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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』二幕『生きて来た証』

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重い想い

 押さえつけられる力は少し緩められたが、疑いはまだ晴れていない様なので、更なる弁解を試みる。


「き、君の役に立ちたくて……! それで浄水器を作ろうと思ったんだ!」


 アイシャは不思議そうにその言葉を復唱した。


「ジョウスイキ? って何かな?」


 押さえつけていた手が離されたので、後ろを向いた。彼女と目が合うが、まだその瞳には疑いの色が見える。


「汚水を綺麗にする装置の事だよ。まあ、作り方とかを正確に記憶してる訳じゃないし、上手く行くかは分からないんだけど……」


 アイシャはこちらを値踏みする様な視線でねめつける。


「ふぅん? それが本当なら、私の役に立ちたいって言葉も本心なのかなぁ?」


 突き刺さる様な視線が容赦なく浴びせられるが、その表情がふっと変わり、少し柔らかくなる。


「その気持ちは嬉しいんだけどなぁ。……はあ、カイトったらほんとにえっちなのだけはどうにもならないねぇ」


 彼女は俯きこめかみに指を当て大袈裟にため息をついた。心底から呆れているみたいだが、今、罰を再開しようという気配は感じられない。その様子に胸をなでおろす。


「そ、それでさ。材料とか道具について聞きたいんだけど、いいかな?」


 アイシャはいつも通りの柔和な笑顔に戻っていた。


「いいよぉ。どんな物があればいいのっ?」


 頭の中で完成形をイメージしつつ、何が必要かを絞り出していく。


「うん。ええと、まずは先がすぼまった、首の部分が細くなってて、底は平らで丸型の大きめなガラス瓶とかが余ってないかな?」


 アイシャは部屋の隅に置かれた作業用テーブルに近づき、まずランタンを手に取り明かりを付け、それからあたりを物色しはじめた。程なくして並ぶガラス瓶の中から一つが手に取られる。よく見ると空き瓶の様だ。そして彼女はこちらに向き直り瓶を照らしながら言葉を紡いだ。


「これなんてどうかな? 結構おおきいと思うけど」


 見た感じ特に問題もなさそうな物だった。橙色の明かりが瓶の側面に独特な模様を描く。


「ああ、うん。それで行けると思う。……後は、そのガラス瓶の底を縁は残して綺麗にくり抜けるといいんだけど、何か上手く出来そうな道具とかあるかな?」


 その言葉を受けて、アイシャはまた腰のポーチを探り、何かを掴みだした。


「それなら、土の精霊に頼めば出来ると思うよっ! 見ててね!」


 アイシャは瓶を裏返し、床に置いて片手は安定させるために添え、もう片方の指で瓶の底面をなぞって確かめている様だ。


「うんとぉ。まず素材の構成を分析してぇ、それから――」


 なぞっていた人差し指が止まり、閉じられていた他の指の間から微かな光が漏れ出す。もうこれで見るのは、三度目かな。一瞬だけ土色の小人の様な姿が現れすぐに消えて行った。

 わずかな間の後に、ガラスに亀裂が入る高い音が響く。そしてガラス瓶の底は、回転し震えながら瓶の中へと落ちるのだった。

 アイシャはそれを瓶を逆さにして慎重に取り出した。


「はいっ! こんな感じでいいかな?」


 ほぼ完璧じゃないか!? こんなに簡単に尚且つ綺麗にくり抜けるとは思ってもみなかったが、一つ忘れていた事に思い当たる。


「あ! 全然かんがえてなかったけど、その瓶つかっちゃって良かったのか?」


 アイシャは笑って答えた。


「いいんだよっ。グリームヴァルトに行けば、何時でも新しいのを買えるしねっ。ああ、今は道が封鎖されてるから無理かな……。でも、すぐに必要な物でもないし大丈夫かな」


 彼女は指先を唇に当て、宙を見つめた。頭の中で当面の生活で必要な物を確かめているのだろうか?

