03
修学旅行3日目の今日は学園のバスでテーマパークへ向かう事になっている。
最終日のお昼まで貸し切りになっていて、今夜はテーマパークに隣接されているホテルへ泊まる予定なので、杏路と燕が手早く荷物をまとめる。
柊の名前は秋羅達の班に組み込まれているが、6人一組の班では知らない人間も居る為、柊は守役の3人と一緒に楽しむ事にする。
事前に配られた見取り図や施設情報の載っているパンフレットを眺めて気になる所に○を付け、どうしても無理ならホテルに引き蘢って読書の可能性もあるので燕と一緒に作っておいたお土産リストも一緒にまとめて杏路に渡しておく。
テーマパークでは制服では無く私服で行動する事になっているので、柊は祈が見立ててくれた服に着替え、防寒対策もバッチリにしてからバス乗り場へ向かう。
時折向けられる好奇の視線や感情の波をやり過ごしてミニバスに乗り込むと、柊は小さく息を吐いた。マフラーやコートを回収しながら燕が気遣わしげに柊の顔を覗き込む。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「それなら良いんすけど……」
どことなく納得のいかない様子で身を引いた燕に少し困ったように笑いかけてから柊は杏路の差し出したホットレモンティーを受け取る。
「そう言えば、大和はまたこっちのバスで移動すんのか?」
「いや、班員と同じバスに乗るって連絡来てたから」
「そうなのか?ならもうドアは閉めといて良いな」
柊の言葉に頷いた奏は運転席の方へ移動してドアを閉めるように指示する。
「にしても、無理矢理乗り込んでこようとするおバカさんは何考えてるんすかね?」
「まだ子供ですから朽木がどう言う立ち位置に居るのか分かってないんでしょう。心配しなくても休み明けには大人しくなっていますよ」
「そこは心配してないっスけど、現在進行形で鬱陶しいんすもん」
「それは我々が対処すべき事ですので諦めて頑張って下さい」
燕が嫌そうな表情を浮かべてから柊に抱き着いて来たので、柊は優しく頭を撫でておく。
戻って来た奏はその様子を見て軽く頭を叩いた後に燕の隣に座った。
杏路の配った飲み物と焼き菓子のセットでのんびりしている内にバスが走り出した。
「ひぃ様はテーマパークとか遊園地とか初めてっすか?」
「知識としては知ってるけど、行くのは初めてかな」
「へぇー、じゃあジェットコースターとか乗った事無いんすね」
「観覧車なら乗った事あるよ」
「なら絶叫系は軽いのから試した方が良いな」
「そうっすねー」
杏路の取り出したパンフレットを広げてあーだこーだ言いながら何に乗るか話し合う。
そうして過ごしている内にバスが目的地に着いたので、柊達は他の生徒達が入場手続きを終えたのを確認してからバスを下りてゲートへ向かう。生徒手帳代わりのデバイスで入場手続きを済ませた柊はまずは水上アトラクションのあるエリアへ移動する。
いきなり絶叫系は止めようと言う事になったので柊達が初めに選択したのはお伽噺のミニュチュアセットの脇を流れる川を舟でゆっくりと進んで行くものだ。
「うわー、結構細部まで作り込んであるんすねー」
「こんなん乗るの子供ん時以来だから逆に新鮮だな」
「懐かしいですね」
守役達が三者三様の感想を零している横で、柊は入り口でスタッフに渡されたクイズを解く。クイズの内容は子供向けの簡単な物なので柊はサクサク空欄を埋めて行く。
「ひぃ様も楽しんでるっすか?」
「うん、面白いね」
そう言って笑った柊の後ろから燕が手元のクイズ用紙を覗き込む。
「えーと、夏ゾーンには全部で何匹のイルカがいたでしょう?」
「7匹だろ」
「ううん、あの家のベルと窓のペイントにもいるから9匹だよ」
「あ、マジっすね」
「この問題は少し難しいと書かれてますし、柊の方が合っていそうですね」
「引っかけ問題っすか」
