しゃっふる
どうも、くろかたです。
今年もホラー、書きました。
前作は「水の底で安らぎを」という作品となります。
街はずれの廃病院には幽霊が出る。
経営難で倒産し、手術に使う道具や設備などがそのまま残された廃病院。
そこは夜になると、倒産する以前に首つり自殺をした患者が現れるらしい。
死んでも尚、病院内を徘徊する患者の幽霊に見つかれば病院に引きずり込まれ、心臓を抉り出されてしまうらしい。
『まあ、二日前に一回行ったけど私ん時はそんなことなかったかな! 首つり死体の幽霊も出てこなかったしっ!』
それをサークルの先輩が楽し気に話していた。
心臓に毛が生えてるレベルで度胸のある部長、二宮亜理紗。
オカルト研究会なるうさん臭さバリバリのサークルの部長を務めている彼女は、大のオカルト好きで、単身で廃墟やらホラースポットやらに突入する頭のおかしい人だ。
そんな彼女がオカルト研究会の活動の一環として提示したのは、街はずれの廃病院への肝試しであった。
「本当に行くんですか……?」
「超暗いじゃないっすか。でもこれでもし出たらめっちゃ視聴回数稼げそうっすね!」
夜の22時。
周囲が完全に暗闇に包まれた林の中に存在する病院の前に、俺達オカルト研究会の面々はいた。
真っ先に不安そうな声をあげたのは俺と同じ二年生の大沢奏。
もう一人の軽そうな雰囲気の男は、後輩の如月一戸。
どちらも肝試し経験はあれど、今回ばかりは及び腰で暗い雰囲気が包み込む廃病院を見上げていた。
「だいじょーぶだって、前に来た時はなんともなかったし!」
「は、はい」
弱々しいカナデを奮い立たせながら、先輩は俺に話しかけてくる。
「ほら、タクミくん、カメラの準備はできてる? さっさとしなさーい」
「はぁぁ、本当は俺も来たくなかったんだけどなぁ」
「うりうり、そんなこと言うくせに、最後はしっかりとついてくるくせにー」
テンション高すぎだろ、なんでこの人廃墟の前でこんなにテンション高いんだ?
カバンから取り出したビデオカメラを弄ぶ。
すると、先輩の視線が俺のズボンへと向けられる。
「タクミ君。なんだっけ、それ」
「え? あれ? 前に説明しませんでしたか? 魔除けのお守りですよ」
「……趣味わるーい」
「前にも同じことを言われましたよ……」
結構ご利益とか信じちゃうタイプなので、こういう活動の時はいくつか持ちあることにしてるのだ。
というより、危機感のない先輩達の方が、俺にとっては怖くもある。
「先輩って変な宗教に嵌りそうっすよね」
「なんだと。俺だって好きで持ってきてるわけじゃないわ」
ポケットにはちゃんとしたお寺でもらってきたお守りがある。
いざという時の、デジタル除霊必殺技だって用意しているぞこの野郎。実際に効果があるかは分からんけども。
ぶつくさと言いながら手の中の無駄に高性能なビデオカメラの電源を入れ、録画を開始させる。
プツン、という音で液晶に光が灯され、映像が浮かび上がる。
「……しっかりと映ってますよ」
「よーし、じゃあ、お前ら! 楽しい楽しい廃病院にゴーだ!」
無駄に元気な先輩と共に廃病院へと足を踏み入れる俺達。
外とは違う、かび臭いじめっとした風に顔を顰めながら、3人の姿が入るようにカメラを回す。
「はぁ……」
そもそも、どうして俺がカメラ役なんてしなくちゃいけなかったのだろうか?
なんでオカルト研究会なんておかしなところに入ってしまったのか?