 グリームヴァルトって精霊の森のエルフの都なんだったっけ。久しぶりに聞いた気がするな。前も思っていた事を口にしてみた。


「え!? カイトも行ってみたいの? うぅん……。実はねぇ。身内の恥を話すみたいであんまり言いたくないんだけど、精霊の森のエルフってね。排他的って言うのかなぁ、よそ者に不寛容な人が多くてね。エルフ同士でもそうなのに、カイトは人間だし、特にグリームヴァルトはね。……だからカイトは興味があっても行かない方がいいと思うんだ」


 ええ? そうなのか? まあ想像上のエルフ自体もそんなに寛容そうなイメージはないか……。残念だけど彼女の忠告に従うべき何だろうな。


 あれ? そうなるとアイシャはよそ者の人間である、俺と関わっていても問題ないのだろうか? 自分が原因で彼女の立場が悪くなるというのは、あまり想像したくない。


「ん? ああ、私の事は心配しなくても大丈夫だよっ。定期的に連絡を取ってる人はいるけど買い物いがいで都に行くこともないし、向こうからわざわざこっちに来る人もいないしねぇ」


 アイシャは得意気な様子で付け加える。


「ふふぅん。実は懇意にしてくれてるお店の人がいてねぇ。城壁の外に繋がってる物資搬入用のルートの衛兵達を買収してくれてねっ! そこからこっそり入れちゃうんだ! 流石に正門から堂々とは行けないから助かってるんだぁ」


 ええ!? 何か凄い話を聞いてしまった様な……。俺が関係するまでもなくこの森でのアイシャの立場はあまり良くないのだろうか? 心配になって来たな……。色々と聞いてみたくなるが、まあ、今は目的を優先するか。


「ええと、瓶は用意できたから……。次は、出来るだけ正方形に近くて、この瓶の円周と同じくらいの穴を開けても大丈夫そうな木製の板……。とかあるかな?」


 俺の言葉にアイシャは首を傾げながら、辺りを見回したかと思うと、早足で隣の部屋に行ってしまった。

 今回は待つまでもなく、向こうの部屋で何かを漁る音がしたと思ったら、彼女はすぐに戻ってきた。手には薄い正方形の板が持たれている。


「これなんかどうかなっ? 薪用の木だったんだけど、これは割る時に失敗して出来ちゃった奴でね。厚みとかも一定じゃないし、ちょおっと歪だけど削れば綺麗になりそうじゃないかなっ?」


 遠目では均一な様に見えたが、よく見ると確かに歪な形状をしていた。平らにしないと安定が悪くなりそうなので、ナイフか何かで削る必要があるか……?

 だが、大きさは十分なので、さっそく床に置いて瓶の底を当ててみる。


「うん。はみ出してる所もないし、使えそうかな」


 後はこれを加工する道具か……。必要なものを思い浮かべながらひとつずつ口に出していく。


「ノミ、キリ、ヤスリ、ノコギリ、カナヅチ、後は、木材を削り出せそうな刃物、それとペンがあればいいかな……?」


 アイシャは大きなあくびをしながら答えた。途中で起こしてしまったからまた眠くなって来たのだろうか?


「そういう道具ならそこの工具箱の中に一通り揃ってると思うよぉ。ふわぁ。ペンならベッドの隣の机にあるから」


 そう言って、ランタンを手に取り作業台の下のスペースを照らした。そこには大きめの箱が置かれていた。その中を確かめる前にもう一つ聞いておかないと。


「眠そうなとこ悪いけど、綺麗に切り揃えられた四角い石とかないかな?」


 アイシャは不満そうな口ぶりで答える。


「カイトが変な所でハァハァしてたから、身体のスイッチを切り変えちゃったせいで余計に眠くなったんだからねっ!」


 むむむ。まだ怒っているな……。あまり刺激しない内に退散した方がいいかも知れない。


「はぁ。石はねぇ……。ないよっ」


 即答されてしまう。あまり期待はしていなかったが、ないと材料の加工で面倒が増えそうだな。


「採石場は都の北にあったはずだけど、私もずっと行ってないし、どうなってるのか分からないかな……。それに、道は封鎖されちゃってるからしばらくは普通には行けないしねぇ」


