06
カフェを出てゆっくりと歩き出しながら時間を確認すると、集合時間には指定されている中央広場までの移動時間を除いても、まだ30分程の余裕がある。
「空いてるアトラクションならもう一つぐらい乗れそうっすねー」
「柊はどっか行きたい所あるか?」
「んー……」
特に思い付かないので、柊は隣に居る杏路に視線を移した。
「私も特に行きたい場所は思い当たりませんので、少し早いですが広場の方へ移動しますか?」
「土産の買い忘れとかも特にないよな?」
「大丈夫」
杏路が作成したリストと自分のスマホのメモ機能のダブルチェックで確認したので、問題無いと思う。……一応、念のために日持ちするお菓子類は多めに購入してある。
ちなみに、本日購入した分のお土産は配達手続きをしたので、現在手元にあるのは最低限必要だと思われる手荷物とポップコーンバスケットぐらいだ。
集合場所である中央広場に近づくにつれて人が多くなる事が予想される為、護衛役の杏路と燕の手はなるべく空けておきたいようなので、柊は横に並んだ奏と手を繋ぐ事にする。
周辺情報を完璧に把握している杏路の案内で、柊達はパーク内をサクサクと進んで行く。
*
目的地である中央広場に到着する少し手前の所でゲームセンターを発見した燕は、期待を込めた表情で前を歩く柊の顔を覗き込む。
「まだ時間あるなら、少し遊んで行っても良いっすか?」
柊としては特に問題はないので頷く。
杏路と奏も特に反対する気は無いようなので少し寄り道する事にしてゲームセンターの中へ入ると、柊達の予想に反して、人影はほとんど存在してなかった。
「思ったより、人が少ないな……?」
人のまばらな店内を見渡して、奏がぽつりと呟いた。
その声が聞こえたのか、通りかかったスタッフが説明してくれた話によると、どうやら今の時間帯はイベント広場で午後のパレードが行なわれているらしい。
なので、大抵の人間はそちらの方へ集まっているみたいだ。
親切に声をかけてくれたスタッフにお礼を言って、柊達は店内をゆっくり探索する。
「燕の御目当てはUFOキャッチャーか?」
「そうっすねー。ざっと見て回った所、期間限定でゲームとのコラボ商品とか置いてるみたいなんで、その辺りでも狙いますかね」
「そういえば、珊瑚がパーク内限定のフィギアがどうとか言ってた気がするな……」
「お、マジっすか? なら、取れたら珊瑚へのお土産にでもします」
「それ良いな。俺も特に欲しいの見当たらないし、そうするかなぁ」
店内を一通り見て回り、最初の場所へ戻って来た所で二手に分かれる事にした。
奏と燕が仲良く店の奥へ向かって行くのを見送り、柊は隣に立つ杏路の顔を見上げる。
「柊は、何か欲しいものはありましたか?」
柊は杏路の問いかけにコクリと頷き、UFOキャッチャーのコーナーへ入って一番最初に目の付く場所にある『パーク内限定商品!』と書かれた台をそっと指差す。
「やった事はありますか?」
「大丈夫」
二人合わせて合計6回程の挑戦で欲しかったケサランパサランの巨大ぬいぐるみをゲットする事ができた。柊が取り出した不思議な感触のぬいぐるみを抱き締めて和んでいる間に、コツを掴んだ杏路が新しく置いてもらった色違いの黒いぬいぐるみも落としてくれる。
柊にとっては一つでも大きいぬいぐるみを二つも抱えるのは流石に無理があるので、台の横に用意されている特大サイズの袋に詰めて杏路が肩にかける事にした。
その後は奥に居る奏と燕に合流し、二人がプレイしている様子を眺めたり、ちょっとした裏技を教えてもらったりして楽しむ。
そうしている内に、集合時間の10分前を知らせる館内放送が流れたので、柊達は少し早いが学校指定の集合場所へ向かう事にして、ゲームセンターを後にした。
歩いてすぐの場所にある中央広場には、前の方に簡易舞台が設置されており、その脇に仮設テントが2つ立てられている。
