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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』二幕『生きて来た証』

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アナタのデータ、全て管理してあげる

 左顎を震わす様な痛みに耐えながら現状を冷静に俯瞰しようと努める。何が起きているんだ? これは――。

 今も胸部には柔らかい感触が這い回っており、目覚めてはいけない何かが起きそうになる。


 顎が痛むのは特に関係もない。


 それは、先ほどまで食事をしていたからで、痛みをほぼ感じなくなっていたため油断していたが、歯ごたえのある肉やパンを噛んでいたら、昼間に彼女に張られた傷が再び疼き始めたのだ。

 顎の怪我も治してもらっておけば良かったな……。途中からは痛くて味が分からなくなっていたぞ。左顎をかばい、右側で噛む様に心がけてみても、両側が連動するため気休め程度にしかならなかった。一言で表すと『とても痛い』。


 食卓には「二回分」の食器が隅に重なって放置されていて、春の陽気がそうさせたのか、汚れが微かにだが、独特な匂いを放ち始めていた。これも問題ではある。しかし、今、俺の置かれている状況はもっと重大事なのだ。


 これは――。


「し、刺激が強すぎるッ!!」


 側に立っていたアイシャが咎める様に、声を放つ。


「もう、カイト! 動かないでって言ったでしょ? 喋っても身体が動くからダメだよ! それに、刺激って何の事かなあ? またえっちな事を考えてるの?」


 先ほどから彼女は服を作るために、俺の身体を紐状の巻尺で締め上げて、採寸をしているのだ。正直、不味い状況だ。このままでは――。


「ふんふん。胸囲は八クラウン、六ユピト。次は腰辺りを測るねぇ……。じっとしててよぉ」


 アイシャは巻尺を緩め、今度は腰回りに移動させる。聞き慣れない単語が混じっていたが、言及する余裕もない。

 ああぁ!? ダ、ダメぇ! そんなとこ触ったら測定しなくていいとこまで大きくなっちゃうぅぅぅ!


 抵抗する事も出来ず、されるがままだ。う俺はぁ、マネキンや、人形じゃないんだぞぉ!? 腹部を何度も彼女の指先が這いまわる。その感触に熱が集まり始め、暴走しそうになる予兆を見る。


「ふむふむ……。次は、お尻だねぇ」


 あああ!? ちょ! 待った! そんなとこ! まじでダメだから! 途中で長さが足されちゃって正確に測れないからぁ!


「ああああああ!」


 我慢できずに声を上げてしまう。


「ちょっと、カイト! うるさいよ! 静かに出来ないのかな?」


 やつが目を覚ましそうになるのを懸命に堪える。じ、地獄の様な苦行だぜ。スキル制のゲームなら、これで精神系の耐性値が急上昇してるかもなあ……。てか、後ろだけじゃなくて前にも注意して、頼むから!

 彼女の指先がかすかに触れる!


「うあああああ!?」


 内股になり、大腿をしめながら前屈みになる。


「ちょっと、カイト!? 真面目にやって!」


 ははは、こ、こっちは至ってまじめ、大真面目だぜぇ。そっちの方が悪ノリが過ぎるんじゃねえかい?

 そんな訳はないのだが、彼女が真剣なのは声や動きから伝わって来る。だが、こちらの身が持たない。


 そうだ! 測る部分が増えてしまわない様に、最大限の努力をしているのだ!


「ふんふん。えっと、次はぁ……」


 言いながら、彼女は前に周り、脚の付け根あたりに手を伸ば――。


「ノゥ!!!」


 触れられる前に、大慌てで後ろに飛び退く。彼女は呆れた様な目つきでこちらを見た。


「はあ……。後ちょっと何だから、我慢できないのかな? 『大人の男の人』なんでしょ? カイトはぁ」


 うぐぅ!? こ、こんな時にだけ持ち出して来るとかずるいぞ!

