闇夜の訪問者
辺りがしんと静まり返り、草木も眠りにつく23時。少年は一人玄関で闇夜の訪問者を待ちわびていた。
デス・スタート・オンラインの発売日まで残り1時間、少年はそれまでの間にこのゲームについてありとあらゆる事を調べるが出てくるのは
不明不明不明不明不明不明ばかり。製作者やメーカー、ゲームの詳細すらわからない。
様々な掲示板を見てみるがやはり、あの広告で得られる程度のものだけ。
そんな怪しく不気味なものだが、聞いたことも無いフルダイブ型のゲームという点もあり瞬く間に多くの人に知れ渡っていた。
それが社会的に大きな事件になる事となる。
そして迎えた午前0時、ピンポーンとチャイムが鳴りドアを開けるとそこには、郵便局に務めていそうな服装の男が立っていたが全身黒装束に身を包んでいた。
男が少年にギロりと一瞥するが少年はニコニコ笑っている。
「北森犬夜さんで間違いないでしょうか?」
「間違いないです!早くそのゲームを下さい!」
子供らしさ全開で純粋な好奇心を目にした男は眼を固く瞑り、大きくため息を吐く。数秒間固まったあと、周囲を確認し犬夜と同じ目線で中腰になると
「犬夜くん……本当はおじさん、こんな事言ったらダメなんだけどね、今からでも遅くない。
このゲームをプレイするのは止めた方「早く寄越せ!」がい……分かった。では、デス・スタート・オンラインを渡す前に最後の警告だ。このゲームはあくまでフィクションだ。現実で起こりうる事件や事故について当社は何の関係もなく一切の責任を負わない。全て自己責任のもと自由にプレイしてくれ。私からは以上だ。」
そう言って犬夜に黒いダンボール箱を渡し、出ていった。
「ふふふ♪やったー!これで沢山遊んでやるぞー」
箱を大事に抱えながら喜ぶ姿は誕生日プレゼントをもらいはしゃぐ子供と何ら変わりない。犬夜はとてもとても幸せそうだ。
男は犬夜にデス・スタート・オンラインを渡し、車に戻ると助手席に座っていた、黒いライダースーツを着こなしている金髪ポニーテールの女性に睨まれる。
「ったくなんだよ。」
「見てたし聞いていたぞ?剣山。記念すべき1番目の購入者いや、プレイヤーに対してやめた方がいいと言ったな?」
「リオン…………あの子は子供だ、真っ直ぐで純粋な眼を見たら誰だって止めたくなる。ましてや、俺達みたいにはなって欲しくないと思った。」
「ふん……それにしてはたったの一言で簡単に渡したじゃないか?お前に……本当に良心が残っているのなら引き下がらないだろ?それとも、臆病風に吹かれたか?」
「残ってれば……だろ?そんなもの一欠片もないさ。まぁ、ある意味で臆病風に吹かれたってのは間違いじゃないな。」
「はぁ?剣山、お前が?」
剣山から発せられた衝撃の事実にクールに振舞っていたリオンの表情が崩れる。手を額にパチンっと当て少し堪えていたが肩を震わせると
「AHAHAHAHAHA‼っくくくププック……はぁ、すまないすまない笑ってしまった」
「何がおかしい?」
「だって、今も尚冷酷残忍と謳われてるお前が死の恐怖を知らん子供一人に対して怯えているんだぞ?これが笑わずにいられるかププッ」
そう笑っているリオンだが、真剣な表情を崩さない剣山の本気を感じ笑顔が薄れる。
「あの子、いや奴の目を見た。あれはもう人間を辞めている。こちら側の者だ。」
「ほぅ……とは言っても敵対しないなんて確実に言えないからな。さて、無駄話は終わりだ私達も準備をするために本社に戻るぞ」
「はいはい、はぁ……ったく人間らしい一時はここまでかよ。また戻らないとか……」
二人を乗せた車は月の光が届かない闇の中に消えていった。