最強少女は家族と団欒する
魔法技術が日常的なものとなっている第三世界線。
この世界に存在する生物は主に動物、植物、虫に分かれており、動物には人族、犬族、猫族、兎族が存在するのだが、それぞれはほとんど関わりがない
遥か昔、今ほど国境がハッキリしていなかった頃
言語の通じない相手を同じ動物として扱えなかった当時の住民たちは、各地で戦争を勃発させ、無意味に血が流れていった。
その現状を憂いた当時の国王たちは不干渉条約を締結。国や組織での、他国への干渉を禁じた
時は流れ、他国の知識や関心がほぼなくなり
平和な日々が続いているが、最低限の兵力は常駐しており、また武力の高い者ほど地位も高くなる傾向は未だに健在である
そして現在
人族の国であるエメフシロ王国、その中心都市であるアリネシアの端。
海に面するその場所で、周りの建つ家よりも少し大きい屋敷に住む4人の家族がいた
「パッカー子爵!」
話しかけられた男、カジット・パッカーは、嬉しそうに駆け寄ってくる男の声を聞いて振り向いた
「この間は息子がお世話になりました!ウッド様と遊べてすごく喜んでいて」
「あぁ、こちらこそ息子のウッドの相手をしてくれて助かったよ。妻のマーリンも楽しそうにしていたからね。また遊びに来てくれ」
1人と話している内に、いつのまにか軽い人垣ができておりみんなカジットと話すタイミングを伺っている
「パッカー子爵!この間は迷子になった娘を見つけてくれてありがとうございました!」
「いやいや、たまたま見つけられただけだよ。困ったときはお互い様だしね」
「パッカー子爵!昨日は..........
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「人気者は困るなぁ!」
カジットは家族と食事をしながら、嬉しそうに笑った
「人望が厚いことはいいことね。貴族は何かと恨まれやすいから」
カジットの隣に座るマーリンが頷きながら返事をする
「外出るたびに大勢に話しかけられるのも少し面倒だけどな」
カジットの前に座るウッドは照れ隠しのように薄い赤色をしたご飯を頬張った
食卓に並ぶご飯は、無機質な素材を、工夫を凝らして、何とか見て楽しめるぐらいのものだ。
肉や野菜などは見当たらなく、どちらかといえばブロックのような、おままごとのような、そんな雰囲気もある。
ところで、この世界の生存競争は本来の意味での弱肉強食に当てはまらない。
なぜなら栄養補給を他の生物から行うわけではないからだ。
この世界には、魔法を使える者ならば必ず使える、栄養補給用の魔法がある。
個体によって生成できる色は異なり、赤、青、黄、緑の4種類、それぞれに決まった系統の味がある。
個体によって色の濃さも味の種類も異なり、同じものは1つとしてないと言われている
そしてこの世界での料理とは、この材料をいかに組み合わせて『白くするか』である。
白に近づくほど美味しいと言われ、料理人は日々研究を重ねているのだが、完全な白の料理は未だにできていないらしい。
「あ!この薄い黄色の星柄のご飯かわいいわ!」
マーリンの前に座る女の子は、話に興味がないのか目の前のご飯に目を輝かせている
薄い色がほとんどであるこの食卓はさすが貴族と言うべきか、この世界の常識に当てはめれば豪勢なものだ。
「アルナ、人付き合いは大事なんだぞ。お前はまだ10歳だからわからないかもしれないが...」
ため息混じりにカジットは言う
「わかってるわよ...」
アルナは不満そうな顔をしながらも、反抗しようとはしていない。
この世界で人族になったアルナだが
いろいろあって、転生後すぐ行くあてもなく1人で彷徨っていた。どうしようか困っていたところをパッカー夫妻に拾ってもらってもらい、家族として養子に迎え入れてもらっていた
アルナは少し遠慮があるものの、街の評判通りパッカー夫妻は素晴らしくいい人で、素性の知れないアルナを実の娘のように育ててくれている
「そういえばアルナ、10歳ってことはそろそろ学園に行くころだろ?準備とか大丈夫か?」
ご飯は食べ終わり、デザートタイムに入っていたウッドが不意に口を挟んだ
