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*引っ越し


季節はすっかり春に変わり、柊は5年生になった。


才は相変わらず忙しくしているが、前から目をつけていた有能な人材の引き抜きにようやく成功したらしく、最近は前より家で過ごす時間を多く取れるようになった。


夏目は高等部でも首席を維持しながら才の仕事に着いて回っていて、才が休みの日には会社の経営や仕事内容で疑問に思った事をまとめたノートを手にリビングでくつろぐ才に話を聞いている姿を良く見かける。才も頼られて嬉しいのか楽しそうに質問に答えている。


才は自分が苦労した経験から高等部卒業と同時に夏目を跡取りだと公表する予定らしく、夏目を連れて歩くのはその布石のような意味合いもあるようだ。


幸いにも夏目は大変優秀なので、概ね好意的に受け入れられているらしい。


茜は冬休みにリトと行ったカナダで秋羅の母親の水城に偶然出会い、撮影の様子を見学させてもらったり旅先の話を聞いている内に写真に興味が湧いたらしい。


水城から才に送られて来た手紙には「才能は十分あるし初心者とは思えないぐらいセンスも良い。後は技術力次第」と太鼓判を押されていたようだ。


なので今は、時々柘榴と祈からアドバイスを貰いながらガンガン腕を磨いている所だ。


最近はリトと一緒に出掛けた先から、旅先の風景と一緒にはしゃぐリトや巻き込まれた稲穂の姿の写った写真が大量に送られて来る。時々現地で出会った全く知らない人や面白い景色なんかも混ざっていて、とても楽しんでる様子が良く伝わって来る。


茜は風景より人物の写真を撮る方が好きみたいで、灯から進級祝いとして貰ったカメラを常に手元に置いて目についた表情や動作をすぐ撮れるように準備している為、最初はレンズが自分に向く度に緊張していた人達も慣れてカメラを気にせず過ごせるようになった。


灯と葉は冬休み明けから随分と忙しくしている。実は、冬休みに集まった親戚一同と守り役達で話し合った結果、この春から朽木家の認識を正式な十家に戻す事になったのだ。


元々朽木家と久遠家が入れ替わった理由は能力者を守る為だけなので、歴代の朽木家当主と分家の人間達の頑張りのおかげで状況も安定したし今なら戻しても問題ないだろうという話になったそうだ。分家の人間達はやっと朽木家の素晴らしさを表に出す事ができると大賛成で張り切っていて、不満に思うどころか全力で協力体制を整えたらしい。


入れ替わった当時の当主がいつか表舞台へ戻った時の為に朽木家の能力を持たない者の中で一番適正のある者を表向きの当主とし、能力者は当主と同等の権利を有すものとするという取り決めを作った為、当主でない灯も葉と一緒にその対応に追われているらしい。


身の回りが少し騒がしくなるかもしれないと言われたが、もし柊に何かしようと画策した人間がいたとしても、セキュリティーや情報方面では杏と珊瑚が、護衛としては杏路と燕が常に全力で守ってくれているので、守役に阻まれてとても上手く行くとは思えない。


それに柊は学校では個別カウンセリングルームに登校しているし、普段から一人で出掛ける事もないので、今の所問題も無く安心して普段通りに過ごす事が出来ている。


夏目には既に守役が付いているし、茜も少し早めに任命式が行われて守役が付いたので、学校で注目されたりすり寄って来る人間が増えたくらいであまり問題はないらしい。


才がこの4ヶ月で必要な所への根回しや対応策は完璧に整えた為、特に困る事もない。



柊達は今日から始まるGWの間に、冬休み明けに引っ越すつもりで用意していた家のセキュリティ面をこれ以上無いくらいにグレードアップしたりと色々手を加えて大幅にリフォームしていたのがようやく終わったそうなので、新しい家に引っ越す事になっている。


