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02


弥生が柊に繋いだ機械の数値を確認しつつ過去のカルテを読み返していると、飛沫がストレッチャーを静かに部屋に運び込んで来た。


「葉様に言って裏口から庭まで車を入れさせて貰ったから、何時でも良いぞ」

「ありがとう、こっちもそろそろ移動しても大丈夫そうだから搬送の準備してくれる?」

「ここにあるものを車に運んでおけば良いのか?」

「よろしく」


蒼士も手伝って弥生が用意した荷物を車に運んで行く。


弥生はストレッチャーのベルトを外して、灯に毛布で包んだ柊を乗せるよう頼む。

戻って来た飛沫に下まで運んでもらい、後部座席のベット部分へ柊の体を横たえた。


助手席には蒼士が乗り、灯と弥生は柊と一緒に後部座席に乗る。


20分程で花森系列の病院に着くと、弥生の指示で飛沫は緊急搬送用の出入口に車を回す。病院側が用意していたストレッチャーに柊を乗せ、弥生はそのまま一緒に検査室へ向かった。検査が終わるまでは弥生が押さえた個室で待機だ。灯と蒼士は車を駐車場に止めて来た飛沫が合流してから看護士に案内されて移動する。


待っている間は特にやる事もないので、灯は関係者に連絡を入れる為に通話可能エリアへ行き、飛沫は持って来た荷物の整理をし、蒼士は売店で昼食用の食べ物を用意する。


三人がちょうど昼食を食べ終わった頃に、柊が検査から戻って来た。

柊と一緒に入って来た弥生はソファーにドサリと座り、残っているおにぎりを開ける。


灯がベットの脇に置かれた椅子に座って柊の顔色を確かめていると、ソファーに座っている飛沫と蒼士が弥生に小さな声で質問し始める。


「それで、どうだったんだ?」

「検査の結果、特に問題無し」

「あんなに苦しんでいたのにか?」


弥生はおにぎりを齧りながら頷いて、飛沫が渡したお茶で流し込んでから静かに呟く。


「……奏に話し聞いてからじゃなきゃ確実な事は言えないが、もしかしたら灯様と同じ病気の可能性がある」


弥生の爆弾発言に、薄々そうじゃないかと思っていた灯は溜め息を吐いて掌で目元を覆い、飛沫と蒼士は驚いたように弥生の顔を見た。


「あの病気は20代〜30代で発症する病気じゃなかったのか?」

「初代まで遡っても片手で数える程しか確認されていないからほとんど知られていないが、極稀に10代で発症するケースもある」

「症状は?」

「まだ確定じゃ無い。とりあえず奏はいつ来る?」

「今杏路と一緒にこっちに向かってる」

「そうか、俺の予備のPHS預けておくから着いたら連絡入れてくれ」

「どっか行くのか?」

「資料室覗いて来る」


弥生は飛沫にPHSを渡して残りのおにぎりとペットボトルのお茶を白衣のポケットに雑に放り込むと、ソファーから立ち上がって部屋を出て行く。


15分程して柊の病室に奏と杏路が到着した。


奏は病室に入ると挨拶よりも先に柊のベットサイドモニターを確認してから、弥生の置いて行った検査結果が挟まったバインダーを読み始める。


「到着が遅くなって申し訳ありません」

「いや、問題ねぇよ。それより団体戦の方はどうなったんだ?」


杏路が答えるより先に、奏が手の中の書類から顔を上げないまま返事をする。


「そこにいる誰かさんと燕が前半戦で本気出してポイント取ったから今の段階で既に優勝は決まったようなもんだな」

「うわぁ……」

「休憩前の途中結果で2位の倍は稼いでたからな、今から覆すのは無理だろうな」

「少しくらい手加減してやれよ……」

「柊が望んだ以上、妥協する気は一切ありませんので」


そう言って杏路がにっこりと微笑んだ所で、飛沫から連絡を受けた弥生が戻って来た。


「ようやく来たな」

「遅くなって、すみません」

「いや、気にしなくて良い」


弥生はひらひらと資料を持っていない方の手を振ってから、柊の眠っているベットテーブルの端に寄り掛かって隣に立つ奏を見上げる。


