少女の夢
キジネコの子猫を可愛がっていた瞬間、閉ざされていたデータバンクの一部の鍵が開いた。それにはミャオも動揺した。このデータはアーカイブのものだろうけど、誰の? サンプル? もしかすると自分?
自分、という可能性はあるといえた。ミャオは遥か昔、人間の女性の身体を材料として製造された機械生命体だから。なぜ材料にされたのかという事情は封印されていたし、稼働上必要ない事なので全く気にすることは無かった。なのに、今なぜデータの封印が解除されたのか? 唐突過ぎた。
そのデータの中の映像が小さな少女が体験したもののようだった。小さな手をしていて可愛らしい洋服を着ているようだった。そして少女は子猫の相手をしていた。目の前には母猫と思われる猫が他の子猫の相手をしていた。どうやら少女もしくは家族の飼い猫のようだった。その猫の首には赤い首輪がまかれていて子猫と同じキジネコだった。
少女は無邪気に子猫と戯れていた。まるで子猫の姉弟のように。その時、香しい花の匂いを運んでくる心地よい風が吹いてきた。少女が顔をあげると陽だまりの心地の良い陽光を感じた。そして周りは種を蒔こうとしているのか、耕さられている最中のようだった。そして遠くから ”レイナご飯よ” という女の声が聞こえてきた。その声の主は少女の母で、少女の名前はレイナというようだった。
その時、ミャオの機械仕掛けの心が氷解しはじめたような気がした。理性はあるといっても、それは機械としてであり人間のように喜怒哀楽が絡んだものではなかった。それにしても機械生命体の中に少女の記憶がある理由がよく分からなかった。
ミャオは懐かしいという感情が芽生えていた。もしかすると何百年何千年、正確な年数は分からないが、稼働しているのかもしれないとにいうのにである。
暖かいお日様の光はものすごく愛おしいものに思えた。甘い香りの風が吹く。そして遠くには自分の名前を呼ぶ家族の声がする。それだけでも嬉しいことであった。ミャオは自分以外に理性を持った相手がいない永遠のような時間を過ごしてきたが、それは無為に思えた。
しかし幸福な時間のデータはすぐ断絶した。次の瞬間、空に幾筋もの白い飛行機雲が現れた! いや違う、あれはミサイルだ! その筋はどこにいったかわからないが、しばらくすると反対方向から、おびただしい数の飛行機が飛んできた。
それらは見えている大地にあったありとあらゆるもの全てを焼き尽くしていく大量の爆弾を落としていった。 その記憶データの中の女の子はボロ布のように吹き飛ばされてしまった。そして一緒にした小猫も同様だった。可愛かった子猫は無残な骸のかけらになっていた。そして意識は遠のいていった、どうやら、その女の子がミャオの機体の材料にされたのかもしれない。