 また『普通には』とか気になる言葉が付いているが、今の主題じゃないし、好奇心は抑えた方がいいな。


「ゴメンね。家から出て左手の方に進んで、森に少し入ったあたりに大きめの石が転がってる所があったはずだから、そこで探してみてくれるかなっ? ふわぁ」


 またあくび、本当に眠そうだな。他の材料の事は後回しにしてとりあえず、道具を持って外に出るかな。工具箱に近づこうとした時に、呼び止められた。


「あ、待って。カイトったらその格好のままで作業するつもりなの? ちゃんと準備しないと危ないよっ。さっきの瓶だってくりぬいた部分の切り口は鋭いし、素手で触ったら怪我しちゃうよ? ちょっと待っててね……」


 彼女は近くにあった西洋風のタンスの一段を開き中身を取り出した。


「はいっ! この手袋を使って。これは特別製でねぇ。刃物でも寄せ付けないし、こんな瓶くらいじゃ表面も擦れないよっ」


 そう言ってこちらに手を伸ばしたが、途中で動作を止め思案顔になる。


「あれ? でもカイトも『男の人』だし、もしかして私用じゃ入らないかな?」


 そしてこちらの手を確認する様に眺めた。その瞳が怪しげな光を宿す。


「ふふぅん。心配して損しちゃった。カイトの手、『女の子』みたいに綺麗ですべすべだもんね! 私の手袋でも余裕で入っちゃうねっ!」


 目の前が真っ暗になる、舞台の緞帳が閉じられたかの様な暗闇だ。その闇の中でプライドにひびが入る音が、さながら先ほどのガラス瓶の亀裂の様に響き渡る。

 んなぁ!? さっきは男とか言ってたと思ったら、お、お、お、おお、女の子みたいだとぉ!? これまでにない侮辱だぞぉぉぉ!? その言葉に身体が戦慄く。

 屈辱に魂が震えるぞぉぉぉ!? 男扱いしないのも、子供扱いも耐えてきたが、あの約束をした相手にそんな言葉を投げかけるのかぁぁぁ!? うおおおおお! 許せん!


「ふふぅん。カイトったら今くやしくて泣きそうになってるのかなっ? ふふふ、でもホントの事だもん!」


 更に挑発してくるのか!? うぬあああああ!? だが、その後に続く事態が怒りを忘れさせた。


「ホントにね。この大陸じゃあ年頃の男の子がそんなに綺麗な手をしてるなんて、大富豪や大貴族の子息くらいなんだよ? カイトって何処から来て、何をしてたのかなぁ? お姉さん、すっごく気になっちゃうし、知りたいなぁ? ……ね?」


 言葉を終えたアイシャは途端に足元がおぼつかなくなったかの様に力が抜け、こちらにしなだれかかって来た。避ける訳にもいかず、両腕を広げて受け止める。長い金の髪が揺らめき微かな花の様な香りを漂わせる。身体の前面に広がる柔らかな感触が鼓動を早め、また邪な想いを呼び起こしそうになる。


 えええ!? 何だこの状況は!? どうなって――。


「うぅん。むにゃむにゃ……。すぅ、ぴぃ」


 寝てるぅぅぅ!?


「はぁ……。眠さに限界が来て、力が抜けたのかぁ……。思えば、これも俺の責任なんだよな……。答えにくい質問だったから本気で迫られてたら不味かったけど」


 抱き止めた彼女の重みを感じながら、思い起こされる感謝の念と同時に、先ほどの自身の感情を恥じる。


「ん? でも、これからどうすればいいんだ? これ?」


 持ち上げてベッドまで運ぶしかないのかな。お、お姫様抱っこでぇ!?

 こうなった以上は、やるしかない。俺も男だ! か、彼女には微妙な扱いされてるけど……。約束したんだ。覚悟を決めろ!


 肩に右手を回し、腰を落とし、左手は太腿辺りに伸ばし、彼女の身体を斜めに倒しながら、両腕で巻き込む様に力を入れた。


「う、うおおおお!? おもっ!」


 重すぎる!? 育ちすぎ何じゃないのか!? ダメだ。引きずっていくしか!?

