見えだ。

 少女はその姿でも一回転してみせ、柔らかく重量のある膨らみが怪しく揺れた。


「な、な! ダメだよ! そんな格好しちゃ! せっかく可愛くて綺麗な服なのに!」


 少女はアイシャを一瞥し、すぐこちらに向き直った。


「どうじゃ? これなら苦しくもなく、おんしの愛する膨らみが常に見えておるぞ! 気に入ったのなら素直に申すが良い!」


 い、いや、嬉し――じゃねぇ!


「そ、そんなはしたない格好しちゃダメだぞ! 下着が丸見えじゃないか!」


 少女は不満気に頬を膨らました。


「何じゃ、せっかくの儂の計らいを無下にするのか? 先ほどまでこの下着に喜んでおったのに――」


 ぶふっ。完全に見透かされてた。一生の不覚。


「まあよい。要は下着でなければ良いのじゃろう? 先ほどおんしの心に何やら惹かれるものを見つけてのう。みずぎ、と言うらしいが、これならばどうじゃ?」


 そして奇怪なランツクネヒトの様な、混ぜ物の衣装が出来上がる。

 下着とほぼ変わりない外観の黒を基調とした水着で、紐の部分にもフリルがあしらわれ、見た目にも可憐に思えたが、谷間や胸の大部分は露わで嫌らしさを強調していた。


 輝く白い素肌を黒い水着が引き立て、その艶めかしい色をこれみよがしに主張する。

 その『銀閃の双丘』の色艶と、深くあらゆるものを吸い込みそうな谷間に目が釘付けになり、椅子に座りながらも前屈みになりそうだった。


「くふふっ。ちと刺激が強すぎたかの? 遠慮はいらぬぞ? 存分にその愚息をいきり立たせるが良い!」


 くそぉ。またセクハラぁ! だが、今回は反論できねぇ!

 そう、俺は『銀閃の双丘』の美しさに完全に屈していた。


「うぐぐぐ、だが、ひとつ言わせてもらおう……。そもそも水着は泳ぐ時に身に着ける物で、普段着じゃないぞ!」


 「うんうん、そうだよね」隣からはアイシャの相槌が聞こえる。


「何じゃ、細かい事を。良いのじゃ! 儂はこの姿が気に入った! これ以外にはない! それでも儂に逆らうと言うのなら、この場で精気を吸い尽くしてくれようぞ!」


 幻聴だろうか? 何かサキュバスみたいな事いい出したぜ。

 そりゃロマンはあるけど、お前は精霊だろうが!


「く、くくく。認めてやってもいいが、条件がある。その姿で外に出るんじゃないぞ!」


 「断る!」まさかの即答か。


 一呼吸おいて少女は優し気な表情を浮かべ、穏やかに語りだした。その急激な変化と今までに目にした事のない雰囲気に徐々に呑まれていく。


「良いか? 儂は、儂の在るがままを行い、そして――おんしを守るためにここにおるのじゃぞ? そのための肉体じゃ」


 え!? それってどういう意味だ?

 その場には不思議な沈黙が広がり、少女はこちらを慈しむ様な視線で見つめていた。その瞳を見つめ返していると吸い込まれそうになる。


 守るって――俺を? 言葉は飲み込めないが、その意味だけは確かに理解できた。


 その沈黙はアイシャに破られる。


「カイトを守るのなら私がするもん! お化けさんの出る幕じゃないよ!」


 「何じゃと! この小娘が、先ほどから見ておれば、感情に流されてばかりで全く頼りにならぬわ!」少女の激しい罵りに「そ、そんな事ないもん! 戦いだったら私の方が強いもん!」と応酬が続き、再び「何じゃと!」から始まる、罵声が響く。事態は混沌としてきた。


 こういうの何て言うんだっけ? あ、そうそう。女の戦い?


 うん。アイシャは実際に強いし、まだまだ未知数な部分も多いんだよな。それでも、こいつは金縛りなんて怪しげな術を使ったり、俺のあの力にも遜色ない速さを見せたり、捉えどころがなくて実力は読めない。


 そんな事を考える間にも、喧々諤々の騒動は続き、今にも手が出そうな雰囲気となっていた。

 不味いな。二人が戦う所なんて見たくないぞ。


 そうだ――。守るのは俺の役目だ――そう、決めただろ。そのために強く――!