「で?柊もsleeping dollなのか」

「分かりました?」

「あれだけ詳細なカルテとその検査結果を見ればな」


弥生の言う"sleeping doll"とは、"眠り人形症候群"《sleeping doll syndrome》の通称だ。


主に精神系のみに見られる能力者特有の病気の事で、今の所詳しい原因も確実な治療法も判明しておらず、発症してしまえば決して治る見込みのない病気とされている。


ほとんどは20代~30代で発症する病気で、極稀に40代で発症する事は知られているが、10代での発症例はほとんど報告されていない。


症状は原因不明の発熱や体調不良等に始まり、年を重ねるごとに緩やかに進行して行く。

一番酷くなると、前触れもなく突然意識を失ったまま何年も目覚めない事もある。


その姿が、ただ穏やかに眠っているだけのように見える事からその名前が付けられた。


「症状としてはどの段階まで進んでいる?」

「突然ぶっ倒れるのは今回で2度めだな」

「ならまだそこまで進行はしていないのか?」


顎に手を置いて呟いた弥生の言葉に、奏はテーブルの上に置かれた資料を指差す。


「見たなら分かると思うが、10代のデータはほとんど残っていない」

「普通と同じ進行速度とは限らないのか……」

「本人は気付いてんのか?」

「灯様の病気について調べているうちに自分にも当て嵌る事に気付いたみたいだ」

「そうか」

「もしかして、俺が綾瀬に送っていた考察や論文は柊も読んでいたのか?」

「むしろ柊が知りたがってたから綾瀬が情報を集めてたが正しいな」

「まじか……」

「この事、他に知ってるのは?」

「柊の守役全員に朽木と分家の各当主と才様にだけは伝えてあんぞ」


その後奏は弥生が持って来た資料を一緒に見ながらお互いに情報を交換する。

杏路は昼食を取らずに病院まで直行したので、食料調達の為に1階の売店へ向かった。


食事&おやつタイムも終わって、各自好きな事をしながらのんびりと過ごしていると、眠っていた柊が目を覚ました。側にいた灯がそっと声を掛ける。


「おう、起きたか?」


灯の声にゆっくりと瞬きを繰り返し、柊は繋がれた灯の手に力を込めた。


「どっか気になるとこあるか?」

「大丈夫」


ソファーに座っていた奏と弥生がベットに近づいて来て、簡単な問診を済ませる。


「大会は?」

「それなら多分心配いらないぞ」

「先ほど送られて来た途中経過も順調な様ですし、問題ないかと」

「燕が『本当は俺もひぃ様の元に駆け付けたいっすけど、確実に勝利を捧げる為に涙を飲んでここに残るっすよ……ひぃ様にはくれぐれもよろしく言っといて下さいね』って言ってたぞ」

「ん、楽しみ」


そう言って起き上がろうとした柊の背中を杏路が支えて起こしてくれる。

冷蔵庫から取り出したレモンティーの入ったグラスを奏から受け取り、柊はのどを潤す。


「体調に問題ないようならこのまま帰る事も出来るが、どうする?」

「……帰りたい」

「分かった、手続きは俺の方で済ませておくから、そのまま帰って良いぞ」

「ありがと」


弥生は柊の頭をくしゃりと撫でて、問診票を手に部屋から出て行った。

蒼士と杏路が手早く荷物をまとめている横で、灯が柊の体を自分の腕に抱き上げた。


「腹減ってるか?」

「ちょっと」

「帰りに何か食って帰るか」

「あんまり重くないのが良いよな?」

「そうですね」

「ゼリーとかヨーグルトとかの方が良いのか?」

「軽食のある喫茶店とかでどうでしょう?」

「そうだな、そうするか」


最後に忘れ物がないか確認してから、柊達は病室を後にした。

関係者用の通路から外に出て車に乗り込むと、灯の行きつけの喫茶店へ向かう。


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