表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/160

雌雄を決するナニか

 アイシャの出した試練を乗り越えた俺は、いよいよ外の探索へと乗り出そうと意気込んでいたのだが、幾つか気になる事があったため、それを確かめるために彼女に話しかけた。


「なあ、気になってた事があるんだけど、聞いていいかな?」


 アイシャはまだ俺のすぐ隣に座っていたが、距離の近さを気にする様子もなく溌剌として答えた。相当に機嫌が良さそうだ。緊張しているのは自分だけかと思うと負けた気分になる。


「ん? 何かなっ? 今の私はすっごく機嫌がいいからぁ、何でも答えてあげちゃうかもぉ?」


 ほほう、それは良い事を聞いた、この機を逃す手はないな。

 まずはひとつ目。


「あのさ……、さっき地下からパンを取り出す時に、一人で登ってこられなかっただろ? でも、この家には一人で暮らしてるみたいだし、いつもはどうやって登ってたんだ?」


 先ほどの彼女の行動の不可解な点について言及する。

 アイシャは痛い所を突かれた様な微妙な面持ちで答えた。


「聞きたいことってそんな事なの!? もう! デリカシーがないんだからぁ!」


 すぐさま表情は一変し、膨れっ面になる。

 相変わらず良く変わる表情だな。見ていて飽きない。

 そして次は俯きがちになる。

 恥をかいたと思っているのか、あまり答えたくない様だ。


「ええとね……。いつもはね……。その――」


 ここで一度ことばは切られて、彼女は顔を上げこちらをきつく見据えた。瞳には抗議の意思が見て取れる。


「が、頑張って、一生懸命はい上がってるんだよ! それしか方法がないもん! もう! 女の子にそんな事を尋ねるなんて!」


 ああ、やはりそうなのか。まあ、一人じゃ頑張るしかないよなあ。

 彼女のあまり見られない醜態を思い出して、頬が緩んできた。そんな様子を目ざとく察知したのか、眉根を寄せて睨んでくる。


「ふっ。機嫌が良いって言ってたのに、自分ですぐに覆しちゃうなんて、お姉さんは嘘つきだなあ」


 すかさず嫌みを追加しておくのも忘れない。


「もう! またイジワルなカイトに戻っちゃってるよっ? さっきまでの雄姿は何処いっちゃったの!?」


 別に意地悪したい訳じゃないんだけどな。思っていた事を口にする。


「またああなった時に、俺がいなかったら困るだろ? その辺の床に握りやすそうな取っ手とか付けてみたらどうかな?」


 テーブルの下を覗き込んで、身体を持ち上げるのに役に立ちそうな場所を指し示しながら言葉を続けたが、隣で一緒に覗き込んでいた彼女の反応は予想だにしない意外なものだった。


「え? カイト、何処かに行っちゃうの?」


 うおっと、驚いて頭を打つとこだったぜ。

 彼女の瞳を見つめながらその真意を読み取ろうと試みる。


 んんぅ!? 別に『俺』限定じゃなくて、他に人がいなかったら困る。と言う意味合いだったのだが――。

 ふふふ、この反応はさあ!? 期待しちゃってもいいのか!?

 高揚を気取られない様に、平静を装いながら返す。

 ここで感情を読み取られてしまったらせっかくの優位が台無しだからな。


「いや、別に行く当てなんてないけど。……もしかして、お姉さんも俺の重要性に気付いちゃったのかなあ? いなくなると寂しいとか?」


 アイシャは自分の発言の意味に気付いたのか。頬を染めて、恥ずかしそうに腕を振りまわして否定する。ちょっ! こんな距離で振ったら当たるって!


「そ、そんなつもりで言ったんじゃないよ!? もう! カイトのえっち!」


 んなぁ!? そこでえっちとか脈絡なさすぎだろ!?

 しかしこの必死な反応。図星だな? 焦っちゃって可愛いぞぉ! ぐふふ、これは俺もまだ捨てたもんじゃないかもなあ!? うひょう、一気にテンション上がって来たあ! この話題は終わらせて、次いくぜ!


