調査報告書① 本音と建前って難しいです
寄付の分割交渉はあえなく失敗に終わり、
僕の恥ずかしい姿だけが記録されてしまった洗礼の申し込み。
神様にすがる時でさえ、やはりこの世は金なのだと、
異世界に来て【神も仏もいない】という事を悟ってしまう。
とぼとぼマーサさんの『石の家』まで戻ったのだが、
「男はめそめそするんじゃない!」と一括されて、
今日も魔獣狩りで生活費&洗礼代を稼がなくてはならない。
顔面に目掛けマーサさんから投げつけられた手提げ袋には、
黒パンと干し肉、それにチーズが入っていた。
情けないほどありがたく、この施しを無にできる訳がない。
異世界にも義理と人情ってのは存在しているんだな。
ストレイキャットの捕獲は順調だ。
だって探さなくてもあちらから僕に近づいてくる。
近づくというより、僕を食べようとしているのだ。
魔獣は人間や動物と違って『子孫を残す』方法が根本的に違うらしい。
魔獣はそれぞれの属性の魔素の結晶から生み出される。
魔獣そのものは子孫を残すことが出来ない。
ミツバチでいうところの働きバチのようなものなのだろう。
働きバチは子孫を残せない。
遺伝子にそうプログラムされているのだ。
繁殖するのは女王バチのみであり、
役割がはっきり分かれている。
生物の存在意義は「子孫を残すこと」という大義があるが、
魔獣は働きバチであり、
魔素という未知のエネルギーは、
女王バチというところなのだろう。
いまのところ断定できるまでの情報はないのだけれど、
僕がこんなにストレイキッャトを捕まえても、
次から次へと湧いて出てくるところからすれば、
この説は当たらずとも遠からずなのかもしれない。
(マスター、残りの体力がわずかです。これ以上のエネルギー消費は危険と判断します)
「そんなこと言ったって、マーサさんからの期待に応えなくちゃいけないだろう。これじゃ銀貨1枚なんて程遠いよ・・・」
(しかしながらマスター、寄付とは強制ではなく志だとデータベースにはあります。なにも銀貨1枚にこだわらずとも良いのではありませんか?)
「それは本音と建て前ってやつだ」
(・・・理解不能です)
「そうだな。元の世界もこの世界も、言葉は裏腹だって事は共通しているってことさ」
(つまり真の意味は違うところにあるという事ですね)
「ああ、難しいと思うけど、エミリーもそのヘンはしっかり学習してくれ」
(・・・ふん、偉そうに)
・・・なんか言ったか?
(ところでマスター。3Dプリンターの出力が可能となりました)
「あっ、すっかり忘れてた。補給物資がやってきたのか」
(はいマスター、『ゲート』の状態は依然として不安定であり、予定より物資の輸送に時間が掛かっております)
「とにかくなんでもいいからプリントしてくれよ」
(それではマスターが今一番必要なものを作成いたします。プリンターが隠されてあるクスノキの下までお越しください)
狩をしていた村はずれの草原から、
『ゲート』の近くにある樹齢が300年ちかくあろうクスノキの大樹まで駆けだした。
根元にある大きな空洞内部に、僕たちの生命線であるプリンターは隠されている。
空洞部分はホログラムによる遮蔽装置が作動とており、
僕以外の人が見つけたとしても作動できないよう、
何重ものセキュリディーで守られている。
滑り込むようにプリンターの前に正座をして、
プリントされてくる補給物資を今か今かと待ちわびる。
ちゃりーん。
「おおーーーーっ、銀貨じゃないか。エミリーちゃんぐっじょぶ!愛してる♪」
なんと喉から手が出るほど欲しかった銀貨が1枚プリントされてきた。
まぁ、通貨偽造といわれればそうなのだが、金本位制の経済。
金属の価値イコール貨幣の価値という仕組みなのだから、
元の世界のような紙幣偽造とは違っているだろう。
・・・って必死に言い訳を考える。
(マスター、お慶びいただきありがとうございます。ですが、これでしばらくエネルギーと材料の充填を待たなくてはいけません。現在の『ゲート』の状態では、具体的な待ち時間は計測不能です)
「ああ、問題ない。できれば金貨1枚の方が良かったんだけどなぁ」
(・・・なぜそう言わなかったのですか。マスターは『銀貨1枚必要だ』とおっしゃっておりましたが)
「まぁ、銀貨1枚より金貨1枚の方が10倍の価値があるからな」
(金貨でも1枚なら作成出来ました。言葉は裏腹があるとご指導いただきましたが、このような状況で私にケーススタディを与えてくださるとは、エミリー、感服いたしました)
・・・銀貨9枚の授業料となった。