まあ、大学入りたての雰囲気に流されに流されて、入ってしまったのが運のツキなのだろう。
元よりホラー映画は好きだったし、廃墟の雰囲気もそこそこ好きだったし、そういう意味ではオカルト研究会の雰囲気は悪くなかった。
その分、度重なる先輩の罰当たりな行動から魔除けとか、お守りとかそういう道具を持つようにはなったけれども。
「さーて、まずは受付だね」
そんな先輩の声に気付き、ビデオカメラを見れば、そこにはライトに照らされた受付が目に入る。
古く、ボロボロの受付。
ガラスやらゴミやらが散乱しているし、かなり不気味である。
「うん、なにもないね。先に行こう!」
しかし、先輩はそんな光景に一ミリも動揺せずに、先に向かってしまう。
ライトで照らさなければ、三メートル先すらも分からないほどの暗闇に閉ざされた廊下。
「ここにはね。少し名の通った外科医がいたらしいんだよね」
「お、アリサ先輩のいつものうんちくですねっ!」
「地味に先輩の解説、楽しみにしてました」
しっかりとその場所の事前情報を調べるのが先輩だ。
そういうところもあり、信頼してついてきているところもある。
カナデもカズトも平気そうにしているあたり、相当だと思うが……俺としてはこういう雰囲気に慣れないままだ。
「その外科医は、ちょっと問題のある人だったんだ」
こちらを振り向かず、前にライトを照らしながらも先輩は言葉を発する。
「問題があるってなんすか?」
「人を切ることが好きだったんだ」
カツン、カツン、と俺達の歩く音だけが病院内に木霊する。
廊下の暗闇が照らされるごとに、緊張のあまり心臓が早鐘を打つ。
それにも関わらず、先輩の声はどこまでも平坦で―――俺達の恐怖を煽るように低かった。
「小さい頃に理科の実験でしたカエルの解剖が忘れられずに、その思いだけで医師になった彼は、ようやく自分のやりたかったことをすることができたのさ」
「やりたかったこ?」
「合法的に人を切り刻むことさ」
「へぇ、日本版ジャックザリッパーって感じっすね」
呑気な声を上げるカズト。
こういう話が苦手なカナデなら、いい絵がとれているかな? と思い、さりげなく隣にいるカナデを映してみるもその顔は無表情。
全然、怖がっていない。
まあ、さっきの話じゃしょうがないか。
「先輩、たしかここには首つりをした患者の幽霊が出るって話じゃなかったんですか? なんで嘘ついたんですか?」
「え、そうだったっけ?」
「……ええ、そうです」
「それじゃあ、私の覚え違いだね。うん」
「……」
そのままあっけらかんと笑った先輩が次に立ち止まったのは、一つの病室の前。
病室の天井には分かりやすくつるしてあるわっかが作られたロープが垂らされている。
「ここが自殺した患者が首をつっていたところだよ。まあ、見るからにわざとらしく作られちゃってるけどね」
「うわあ、よくあることとはいえ、罰当たりっすねぇ。いや俺達が言えた義理じゃないんですけど」
病室に踏み込む俺達。
カメラを任されている者としては、三人以外にも周りの景色も撮っておかねばならない。
少しだけ怖がりながらも、窓、天井までをくまなく映し、最後に足元を映そうとして―――ふと、この空間に合っていない落とし物に気付く。
「スマホ……?」
それは赤いカバーのかけられたスマートフォンであった。
最新機種だし、真新しい傷もついていない。
……先輩が使っていたものとそっくりだな、と思いなんともなしに、横のボタンを押してみると―――明かりがついた。
ここ最近、落とされたものなのか?
驚きつつも画面を見て、背筋が凍るような感覚に囚われた。
「……ッッッ!」
それはカメラの前で笑顔を浮かべている先輩とカナデの姿であった。
なんの変哲もない、普通の日常の中での写真。
先輩がスマホを持って撮っていることからして、これの持ち主は彼女なのか?
「どうしたの?」
「……ッ!」
後ろからの声。
先輩の声だ。
その声に動揺しないように努めつつ、さりげなく胸ポケットにスマホを隠しながら振り返る。
「すみません。床を撮るのに夢中でした」
「おいおい、勘弁してくれよカメラマン。そんな調子だと、君の栄えある大役を後輩君に任せちゃうぞ~」
「えっ、嫌っすよ! ダイレクトに幽霊見ちゃうかもしれないじゃないですか!」
「そうです。カズト君には無理ですよ」
いつもの会話とノリ。
しかし、心の奥底から湧き上がってくる不安が拭えない。
今回は、少し違っているのだ。
先輩は、オカルト関係に関しては事前準備を欠かさない。
そんな彼女が、もうあらかじめ調べてあるはずの情報を忘れているはずがないんだ。
しかも、二日前の下見でスマホを忘れる?
