02
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「じゃあ、練り切りは俺等と半分こにしましょうねー」
「ん」
そう言って燕は机の上にある和菓子の入った箱の中から柊が見つめていたうぐいすの練り切りを自分の目の前に移動させる。杏路も全員分の温かいお茶を配り終えた後に、箱から取り出した桔梗の練り切りから花びら一枚分を綺麗に切り分けて柊の前に置いた。
「和菓子の方は京様が手土産に持って来て下さった物だそうだ」
「こっちのお饅頭は誰からっすか?」
「そっちはリトがこの間送りつけて来たやつだな」
「へぇー」
「確か出雲のお土産ですよね?」
「あ!もしかして、フィナンシェのやつっすかね?」
答えを確認するように燕がこちらを見たので、柊は肯定の意味を込めて小さく頷いた。
「茜とリトはまたどっか出掛けてんのか?」
「何もない状態の新居が撮りたくなったらしく、朝早くからそちらへ向かいました」
「あいつ、本格的にそっちの方面に進む気なんかね?」
「本人はあくまでひぃ様の為に始めたって言ってましたけど、どうなんっすかねぇ……最近は杏さんと一緒にバイク弄るのも好きみたいっすからねー」
「何故お前がそんな事まで知っているんだ?」
「そりゃもちろん、ひぃ様に関係ありそうな事っすからねー」
笑って返した燕の目が全く笑ってなかったので、雨水はそっと目を逸らす。
「柊は何かやりたい事ねぇのか?」
灯の質問に深く首を傾げて固まった柊の頭をポンポンしながら灯は笑った。
「まぁ、柊一人贅沢させて一生養うくらいの甲斐性はあるからな、好きに生きれば良い」
「それを断言出来るとこが凄いっすよねー」
「当たり前だろう?何の為に俺が会社立ち上げたと思ってんだ」
「確実にその為では無いと思うが……」
そう零した飛沫に笑いかけて、灯は口の中の饅頭を飲み込んでから大きく頷いた。
「もちろん、俺が面白おかしく好き勝手に生きる為に決まってんだろ?」
「うわー、清々しい程自分本位な理由っすね!」
「まぁな。それに俺が無理して頑張んなくても、元々能力者は無条件で朽木の一族から保護対象扱いだしな」
「そうなんですか?」
「おう、言ってなかったか?何でも朽木の能力がなかったらそもそもここまで家も大きくならなかっただろうからって事らしいぞ。能力者の為だけに分家と入れ替わるくらいだ、どれだけ大事にされてるかは分かんだろ」
「あぁ、そう言われてみると確かに……」
「普通なら能力者だけを表舞台から隔離しますよね……」
「今回の事にしたって、完全に能力者を守れる環境と自信が無かったら進めらんなかっただろうしな」
灯はそう言って湯のみをテーブルに置くと、柊の体を自分の膝の上に座らせた。
口をもごもごさせてきょとんとした表情で見上げて来る柊の頭を灯はゆっくり撫でる。
「その上、俺と柊は20%に引っ掛かってるからな……尚更、心配はいらねぇよ」
「20%?」
灯は不思議そうに呟いた雨水に目を合わせると、自分の心臓の辺りを指先で軽く叩く。
一瞬怪訝そうな表情を浮かべた雨水は、すぐに病気の事に思い至ってはっと息をのんだ。
灯と柊の病気は今の所、5人に1人の割合で発症する事が確認されているのだ。
ほうっと溜め息を吐いた灯は膝の上に座らせた柊の頬を指の背で優しくふにふにする。
柊が小さく笑い声を上げた事で部屋に流れていた重苦しい空気が払拭された。
灯が口を開きかけた所で、柊のスマホが音を鳴らして振動する。
一瞬首を傾げた柊に、杏路が脱いだ柊のコートのポケットからスマホを取り出した。
「茜様からですね」
「タイミングの良いやつだなぁ」
柊が受け取ったスマホの画面を確認すると、茜から大量の写真が送られて来ていた。
「茜様からは、何て来てるんっすか?」
「写真と動画?」
「新居の写真ですかね」
「あぁ、撮りに行ってたんだっけか?」
