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二度目の朝

 暗く冷たい世界に二つの影が並んでいた。その影の見つめる先には何があるのだろうか? 並んだ影の一つが何らかの音を発する。奇声にも聞こえたが明確な意志のある言葉の様だ。


「見たか、見たよな!? 姉上! なあ、見ただろ!?」


 溌剌とした内側から生気を感じさせる声に聞こえるが、その裏には暗く淀んだ情念がとぐろを巻いている。耳にしただけで、命の危機を感じ、身震いが止まらなくなる様な、そんな悪夢の如き声音だった。

 その口調からは姉を表した言葉は不釣り合いなモノに思える。声をかけられたもう一つの暗い影が機械的に答えを返す。


「ええ。見たわ」


 抑揚もなく感情も無い様な生気の失せた声だった。


「久々に美味そうな奴を見つけたから印を残そうと思ったが、あいつ……。ひでぇ呪いを受けてるみてぇだな。弾かれちまったぜ」


 影は口惜しそうに吐き捨てた。


「ええ。そうね。あの呪いからは私たちの仇敵の力を感じたわ」


 もう一つの暗い影の言葉に応じ、にわかに殺気立ち始める。


「あンの野郎! 随分なげぇこと引き籠ってやがると思ってたら、あンな大層なオモチャを仕込んでやがったのか! はっ。面白くなってきやがった!」


 暗い影は変わらない調子で答える。


「ええ。そうね。面白いわね」


 それを受けて、狂気を孕んだ哄笑が響き渡る。


「ハハハハ――。楽しみだなぁ。楽しみだ! 早くブッ壊してやりてぇぜ!」


 その声を最後に暗く冷たい世界は再び永劫とも思える闇の中へ沈んで行った。




※ ※ ※ 




 薄明りに包まれた天とも地ともつかない、全てが空の様にも見える不可思議な空間に輪を形作る複数の影が蠢いていた。

 中心には一人の少年がうずくまっていて、彼の姿だけがはっきりと認識できた。


「うん……? どこだ? ここは……?」


 少年は周りで蠢く影を見て悲鳴を上げる。


「何だ!? こいつら……!? どうして俺を囲んでるんだ!?」


 その言葉に反応したのか影たちは徐々に輪を狭め中心へと近づいてくる。

 ここで奇妙なことがひとつあった。人型に見える影たちは実体を持たない存在なのか。輪が絞る様に狭まっても、その数は変わらない。

 そして全ての影は一様に人型だが、胸部とおぼしき部分のみが実体を伴っている様に、鮮明だった。


「よく見ると……? アイシャ? アイシャなのか!? どうしてこんなにたくさんいるんだ!? 俺の知ってる彼女は一人しかいないはずだ!」


 少年は何かに気付いたらしく驚愕の動作を取る。


「うわっ!? てか、これ。姿ははっきりしないのに全部『豊かな実り』だけが浮き上がって!?」


 輪は更に狭まり少年を押し潰し呑み込んで行く。


「うわぁ!? 顔が埋まって息が出来ない!? や、止めてくれぇ!? 『豊かな実り』に埋まってもこんな状態じゃ嬉しくない!」


 絶叫は虚しく空へと溶け込んで行き。やがて輪は一つの球となっていた。


「ふぐっ。埋まって死ぬとか男の夢だと言いたいのか!? そうなのか――!? 答えてくれ! アイシャ――!」




※ ※ ※ 




 おかしな夢から解放され目が覚めていた。いつの間にか眠っていたのか? 一睡もできないと覚悟していたんだが……。意識が途切れる瞬間を覚えていない。どれくらい寝ていたんだろう? 部屋の中は静まりかえり、寝息の音すら聞こえない。いや、微かにだが一定のリズムで何かが聞こえていた。音、と言うより振動が直接つたわって来る様な……?


 ああ、覚えがある? 何処か懐かしい。何だろう、これは――そうか、心臓の鼓動だ。


 一体だれの……?