「とにかくさ! 取っ手を付ける事を検討してみた方がいいと思うんだ」


 アイシャは恥ずかしさからか俯きながら蚊の鳴くような声で答える。


「昔はね。ぜんぜん平気だったんだよ? ほんとだよ? 今では考えられないくらいスイスイ上がれたんだから。……ちょっと、身体が『重く』なって来たかなって感じてたらね。だんだん上がるのが大変になっちゃったんだ……」


 身体が『重く』なった理由にすぐさま行き当たり、その原因を、つい凝視してしまう――。し、しまったぁ! また本能的に身体が――! 気付かれたらこの場での優位が揺らいでしまうぞ!? はっ! まさか! そうなる様に誘導されているのか――!?


 てか、昔っていつ頃の事なんだ!? それを聞いてはいけない気がするな……。うん、やめておこう。

 『豊かな実り』に釘付けになっていた視線を鉄の意志を持って逸らす。

 そうだぞ。今は見たければ何時でも見られるんだ! 欲張らなくてもいい!

 そう思いつつも、中々うごかない身体と必死に格闘するのだった。


「それでさ質問はまだあるんだけどいいかな?」


 遠慮のない視線に彼女が気付いていなかった様なので安心したが、動揺は隠せていなかったため早口になってしまう。くっ! 相変わらず情けないぜ。いつの日にかこの『豊かな実り』に打ち勝てる時が来るのだろうか?


「まだあるの? もう、仕方ないなぁ。……でもぉ、今は好きなだけ聞いちゃってもいいよっ? えっちな事じゃなかったらね!」


 アイシャは楽しそうに笑いながら答えた。

 まあ、付け足された言葉に釘を刺された気分になるのだが。

 くくく、モノは言いようさ……。


「じゃ、聞くけど。魔物って勝手に増えたりするの?」


 アイシャは言葉の意味が飲み込めないらしく、指先を唇に当てて、宙を見つめ首を傾げた。


「ええっと。それって、動物みたいに増えるかって意味かな? キュクロプスみたいな動物が変異した様な姿の奴はそうだと思うよ。自然発生するタイプもいると思うけど……」


 くくく、乗ってきたぜ……。


「じゃ、あの一つ目にも雌雄の違いがあったりする?」


 この道は罠だと気付きもしないでよお。


「うん、あるよ。今回、私たちが狩って来たのは、どっちも『オス』だったよ」


 うおおおお! 来たあ! 天も俺に味方してるぅぅぅ!


「じゃあさ! その性別の違いをどうやって確かめたんだ!?」


 興奮を抑えきれず、鼻息あらく尋ねたが、アイシャも気づいたらしく、驚いた顔は真っ赤に染まっていく。


「も、もう! カイトのバカ! えっちな質問はダメだって言ったじゃない!」


 くくく、まだだあ。まだ終わってねえ!


「おおっと! まだ質問は続いてるぜぇ! 最後まで聞いてから判断しなきゃ! 途中で妨害するなんて行儀悪いよなぁ!」


 アイシャは左手で胸を押さえ、震えながら悔しそうにこちらを睨む。


「お姉さん、前に確かに言ってたよねえ? ハンターは獲物のお肉を全部たべるんでしょ!? ほんとに全部たべちゃったのかなあ!?」


 これでとどめだあ!


「な、なななっ! なんでそんな事きくの!? そ、そんなの食べてないもん! カイトのヘンタイ!」


 うひゃおう! 言質いただきましたあ!


「んん!? 『そんなの』って何の事かなあ? 分からないなあ? はっきり言わないと伝わらないぜぇ!? それに、それってさあ!? ハンターの礼節と矜持に背いちゃってるよなあ!? そこんとこどうなの!? 許される事なの!?」


 とどめの一撃が効いたのか、アイシャの身体は力なく崩れ、こちらを睨むのもやめてしまった。

 決まった――! 超必殺技を打ち込んでフィニッシュした気分だぜ!