半数ぐらいの人間は既に広場に集まっているようで、柊達は大量の視線を浴びながら、あらかじめ学校側から指定されていた奥にある職員用のスペースへ向かう。
テントの中へ入りようやく視線が途切れた事で、柊は小さく息を吐いた。
杏路が引いてくれた椅子に座り、燕が鞄から取り出した無糖の紅茶で一息吐く。
「まだ時間あるみたいだし、この間にホテルの方の荷物引き払ってくる」
「丁度終わる頃に合流って感じっすかね?」
「そうですね。もし合流する前に解散した場合を考えると、ホテルから直接駐車場に向かった方が効率的かもしれません」
「おー、ならそうするわ」
杏路から受け取ったホテルの鍵を手に去って行く奏を見送り、閉会式の始まりを待つ。
*
予定より15分程遅れて始まった閉会式は、1時間後には通常営業に切り替わる事や、学園に戻るバスの時間と乗車場所などの重要な連絡事項と、学年指導の先生の簡単な挨拶程度の比較的あっさりとした内容で終了した。
その場で解散が言い渡され、各々の予定に合わせて生徒達が動き出す。
迎えの車は既に到着しているようなので、柊達は一般のお客さんが並んでいる正門ではなく、関係者用の駐車場がある裏門の方へ向かう。
奏のスマホ宛に燕が駐車場へ着いた事を知らせるメールを送るとすぐに返信が来て、柊達の目の前に見覚えのある車がゆっくりと横付けされた。
停車した車の運転席から飛沫が降りて来て、柊の頭を優しく撫でる。
「久しぶりだな。修学旅行は楽しかったか?」
「ん」
「そうか、それは良かった」
助手席から降りて来た奏が杏路から受け取った荷物を燕と一緒にトランクへ積みに行っている間に、柊は飛沫が開けてくれたドアを潜って後部座席に乗り込む。
奥に座って書類に目を通していた灯が顔を上げて手招きをするので、隣に座る。
「よぉ。旅行は楽しめたみたいだな?」
灯は笑いながら、微笑みながらコクコクと頷く柊の頭を優しく撫でる。
温かな手のひらの感触に柊が瞳を細めていると、隣に座った杏路が柊の上着を丁寧に脱がせ、柊の荷物を自分の荷物などと一緒に空いているスペースに置いた。
トランクに荷物を積み終えた燕が助手席に、奏が後部座席に座ったのを確認した飛沫は、全員にシートベルトの着用を確認し、静かに車を発進させた。
「疲れてるとこ悪いが、本邸から呼び出しだ」
「……何かあったの?」
「まあな。少し前に柊が渡して来たファイルがあっただろ?」
灯が言っているのは多分、柊が旅行前に本邸を訪れた時に葉と灯に手渡した、病気が発症してから感じた事、灯と一緒に暮らす間に気が付いた事、体調の変化に関する詳細なデータや、そこから導き出される考察などが丁寧に纏められた資料の事だろう。
柊は病気の事が分かってからずっと、膨大な資料とゲーム知識から導き出した曖昧な推察の裏付けを取る為に、自分の出来る精一杯で原因を解明しようと手を尽くして来た。
葉と灯に渡したのはその集大成とも言える分厚いファイルだ。
「資料の最後に原因と対処法についての柊なりの考察が書かれてただろ? その裏付けが取れないかって引退した守役連中まで呼び出して、本家の奴らも守役連中も総動員で確認する事になってな……。過去の資料やら業務日誌やら個人の日記なんかを片っ端からひっくり返して材料集めした結果が、どうやら出たらしい」
驚いて目を見張る柊に向かって優しく笑いかけながら、灯はそっと柊の頭を撫でる。
「俺もまだ詳しい事は聞いてないから、詳細については葉の口から聞けとしか言えんが、電話で話した感じだと、悪くない結果だったみたいだぜ」
「本当に……?」
「俺が柊に嘘ついた事あるか?」
柊の頬を流れる涙を拭って、灯は柔らかく目を細める。
ぐちゃぐちゃになった感情で、息が詰まりそうだ。
背中をゆっくりと撫でる灯の優しい手のひらの感触に、柊は静かに目を閉じる。
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