 それよりも今、自分はどんな状況にあるんだ? 暗く息もし辛い。顔が、いや、頭の半分が何かに圧迫されているが、とても柔らかく重い?


 分かったぞ――! これは――!


「俺は今、『豊かな実り』に埋まってる!!」


 突如として意識が明瞭になり、自分の置かれている状況を把握し、欲望と共に恐怖が沸き起こった。恐らく眠っているアイシャに無意識の内に抱擁されて、谷間に埋まっているのだ。


「に、匂い嗅ぎ放題……!? てか、さっきからずっと吸っているのか――!? むほぉ!? で、でも、このまま彼女が目を覚ましたら……!?」


 今の所は起きてないみたいだな……? 多分、彼女から能動的にこの状況を作り出したのだろうが、気付かれれば非難されるのは俺なのは間違いない。


「ど、どうする?」


 自分に問うてみるが、答えなどひとつしかなかった。


「そぉっと、離れるんだ。気付かれない様に、慎重に……! もっと埋まってたいけど思いきれ!」


 その時、アイシャがわずかに動き、会心の寝言を放った。


「うぅん。カイトォ。えっちぃ。そ、そんなとこダメだよぉ」


 うわぁ!? またえっちかよ!? てか、この状況を夢見てる!?

 夢に現実の状態が影響することは稀にある。彼女は俺を谷間に挟んでいる夢でも見ているのかもしれない。そ、その夢に入りたいんだけど!?


「お、落ち着け。なんとか、拘束を解くんだ!」


 幸運が味方したのか、アイシャは寝がえりをうち自然と離れていった。柔らかな感触と重圧もなくなり、わずかな名残惜しさだけをその場にとどめた。


「ふぅ。助かったか……。また抱きつかれない様に、少し離れておかないと」


 身体を浮かせてベッドの端へと移動する。部屋はいまだ暗く時刻も分からない。窓を見ても明かりが漏れている様子はなかった。


「そういえば、この世界には時計ってあるのかな? この家にはなかったみたいだけど……」


 不思議だな。目を覚ます前には全く眠れないんじゃないかと思っていたが、また眠気が……。彼女とは距離を取ったし、今なら寝ても大丈夫か――。

 その思考を境に意識は再び途切れた。




※ ※ ※ 




 何だ? 身体が小刻みに振動している? まさか、家が揺れているのか? じ、地震――!?

 弾ける様に身体を起こすが、隣から驚いた声が聞こえた。


「きゃっ。もう、全然おきないと思ったらいきなり!」


 アイシャの声だ。何だ、彼女に身体を揺さぶられていたのか、眠っている時に身体が揺れて起きるなんて地震でしか経験した事ないってのも俺が日本人だからか。

 いや! それは関係ねぇ! 俺には毎朝おこしてくれる様な幼馴染の美少女なんていなかったんだよぉぉぉ! どれだけ悔しい想いをして来たことか――! ん、まあ、嫉妬の対象はゲームの主人公なんだけどさ。


「もう、カイト。起きたのならおはようくらい言おうよ? さっきから黙ったままで何かんがえてるの?」


 くくくく。だがぁ、今はほらっ! この通り、俺にも起こしてくれる美少女が出来た! いや、特別な関係って訳じゃないけど……。


 未来の俺に期待――!


「はあ、何かぼおっとしてたけど、やっと目が覚めて来たな」


 隣から再び声がかかる。窓の外からは、鳥たちのけたたましい鳴き声も聞こえていた。朝の挨拶でも交わしてるのかな?


「もう! 無視しないの! 挨拶は人生の基本だよっ。少年! おはよっ」


 度重なる催促に彼女の方を向き「おはよう」と返した。


「うん、よく出来ました。それでね? 話は変わるんだけどぉ。ここを良く見てもらえるかなぁ?」


 朝から何だ? 俺は起きたばかりでまだ何もしてないだろ!?

 訝しみつつ、彼女が指さした場所をみやった。


 何だ? 『豊かな実り』の位置? 朝から何かんがえてるんだ?