「ううう! もう許してえ……」


 アイシャは涙目で懇願してくるが、俺の脳内ではあの一つ目の後姿が再生されていた。

 まあ、追われてた身だから見た事ないんだけどな……。尻尾とか上げたら見えるのかな?


「くくく、ダメだ。ちゃんと食べないと奴も浮かばれない。食べ残された部位が化けて出てくるぜ?」


 アイシャはその言葉を強く否定する。


「そんな事ないもん! お化けなんか信じてないもん!」


 なんか一気に幼くなった気がするな。弱みを掴まれるとこうなるんだろうか?


「そんな事あるぜ? 俺の故郷じゃもったいないおばけってのがいてなあ……」


 アイシャは俯いて、手で両耳を塞いでしまった。実際は耳が長すぎて穴だらけなんだけど。

 効きすぎたみたいだな。もしかしなくてもお化けが怖いのか? ふふふ、そんな可愛い面があったなんて……! ふひひっ、彼女の弱みを一つ握った気分だぜぇ。これは達成感があるな。

 まあ、まだこの話は終わってないんだけどなあ!


「耳を塞いだって聞こえてるんだろ? お化けが出てこない様に、俺が残されたお肉を食べさせてあげようか? 取り残されちまって可哀想だよなあ? まったく卑劣なハンター様だぜぇ」


 彼女からそれ以上の反応はない、「ううう」という小さな呻きが漏れ出すだけである。


 くくく、まったく妄想が捗りやがるぜ。

 『食べ残し』を彼女の艶やかな唇に押し付けて、感触を確かめるのか――!? それとも、ゆ、『豊かな実り』に押し付けて――!? 谷間に差し込んじゃったりして!? はたまたスカートとブーツの隙間に見える太腿にぃ――!? くっ! 何処にするか選べねえ! 何て贅沢な悩みなんだ!?


 いや、いや、いや、いや、待てよ。冷静になって良く考えるとそれは奴のであって俺のじゃないな。

 何だ、一気に冷めてきたな……。

 そんな妄想に身を委ねている間に、彼女に動きがあったが、まったく気付いていなかった。


「カイトォ!! もう許さないんだからぁ!!」


 一際おおきな怒声と共にアイシャは勢いよく立ち上がった。


「へ?」


 事態の急変に思わず間抜けな声を上げる。

 脳内で彼女を弄ぶのに興じて、気付くのが遅すぎたのだ。


「バカ! ヘンタイ! えっち! ダメニンゲン!」


 嵐の様な非難とともに彼女の両腕が閃く――。いつもの罵倒にダメニンゲンが追加されていた。


「うぼぁ!?」


 両側から頬を挟まれて強烈な衝撃を感じ、震える空気と痛みと共に、椅子から床に崩れ落ちるのだった。


 ああ――ちょっと、調子に乗りすぎたな――。


 スローモーションで見える光景は、彼女の怒り顔から天井へと徐々に推移し、次の瞬間、背部に叩きつけられた鈍痛を感じるのだった。


 ぐふぅ、で、でも悔いはないぜ。お、俺は、成し遂げたんだ。


 そうして彼女の最後の形相を残像の様に脳裏にちらつかせながら、意識は暗転するのだった――。




※ ※ ※ 




「ねえ」


「ねえ。いい加減に起きてよカイト。いつまでそうしてるつもり!?」


 うう、何だ? 何かが聞こえるぞ……。それに頬あたりが熱いな――。いや、これは痛いのか?

 皮膚の上に新たな熱感が追加される。痛みを感じる頬をさらに何者かがはたいている様だ。そんなご無体な……。


 んんん? いや! 今、俺がいるのは――! これもボーナスイベントの予感がするぞお!?


 混乱していた意識を覚醒させ、両目を見開く。

 うおおおお! やっぱりぃぃぃ! 『豊かな実り』ぃぃぃが! この世界の重力はいつだって俺の味方だあ!