 自分の右手を見つめ、決意を確かめる様に握りしめる。


 とりあえず事態の収拾だな。この場で一番こうかがありそうな言葉は――。


「なあ、喧嘩してるとこ悪いけど――」


 「何じゃ! これは儂とこの小娘の問題じゃ! おんしは引っ込んでおれ!」予想通りの返答に言葉が続く「そうだよ! カイトはそこでじっとしてて!」もう、こんな時に意見が一致するなんてホントに仲良いんだからぁ。仲が良いなら殴り合いなんてしちゃダメだよな。そういうのはフィクションだけで十分だ!

 二人には構わず言葉を続ける。


「一方的に名前を知ってるのも、何か分が悪いって言うかさ。フェアじゃないだろ?」


 俺の言葉に二人は脱力した様子で、一時的に争いを止めた。


「もう、カイト。いきなり何いいだすの? 確かに私はお化けさんの名前は知らないけど……」


 少女は不服そうに、言葉を挟んだ。


「何じゃ。儂に名などないぞ。……昔はヒトに呼ばれていた名があったはずじゃが、今は全く思いだせん! 他人の事なら良く覚えておるのじゃが」


 ああ、やっぱりそうか。全く名乗らないからおかしいと思ってたんだ。だが、ここまでは読み通りだな。後は、この提案が受け入れられるかどうか――。


「なあ、それなら俺にお前の名前を決めさせてくれないか?」


 少女は俯いてしばらく思案していたが、顔を上げこちらを見据えた。その表情は先ほどよりも緩んでいた。


「良いぞ。どうせ思いだせぬのじゃ、誰が名付けても良い様なものじゃが、おんしならその適役と言えよう!」


 笑顔に戻り答える少女の様子に、アイシャも険のある表情を崩した。


「もう、カイトのせいで怒りの感情がどこかに行っちゃったよ! 自分から名乗り出たんだからちゃんと良い名前を付けてあげてよね!」


 ふむ、とりあえずはこれでいい。二人とも俺を守るって言ってくれたのに、争うなんておかしすぎる。


「それじゃ、お前の命名権は俺のモノだな? 行くぞ――」


 二人が息を呑む様子がありありと見て取れた。この答にはまた脱力するかもしれないが。


「お前は今日から『ジジ』だ!」


 少女は緊張した面持ちを崩し、こちらを疑いの眼差しで見る。


「ふむぅ? して、その心は?」


 く、くくく。待ってたぜぇ。その問いをよぉ。


「ジジイ言葉で話すからに決まってるだろぉ!」


 「な、何じゃと! せめてババアと呼ばぬか! ぐぬぬぬ。儂のこの美貌を目の当たりにしてその様な言葉をぶつけよるとは……!」くくく。ここまでは予定調和さ。後は――「酷いよカイト! そんないい加減な名前! もっと可愛い名前があるでしょ!?」そう、この言葉を待ってた!


「そうだぞ! ……アイシャだって、こいつの事を悪くなんて思ってないんだろ? だったらもっと仲良くしようぜ! これ、お兄さんからの提案ね。あ、拒否権はないから――」


 「誰がお兄さんなの! じゃ!」二つの声は重なり、俺の悪ふざけに同時に反論した。その後ふたりはお互いを見つめ合っておかしそうに笑う。先ほどまでの険悪な雰囲気は霧散していた。


 ふぅ。これでもう大丈夫かな……?

 全く、感情表現が豊かな子の相手してると疲れるぜ。それも二人だからなぁ。


「いいよ。お化けさん。じゃ、なかった。ジジちゃん。でいいのかな? 今は貴方に半分ゆずってあげるよっ」

「ふぅむ。まだその名を完全に受け入れた訳ではないが、そなたとこれ以上、争う理由もないな……」


 二人は同時にこちらを向いた。その顔には満面の笑みが湛えられていた。


「ね。カイト。何があっても『私たち』が守ってあげるからね?」

「今は、この答えで納得してやろう」


 そうだ、これでいいんだ。でも――。


 二人を守るのは俺の役目だからな――ここだけは譲れない、今はまだ、言葉には出さないけれど、決意を確かめる様に、再び右手を強く握りしめた――。

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