「ふふぅん。よく見たかなぁ? 少年? ここ、怪しい皺が出来て、跡が残ってるよねぇ? 何の跡かなぁ?」


 んなぁ!? パ、パジャマの胸の位置! わずかに乱れてる!? 俺が埋まった跡が残って――! や、やべぇ!? 暗いから気付かなかった。


「し、知らないよ! 寝てる間に勝手に出来たんじゃないか!?」


 彼女はあからさまに疑っている様だ。


「ふぅん? そうかなぁ。誰かの頭みたいな形に見えない? 私にはそう思えるんだけどなぁ?」


 やべぇ!? こ、ここは一つ朝から怪談を披露してやろうじゃないか!


「聞いた事があるぜ……。俺の故郷じゃ、若い女性がたまに被害に遭ってる悪霊の話があってな……」


 アイシャの顔から血の気が引いて行き蒼白になる。く、くくく。やはりお化けが怖いのか。


「夜、皆が眠りについて静まり返った頃、若い女性の身体だけを狙ってそこに跡をつけ――」


 続けようとしたでっちあげ怪談は慌てた様子の彼女に遮られる。


「も、もういいよ! それ以上ききたくないもんっ! カイトのヘンタイ!」


 効果覿面と言うやつだな。ふっ。自分の狡猾さが恐ろしいぜ……! 何せ全部でまかせだからなぁ!

 今日の一戦目は俺の勝利だな。朝から幸先がいいじゃねぇか。


「はぁ、もう追及する気がなくなっちゃったよ。手の跡だったりしたら確定だったのになぁ」


 そんな事を言ってていいのかな?


「だからさ。手の跡もその悪霊が――」


 ぼふっ。


「知らないもんっ! そんなのいないもんっ!」


 突然とんできた枕が顔面にクリーンヒットし、一瞬いきが詰まった。これ以上、刺激するのは得策じゃない様だな。しかし、良い朝だな。眠気も感じないし、思いのほかいい睡眠が取れたみたいだ。昨日かんじた身体の痛みや疲れも綺麗に全快していた。


 彼女の方を向き、挑発する。


「気になる事も解消されたかな? じゃあ、着替えて朝ごはんにしようぜ?」


 「ううぅ」と言う唸り声を発しつつアイシャがねめつけてくる。


「ほんとにカイトじゃないんだね? 嘘をつくと後で自分に返ってくるよ? ……まあ、いいよ。私、向こうの部屋に行って、保冷の魔法を解いてくるね。あんまり長い時間、触媒を酷使してると消耗がはやまっちゃうから」


 触媒って消耗するのか。魔法ってのも便利なだけじゃなくて、色々と制約が多いんだな。

 アイシャはベッドの下からスリッパを取り出し、それを履き、急いだ様子で隣の部屋へ出て行った――。


「きゃああああ!」


 突然、悲鳴があがる。

 何だ!? 何があった!?


「大丈夫なのか!?」


 起き上がって、裸足のまま床に飛び出し、彼女の後を追った。

 ドアを抜けた先には目を覆いたくなる様な惨状が広がっていた。


「うわぁ!? 何だこれぇ!?」


 そこには夥しい数の虫の群れ。それは玄関から床を這い、食卓の支柱から裏側を伝い、端に置かれていた食器に集まっていたのだ。持ち出された食べカスは今度は同じ道を辿り、外へと運び出されていた。


「あ、蟻の行列かぁ。久々に見たな」


 アイシャはこちらに振り返り、唇を尖らせる。


「感心してる場合じゃないよっ! 追い払わなきゃ! うううう! カイト! 昨日の夜、勝手に外に出たでしょ!? 玄関のドアが少しだけ開いてるよっ! そのせいなんだからっ!」