 もう本心を打ち明けるしかない! 彼女もそれで諦めてくれるはずだ!


「さっきから無遠慮に色んな所を触ってくれちゃってよぉ……。こっちがどんな気持ちでいたのか、ちょっとくらい考えたのかぁ? さ、さっき俺が飛び退かずに、そのまま続行されていたなら……。お、恐ろしい事が起きていたんだぞ!? それこそ、『測る対象』が一つ増えてしまう様な一大事に!」


 アイシャは大人しく俺の言葉を聞いていたが、最後に疑問が浮かんだのか、唇に指を当て、宙を見つめた。


「え? それって、どういうこ――」


 その顔が真っ赤に染まる。く、くくく。想像してしまった様だなぁ。


「ああぁ!? 『測る対象』が増えちゃうってまさかぁ!? 朝の寝室の時みたいにおっきくな――」


 そこで言葉は切られ、しばしの沈黙が部屋を支配した。ほっ。流石に諦めてくれたかな。

 だが、アイシャは顔を上げ、真剣な面持ちで俺の目を真っ直ぐに見据えた。


「いいよ。もし、そうなっても、覚悟は出来てるから……。カイトが我慢できないのなら、『そこ』だって測ってあげちゃうよ」


 真剣な眼差しに射竦められて、硬直したまま、脳内は赤い布を前にした猛牛の様に暴れまわっていた。


 この反応はダメだからぁ! ああああ――!? てか、測られたらもっと大変な事になるからぁ!


 ふぐっ。


 そのまま尻をつき倒れ込み、後の事は覚えていなかった。




※ ※ ※ 




 どのくらい時間が経ったのかは分からないが、手を強く握られた感触で意識が覚醒し始める。


「良かった。目が覚めたみたいだね。カイトったら、結構よく気絶するよねぇ。危険な状態かは血の精霊がすぐ教えてくれるから心配はしてないけど……」


 アイシャは側に屈み込み、こちらを覗き込んでいた。『豊かな実り』が大胆な姿を晒していたのは言うまでもない。握られた手に力が込められる。起こそうとしているのか……。

 抵抗するのも不自然なので起き上がる。


「ふふぅん。カイトの手って、女の子みたいにすべすべだけど、手の平には小さな豆があるよねぇ。ほんとにちっちゃくて、ほとんど感じない様なやつだけど、私は最初に手を握った時から気付いてたんだよぉ?」


 んなあ!? また女の子だってぇ!? こ、これは武術の真似事の木刀の素振りで出来たやつで……。そんなに本腰いれてやってた訳でもないからなんか気恥ずかしいな。


「ふふぅん。それって、剣とか、何か棒状の物を振り回して出来たやつでしょ? 昔ね、近くに住んでた、男の子の手を握った時に同じのがあったよぉ?」


 んんん!? お、男の子の手を! 握っ! ったぁぁぁ!? ああああ!?

 その言葉が頭の中を反響し、音速を超えて飛び回る、脳神経が全て切れてしまいそうだ。


「その子も剣が好きでねぇ。いつか剣士になるんだって、毎日、木の枝を振って訓練してたんだよ。……ふふふ、カイトったらショックを受けちゃってるのかな? 安心していいよぉ? 小さい頃の話だし、ただの友達だからねっ!」


 女の子のジャブから手を握った異性の友達へ繋がれ、のけぞり中に回避不可の見透かされて気遣われるのコンボを受け、精神は更なる深手を負う。


ぐふっ。


「もう。いい加減に機嫌を直してよぉ」


 幼い頃の友達でもう会ってもいない……? 連絡も取っていない……? て、手は洗った!? こ、細かい皺の、いや、指紋の隙間まで洗剤を塗り込んで徹底的に滅殺した!? それとも最初から手袋を付けて完全防備してた!?


「だったらいいよ」


 唐突な言葉にアイシャは不思議そうな顔をする。い、いや! イケメンに成長したそのエルフ野郎が白馬に乗ってマントを翻し、白い歯を煌めかせながら迎えに来るとか、そんなストーリーはない!?


