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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』二幕『生きて来た証』

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浄水器を作ろう!

 家から外に一歩、踏み出すとまるで結界の内から抜け出た様に、周囲が騒然とし始める。勿論、生き物たちの声でなのだが。この差は何だろうか? 振り返り家の玄関を見つめながら首を傾げた。


「この家って……窓の近くは外の音も聞こえるんだけど、全体的に凄く静かだな。もしかして外部の音が遮断できる様な魔法がかかってるのか? 単純に防音性に優れた素材という可能性もあるが……」


 考えても答えは得られない。分かるのは、相変わらず外はうるさい事だけだ。


「とりあえず、さっき工具箱を降ろした辺りに、この瓶と板も置いておくか」


 井戸の近くに移動し、その付近に材料を置いた。水の濾過に使うのだからこの辺りが設置場所としては最適だろう。


「さあ、まず土台の準備をして、残りの材料については後で考えるかな。それじゃあさっき聞いた石が落ちてるって場所に行ってみるか」


 家の前の草原から左手へと進み、森の入り口へと近づく。


「前に瘴域とやらで入ったきのこの森と比べたら明るいし、全然、恐怖感も湧いてこないな」


 いや、普通の森はこんな物か。あそこの暗さは異常だったしな。そんなに警戒する必要もなさそうかな?

 森の動物たちの住居であるというイメージが頭を掠めたが、遠慮せずに踏み込んで行く。入ってすぐに左右と正面は分かたれ、緩やかな段差が刻まれていく、正面の道は僅かな傾斜の下り坂となっていた。


 森へ入るとけたたましく鳴り響いていた声が、真上からも聞こえ始める。見上げてみれば木の葉や枝の隙間に動き回る小さな影が目につくが、はっきりと姿をとらえる事は出来ない。


「鳥なんだろうけど、良く見えないな。もしかすると知らない人間がいきなり入ってきたから警戒してるのかも?」


 これだけ賑やかなら恐怖感が湧かないのも頷ける。


 正面へ真っすぐ進むと少しずつ段差は深くなっていき、小さな谷間の様相を見せ始める。ふむ、どうせ谷間に侵入するのなら『豊かな実り』がい――。いや、何でもない。

 程なくして、露出した地層に左右を挟まれた、岩や石が辺り一帯に散らばる場所へと出た。


「ふむ。アイシャが言ってたのはここの事かな? 見上げてみると結構くだって来たみたいだな。もう落差、数メートルの谷になってる」


 両側はほぼ垂直の断崖になり、太古の地層が表れているのか、横向きの縞模様を刻んでいた。周辺の岩石の感じから昔は比較的おおきな川の上流だったのかも知れない。今は谷底も草木が繁茂しており、全ては想像でしかないのだが。


「壁面を観察してみても素人目でも分かる化石とかはないなあ。ちょっと残念。縞模様も川の浸食の跡とかかな?」


 周辺の観察を中断し、もう一度、前方を見やる。


「うん? あっちの方、更に数十メートルくらい進んだ辺りに土砂崩れみたいな痕がないか? 先に行くほど崖も段々、高くなっているな」


 かなり遠いが、下り坂が終わり、平になった地面のはるか先に崩れた堆積物の塊が見えた。好奇心からそちらへと吸い寄せられる様に歩いていた。

 靴の上から小石が足裏へと細かな刺激を送ってくる。大小さまざまな石が敷き詰められ、その隙間から草が生い茂っている。草の陰を注意せずに踏みしめれば、大きめの石に当たり痛みまで感じると言った具合で、かなり歩き辛い場所だ。石の段差ででこぼこしているため身体のバランスも取りにくい。


「こんな場所を平然と歩こうと思ったら、もっと適した靴が必要かな……? お、見えて来たぞ」


 近づいて見るとやはり巨大な堆積物の塊だった。何処からか土の様な匂いや酸っぱそうな臭気が立ち込める。塊には土や石、草に加え巨大な倒木まで幾つも混じっていた。思わず頭上に目をやり、その始点を探す。