 うぐっ。今、昨日の腹痛が甦って来た!? あれ? それ以外にも何かを見た様な気がするんだが、何だ? 思い出せない。

 昨日の夜の出来事を記憶の底から引っ張り出そうとしていたら、隣にいた彼女の身体が輝き始める。


「外にいたらこんな事はしないけどっ! ここは、私の家だからぁ! 無理やりにでも出て行ってもらうよっ!」


 そして食器の山を洗い出す様に、水が溢れ、そこに小さな竜巻が形成される。蟻たちはその渦に呑まれ次々と壁へと弾き飛ばされていった。壁には小さな黒い染みが点々と無数に広がっていく。


「うわぁ。凄惨な光景だなぁ……」


 少しだけ蟻が哀れに思えて来る。


「大体、追い払えたみたいだな……。あれ? でもこんなに汚しちゃって大丈夫なのか? 壁がすごい有り様だぜ?」


 アイシャは荒い息を吐きながら不気味な笑い声を上げた。


「ふふふふ、血の精霊はね、生物の組織に結びつく力を持っていて、何も血だけを象徴してる訳じゃないんだよぉ。こういう場合のお掃除にも最適っ! それっ!」


 再び彼女の身体が輝き始め、その光が手の内へと収束していく。

 そして壁に張り付いた染みたちは次々と吸い込まれて消えて行った。壁の汚れは組織ごと綺麗に分解されてしまったのか、まったく残っていなかった。

 どうなってるんだ? そういえば、俺の血で文字を書いた時も彼女はインク瓶の類は持っていなかったな?


「ふふふふ、黒いインクゲット、丁度、少なくなってたから助かっちゃった。ふふふふ」


 こえぇぇぇ!? ……自分のテリトリーに入った外敵には容赦がないのかもしれないな。お、俺は敵として認識されなくて良かった。


 アイシャは額の汗を拭いながら満面の笑みでこちらを向いた。


「ふぅ。お部屋が綺麗になってぇ、スッキリしちゃったよぉ。今はぁ、気分がいいからぁ。カイトが夜に何してたのかは不問にしてあげるねぇ? ふふふふ」


 全身が粟立ち鳥肌がたった。こ、怖い! いつもは見えない意外な一面を覗いてしまった感があるな……。


 アイシャは空気を切り替えるように、手を叩いた。


「じゃあ、着替えてご飯にしちゃおっか?」




※ ※ ※ 




 食事をとり終わり、アイシャは地下の倉庫から大きな背負い籠を取り出し、そこに洗濯物や食器を詰めて、川へと向かう準備をしていた。

 倉庫から出る際にまた俺が手を貸したのは言うまでもないが。


 しばらくして彼女は背負い籠とその隣に水筒や水瓶を括りつけた重装備となっていた。


 この装備、俺だったら数分も歩かないうちに潰れてるな……。


「準備完了っ! それじゃ、行ってくるねぇ。洗い物にはそんなに時間はかからないと思うけど、帰りはお水も確保して来るからちょっと遅くなるかも? カイトは自由にしててくれていいけど、外に出るのなら、家の周りをお散歩するくらいにしてね?

 あ、でも、家から出て左手の道は昨日いったんでしょ? そこから更に左に行くと大精霊域に入っちゃうから近づかない様にしてね?」


 昨日とおった正面の道を真っすぐ進むとあの土砂崩れの現場に出るが、森に入ってすぐ左へ行くと大精霊域とやらがあるって事か。そっちへ行けないとなると今日のマップ埋めはあの道の右側にするかな。


 何か忘れ物をしたのか、アイシャが一度、荷物を降ろし振り向いた。


「あ、そうだったよ。カイトにあれを渡しておかないと、この辺りに私いがいのエルフが来ることなんてほとんどないと思うけど、一応あやしまれない様に準備はしておいた方がいいものね」


 彼女は昨日ゴーグルが掛かっていた隣にあった薄緑のフードを手に取り、渡してきた。


「これは?」


 俺の問いにアイシャは手短に説明してくれる。


「このフードはね、被ってると他の人の認識を誤魔化してエルフに見える様にしてくれるんだ。お散歩する時は、用心でこれを被っててね。それとぉ、貴重な魔法の道具だからなくさないでねっ」


 なるほど、便利な道具があるものだな。……ん? 待てよ? 彼女はエルフなのだから、この森では偽る必要はないよな。誰用に確保してたんだ?