と言っても荷物の運び込みから設置まで守役の皆が終わらせてくれるので柊がする事はほとんどない。引っ越し作業中は本邸の離れに泊まって大人しくしているくらいだ。


鳴り出したアラームに起こされた柊は背中から抱きしめる燕の腕をぺしぺしと叩く。


燕は柊の頭の上で小さく唸って手探りでアラームを止めると、柊を抱き込んだまま布団を引き上げて二度寝に移行する。柊が腕の中で体を反転させて燕の頬にちゅっと音を立ててキスをすると、ぎゅっと瞑られていた燕の目がぱちりと開いた。


「おはよ」

「……ひぃ様、おはよう」


燕はしっかり目が覚めたようで柊の額にキスを返して枕元に転がるスマホで時間を確認すると柊を抱き上げてベットを降りる。


「ふわぁ、今日の朝ご飯は何っすかねぇ」

「空豆ご飯って、昨日の夜は言ってた」

「そうなんっすか?楽しみっすねー」


そう言って楽しそうに笑った燕は柊の体を洗面所に下ろした。順番に顔を洗って歯を磨いた後は、椅子に座った柊の髪を燕が棚から取り出した櫛とゴムでまとめてくれる。


燕は腰の辺りまで伸びた柊の髪を軽く梳くと後ろに一つにまとめ緩く三つ編みにすると、肩まで伸びた自分の髪を適当にハーフアップにして台の上を片付ける。


柊が燕と手を繋いで洗面所を出ると、1階から上がって来た杏路と目が合った。


「おはようございます」

「おー、杏路さん、おはようございます」

「おはよ」


念の為に燕の様子を確認に来た杏路と挨拶を済ませて、一緒に階段を下りる。


杏路の開けた扉を抜けて柊がリビングに入ると、ソファーに座っていた才が振り返った。

柊と目が合った才は手に持っていたコーヒーカップと新聞をテーブルに置いて柊を手招くと、近づいて来た柊の体を掬い上げ、膝の上に乗せて優しく笑いかける。


「ひーちゃん、おはよう」

「おはよ」

「今日の体調は良さそうだね」


才はそう言って柊の体を抱き上げて立ち上がると、燕にも挨拶をしてダイニングテーブルまで移動する。そこへちょうど杏路が全員分の食事を運んで来た。


4人で仲良く朝食を終えた後は玄関で仕事へ向かう才を見送ってから、柊も杏路が運転する車に乗り込んで本邸へ向かう。柊は車の中で今朝の体調を問う綾瀬からのメールに返信してから、燕とゲームで遊んで本邸に着くまでの時間を潰した。


本邸に着いた柊達が離れへ向かって歩いていると、本邸から出て来た灯の姿を見つけた。

振り返った灯は駆け寄った柊の体を抱き上げて頬にキスをする。


「着いたって連絡来たんでちょうど戻るとこだったから、タイミング良かったな」


頬にお返しのキスをしてから灯の首にきゅっと抱きついた柊の背中を軽くポンポンしてから、杏路と燕に挨拶をすませた灯は離れに向かって歩き出す。


「明日は新居に行くんだろ?」

「えぇ、今日中に荷物は運び終わる予定なので」

「今日はお前達だけなのか?」

「いや、奏さんがこれから合流するんで3人っすねー」

「他は荷運びか」

「と、運び込んだ物の配置までっすかね?細かい位置は明日本人の希望聞きながら変更するみたいな事聞いたっすけど」

「柊は昨日の内に全て祈にまかせて来たので、荷解きは終わっていると思いますけどね」

「なら問題ねぇな」


そこまで話した所で離れに着いたので、灯達は靴を脱いでリビングへ向かう。


リビングでは飛沫と雨水がソファーに向かい合ってお茶を飲んでいる。

ドアの音に気が付いてこちらを見た二人に軽く挨拶を済ませて柊達もソファーに座った。


「練りきりと饅頭とあるが、食べるか?」

「良いんっすか?」

「あぁ、ちょうど来る頃だろうと香坂が置いて行ったものだからな」

「なら遠慮なく、ひぃ様はどれにしますか?」


柊はうぐいすの形の練り切りと少し迷ったが、うさぎの形をしたお饅頭を頂く事にした。


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