柊が燕の持っていたタブレットで茜との共有アルバムにアクセスすると、中には何もない新居の中をリトと稲穂と一緒に探検している動画と写真に加えて、旧居の荷物を運ぶ前と運んだ後の何も無くなった部屋の写真が大量に上げられていた。
「明日の楽しみが無くなりそうっすから、新居の方は後にした方が良さそうっすねー」
「うん」
柊は読み込んだ旧居の写真にタブッレット専用のタッチペンでイラストやコメントをちまちま書き込んで行く。柊の横から眺めながら、燕も一緒に予備のペンで書き込んで行く。
大人組はその様子を微笑ましげに眺めながら、ゆったりとお茶を楽しんでいる。
暫くして、のんびりとした時間のながれるリビングの扉が開かれて弥生が入って来た。
弥生は柊達に近づいて来ると、二人の頭の上からタブレットの画面を覗き込む。
「面白そうな事をしているな」
「楽しいっすよー、弥生さんもやります?」
「残念ながら、俺は柊達の家にはあまり行った事が無いからな」
弥生はそう言って笑いながら、雨水の隣の空いているスペースに座った。
「奏はどうしたんだ?」
「俺の手が空いたから柊の事は見とくって言ったら、引っ越しの手伝いに行くそうだ」
弥生の言葉に杏路が自分の端末を取り出して確認する。
「端末に同じ内容で連絡入ってますね、ドライブモードに切り替えたままにしていたので通知音が鳴らなかったみたいです」
「おー、俺の方も来てる……俺は普通に気付かなかったっすね」
杏路は端末の設定を通常モードに戻してから、席を立った。
「話しておきたい事があるので、少し席を外しますね」
「いってらっしゃーい」
杏路を見送った燕はタブレットを抱えた柊を灯の膝の上に乗せて固まった体をほぐす。
「じゃ、俺は厨房行って昼食取って来るっすよ」
「なら俺も手伝おう」
飛沫はそう言って立ち上がりながら空のお菓子の箱や使い終わった食器をまとめる。
柊は手を振って部屋を出て行く燕に手を振り返してからタブレットをテーブルに置いた。
灯は柊の頭を撫でてから、ふと何か思い出したように雨水の方を見た。
「そう言えば他の奴らはどうしたんだ?」
「睦月達か?ほとんどは奏と一緒に引っ越しの手伝いに行ったと思うぞ」
「呼び戻しますか?」
「いや、蒼士のやつの姿が見えねぇなと思ただけだから、呼び戻さなくて良い」
「そう言えば俺も朝から見ていないですね……」
テーブルの上に残った饅頭を摘みながら弥生が答えを告げる。
「蒼士なら医療器具を運ぶのを手伝わせる為に朝一で綾瀬の車に放り込んでおいたぞ。燕と一緒の空間に置いておくと面倒くさいからな」
弥生の言葉に灯と雨水が納得の表情を浮かべた所で、電話の終わった杏路が戻って来た。
「飛沫と燕なら昼食を取りに行ってるぞ」
「そうですか」
「今日の昼飯は何だろうな?」
「中華だよ」
「ん?聞こえたのか?」
「ううん、さっき一緒にメール来てた」
「香坂とメールしてんのか?あいつ前に俺が連絡取りにくいから端末持てって言った時は操作覚えるのが面倒くさいとか言って拒否しやがったのに……」
「ん、最近は時々スタンプとか料理の写真も来る」
「順調に使いこなしてらっしゃいますね」
「後で俺にも連絡先寄越すように言っといてくれ」
「?わかった」
「自分では聞かないんですね……」
「あの爺さんが簡単に教えると思うか?」
「可能性は限りなく低いな」
弥生が灯の言葉に同意を示した所で、飛沫と燕がワゴンを押して部屋に入って来る。
座っていた杏路達も手伝って素早くテーブルの上にセッティングして行く。
思ったよりも熱かった小龍包に燕がハフハフ言ったり、弥生が激辛麻婆豆腐を平然と口に運んでたり、雨水が青椒肉絲ばっかり食べていたりするのを見ながら、柊は隣に座った杏路に食べたいものを取り分けてもらって、皆で仲良く昼食を食べた。
*宜しければ、ムーンライトノベルズ様にて「君の瞳が瞬く明日。」連載中です。
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