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03


窓の外がまだ薄暗い時間に、灯はふと目が覚めた。

ゆっくりと体を起こしてベットサイドの時計を確認すると4時を少し回った所だった。


何となく目が冴えてしまった灯は、自分の胸元で毛布を巻き込むように小さく丸まりながら穏やかな寝息を立てている柊を見て笑みがこぼれる。灯がつい出来心から指の背で鼻先を軽く擽ってみると、柊は嫌がるように眉間に皺を寄せて小さく唸る。


「ふはっ、悪い悪い、まだ寝てろよ」


灯はそっと囁きなら柊の肩までしっかりと薄手の毛布と掛け布団を引き上げる。


柊がちゃんと眠っているのを確認して、灯はそっと自分のスマホで写真を撮った。

灯はその写真を才に送ってから、柊の横で静かに読みかけの本のページを開く。


暫くして、柊の瞼がゆっくりと開いた。

少しの間ぼうっとしていると、柊に気が付いた灯が本を閉じて顔を覗き込む。


「起きたのか?」

「……うん」

「まだ眠ってても良いぞ」


柊は灯の顔を見上げてから布団の中でもぞもぞと体勢を変えて小さく伸びをする。

毛布と布団を被ったまま柊はベットの上でもぞもぞと起き上がって灯の顔をじっと見る。


「何だ?」

「……眼鏡?」

「あぁ、これか」


灯は掛けていた眼鏡を外して柊の前に持って行くと、咄嗟に差し出した手に置いた。


「最近、視力がな……」


そう呟きながら灯は柊を布団の中から抱き上げ、スマホをポケットに入れて歩き出す。

柊は手の中にある眼鏡をぐるっと一回り観察した後に、灯の顔に掛け直した。


「新居は午後からだろ?」

「ん、才も一緒に行くって言ってたから」


柊が灯に抱っこされたまま部屋から出ると、ちょうど隣の部屋から蒼士が出て来る。


一応挨拶はしたが、柊は蒼士とは別に仲が良い訳でも悪い訳でも無いので特にそれ以上話す事も無く黙って灯の首に抱きついていると、蒼士が眉間に皺を寄せながら口を開く。


「……その歳になって、恥ずかしくは無いのか?」


突然、脈絡もなくそんな事を言われた柊は蒼士に視線を移す。

灯は廊下を進みながら蒼士に呆れたような視線を向けて、何も言わずに視線を戻した。


灯の視線を受けてようやく自分の言葉が足りない事に気付いた蒼士は、慌てて口を開く。


「いや、非難している訳では……ただ俺は」


余計に険しい表情を浮かべながら言い募る蒼士を見て、柊は安心させるように笑う。


「大丈夫、家族以外はしないから」

「そうか」


蒼士はそれっきり黙り込んでしまったので柊達はリビングに着くまで無言で過ごした。


3人でリビングの中に入ると、中には飛沫と燕がいた。

灯の腕の中にいる柊に気が付いた燕が、続いて入って来た蒼士を見て顔を顰める。


灯は露骨に嫌そうな顔をした燕の頭を掌でポンっと叩いてから、柊を燕の膝に下ろした。

燕は蒼士の存在を綺麗に無視して、柊の体をぎゅっと抱き締めて挨拶をする。


「ひぃ様、おはようございます」

「おはよう」


飛沫に挨拶を済ませた蒼士は燕の方を見て険しい表情を浮かべると、静かに呟いた。


「挨拶もまともに出来ないのか」


その言葉に怒りで震える燕の頭を撫でて、柊はそっと燕の顔を下から覗き込む。


「今の言葉は、そう言う意味じゃ無いよ」

「何ですか?俺の事を思って言ったとでも言うんですか」

「うん……言葉選びが、壊滅的にへたくそなんだよね」


柊のとても不思議だと言わんばかりの反応に、柊以外の全員が、一瞬動きを停止する。


「……じゃあ、今のはどう言う意味だったんすか」

「嫌いな人間に対しても挨拶くらい出来ないと困る、って言う忠告?」

「はぁ?」


飛沫の隣に座った灯が吹き出したのを見て本当だと分かった燕は複雑な表情で柊を見た。


「だから許した方が良いとか、仲良くしてって事じゃ無いよ?只、あの人はああ言う人なんだねって、ただそれだけの話。だって、許す許さないを決めるのは、結局燕なんだから」