「ないのならいいよ」


 アイシャは理解できない様子で、唇を尖らせこちらを刺々しい視線で見つめた。


「も、もう! さっきから何いってるの? ちゃんと分かる様に話してよぉ」


 くくく、混乱している様だな。まあ、ないのならいいか。


「何だか分からないけど、カイトが寝てる間に、採寸はあらかた済ませちゃったからねっ!」


 初耳だぞ! 寝てる間に、あんなとこやこんなとこを触られていただとぉ!? やつが眠る場所に目をやるが、特に変化は起きていなかった。まあ、気絶してたからな。少し損した気分にはなるが、事なきを得たと言う事か。


「あれ? そういえば、サイズのメモとかしてなかったけど、全部、忘れずに覚えてるのか?」


 彼女は俺の言葉を受けて、一枚の白紙の巻物を取り出し、それを広げて、両手の指先でつまみ目の前に掲げて見せた。紙の下部は丸まって伸びきっていなかった。薄い紙の向こうには光で透けた彼女の顔の輪郭が見える。耳ははみ出してるけど。


「ふふぅん。みぃんな、精霊に記憶してもらってたから私が覚えとく必要はないんだよっ! 見たいのならみせてあげるねっ」


 精霊とはそんなメモ用紙の様な役割も出来るのか。目の前の白紙に上部から下部へ向かって、次々と赤い文字が浮かび上がって行く。まるで鮮血の赤だ。やがて何処か禍々しい雰囲気を漂わせた文字を隅々まで書き込んだ、紙が出来上がる。文字に使われた液体の重さなのか、丸まっていた下部も端まで伸びきっている。赤い液体は所々が滲んで垂れ出していて、時間が経てば滴り落ちそうだった。


「な、何だこれ? まるで血文字みたいだ……」


 浮き出した文字は一切よめないが、それぞれの文字列は左から右へと続くのか、後半の記号には幾つか共通点があった。採寸をしていたのだから、それぞれの部位の数値が書き込まれているのだろうか? 共通点があるのは数字かも知れない。


「ふふぅん。そうだよ! 昼間にカイトが怪我したでしょ? あの時の出血の戻せる部分は、もう一回からだの中に還元しちゃったけど、治せずに溢れた分を吸収してたんだよっ! だからぁ。これは貴方の血で出来た文字なの!」


 知らないうちに血を盗まれてたぁぁぁ!? 血をインク替わりに文字を書くとかネクロマンサーか何かかよ!?


「書かれてるのはぁ、上から首回りで部位ごとのサイズを順番に記録してるよっ」


 ここでアイシャは怪しげな表情でこちらを見る。


「ふふぅん。カイト、男の子にしてはちょおっと細いかなぁ? もっともっと鍛えないとねぇ? 立派で頑強な身体になれる様に、私が毎日、指導してあげちゃおうかなあ?」


 んなぁ!? お、俺の体格は同年代の平均よりは筋肉質なはずだぞ! 多分! 腹筋われたりはしてないけどな! この世界の住人の平均はもっと筋肉がついているのだろうか? 地球での都会人と比べれば当然かも知れないな。

 指導とか絶対スパルタだろ!? 昼間の罰ゲームを思い出し、あの時の痛みを想起しながら背筋を震わせた。


「それに、筋肉の付き方が歪なんだよね。上腕は結構、発達してるんだけど、肩とか胸はそうでもないし、特に足腰がダメだねっ!」


 彼女は遠慮する様子を一切みせずに更に追い打ちをかけてくる。まだ重いと言った事を根に持っているのだろうか? だが、こちらのプライドにも配慮して欲しいものだ。


「ふふぅん。貧弱で虚弱で脆弱なんだからっ!」


 容赦ない罵倒の連射を浴び、心は蜂の巣の様に穴だらけになっていた。やっぱりまだ根に持ってるだろ! くそぉ! こんな言われるままで一つも反論できないなんて……!