 開けた視界には腰をかがめこちらを覗き込むアイシャの姿とその絶景が飛び込んでくるのだった。


「ふん! やっと目が覚めたみたいだね、あれくらいで気絶しちゃうとか軟弱なんだから!」


 アイシャはそう言い放ち、俺を突き放すように、背筋を伸ばしたが、それは逆効果だった。

 うおおお! 初めてみるぞこのアングル! やべ、すごい重量感だ!

 気付かないうちに新境地かいたく用の写角を提供してしまうのだった。

 もう、そういうとこ詰めが甘いんだからぁ。


 下から仰ぎ見る『豊かな実り』、そのボリュームたるや絶句する様な超弩級の重量感を演出するのだった。


「どうしたの? はやく起きて」


 冷たい声が響く。

 うむぅ? 怒っているな、どうしてだったかなあ? 僕ぅ、思い出せないや。

 でもそんな、『豊かな実り』で顔が隠れた状態で凄んでも怖くないぜ。

 自分の心に嘘をつきつつ、起き上がる。まあ、これから起こる事を考えると、もうしばらく寝ていたかったけど。


「さて、カイト? さっきの事だけど、どう償ってくれるのかな?」


 来た来た。予想通りの反応。ここは一つ――。


「うっ! 頭が……。さっき倒れてる時に脳震盪でも起こしたかな? 以前の記憶が曖昧なんだ……」


 嘘つきだけど、俺が盗みたいのは彼女のハートだけさ! ウィンクでもしてみせるか?


「ふぅん? そうなんだぁ? じゃあもう一回ショックを与えて思い出させてあげるね」


 アイシャは冷たい目でこちらを見据え、腰を捻り右手を構えた。

 えええ!? そんな本気で平手打ちするつもりなのか!? こ、この反応は予想外です。

 身体を起こしてしばらくしたら、鼻血が一筋ながれてきた。こんなに強く叩かれてたってことか。これは――本気を感じるな。ライバルとの戦闘で初めていいのをもらった主人公のごとく、鼻血を右手で拭う。

 以前の俺だったら、ここで委縮して何も言えなくなる所だったが、この心境の変化は何だろう? もしかしてほんとに打ち所が悪かったか?


「ま、待った! さっき頑張って『ナマ目玉焼き』を完食した事に免じて、この場は見逃してくれ!」


 アイシャは訝し気に答える。


「美味しい物を完食したのが、どうして交渉材料になるのかな?」


 しまったあ――!? そもそも彼女は『アレ』を異常な料理だとは認識していないんだった!

 くそぉ! くそぉ! さっきまではあんなに上機嫌で俺のこと褒めまくってたくせにぃぃぃ!

 手持ちのカードがそう多くはないのだ。料理の完食が有効に働かないのなら、もう普通に謝るしかなかった。


「わ、分かったよ。さっきの事は謝る! この通りだ!」


 背筋を伸ばし、腰を深く曲げ頭を下げた。


「それに、これだけじゃない。謝罪の意思を信じてもらうためだったら何だってするよ」


 アイシャはまだ疑っている様子で答える。


「ふぅん? 素直に謝ったのは褒めてあげる。謝っただけじゃ許されないって理解してるのも評価してあげるよ。……でもね、それだけじゃダメだよねぇ? 今、何でもするって聞こえた気がするけど、空耳かなぁ?」


 冷たい瞳がこちらの心を見透かした様に光を放つ。

 一帯の空気に電流がはしっている様なプレッシャーを感じた。


「に、二言はないよ。出来ることなら何でも!」


 アイシャはその言葉の揚げ足を取って来た。


「ふぅん? そのわりにはもう、言ってる事が変わったみたいだけど? さっきは出来ることならって言わなかったよね?」


 うう、出来ないことでも何でもするとは言えないじゃないか!?


「そ、それは、言葉の綾ってやつで……」


 やべぇ、ここはジャンピング土下座でも決めるべきか!?


