調査報告書① 魔法を使えるようになりたいです
『石の家』の夕飯は、
なんだか分からない肉の煮込みと黒パン。
そして豆のスープという、
異世界のイメージではでは定番の、
塩のみで味付けされた鉄板メニュー。
しかもこの黒パンがアゴが外れそうになるくらい堅い。
僕のカラダはアバターであるが、
普通のカラダと同じくお腹もすけば眠くもなる。
決して美味しくはない飯だとしても、
栄養を補給するという目的の為だけに口へ運ぶ。
これがなかなか難しい。
パブを兼ねるこの店は、
地元の老人たちが夜な夜な酒を求めてやってくる。
最初は情報召集を兼ねて、
それぞれに挨拶をして機嫌を取っていたのだが、
毎日やってくる顔ぶれが同じとなれば、
連日のように愛想を振りまかなくてもよさそうだった。
ヨースじいさんの憲兵になった息子の自慢話は、
三日三晩同じ話を繰り返された。
調査員の僕としては、もっと有益な情報を聞ぎしたいのだけど、
あまりにも国の情報や生活文化を聞き出しすれば、
怪しまれるに違いない。
その匙加減というのがなかなか難しい。
食事が終われば、ベットしかない部屋にもどり、
決して寝心地が良いとは言えないベットに横たわる。
これが僕の生活リズムとなってしまった。
「なあエミリー、洗礼を受ければ僕も魔法って使えると思うか?」
カラダのシンクロ率は5%から動かない。
これじゃ、この世界の成人男性半分程度の運動能力しか発揮できない。
カラダのシンクロ率を高めるためには、
時間をかけてこの世界の魔素を取り込むか、
魔獣を退治した時に相手の魔素を僕のカラダに取り込むか。
今のところそれぐらいしか思いつかない。
だいたい、魔素ってなんだよ。
地球にそんなものは存在していなかった。
マイクロドローンの事前調査では、
未知の生態エネルギーがあるってレポートに書いてあった。
こちらに旅立つ10分前に渡されたレポートのだから、
細かいところまで読んでいた訳じゃなかったから、
実のところそれ以上の詳細なんて覚えちゃいない。
もっと本を読んで活字に慣れておけばよかった。
僕は文字を見ると脳がストライキを起こす特技がある。
事前調査で回収したサンプルの解析では、
ここで暮らす人間と、
我々地球人のDNAの違いはほとんどなかった。
これが意味するのは、
この世界が地球の過去か未来である可能性があるという事。
もしくはこの世界で暮らす人間が、
僕たちの地球からなんらかの理由により転移してきたという事なのだ。
(はいマスター、回答不能です。情報が少なすぎるため、解析することが出来ません)
「なんだよ、エミリーは人類知識の結晶だからなんでも回答できるって聞いてたんだけどなぁ・・・」
人類の知識外のところに調査に来ているのだ。
エミリーが悪い訳ではないのだけれど、
ぶつけようのない不満と不安で八つ当たりをしてしまう。
そんなことをして気分が晴れるわけでもなく、
むしろエミリーに対して後ろめたい気持ちが生まれてしまった。
我ながら酷いことを言ってしまったものだ。
(・・・死ねばいいのに)
ぼそっと脳内に響くエミリーのつぶやき。
人工知能でもムカつく事ってあるんだ。
嫌味な言葉は控えたほうがよさそうだ。
このままじゃ、本部からの支援物資が到着するまでまったく身動きが出来ない。
それだって確実に来るかどうか怪しいものだ。
現在も輸送用ナノマシーンがプリンター用の材料を運んでくれているが、
僕のカラダひとつ作るのに、5年も時間を費やしている。
すぐに追加支援が来るなんて事は期待しない方がいいだろうな。
それに不安定なゲートの様子じゃ輸送能力も期待できない。
マーサさんの話では、
この世界の魔法ってやつは、
火・水・風・土そして聖・闇の6属性に分類されるらしい。
これを使いこなすには、
洗礼を受けた時に発現する先天性の魔法と、
高度な訓練と鍛錬そして修練を必要とする、
後天性の魔法の2つがある。
僕の現況を打開するには、
早く魔法を使えるようになることだ。
がっぱがっぱとお金を貯めて、
この小さな村から調査範囲を広げたい。
なんでもこの国の中枢である『聖都』という街は、
この世の全ての富が集まってくるという噂だ。
もっとも、ヨース爺さんが酔っぱらって教えてくれたものなので、
どこまでが真実なのかはわからない。
個人的には夜の蝶があつまる歓楽街の情報がはいれば、
真っ先に実地調査に行ってくるつもりなのだが・・・
ちなみにマーサさんは火属性であり、
冒険者時代は『爆炎のマーサ』と恐れられたのだとか。
今は竈の火力に魔法を使っている姿をみれば、
これもヨース爺さんからの情報なんで、
話半分に聞いていた方がよさそうだ。
「おいエミリー、さっきは悪かった。謝るよ・・・」
(いえマスター、人工知能である私には感情がありませんのでお気遣いは無用です)
・・・嘘つけ。
「明日は教会に行って洗礼を受けてみようかと思うんだ。同じDNAを持っている人が洗礼を受けてるんだぜ。アバターといってもベースは本物が設計図となってるんだ。神様にだってコピーとは見破られないんじゃないかな?」
(回答不能です。ですが現状を打開するためマスターがリスクを選択するという事でございましたら・・・)
「ああ、サポートは頼りにしてるよ」
(私の警告を無視して洗礼を受けるのだと、この誓約書に署名願います)
・・・おい。