あの先輩が、そんな大事なことを事前に俺達に伝えないなんてことあるのか?
というより、この人なら忘れたらすぐに一人で戻ってとってくるくらいのクソ度胸があるはずだ。
嫌な想像は止まらない。
目の前の人物は本当に二宮亜理紗、本人なのだろうか?
それが、分からない。
疑い出したら、キリがないし、心当たりがいたるところで見つかる。
今、ビデオカメラを持っていてよかった。
今の俺の表情を悟られずに済む。
「それじゃあ、次の場所だね」
「……次? もう終わりじゃないんですか?」
「いやいや、むしろこれからが本番だよ」
そう言ってウキウキした様子で病室から出ていく彼女に遅れてついていくカナデとカズト。
さすがにここまで異常なことが起こっていれば、なにもしないわけにはいかない。
「カナデ」
「……どうしたの? タクミ君」
俺の前を歩いているカナデに声をかける。
「先輩、様子がおかしくないか?」
「……たしかに、おかしいかも」
「これを見てみろ」
ポケットからスマホを取り出し、それを見せる。
スマホを見て首を傾げる彼女だが、それが先輩のものだと分かると顔を顰めさせる。
「先輩のだよね? これ」
「ああ、さっきの病室で見つけた。多分、二日前に落としたものだろうけど……」
「先輩が落とせばきっと大慌てだろうね。でも、そうじゃない」
カナデの言葉に頷く。
こんなサークルに入っているから、それなりに悪い想像もできる。
先輩が誰かに成り代わられている可能性があるなら、すぐに逃げるべきだ。
「カズト君にはこのことは伝えたの?」
「……いや、まだだ」
「なら、一番近くにいる私が伝えるよ」
「そうしてくれ、先輩は……俺が取り押さえる」
自分で口にして体が冷たくなるような感覚に陥る。
意識しないうちにビデオカメラで撮影を続けてしまっていたが、いきなり撮影を止めると先輩に怪しまれるかもしれない。
不気味な静寂の中を進んで行く。
カナデはカズトに伝えてくれただろうか?
そんな不安に駆られていると、先頭を歩いている先輩が立ち止まる。
「最後はここっ!」
バッと、指を向けたのは扉の上のプレート。
そこには大きな文字で『手術室』と書かれていた。
壊れた扉の先には、曇りガラスで作られた扉がもう一つあり、その上には手術中と記された赤いプレートが設置されていた。
「……ッ」
霊感のない俺でも分かる。
ここから先は、駄目だ。
絶対に行っては駄目だ。
「おお、めっちゃ雰囲気ありますねっ! やべー!」
「……わぁ、怖いですね」
「っ……」
先に行ってしまった先輩についていくカズトとカナデ。
どういうことだ、彼女はまだ分からないのか!? 今止めるべきじゃないのか!? なんで普通についていっているんだよ!?
すぐに駆け寄ってでも止めたい。
でも、ここから先へ進みたくない……!
「ここから先にね、面白い話があってネェ」
曇りガラスの扉へ手をかけた先輩の影が壁へと映し出される。
映し出された影は―――一人ではなかった。
先輩の身体に覆いかぶさるように、その首を絞めるように、存在しない黒い誰かが、彼女の身体を操っていた。
身体が震える。
恐怖のあまり足がすくむ。
二人は気づいていない。
「逃げなきゃ……逃げなきゃ、駄目だ……」
でも、ここで逃げると確実に三人になにか悪いことが起こる。
予感ではなく、そう確信した俺は、自身のスマホとお守りを取り出す。
「お、俺が、やらなきゃ……」
今いる先にある曇りガラスの扉へと歩いていく三人。
それを手術室の前の扉で、見ていることしかできなかった俺は、ポケットからお守りを取り出しながら、全力で駆けだした。
「———先輩!」
「っ!?」
駆けだした先、先輩の手を掴み、こちらへ振り向かせる。
見えたのは悍ましいほどに歪んだ笑みを浮かべた彼女、人が浮かべたとは思えない悪意に満ちたもの。
それに、恐怖にすくみかけながらも彼女の額にお守りを押し付けると共に、スマホからあらかじめセットしておいた音声を鳴らす。
『———観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時……』
「ぐ、うぁぁぁぁぁ!?」
般若心経の録音音声。
休日を犠牲にして、知り合いのつてをたどって正式な住職にお願いして録らせていただいた肉声音声。二つ三つの小言はいただいてしまったが、この状況をなんとかできるならいくらでもお釣がくる……!