 あの辺りか? 縞模様の断崖の壁面が、ある部分を境にえぐられ剥げ落ちた様にへこんでいた、崩れて露出した場所は土の色がまったく違っていて、異質な雰囲気を放っている。その上にもまだ木々が並んで頭を覗かせていたが、崖の際には、先のへし折れた株だけが幾つも残っており、その木の根と思しき物が壁面を突き破り伸びていた。根こそぎ崩された物もあるんだろうな。


「これが嵐の痕か? これだけ崩れ落ちてたら除去するのは大変そうだが……。台風みたいな強烈な奴だったのかな」


 両側から崩れ落ちた堆積物を避け、中央に空いたスペースを更に進んでみたが、徐々に幅が狭くなり、すぐに行き止まりになっている。堆く積み上がったそれは、突き出した倒木や土砂、岩石が混じり合い高さ数メートルにも及ぶ強固なバリケードを築いていた。そこから先は向こう側の景色もまったく見えなくなっている。


「ここは崩れ落ちた物で完全に封鎖されてるな。無理して通ろうとすれば、体力を消耗する所か大怪我をする可能性もある……。生き埋めになったりして」


 ここが都への道だったとするならば、確かに通行は不可能だろうな。この状態でも進める方法があるのなら、一体どんな手段なのだろうか? 興味は尽きない。


「まあ、気になってた、嵐の痕も確認できたし、本来の目的に戻るかあ」


 来た道を戻りながら地面の様子をチェックする。使えそうな石があればすぐに拾い上げて確保しておきたい。これだけ石が落ちていると再度おなじ物を探すのも一苦労だろう。


「あまり平らで均一にとは行かないけど、使えそうな石は幾つかある……。大きさも一定じゃないからどのくらい必要か見当がつかないな。今回は手袋があるからいいけど、抱える分で怪我しない様に注意しないと」


 めぼしい石を拾い脇に抱えながら次々と集めて行くが、石の尖った部分が肌を刺し痛みを感じるし、すぐに持てる量に限界が来た。現実はこういう所が不便だな。あのリュックサック。中身は失われても外側が残っていれば道具の運搬用に使えたのになあ。……そうか、アイシャの家でバッグか何かがないか聞いて来れば良かったのか。完全に失念していた。


「いったん戻るしかないかな……。お、そうだ! この坂道の終わり辺りに拾った石を固めて置いとけば、後でまた取りに来る事になっても、いちいち探し直さなくて良くて便利なんじゃないか?」


 こんな石なんて誰かに盗まれる事もないだろうしな。さっそく実行に移し、しばらく石集めに集中した。

 気が付いた時には、小さな丘が出来上がっていた。すぐに崩れないあたり、積まれた石の安定性もそれなりか。


「じゃあ、上の方の幾つかを持てるだけ運んで戻るかな」


 抱えた石が零れ落ちない様に注意しながら今度は上り坂となった道を戻る。それほど長い距離を歩く訳ではないが、何度も往復する事になると骨が折れそうだ。


 森を抜け井戸の側へと戻ってきた。工具箱と材料の隣へ運んだ石を落とす。重なり合った石が音を立てた。


「あ、しまった。落とした時に割れたりしたら面倒――、と思ったけど、大丈夫みたいだな」


 工具箱を開き、中身を漁る。


「うぅん。スコップとか入ってないなあ。……ん? そういえば、さっき見た菜園とか花畑で土いじりをするのならそっちにあるかも?」


 菜園へと移動すると隅の方に幾つかの道具が置かれていて、その中にスコップを見つけたので、持ち帰る。


「これで大丈夫だな。さてと、じゃあ、どの辺の地面を掘るかな」


 出来るだけ草が育っていない場所に目星をつけスコップを刺し込んだ。だが、草の根の影響なのか上手く土を掘り出す事が出来ない。


「くそぉ! 頑固な根だなぁ。あんまり育ってなさそうな所を選んだのに! こうなりゃ引っこ抜いてやるぜ!」


 膝を深く曲げ腰を落とし、草の端を両手で持ち、全力で引っ張った!