燕は柊の言葉に静かに息を飲み、噛み締めるように呟いた。


「そうっすよね……言葉の真意がどうであれ、別に許す必要は無いんすよね」


ちなみに燕と柊の会話の間中、蒼士はずっとその場で硬直したままだ。

灯は燕の結論に憐れみの目で蒼士を見て、飛沫は慰めるようにそっと肩を叩いた。


「まぁ、あの姿が見れたんで、ひぃ様に免じて明日から挨拶だけは返す事にします」


燕はそう言うと柊ごと立ち上がって、柊の事をまるで信じられないものを見るような顔で凝視しながら微動だにしない蒼士のふくらはぎを、思いっきり蹴っ飛ばした。


蒼士に文句を言われる前に燕は笑いながらリビングから逃走する。


そのまま厨房に突撃した燕と柊を、朝食の準備をしている香坂と手伝いに駆り出されていた杏路が不思議そうな表情で迎えると、二人は作業を中断して近づいて来た。


「何か面白い事でもあったのか?」


燕がにんまりと笑いながらさっきの出来事を話すと、香坂は気の毒そうな表情を浮かべ、杏路は苦笑いしながらも燕のした事を咎めたりはしなかった。


「そろそろ朝食にしますが、それまでここに居ますか?」

「おっ!なら手伝ってけよ」

「はいはい、何すりゃいいんすかー」

「その前に、柊はこっちな」


香坂はそう言って柊を配膳台の前の椅子に座らせてから燕を厨房に引っ張り込んで行く。

手を振って見送った柊にお茶を出してから杏路も作業に戻る。


途中で柊もチョコレートムースの飾り付けを手伝っているうちに朝食の用意が整った。


柊達がダイニングに運んでセッティングしていると、リビングから灯達もやって来る。

燕は杏路と柊の間に座って防波堤代わりにしながら朝食をとった。



柊達は図書塔でのんびりとしていたが、才と合流する時間になったので玄関へ行く。

玄関前には既に車が止まっており、柊が近づくと車の中から才が降りて来た。


「待たせてごめんね?今日はこの後はオフだから」

「ううん、大丈夫」


才はそう言って微笑む柊を抱き上げて頬ずりすると、皆を車に促した。

飛沫の車に杏路と蒼士が乗り、才の乗って来た車に柊と灯と燕が乗って新居へ向かった。


新しい家は本邸と学園の真ん中よりやや本邸寄りの場所建っている。

前の家と違って守役とも一緒に住めるような作りになっているので、かなり大き目だ。


柊達が門の前で降ろしてもらって歩いて中に入ると、3階建ての本館と綺麗に整えられたイングリッシュガーデンに出迎えられ、奥には2階建ての別館も見える。


「まずは本館の自分の部屋から確認する?」

「それで良いんじゃ無いっすかね」

「じゃあ、こっちね」


才に案内されて新居の中に入り、シンプルだが細部までこだわって作られた内装の玄関を抜け階段を上がって行く。3階の奥の5つ並んだ扉の前で才が振り返って説明し始めた。


「とりあえず、この列の真ん中が柊、右が灯さんで、左が僕。両脇と手前の部屋は守役の部屋になってるから、自分のネームプレートを確認して入ってね」


才の言葉に全員一斉に行動を開始し、荷物や配置の確認に向かった。

さっさと散って行く皆を見送ってから、柊も杏路と燕と一緒に自分の部屋へ向かう。


前の部屋よりも少し広くなった室内は、淡いパステルグリーン&ブルーと白を基調としており、ナチュラルウッドの家具が置かれてスタイリッシュにまとめられている。


入り口の脇の壁は一面本棚になっており、その目の前にはソファーセット、大きめの勉強机の他にもウォークインクローゼットやテレビ台、ミニ冷蔵庫まで完備されている。


本棚や小物などをざっと確認して、柊達は今度は寝室に向かった。


ブルーグレーとブラウンを基調とした部屋の真ん中にはクイーンサイズのベットが鎮座しており、脇にはアンティーク調のナイトテーブルと星座のルームランプが置かれている。


両脇にある扉は、どうやら才と灯の寝室と繋がっているようだ。


余計な物の一切ない落ち着いた雰囲気の室内をぐるりと一周してから、設備も点検する。

部屋の中を全て確認し終わったら、今度は杏路と燕の部屋へ向かう。


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