05
楽しい時間はあっという間に過ぎ、今日は修学旅行最終日だ。
ふわりと意識の浮上した柊は、杏路の横で振り返って隣のベッドの気配を探る。
燕は布団を抱き込んで眠っているが、奏の姿が見当たらない。
早めに目が覚めて何処か出歩いてるのだろうか、と思いながらぼうっと眺めている柊の体へ、後ろから杏路の腕が伸ばされ、ずれた毛布と布団を肩まで引き上げてくれる。
柊が体の向きを元に戻すと、エメラルドグリーンの瞳が柔らかく緩められた。
「まだ早いので、もう少しゆっくりしましょう?」
柊は同意するように静かに瞬きをして、杏路の胸元に額を寄せた。
後ろ頭を優しく撫でる温かな手にゆったりと目を細めて微睡んでいると、ドアが開いて奏が音を立てないようにそっと部屋の中に入って来る。
「何かありました?」
「いや、私用の電話をちょっとな……起こしたか?」
そう言って柊と杏路の使っているベッドに腰掛けた奏は、杏路の胸元から顔を上げた柊を覗き込んだ。
「帰りは、灯様が迎えに来て下さるそうだ」
柊は奏の言葉に小さく頷いて元の体制に戻る。
柊が杏路の腕の中でうとうとしながら微睡んでいる間に、窓の外が明るくなって行く。
暫くすると燕も起き出したので、奏の用意した朝食を全員で取る。
興味のあるアトラクションは昨日ほとんど回りきったので、今日はお土産を探したり、パーク内限定の移動販売を探しながらの食べ歩きをメインに予定を組み立てる。
*
桜ノ宮学園では『修学旅行最終日に告白して付き合い始めたカップルは別れない』というジンクスがあるので、最終日の今日は何処か浮き足立ったような雰囲気が漂っている。
「うわー、俺こういう空気って苦手なんっすよねぇ……」
「無駄に告白されるからか?」
「何であんな根拠の無い話、信じられるんっすかね?」
「冷めてんなぁ」
「そう言う奏さんは信じてるんっすか?」
「信じてるぜ?」
「そうなんですか?失礼ですが、少し意外ですね」
「なんせ、俺が付き合い始めたのも修学旅行最終日だからな」
奏は驚いた表情を浮かべた杏路と燕へにやりと笑いかけてから、柊の手を引いてポップコーンスタンドへ向かう。
「何味にするんだ?」
「いちごミルク」
「あ、俺キャラメルでー」
「では、私はミルクティーにします」
「全員甘いのだと飽きそうだし、俺は塩バターにするか」
奏は20周年記念の限定、杏路は猫、燕は熊、柊は兎のキャラクターのデザインされたバケットを受け取った。このパークでは直接ではなく袋に入ったポップコーンをバケットに入れるタイプなので、今は開けずに肩から斜め掛けにする。
奏が地図を広げたところで、杏路が胸ポケットから取り出したスマホを眺めながら呟く。
「燕のチェックしていたドリンクスタンド、今近くに来ているみたいですよ」
「おっ、マジっすか」
先導するように歩き出した杏路の後を追うように柊達も歩き出す。
「さっきから、杏路は誰と連絡とってるんだ?」
「珊瑚とですよ。何時何処のルートを通るか、情報を流してもらってるんです」
「そら便利だな」
「探す楽しみは無くなりそうっすけど」
「勿論、詳細な位置ではなく大まかな位置だけを流してもらっているので、心配要りませんよ」
「流石、杏路さん……あ、アレじゃないっすか?」
燕が指した先に探していた販売車を見つけたので、足早に近づいて行く。
杏路は星形のマカロンの乗った宇治抹茶ラテを、他の3人はホイップクリームの上にマシュマロクッキーサンドの乗ったホットココアを注文する。奏はそのまま、燕はキャラメルナッツソース、柊はチョコレートソースをトッピングしてもらう事にした。
頼んだ商品を待っている間に、セットになっているスプーンの柄を選ぶ。