 いや、いや、いや、いや! 好きな女の子をそんな風にぞんざいに扱って言い訳がないだろう!? どんなに重くても持ち上げるんだ!


「ふ、ふぐぬぬぬ」


 ふう、何とか持ち上がったぞ……。手、手に、身体の肉が食い込んでくるけど、余計な事を考えてる場合じゃないな。早く移動しないとこのまま床に叩きつけてしまうぞ!?


 すり足の様に左右交互に着実に踏み出して行く。全身の関節が悲鳴をあげている様だが、打ち付けた右膝と腰は徐々に脈打つ鈍痛へと変わっていく。たった数歩分の距離がこんなに遠く感じるとは……!

 急激に痛み出した右膝をかばいながら左足を主体に身体を押し出し、引きずる様に歩いて行く。


「も、もう限界……だ!」


 彼女のベッドの端まで達した所で軋む身体に鞭を打ちながら、最後の意地を張り通し、出来るだけ衝撃が起きない様に、シーツの上に降ろした。無理に伸ばした背中が張り裂けそうになり、腰骨が奇妙な音を立てた錯覚を覚える。


「で、出来たぞ……! 足がちょっとだけはみ出てるから膝を曲げて押し込んで」


 ふう。これだけで死ぬかと思ったぜ。

 彼女の名誉のために付け加えておくと、決して重すぎた訳ではなく、俺の身体が貧弱だっただけだろう! 多分。


「さあ、さっき用意してもらった物を外に運び出すかな。お、そうだ! その前に手袋を付けないと」


 良く見ると、彼女が先ほど倒れ込んで来た床の辺りに、白色の手袋が落ちていたので、拾い上げて片方ずつはめてみる。


「何だこれ? 絹の様な滑らかな肌触り……。刃物も通さないって言うから、ごつごつした分厚い革なのかと思ってた。でもこれなら伸縮性も高いし、作業も捗りそうだな」


 次は工具箱を運び出すか、中身を一個ずつ見て確かめてから持ち出そうと思っていたが、先ほどのランタンの光はいつの間にか消えてしまっているし、物色すれば大きな音が鳴り彼女の睡眠を邪魔してしまうかも知れない。

 部屋の隅の作業台の側へ行き、下を覗き込んで慎重に箱を引っ張り出した。重い物を引きずる時に特有の音が微かに空気を震わす。


「これも結構おもいな。瓶とかと同時に持つのは無理そうだし。二回に分けて運び出すか」




※ ※ ※ 




 少年が道具と材料を運び出し、時折、聞こえる衣擦れの音や寝息いがいは、静寂に包まれていたはずの薄暗い寝室には、不気味な笑い声がこだましていた。


「ふふふふふふふふふ」


 途切れることなく続くその声の不気味さたるや、まるで深淵を覗いてしまったかの様だった。

 同時にそれを発する者の肺活量の強靭さを表している。

 横たわった何者かは笑いを中断し、小さく呟いた。


「聞いちゃった。聞いちゃった。確かに聞こえたよ……」


 一体なにを聞いたと言うのだろうか?


「このどんなに小さな音も聞き洩らさない、私の自慢の両耳がはっきりと……」


 声の主は苛立った様子で、言葉を続けたが、囁く様な声量は変わらなかった。


「カイトは確かに言ったよぉ――」


 一呼吸おいて忌々しそうに、憎々し気に声が続いたが、そこには微かな動揺と疑惑が含まれている様だ。

 その後に続く言葉は簡潔にして明瞭、一つの疑問を差し挟む余地もない程に完全なモノだった。


「おもっ! って……」


 半ば舌打ちの様に紡がれた言葉が部屋の薄暗がりの中に吸い込まれていく。その短い言葉には持ち主の信頼に亀裂が入る音さえも表されている。


「ああ、聞き間違いだったらどんなに良かったんだろう」


 声は少しずつ暗く、くすんだ色合いを帯び、幾許かの時を置いて、再び熱感を持ち重く沈んだ部屋の空気を震わした。


「絶対――! 許さないんだから――」


 最後の言葉は、暗く、冷たく、迷いのない、断罪の意志を表していた――。

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