「ふふぅん。まあいいよ。さっきのご飯の時の雄姿をプラス評価として、今回の事で差し引きしてあげる」


 その言葉に偽りがないのなら温情をかけられた様だ。


「じゃ、じゃあ! 相殺でプラマイゼロって事で!」


 自分でも都合がいいとは分かっていたが、そんな思惑が通る訳はなかった。


「ふふぅん。そんなわけないよねぇ! 罰としてカイトには今日いちにち私の胸を見たら、ほっぺたに平手打ちを加えるよっ! 少しでも気配を感じたら、容赦なくばんばん叩いちゃうからねっ! こういうのがヘンタイで『超』がつくくらいえっちなカイトにはお似合いだよね?」


 えええ!? てか、こっちの提案は丸無視じゃん!? いや、無理難題を言われても困るけど……。って! これも十分に無理難題だあぁぁぁ!?

 全く見ないとかそんな事が可能なのか!? い、意識すると余計に――。う、うぐぐぐ、ダメだ、目が勝手に動いて――。


「はいっ! 一回目だよっ!」


 構えから繰り出される強烈な一撃が頬をとらえ、衝撃が迸り空気を震わす! その勢いで頭が右側へ捻じれ、上顎と下顎が激しくぶつかり合い、鼓膜を内側からも揺らした。


「いって!」


 いきなり張られたぁぁぁ!? 首がもげるかと思ったぞ!? てか、さっきから構えたままなの忘れてたぁぁぁ!?


 アイシャは叩いた手を左右に振って一言。


「ふふぅん。叩いた方の手だって痛いんだよ?」


 うぐぅ、それ毒のある人間の言う事だからぁ!? やべぇ! 彼女はこの上なく本気だ。あ、また、また――目が勝手に動きそうぅぅ。


 再び響く乾いた音。


「ふふぅん。カイトって懲りない性格というか、いい度胸だよね? これは徹底的に戦わないとダメかなぁ? 三度目の正直って知ってるかな?」


 この世界にもそんなことわざがあんの!? てか、こっちの心境としては仏の顔も三度って感じなんだけど!


「二度あることは三度あるって言うだろ!?」


 あると困るのは俺だったあ!?


「ふぅん? そんな言葉しらないよ? カイトって、鈍感すぎて自分の立場が分からないのかな?」


 いや、いや、いや、いや、そもそも彼女と俺の身長ってほとんど変わらないし、出来るだけ目線を水平に保ってても、勝手に目に入っちゃうんだけど!? どうすんだこれ!? うお、目が勝手に――。


 三度ひびき渡る衝突音。


 ふぐっ。さ、三度の飯より『豊かな実り』。


「はあ、もういい加減にしてよ。もしかして私の手が叩けなくなるまで繰り返すつもりなのかなぁ?」


 そこでアイシャは満面の笑みを浮かべる。


「ふふぅん。でも考えが甘いかな。まだ私は、左手だって使ってないもの」


 何その、手を抜いてる強者みたいなセリフ。

 アイシャにこんなエスッ気があったなんて新発見だぞ。それともさっきの俺の作戦がよほど逆鱗に触れたのか……。そっちの方が可能性たかいな……。


 これの対策なんて一つしかない! もう――、こうするしかねえ!


 顎が身体に触れるくらいに俯き下を向く。だが、この状態を一日中いじするのはかなり骨が折れるだろう。


「ふぅん? 少しは賢くなったのかな? でも私がこうしたらどうするの?」


 そう言ってアイシャはにじり寄って来た。そ、それ反則だろ!?

 この罰は一転して奇妙なゲームの様相を呈して来た。ふっ! 俺はゲーマーだったんだぜ? ゲームなら負けねぇ!


 今はまだ、足しか見えないが、これ以上ちかづかれたらまた見てしまうかも知れないな。くっ! ここは――反転して逃げるしかない!


 踵を返し、出口に向けて駆ける!


 後ろからアイシャの声が響く。


「あっ! ずるいよ! 待てぇ!」


 ドアに手をかけ勢いよく開け放ち、外へと駆け出す、一日ぶりの外の光が目に染みたが、今は振り返る事は出来ない。こんな風に訪れるとは思ってもみなかった。意に反する過程の中ではあるが、外の世界への最初の一歩は、確かに踏み出されたのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