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3Dプリンターで異世界調査はじめました!  作者: しゅーる君
調査報告書①
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ブロローグ

その日暮らしの僕にとって、

宿代の銅貨3枚を稼ぐことって大変だ。

魔獣で一番弱いストレイキャットなら、

3匹仕留めなければならない。

それに最低限の飯を食べなくちゃいけないが、

さらに銅貨2枚が必要となる。

ノルマは最低5匹という事だ。


ちなみに二番目に弱い一角兎(アルミラージ)を捕まえようとしたら、

角で突かれて三度ほど死にかけている。

だめだ。あのウサギはマジでヤバイ。

目が赤いだけじゃく完全に逝っている。

仕方がないから猫狩り専門のハンターを自称している。


この世界に来てからというもの、

ストレイキャットの平均捕獲数は丁度3匹。

宿を確保するべきか、

食べるものを確保するべきかという葛藤に、

もう1週間も悩まされている。

生きていくには地獄の沙汰も(かね)次第である。

地球でもこの世界でも共通しの悩みだと発見した。

そのことが調査報告第一号といったところだ。


今から6年前、『ゲート』と呼ばれる時空の(ワーム)が発見された。

もちろんこれは国家機密として世間一般には隠匿された訳で・・・

問題はその『ゲート』がどこに繋がっているのかという事なのだが、

どうやら僕の住む地球とはまったく異なる世界であるらしい。

「らしい」と言わなくてはならないのは、

誰もそれを証明したことが無いからなのだ。


兎にも角にも、隣の家の壁に突然穴が開いたのなら、

のぞき見したいというのが人間の本質だろう。

政府の極秘プロジェクトは、

この『ゲート』の先にある世界を、

さらにのぞき見しようという計画だ。


先行して行われた調査には、

マイクロサイズのドローンが使用された。

突然隣人となったあちらの世界の人が、

驚かないようにという配慮なのだろう。


でもこのドローン作戦には重大な欠点があった。

『ゲート』の半径1キロ以内しかドローンをコントロールできない。

現代の技術力であれば、もっと遠くまでコントロールすることが出来るのだが、

『ゲート』を通過する為に、なんらかの電送損失が生しているようで、

それ以上の距離を調査することが出来ないらしい。


僕には10歳年上の兄貴がいる。

いや、正確には「いた」だ。

政府のプロジェクトに関わっていたようだが、

その詳細について僕は全く教えてはくれなかった。


大学院で研究員をしていた兄が、

このプロジェクトに参加したのは6年前だった。

『ゲート』の発見が兄の運命を大きく狂わせるとは、

その時は思ってもみなかった訳で・・・

元々兄さんは無口な人だったが、

このプロジェクトに関わるようになってから、

さらに口数が少なくなった事を覚えている。


あの日、兄さんが参加していたブロジェクトのメンバーを名乗る人から、

兄さんが実験中の事故で亡くなった事を唐突(とうとつ)に告げられた。

そして僕はある決断を迫られる。



「あなたのお兄さんに代わって異世界に行ってください」



決断に至った経緯は長くなるので、機会があればまた今度。

ただ『ゲート』から異世界に行くって言うのも簡単ではなかった。

なにせあの大きさを見れば正気の沙汰じゃない事だけは、

すぐに理解することが出来た。


『ゲート』のサイズは、直径約5センチ。

どう考えても僕が通れるサイズじゃなかった。

そこで、兄さんたちのプロジェクトチームは、

『ゲート』を通過できるサイズで物資を異世界に運び出し、

異世界でこんなものを作り出した。

それが僕のカラダを作り上げた高性能3Dプリンターだ。


つまり、異世界でアバターのカラダを作り、

そこへ僕の精神を転移する。

直径5センチの問題は、人類の最先端科学によって解決された。

はずだったのだが・・・



「おいエミリー。僕の体のシンクロ率はどんな具合だ?」


草原に大の字になり、天高く澄み切った空に向けてそう呼びかけると、

頭の中でこの世界での調査を手助けしてくれるナビゲーションが起動する。


(はいマスター。現在のシンクロ率は5%この世界の一般成人の半分程度と推定されます)


「なんで最初に武器を作ってくれなかったのかなぁ。素手で狩りをするのってエミリーが考えてるよりずっと難しいよ」


(素材不足でお召し物を生成するのが精いっぱいでございました。武器を持っても丸裸というのは、さすがにこの世界でも変質者ということになります)


「このカラダ最先端の技術なんだろう。なんでこんなに腹がすくんだよ。眠くもなるし、痛いし痒いし痺れるし!」


(人間の感覚は全て再現されておれます。それに特別な機能も備わっております)


「・・・じゃあ今すぐその特別な機能でなんとかしてくれ」


(あっ、マスター、ストレイキャットの反応があります。頑張ってください)


「流したな、このポンコツ!」



こうして3Dプリンターで作り上げられたカラダひとつで、

僕の異世界調査が始まったのだ。












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