効くかどうかは賭けだったけど、何かに抗うように苦しむ先輩を見て成功していることを確信する。
「お、おい先輩! なにしてんすか!!」
慌てた様子のカズトが俺の肩を掴む。
先輩の影に映し出された、何者かの影が苦しみながら彼女から離れていく。
「カナデから聞いてないのか!! 先輩は悪霊に―――」
「タクミ君、逃げ……て……」
「ッ、先輩! 大丈夫ですか!?」
頭を押さえ全身を震えさせた先輩は、それでも何かを必死に伝えようとしている。
「私は、ここに一人で、来たんじゃ、ないの……」
「はいっ!?」
「来たのは、あの子に、誘われて……っ!」
一人で来たんじゃない?
あの子に誘われて?
……ッ!
考える前に、この場にいるもう一人、カナデの姿を探す。
彼女は確か、カズトのすぐ後ろにいたはずだ。
彼の方へと振り返ったその瞬間、俺の肩を掴むカズトのすぐ背後に、霊に憑りつかれた先輩と同じ歪んだ笑みを浮かべているカナデの姿があった。
「カズト、逃げろ!!」
「え?」
元の優し気な彼女からはかけ離れた形相。
その口から、彼女の声と重なるように、老婆のようなしゃがれた身の毛もよだつ声がこぼれ出る。
「きゅウかン、おひとりはイりまぁす」
彼女の細腕からは想像もできない力で、カズトの身体が持ち上げられる。
それに伴い、ガタガタガタ!! という音を立てながら、扉が一人でに開く。
「セんせェい。しゅジュつのおジかんでスぅよォ」
「そんなっ、先輩っ! 助けて! あ、ああああああ!!」
まるでストレッチャーに乗せられたように、カズトの身体が曇りガラスの先———血みどろにそまった手術台へと連れていかれる。
俺は先輩にお守りの一つを預けたまま、すぐさま彼の元へ助けに向かおうとするも、その前に凄まじい勢いで扉が閉じられる。
「ッ、このっ! 開けろ!! カズト! 返事をしろカズト!!」
扉を叩き、無理やりけ破ろうとしてもなんらかの力で抑えつけられ、微塵も動きはしない。
中からガチャガチャと何かが動く音が響く。
カズトの悲鳴と、耳障りな女二人の嗤う声が聞こえる。
『ゆるしてくれ、ゆるしてくれ……』
「は、離して! 助けて、嫌だ嫌だ嫌だ!! 先輩! タクミ先輩、助けてくれよぉ!!」
ひたすらに懺悔を乞う男の声。
曇りガラスの割れた隙間から見えるのは、手術台に縛られたカズトの姿と―――その前に立つ気弱そうな顔が焼けただれた男と、その隣から歪んだ笑みを浮かべている二人のナース服の女二人がいた。
女二人が、楽し気にカズトの上着を切り、上半身を露出させる。
焼けただれた男は、泣きながら血みどろのメスを手に取る。
それだけで、奴らがなにをしようとしているのか、理解してしまった。
『ゆるしてくれ……』
「あ、あああああああ! が、ぎぃ……ぐぁ……ご、ぱ……」
男が差し込んだメスがカズトの胸へと差し込まれる。
肉が裂ける音。
なにかをかきわける音。
この世のものとは思えない彼の悲鳴。
そして―――愉快気に笑う女の声と、ひたすらに懺悔の言葉を口にする男の声。
「ひ、あ、あぁぁ……」
べしゃり、とカズトから噴き出された血が曇り窓に飛んできたその時―――俺の心は折れた。
その場で後ずさりし、壁際で耳に両手を当て恐怖に震えている先輩の腕を取り、そのまま出口へと走り出す。
「ごめん……なさい、ごめんなさい」
「クソ、クソクソクソ!!」
ひたすらに謝り続ける彼女を連れて、出口から外へと飛び出す。
倒れるように転がった俺は、泣きじゃくる先輩を後回しにして、すぐに先輩と自分のスマホとビデオカメラを地面に叩きつけて壊す。
繋がりを断ち切らなくちゃならない。
先輩のスマホはあの廃病院で二日も存在していたものだ。
なにかの拍子で、あのいかれた悪霊共の影響を受けるとも限らない。
