*1月5日
今日は本邸の近くにある緋野の所有している総合グラウンドにて団体戦を行う。
同じ主に仕える守役全員を1チームとし、その中から3人を選出してチーム対抗戦をする。
団体戦にエントリーしているチームは全部で7チーム。
柊の守役からは草薙 杏、緋野 杏路、緋野 燕。才の守役から緋野 雀、花森 氷歌、草薙 林檎。葉の守役からは緋野 柾、緋野 夏夜、日下部 嵐が出場する事になっている。
団体戦の内容は簡単に説明すると宝探しとスタンプラリーを合体させたような物だ。
個人戦とは違って身体能力だけでなく頭と運も必要になっている。
総合グラウンドから出発して裏山に設置された各チェックポイントを回り、出される問題をクリアしてスタンプを集めたり、森の中に隠れている隠しクエストのカードを探し出し書かれているお題をクリアしたり、一番多くポイントを稼いだチームの勝利となる。
団体戦出場者の会場受付は9:30からで、10:00〜12:00が前半戦、間の12:00〜13:00が昼休憩で、13:00〜16:00後半戦、16:30に表彰&閉会式という構成だ。
実は団体戦は出場しない守役もアドバイザーとして参加する事が出来るようになっていて、15分に1回だけ40文字以内で出場選手にメッセージを送る事が出来る。
*
今日の柊の守役は団体戦に出場しない灯の守役が代わってくれる事になったので、飛沫と蒼士が1日柊の側にいる事になっている。
それを聞いた燕は最初反対していたが、飛沫と灯に「きちんと見張っておく」「流石にそこまで馬鹿じゃ無い」と説得されて、最終的には渋々了承させられていた。
柊は隣で眠っている灯を起こさないように気怠い体をゆっくりとベットの上に起こす。
起きるにはまだ早いが何となく目が冴えてしまったのでベットの横に置かれたテーブルの上から読みかけの本を取り膝の上に開いて文字を目で追って行く。
灯が起き出すよりも先に飛沫が部屋のドアを開けた。
扉を開けた飛沫は柊と目が合うと柔らかく目元を綻ばせベットに近づいて来る。
「おはよう」
「おはよ」
「柊はいつも早起きだな」
そう言って飛沫は手に持った着替えをテーブルに置く。
柊は手伝おうとする飛沫に断ってからベットの上で未だに眠っている灯に視線を移した。
「僕は大丈夫」
「そうか、なら俺は灯様を起こす事にしよう」
飛沫はそう言って笑うとベットヘッドのスマホを手に取ってアラームを切り、灯の肩を柔らかく叩き声をかけて目覚めを促す。灯は眉間に皺を寄せて険しい顔をすると、前髪を掻き揚げた後にゆっくり目を開けて小さく呻き、のそのそと起き上がった。
柊は灯のお腹にきゅっと抱きついてからパッと離れて本を抱えて部屋を出た。
朝食の前に書庫に本を返してからダイニングへ向かう。
柊の守役は全員離れに寝泊まりしているので朝食は何時もと変わらず取った。
朝食の後は開会式まで暇なのでこたつでまったりテレビを眺める。
朝の占いに一喜一憂する奏や燕を面倒くさがって他のチャンネルの占いに切り替えたら余計面倒くさい事になったと突っ伏す祈を珊瑚と一緒に慰めたりして過ごす。
9:30の受付に間に合うように早めに出て行く杏路達を灯と飛沫と蒼士と一緒に玄関で見送った柊は、全員の背中が見えなくなったので中に入ろうと灯が声をかけようとした所でいきなりふっとまるで糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
後ろにいた灯が咄嗟に腕を出して柊の体を抱きとめたので怪我はなかったが、柊の顔色は青を通り越して真っ白になっている。目をぎゅっと閉じて口元を両手で握りしめながら小さくなっている柊の体をなるべく揺らさないように飛沫が抱き上げて中に運び込んだ。
灯は動揺のあまり出て行ったばかりの杏路を呼び戻そうとした蒼士の頭を軽く叩いた。
「アホか、我慢してまで見送った奴ら呼び戻してどうすんだ」
「すみません」
「とりあえずお前はまだ上で寝てる弥生叩き起こして来い」
灯はそう言うと飛沫に自分のベットへ下ろさせる。
横のテーブルをベットにくっつけ、その上に香坂に持ってこさせた洗面器を置いた。
飛沫が出して来たタオルを柊の口元に当て、灯は荒い呼吸を落ち着かせるようにゆっくり背中をさする。さして待たずに明らかに寝起きと分かる格好で弥生が部屋に入って来た。
「おう、寝てたとこ悪いが、ちょっと見てやってくれ」
「はいはい」
弥生はてきぱきと柊の症状を診察して行く。
ベットの足下に突っ立っている邪魔な蒼士を便利に使って静養の為の環境を整える。
蒼士に持って来させた鞄から薬を取り出して慣れた手付きで柊に飲ませて行く。
「とりあえず熱はそんなに無いけど胃が荒れてる可能性が高いから、体調落ち着いたら検査した方が良いな……」
「ストレスか?」
「いや、柊は精神的なものが原因の時は高熱が出るみたいだから違うと思うぞ」
「そうなのか?」
「奏と杏路が完璧にサポートしてるから最近は入院する程酷いのが無いってだけで、元々柊の体は病弱なんだよ」
タブレットに表示した柊のカルテを読みながら弥生は花森系列の病院に電話を入れる。
「検査室と一応個室も押さえといたからもう少し落ち着いたら搬送するから」
「すぐに搬送した方が良いんじゃないか?」
「いや、今動かすのは危険だから」
「先に裏口に車を回して来る」
「あ、後ろがベットになってるので頼むな」
「分かった」
弥生は蒼士に香坂の所へ飲み物を取りに行かせて、ベットの横にしゃがみ込んで柊と目を合わせる。片手は柊と繋ぎ、肩の上まで毛布をそっと引き上げて乱れた髪を整えた。
「朝から自覚症状はあったか?」
柊は肯定するように繋いでいる手に力を込めた。
「朝から酷かったなら1回、突然悪化したんなら2回握ってくれ」
柊はゆっくり2回弥生の手に力を込める。
「そうか、びっくりしたな。もう大丈夫だからな」
弥生が柊を安心させるように微笑むと、柊はゆっくりと目を閉じた。
杏路に連絡を入れて状況を説明していた灯は、ふと呼ばれたような気がして柊の方を振り向いた。急に黙り込んだ灯に電話の向こうから呼び掛ける声がする。
「悪い、柊が呼んだような気がしてな」
『そうですか、申し訳有りませんが付き添いお願いします』
「おう、こっちの事は心配しなくて良いからな」
そう言って電話を切った灯は弥生の後ろから柊の顔を覗き込む。
「寝たのか?」
「柊は薬が効きにくい体質だからアロマオイルを少し部屋に流してみたら、思ったより相性が良かったようだな」
灯は反対側に回って柊の体を背中から緩く抱きしめて空いている方の手を繋ぐ。
眠っている柊の手が力強く灯の手を握り返して来る。
そこへ蒼士が戻って来た。弥生は何か言おうとした蒼士を睨みつけて口の前に人差し指を立てる。口を閉じてそっと近づいて来た蒼士に弥生はテーブルと飲み物を交互に指差す。
弥生に頷いた蒼士は音を立てないようにそっとテーブルの上に果実水とスポーツドリンクの入ったピチャッーとグラスを置いて、弥生の斜め後ろから柊の顔を静かに覗き込む。
血の気の引いた顔で眠っている柊の表情は、まるで精巧に作られた人形のようだった。
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