「うおっ!」


 草の地上の露出部分だけがちぎれてその勢いで思い切り尻餅をついてしまった。青臭い匂いが漂い鼻腔を掠める。


「痛たた。ダメだ! 頑固すぎるぞこれ! 端からつまずくとは!」


 結構、痛いな。腰辺りを強打するのは今日なんどめだ? 草の根をスコップの端で切りながら地道に掘り返すしかないかな……。


 少し掘っては、根を見つけてスコップの先端で何度も叩く、それの繰り返し、単調な作業だが、腰は着実に痛くなる。作業中も草の陰から小さな虫たちが慌てて逃げ去って行く様子が見えた。

 持ち出して来た、ほぼ正方形の板を地面に当てながらサイズが合っているか確かめる。

 しばらくして、四角く区切られた十数センチの掘り返され、土が露出したスペースが出来上がった。

 その場所に掘り出した土を戻しながら、スコップの背で叩いてならしていく。仕上げは手を使ったが、その時、何者かが掘り返された地面から姿を現した。


「うわ!? 何だ!? こいつは――、ミミズかな? もしかして住処を荒らしてしまったか。すまんな。だが、今日かぎりでここを立ち退いてくれ」


 ミミズをスコップに乗せて、近くの草地へ降ろした。


「ふう。土台用のスペース作りだけでこんなに手間取るとはなぁ。でも一応かたちにはなったかな」


 先ほど手に入れて来た石達の出番だな。

 石を出来るだけスペースの端に沿う様に配置して、スコップの背で叩き、土を少しずつ戻しながら、埋めて固めていく。なるべく均等に枠を配置した所で次の作業へ移る。


「さあ、家に戻って薪おき場から使えそうなのを取ってくるかな」


 家の玄関を通り、寝室には目もくれずにまっすぐに薪の置き場所を目指す。


「この中から出来るだけ細くて正方形に近い形のやつを四本さがす――。こんなとこかな。あんまり高望みしても仕方ないし、スピード重視だ」


 手頃な薪を四本、脇に抱え戻る途中に、右目の端に何か気になる物が映った様に感じたので、寝室のドアの隣に置かれた小さな棚に目をやった。そこには食事前にアイシャの置いたクロスボウと短剣があり、そのすぐ上には緑色のゴーグルがかけられていた。それを手に取り考える。


「これを付けとけば、加工中に削りかすとかが目に飛んできても平気なんじゃないかな? ちょっと借りていくか」


 持ち歩くのも面倒なので薪を食卓の端に置き、ゴーグルをすぐに装備した。そして薪を抱え直しそのまま玄関へと向かう。


 再び、井戸の手前の作業スペースへと戻ってきた。

 先ほど設置した石枠の隙間を掘り、薪をそこに先端を埋めて立ててみたが、どうやら長すぎた様だ。この上に板を乗せると位置が高すぎて不安定になる姿が目に浮かぶ。


「切って短くしないといけないか。あ、そうだ。良く考えると長さも均等じゃないとダメだな」


 四本の薪を並べて地面に置き、ペンとインクを使い、工具箱から取り出したナイフの刃を当て、定規がわりに線を引く。木材の僅かなおうとつに引っかかり、上手く行かなかったが、何とか目印になりそうな黒い線が出来た。

 大体、均等な長さになって区切られたあたりで、端を足で押さえながら線に沿ってノコギリの刃を慎重に入れていく。


 木材を切断する音が軽快なリズムで響く。いや、途中で引っかかったり、地面に刃を立ててしまったり、軽快とはとても言えないか。


 断面は多少、歪ではあるが、長さはほぼ均等な四本の角材が完成した。


「じゃあ、こいつをもう一度さっきのとこに立てて行くか」


 木材を石枠の隙間に差し込み、安定を確かめながら、その反対側にも石を置き、挟み込みながら土を戻し、固めていく。周囲をしっかりと石で固められた、四本の柱が出来上がった。そしてぐらつかない様に、中央に空いていたスペースにも丁度よく収まりそうな石を詰めて行く。


「土台がしっかりしてないと台無しだけど、これでいいのかは不安が残るな……」


 その柱の上に正方形の板を乗せてみる。底面が歪なため安定してはいないが、サイズは丁度になっていた。


「ああ!? そっか。この板を安定して置くには、板側に柱が嵌め込める様な細工が必要だぞ!?」


 そんな器用な事が出来るだろうか? そこで閃いた。


「そうか、この柱の先を切り出して、板側の四隅にはキリで穴を開けて、そこに差し込めばいいのか? 合わなかったら、ヤスリで少しずつ広げていく感じで……」


 いや、それでも困難な作業なのは変わらないか。しっかりと嵌めるにはサイズが丁度じゃないといけないのだろうが、そこまでの精度は持てそうにない。そこは上に瓶を置くのだから、それが重しになって、安定するかも知れないが、やってみないと分からない事だらけだ。