だから、用心のために俺の分と合わせて壊す。
粉々に、原型が分からなくなるまでスマホを破壊しつくした俺は、そのまま先輩の腕をとって再び歩き出す。
早足で歩き続け、あの悍ましい場所から離れた―――街中の公園にまでたどり着いたことで、俺はようやくその場で座り込む。
隣で恐怖に震えたままの先輩は、未だに泣いている。
「うっ、うぅぅ……」
「……」
カナデに、カズト。
二人を見捨てて、逃げてしまった。
先ほど体験した恐怖と、かけがえのない友人をなくしてしまったことをようやく自覚した俺は、この時ようやく、頬からとめどめもなく流れる涙を拭うのであった。
●
先輩とカナデは、二人で廃病院の下見に向かっていた。
いや、正確に言うのならカナデが、そう先輩に持ち掛けたらしい。
……もしかしたら、その時点でカナデはカナデではなかったのかもしれない。
そして、先輩が悪霊に憑りつかれてしまったことで、俺達オカルト研究会の悪夢が始まった。
改めて調べなおすと、あの廃病院では実際に首つり自殺はあった。
原因は病院内の何者かが、患者を精神的に追い詰めたことによる自殺。
しかし、それ以前から入院患者の不審死が多発しており、それにより警察の手が入り病院が閉鎖されるということになる直前に―――火事が起こってしまった。
その火事で亡くなったのは、一人の医者と二人の看護婦。
一人は患者の不審死で疑われていた外科医であり、残りの二人はそれほど悪い話のない女性であった。
悪霊は、三体いた。
懺悔の言葉を口にしながらカズトを切り裂いた男と、それを見て嘲笑う二人の女性。
切りつけられ、恐怖と血に彩られるカズトの顔を、老婆のようなしゃがれた声と歪んだ笑みを浮かべ見下ろしていた醜悪な女達は、とても過去の記録で記されたようなものではなかった。
過去の事件の真相は……つまり、そういうことなのだろう。
囚われたのは生者だけではなく、死者すらもあの邪悪な存在に囚われ、今もなお懺悔の言葉と共に人を刻み続けていた。
あの夜のあと、公衆電話で警察に通報した俺はすぐに廃病院へと人を向かわせた。
現場の警察官が見たのは見るも無残に惨殺されてしまったカズトの姿と―――むごたらしい笑みを浮かべながら首を吊って死んでいた、カナデの姿であった。
それから先は俺も関わっていない。
いや、関わり合いたいと思わなかった。
とにかく、猟奇的殺人事件として片付けられたそれは、その場に残された指紋と手についていた血痕からカナデが犯人とされ、事件は終わりとなった。
先輩は、あれから家から出てきてはいない。
悍ましい悪霊に憑りつかれた恐怖と、友人を死に追いやってしまったこと罪の意識が、彼女の心を追い込んでしまったのだ。
彼女のご両親の話では、なにかに怯えるように部屋から出てこないらしい。
そんな彼女が心配で、見舞いには行くようになってからは徐々に回復する兆しは見せてはいるが、あの夜の恐怖は、ずっと彼女の記憶の中に巣食い続けるだろう。
そして、それは俺にも同じことが言える。
俺自身、あの場で見た悪夢は一生忘れることのない記憶として頭の中にこびりついている。
……全ては、俺達の自業自得だ。
遊び半分で生きた人間が触れてはいけない領域に踏み込んで、その末に祟られた。
ただ、それだけの話だったのだ。
それだけの話で、俺の大切な友人が二人、無残に殺されてしまったのだ。
このことはずっと忘れることはないだろう。
この恐怖も、内から湧き上がる――怒りの感情を。
遊び半分にやべぇところに踏み込んだ人たちが、とんでもない目にあっただけの話ですね。
多分、デジタル退魔術が効かなかったら、その場にいた全員が解剖されちゃってました。
では恐怖体験を経てゴーストハンタータクミへと華麗な転身を遂げた彼の活躍に乞うご期待を(嘘)