「わ、分かったから! ……でも、個人指導とかはちょっと遠慮しちゃうな!」


 アイシャはあからさまに残念そうな様子を見せる。


「そんなに遠慮しなくていいんだよっ? 私が、優しぃく強くなれる様に、みっちり鍛えてあげちゃう!」


 どう考えても危険な想像しか出来ない。彼女の事だ。筋トレ替わりに自分を毎日お姫様抱っこさせて何回も上げ下げさせるとか、そんなえげつない訓練を課して来るに違いない。そうすれば俺を鍛える事を口実にしつつ、自分の復讐も果たせてしまう。そして、『豊かな実り』に目を奪われれば、容赦のない一撃が加えられるだろう。恐ろしくて背筋が凍る。

 だが、自分で闇雲にやるよりはいいのかもな……。いや、惑わされるな。とりあえず無難な答えを返しておくか。


「ちょっと考えてもいいかな」


 アイシャはとても不満そうだ。先ほどの紙をこちらに広げて見せつつ、また追及して来る。


「いいけどぉ。このデータが今のカイトの現実を示してるんだよぉ? 始めるなら早い方がいいんだからねっ!」


 お断りしますっ! 心の中で言っておく。まあ、冗談はさておき、まだそんな気分にはなれないかな……。焦っているんだろうか? もっと速く成長できる手段を求めている? 曖昧だった思考に、あの力の幻影が鮮烈に浮かび上がる。


 どうすれば自分のモノに出来るのだろうか? 今は見当もつかないが、こんな落ち着かない状態では、確実に強くなれる方法だとしても、時間をかけて訓練をする気にはなれないな……。


 これについては、もう少し保留にしておくか。……それよりも、今は。


「それよりもさぁ、そんなによぉ。俺の身体のデータを一方的に握っちまって、罪悪感はないのかなぁ?」


 アイシャは困惑の表情で返す。


「え? な、何いってるのカイト。これもカイトのためなんだから……」


 違う。そうじゃないんだ。


「それは分かるけど、俺が言いたいのはぁ――! き、君のデータも知りたいって事だあ!」


 アイシャは両手を交差させながら左右に振り回し、大慌てで否定する。


「な、何を言い出すのかと思えばぁ! またえっちな事を考えてるの!? ダメに決まってるよっ!」


 両手の指を握っては開きを繰り返し、疑似的に揉む様な動きを作ってみせる。


「くくくく。不公平だよなあ。こっちは好き放題さわられたってのによぉ!」


 もはやお決まりとなったパターンの罵倒が飛んで来た。


「カイトのバカ! ヘンタイ! そのやらしい手の動き止めてよぉ!」


 彼女は『豊かな実り』を両腕で覆い隠し、横を向きながら後ずさる。


「全身をくまなく採寸してよぉ。俺も君の全てを知りたいなぁ。何なら服も作ってあげちゃうぜぇ」


 わざとらしく口から荒い息を吐き出した。アイシャは顔を紅潮させながら反抗してくる。


「またえっちな事ばっかり言って! ダメだし、いらないもん! カイトの作る服とかえっちなやつに決まってるもんっ!」


 くくくく、かなり効いているな。さっきから言いたい放題され放題で、鬱憤がかなり溜まっていたからな。これも一服の清涼剤と言うやつさ。

 先ほどの嫌らしい手の動きを維持しつつ、彼女を徐々に台所の壁際へと追い詰めて行く。さあて、どう料理してやろうかなぁ? 人のプライドを傷つければどうなるのか思い知らせてやるぜぇ。


 今日いちにちで二人の関係性には変化があったのだろうか? それともなかったのか。その答えはまだ不確かではあるが、夜が深まっていく中でも変わらないやり取りに、幸せを感じているのは確かだった――。

 

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