各都市にある学園は、10歳になったエメフシロ王国の国民全員が必ず入らなければならないという決まりがある
それは貴族であっても平民であっても等しい。
「アリネシア学園?そうね、あと3ヶ月ぐらいだったと思うけど。お父様が張り切って準備してくれたから特にやることもないわ」
そしてアルナが住む都市アリネシアの学園は、国王が住む中心都市ということもあり
国からの支援は大きく、唯一の寮制となっている
「しばらく離れ離れになってしまうから、カジットったら寂しがっててね、荷物も半分ぐらい無駄なものだったわ」
面白そうに笑いながらマーリンはカジットの方を見た
「無駄じゃないぞ!何があるかわからないんだ、そもそも学園に着くまでが1番の難関なんだぞ!付いていけない分、準備ぐらいは過剰でもいいだろ!」
「父さん、別に森の中を行くわけでもないし、ちゃんと送迎はあるだろ。そもそも学園にいるのは1年だけだぞ?」
呆れたような顔でウッドはカジットを見ている
「うっ、しかし...」
「まぁまぁ、大は小を兼ねるって言うし。やりたいようにさせてあげましょう」
微笑ましそうにマーリンは言ったところで、みんなご飯を食べ終わったらしく使用人が片付けに来た
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そのまま食事の場は解散となったので、アルナは自室に戻っている
「10歳と言っても、まだ5年しかこの世界にいないんだけど...」
転生したとき、アルナは5歳の姿で知らない場所に立っていた。
5年分の記憶が消えているのか、はたまた5歳の姿で転生したのかはわからなかったが
どっちにしても、当時のアルナには特に違いはないだろう。
要は自分が何者として生まれたのかがわからない状態だったということだ。
特殊な転生をしたからなのか、そもそも転生自体がこういうものなのか
理由はわからないが、パッカー夫妻のおかげでこの世界の住民として生きることができたのだから、口には出さずともアルナは両親に感謝していた
それにしても、とアルナは再度口を開く
「あと3ヶ月か、力の使い方ぐらいはわかっておいた方がいいかもしれないわね」
そう言うと、たくさんおいてある参考書(というより研究書という感じだが)をパラパラとめくる
この世界での力とは
主に魔術、剣術、体術の3つを指す
また全て努力でどうにかなるものではなく、生まれつき各々のその能力には限界が定められている
その限界まで極めることを目標に力を磨いていくのである
3つの力を簡単に説明する
魔術は魔法を操る技術のこと
魔力と呼ばれる力を使い、様々な魔法を使う。使える魔法の系統はランクごとに異なる
剣術は武器を扱う技術のこと
剣力と呼ばれる力を使い、様々な武器を使う。ランクごとに扱えるようになる武器は変わるのだが、その武器は剣に限らない。(それが知られるようになったのが最近なので未だに剣力と呼ばれる)
体術は肉体的な強さのこと
体力と呼ばれる力を使い、物理的な力や防御力などを担う。戦いのなくなったこの世界では剣術よりもこの力を使うことが多くなるだろう
「んー、力のコントロールって難しいのよね〜」
アルナはため息をつきながら、何やら難しい本を読んでいる
何が書いてあるのかはわからないが、すごく専門的なものだろう。
「本当はやってみた方が早いんだろうけど...両親に変な心配かけたくないし」
転生、しかも普通とは違う転生の仕方をしたのだ。力がどうなっているかなどわからない
変なことをすれば両親に心配をかけるに違いなかった
「ま、学園に行ってからで大丈夫でしょ!」
何度も読み込んでいるであろう本をしまい、アルナは眠りについた
この世界での貴族
皇帝→国王→大公爵→公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵
ランクが高い人が貴族になるので、子供はこの爵位を継ぐとは限らない。国王は国の統治者なので例外。皇帝はまた別。
けど、親は後ろ盾となるので偉ぶった子供とかもいる