用紙は各自に配られているのでそこからは各々で回答を埋めて競う事になった。
「お、回答の正解数によって何か貰えるみたいだな」
下りてすぐの場所にいる係員に解答用紙を渡して答え合わせを待っていると、奏が通路に貼り出されているポスターを見つけて呟いた。
「全問正解なら好きなストラッブ、間違えたのが3問までならステッカー、半分以下なら残念賞として飴が貰えるみたいっすねー」
「もし当たったら柊が選んで良いぞ」
「俺のもひぃ様にあげるっすよ」
「ありがと」
戻って来た係委員は全員に答え合わせの終わった解答用紙を渡してから、全問正解だった杏路と柊に籠の中から好きなストラップを選ぶように言ったので、柊はパステルグリーンのイルカ、杏路は水色のイルカを選んで受け取った。ステッカーは2種類しか無かったので奏と燕はそれぞれ違う柄のものを貰っていた。
その後は海賊船をモチーフにした乗り物で洞窟の中を走るアトラクションや水の上を進み高い所から落下する絶叫マシーンに乗ってみたりして水上エリアを満喫した。
柊は絶叫系は大丈夫そうなので今度は普通のジェットコースターに乗ろうと燕と手を繋いで他のエリアに移動する。柊が気になって見詰めて来る人間はいたが話し掛けようとはしてこないので柊は気にせず守役と好きにパーク内を回った。
柊はどきどきしながら身長制限のボードの前に立ってギリギリでクリアしてジェットコースターを楽しんだ後は、お昼にはちょうど良い時間帯だったので食事にする。
杏路があらかじめ予約していたパーク内のレストランでキャラクターをモチーフにしたランチセットを全員でシェアしながら食事を終えてマップをテーブルに広げる。
「午後は何処から回ります?」
「食べたばっかだからあんま激しく無い方が良いんじゃないか?」
「ミラーハウスとかはどうですか?」
杏路の提案に乗ってミラーハウスに柊達は並んだ。中はちょっとした迷路になっており奏が通路と間違って鏡にぶつかるアクシデントもあったが楽しむ事が出来た。
「いやー、思いのほか楽しかったっすね」
「次は何処行く?」
「そうっすねー……」
マップを広げた奏の隣で辺りを見渡した燕が何かを発見してそちらを指差す。
「アレとかどうっすか?」
「あ?……お化け屋敷かよ」
「もしかして奏さん怖いんすか?」
「いや、子供向けのやつだろ?大人には退屈なんじゃねえか?」
「まぁまぁ、入ってみないと分かんないっすよー」
「俺は良いが、柊と杏路もアレで良いのか?」
「僕は別に良いよ」
「私も特に問題はないので構いませんよ」
そうして4人が辿り着いたお化け屋敷は、元々建っていた古い洋館を改装したもので、その昔住んでいた人達が次々と不可解な死を遂げたと言う設定だ。
二人一組で入る事にして奏と柊、杏路と燕のペアに別れて中に入る。
奏と柊が入り口のスタッフに渡されたライトで足下を照らしながら手を繋いで薄暗い洋館の中を進んで行くと、奏達の予想を裏切って中はかなり本格的な空間になっていた。
廊下を続いて行く真っ赤な足跡や天井から落下し半壊したと思われるシャンデリア等を避けながら柊が中を見渡していると、横に立っていた奏に抱き上げられた。
「怖いの?」
「てっきり何かが飛び出して来るとかそっち系だと思ったんだよ……」
奏は苦笑しつつそう言って薄暗い廊下を進んで行く。
「脅かす系のホラーは全く怖いと思わねえけど、どうもこう現実的なやつは苦手でな……」
「そうなの?」
「どっかの隙間から目玉が覗いてるとか鏡に映るとか、日常的なものに結びつけられるとふとした瞬間に思い出して地味にクルんだよなぁ」
柊としては前触れも無く突然来られる事に吃驚はするが、特に怖いと感じたりはしないので、奏の頭を慰めるように優しくポンポンと撫でてから屋敷内を観察して楽しんだ。
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