 設置した柱を両足で挟みながら、先端へノミを当て、カナヅチで叩いて行く。

 失敗するとやり直せる機会は数回と言った所か。これは神経を使う作業になりそうだ――。




※ ※ ※ 




 一人きりの寝室で眠る事も出来ずに悶々と過ごしていた。先ほどの彼の言葉を忘れられない。頭の中を何度も過ぎ去っては戻り、寄せては返す波の様だ。


「カイトは今、何をしてるんだろ?」


 ふと彼の事が気になり、横たえていた身体を起こし、ブーツを履き、窓へと近づいた。カーテンは固く閉じられている。風の精霊の力による防音の魔法が効いているのか、外の音もまったく聞こえない。

 彼はまだ外にいるのだろうか? 石を探しに森へ向かったのか。

 それとももう、私の事など放って何処かへと旅立ってしまったのだろうか?


 少し姿が見えなかっただけで、悪い想像が止め処なく溢れ出す。そんな訳ない。あの約束をしたばかりで居なくなるなんて考えられない。でも――。


「どうしよう……。本気で心配になってきちゃった……」


 このカーテンをめくれば外を覗けるし、音も聞こえる様になるはずだけど、その時に、様子を窺っているのが彼に見つかったら嫌だな……。


「また変に意識してるって思われちゃう……」


 だけど気になる。


「私、どうしてこんなにカイトの事が気になってるんだろ? 出会ってから一日くらいしか経ってないのに、おかしいよ……!」


 頭の中に湧く悪い想像を振り払い、カーテンを徐々に開いた。向こうから見えにくい様に、慎重に少し視界が通る程度に絞る。


「ああ! 居た、まだそこに居たよ、カイト! 良かったぁ」


 窓越しに見える光景には確かに井戸の前で背を向け、座り込む彼の姿が見えた。何か作業をしている様だが、こちらからは分からない。一定のリズムで何かを叩く音が聞こえて来る。


「何をしてるんだろう? 気になるな……」


 だが、その姿を確認した途端に、先ほどまでの純粋な想いは消え、あの言葉が脳内にこだまするのだった。そしてふつふつと怒りが沸き起こってくる。否定させたいという衝動が全ての理性と感情を塗り潰していく。


「ううぅ、いけない! が、我慢しなきゃ。がまん……、理不尽な、女だって思われちゃうよ――!」


 その言葉は虚しく空を切った。


「で!」


「出来るわけないよっ!」


 衝動に身を任せ、寝室のドアへと駆け出し、体当たりする様に開いて外への扉へと到達する。


 ダメ! あの言葉だけは絶対に我慢できないよっ! 今すぐ訂正させなきゃ! 今すぐにぃっ!!


「私――! お、お、お!」


 玄関の扉の前で腰を落とし、力を溜める。


「おもくなんかないもんっ!!」


 怒声と共に扉に蹴りを入れそうになった所で正気を取り戻し、頭を激しく左右に振る。気持ちを落ち着ける様に、深呼吸をした。


 ダメ! 落ち着かなきゃ! 今の力でドアを蹴ったりしたら外側に十数リーブは吹き飛ばしちゃう! そんな事したら彼は驚くよりも怖がって二度と私に笑いかけてくれないかも知れない! そうなったら私……!


「で、でもカイトが悪いんだよっ! あの時、ちょっと言い過ぎちゃったかなって反省して、カイトに男の子らしい活躍をさせてあげようと思ったのに、あんな事を言うなんて――!」


 寝てるフリをした私が悪かったのかな? でももう止まれない。


 玄関のドアを開け、その先にいる彼の背中をとらえた。気付かれない様に、無意識に声を落とし、心に浮かぶ言葉を反芻する。


「そうだ! いい事、思いついちゃった! そうすればきっとカイトも分かってくれるはず――!」


 頭に浮かんだイメージと共に、座り込む彼の背に飛び掛かっていた――。


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