 彼女は再び荷物を背負った。今度は忘れ物もなく、出かける準備は万端の様だ。


 アイシャは重い荷物を背負っているとは感じさせない足取りで出かけて行った。その後ろ姿をしばらく無言で見送る。あ、いってらっしゃいを言い忘れたな。


「さてと、俺も外を探索してみるかな。行きたい場所はもう決まってるし、善は急げだ」


 先ほど手渡されたフードを被り、寝室の姿見に映してみた。……何というか、地球から着て来た服と驚く程マッチしていないな。壊滅的なファッションセンスだ。まあ、誰に見られる訳でもないだろうし、いいか。


 早速そとへ出かけようと思ったが、一歩ふみ出した所で足が止まる。


「玄関って開けっ放しでいいのかな? 鍵もないっぽいし、アイシャも何も言ってなかったからいいのか……?」


 まあ、自分の目的を優先するか、まずかったら彼女が準備してるはずだもんな。


 家から出て左手の森の入り口へ向かう。

 森に一歩ふみこんだら頭上の鳥たちの声が少しだけ静かになる。何だ? また警戒してるのか? それとも昨日も見た奴だから観察してるのかな?

 静かになったのは一瞬だけですぐに合唱が再開される。


 森に入ってすぐに左手を向き大精霊域とやらへの道を確認する。緩やかな登り坂になっていて、奥まで鬱蒼とした森が広がっている様だった。行かない方がいいんなら行くつもりはないけどな。


 反転して右手の道をみやる。

 こちら側は平坦で木々の数も少しまばらに見えた。


「少しずつマップを埋めて行くのは、探索の基本だからな、じゃ行くか」


 しばらく奥へと歩いていたら突然、頭上から鳥の大群が飛び立つ姿が見えた。それと共に、木々の葉がざわめき鳴き声が空を裂く。


「何だ……? 何か危険なモノでも見つけたのか?」


 空から森へ視線を戻し、奥を見つめるとそこに動く影があった。


「あれ? 人間サイズじゃないか? アイシャはこの辺には他のエルフは来ないだろうって言ってたけど……?」


 いや、良く見ると、その姿は明らかに民間人の雰囲気ではなく、全身から怪しさが滲み出ていた。


「黒い仮面に耳当て……? それに黒いクロークっぽいのを着てるけど、下には鎧を付けてる!? 何だ、あいつ!?」


 耳が覆われてるんだからエルフなはずはないよな。何してるんだ? 予想していなかった事態に緊張から口が乾き始める。

 声をかけるべきなのか? でも、俺も部外者みたいなもんだしな。アイシャを呼びに行くべきか? 逡巡しながら立ち止まっていると、運悪く怪しい人物はこちらを見た。


 やばい!? 見つかっちまった。どうする!?


 その人物は近づいたり、声をかけて来る様子もなく、自分の首元へ手をやり何かを取り出した。


 何だ? 笛……?


 大きく息を吸い込み笛らしき物に口を付ける。だが、普通なら聞こえるであろう音は全くなく。いつの間にか静かになっていた森には他の音もなく沈黙に包まれていた。


 笛を吹いたのか? でも、音も何もしなかったぞ?


 その時、背後から枝を踏みしめる様な音が聞こえた。


 何だ――!?


 振り向いた瞬間、黒い影が白く閃く物体をこちらへ向けて振り抜いた。無意識に危険を感じ取り、それを飛び退いて躱す! 振り抜かれ動きが止まった時、それの正体が分かった。いや、分かったと言うべきなのか? 地球では本や博物館でしか目に出来ない代物だ。


 今のは――槍!? そ、それに先端の刃の部分、黒い汚れがこびりついて!


 明らかな殺意を感じ、戦慄する。朗らかな散歩の舞台であったはずの森は、一転して血の匂いの立ち込める戦場へと変貌していた――。

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