杏路の分も譲ってくれると言うので、夏目の好きなキャラクターの物を選び、柊は特に欲しい柄が無かったので、茜の好きなキャラクターの物にした。
「はー、あったけぇ」
「このソース美味っ!ひぃ様、あーん」
「ん……はい、燕もどうぞ」
「チョコソースも美味いっすねぇ」
「おーい、俺にも一口くれ」
「良いっすよー」
「奏、あーん」
「ふふっ、私とも一口ずつ交換して下さい。柊には特別にマカロンもお付けしますよ」
「ありがと」
「抹茶ラテは思ってたより甘さ控えめだな」
「本当だ、想像してたよりもしっかりと抹茶味っすね」
あったかいドリンクで暖を取りながら、柊達はのんびりと移動を開始する。
*
柊達は途中で会ったキャラクター達と写真を撮ったり、ショップでお土産を選んだりしながら、チュロスの種類を制覇する為にパーク内を歩き回った。
その後、柊達は2つ程体感型のアトラクションに乗る事にした。
乗っている間に燕が先着30名限定のランチプレートの予約券を取っておいてくれたので少し早めの昼食を取る事にし、予定していたコラボカフェへと向かう。
「ここのオリジナルバーガーの特別プレート、美味いって評判なんっすよ」
「まぁ、見た目からして既に美味そうだしなぁ」
奏と杏路の前には熊の形のふわふわのバンズに分厚いパテとたまねぎのスライスとレタス、スライスチーズとローストビーフが挟んであるバーガーと大盛りの皮付きフライドポテトとBBQソースが乗ったプレートとコンソメスープの入ったマグが並べられ、燕と柊の前には猫の形のふわふわのバンズに分厚いパテとレタスとスライスチーズ、目玉焼きとベーコンが挟んであるバーガーと大盛りの皮付きフライドポテトと3種のチーズソースが乗ったプレートとオニオンスープの入ったマグの乗ったプレートが並べられ、テーブルの中央にはナゲットと白身魚のフライとタルタルソース、フライドチキンとオニオンリングの入った籠、たっぷりのクルトンとツナが乗った温玉シーザーサラダの大盛りボウルが置かれた。
「凄いボリュームですね……」
「これ、パテっていうよりハンバーグって感じだよな」
「こっちもベーコン肉厚でめちゃくちゃ美味いっすよ」
「どうせだから、半分ずつ交換しねぇ?」
「良いっすよー」
「柊は私と交換しましょうね」
「食べきれないと思うから、もう半分くらいの大きさで良い」
柊がサラダを食べている間に杏路がちょうど良い分量になるように調節してくれる。
「このナゲット、色んなキャラクターの形になってるんっすね」
「味も2種類あるみたいだぞ。さっき食ったのカレー味だった」
「へぇ」
「揚げ物ばっかじゃ無くて、サラダもちゃんと食えよ」
「はーい……あ!このクルトン、ハートの形してる」
「星もあるよ」
食事が一段落したところで、頼んでいたデザートが運ばれて来る。
奏と燕は兎のカップに入ったティラミス、杏路はホワイトチョコのソースでキャラクターの描かれたエッグタルト、柊の前には猫のカップに入ったチョコスフレが置かれた。
「思ったよりもビターな感じっすね」
「どちらかと言うと大人向けって感じだな」
「エッグタルトも美味いですよ」
「このスフレ、中にマシュマロとチョコソースが入ってる」
「何それ美味そう」
最終的には他のデザートも分け合いっこして仲良く綺麗に食べきったので、あったかい紅茶で一息吐いてから席を立った。
柊が杏路に上着を着せてもらっている間に奏が伝票を持ってレジに向かった。
柊達が先に出ようとしたところで、振り返った奏に指先でちょいちょいと呼ばれる。
近づいて行くと、特別ランチを頼んだ人限定のストラップがもらえるらしい。
デザインは全部で4種類あったので、全種類1つずつもらう事になった。
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