02
柊は隣に座った珊瑚の袖を軽く引いた。
「第二会場って、何があるの?」
「色んな講習?あと展示」
「展示?」
「草薙で開発したもんが色々並べられとるんよ〜」
珊瑚が首元のチョーカー型の補助器を指差す。
「こういうの」
「あとは特殊鍵とか追跡装置なんかやね〜」
そこに内線の受話器を置いた飛沫が戻って来て柊の隣に座る。
「パンフレットは貰って来てないのか?」
「あ、そうやね、それ見せたら早いわ」
珊瑚がソファーの空いているスペースに置いた鞄からB5のノート一冊分くらいの冊子を取り出して柊に渡してくれる。受け取った柊は中を軽く流し読みしてみると、大会のプログラムや出場選手の簡易紹介などと一緒に各会場の案内や内容紹介が載っている。
柊が気になる部分からきちんと読み直している横で、飛沫達は話を続ける。
「何か良さそうなものはあったか?」
「そうやね〜、今年も結構色々あって楽しかったで」
そう言って柘榴は鞄の横に置いてある頑丈そうな黒い紙袋から色々と取り出す。
「僕らが貰って来たんだと、通信機がよりコンパクトになりよるやつとか、緊急用のアラートの新作とかやね」
飛沫が興味深そうに柘榴が取り出した箱の裏の説明文を読む。
「あと近々通信端末一新するよて、それん展示もしとったで」
同じ紙袋に入っていた2種類の冊子を柘榴が飛沫に差し出す。
「こっちがパンフレットで、こっちが新しいスマホのカタログな」
「助かる」
読み終わった柊は大会のパンフレットを珊瑚に返し、飛沫が読んでいない方の冊子を手に取って読み始めた。2人が冊子を読んでいる間に昼食が届けられたので、飛沫は軽く流し読みした冊子を柊に渡してから部屋の隅にあるコーヒーサーバーで3人分のコーヒーを入れ、柊用に甘めのミルクティーを用意して席に戻る。
「砂糖とミルクは自分の好みで入れてくれ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「何かあんま自覚しやんけど、見てたら空腹なん思い出したわ」
「僕も」
時々美味しかったものを珊瑚が1口づつ分けてくれるので、柊は読みながら口を開ける。
柊が全部読み終わってすぐに試合開始前のアナウンスが鳴った。さっきまで無人の会場が映し出されていたモニターに人が入って行く様子が映し出されている。
「モニター切り替えるか?」
「?」
「こん部屋のモニターは自分の見たい試合だけ映るように出来るんよ〜」
「大丈夫」
「ならこのままにしておこう」
飛沫は机の上の操作パネルのロックをかけて食事に戻る。
少しすると、会場の真ん中に設置された壇上に黒いスーツ姿の男性が出て来た。
司会者と名乗った男性が手元の時計を確認してから開始を宣言する。
挨拶が終わったあとは、試合の説明だ。
試合は1試合5分、各試合の間に15分のインターバルを挟んで行われる。試合は体の急所ごとにポイントが割り振られており、そこを攻撃するごとにポイントが加算されて行き、終了時に点数の高い者を勝者とする。武器は大会専用のゴム製のみ使用可能とする。事前に申請されていないものについては使用を禁止する……など、他にも細かいルールを丁寧に説明して、司会者の男性は出場選手の名前を読み上げる。会場の両脇にある出入り口から名前の呼ばれた選手が入場して来て、自分の試合場所とされるスペースに移動する。
「杏が第一、燕が第二、杏路が第四だな」
「杏さんの相手が夏夜さんで、燕ん相手は零さん、杏路さんは雨水さんやねぇ」
「杏は強い人に当たったな」
「せやね、逆に杏路さんと燕はあんま心配なさそうやね〜」
柘榴がそう言った所で試合開始のブザーが鳴り、画面の中の選手達が動き出す。
第一区画の杏は相手の動きを目で追う事は出来ているが体が対応しきれず、咄嗟の判断力でどうにか致命傷だけは避けているが防戦一方になっている。特殊警棒を上手く使って何とか小さいポイントを稼いではいるが勝つのは少し難しそうだ。
第二区画の燕は有利に試合を進めているようだ。トリッキーな動きと軽快な身のこなしで相手を翻弄している。両者ともゴム製のダガーを使用しているが燕の方が扱いが上手いようで、楽しそうに笑いながら容赦なくポイントを稼いでゆく。
第四区画の杏路は大会出場者の中で唯一、素手での参加者だ。
相手の攻撃を猫の子をいなすように簡単にあしらいながら確実にポイントを稼いでいる。
杏路は能力の使用を禁じられているのでどうなるかと思ったが、全く心配無さそうだ。
本戦の方は特に問題無さそうなので、柊は同じ時間から第三会場で行われている順位確定戦の様子が映し出されている両脇のモニターへ視線を移す。
柊はリモコンを操作して奏と祈の試合を両脇のモニターに映し出す。
「奏さん相手は雀さんか、難しそうやね」
「まぁ、予選の途中で抜けなければ本戦は確実と言われていたからな」
飛沫と柘榴の言う通り、画面の中の奏は雀相手にかなり苦戦しているようだ。
苦しそうな表情で雀の攻撃を出来る限り回避しつつ隙を伺っている。
それとは逆に、奏から少し離れた場所で戦っている祈は余裕の表情だ。
相手よりも大柄な体としなやかな筋肉を生かして重たい攻撃をガンガン繰り出している。
「祈は特に問題無さそうやね」
「そうだな」
「……思ったより、脳筋」
祈の戦い方を見た珊瑚がぼそっと呟いたのを聞いて、飛沫と柘榴が深く頷いている。
「普段はぼーっとしよるんに、戦闘スタイルは何故かゴリゴリのパワーファイターなんよな〜」
「祈は幼少期から体格に恵まれていたからな」
「小さい頃の様子知っとるん?」
「よく幼馴染みに引きずられて道場に来ていたからな」
「そうなんや、何か意外やね」
「まあ来ていただけでほとんど練習には参加していなかったが……良く道場の隅に店を広げて何かの衣装や小物を作っていたな」
「あ〜……」
「最初は注意していた師範代や指導役も1月も経つ頃には諦めて何も言わなくなっていたな」
試合終了のブザーが鳴って映し出された結果は想定通りだった。
そのあとの試合も順調に進んで行き、最終的な本戦の結果は1位:緋野 杏路、2位:緋野 夏夜、3位:緋野 冬歌、4位:緋野 光輝、5位:緋野 笹芽、6位:緋野 燕、7位:花森 雨水、8位:久遠 緑、9位:草薙 零、10位:緋野 汐流、11位:緋野 鶉、12位:草薙 杏となった。第三道場で行われていた下位決定戦の方は雀が13位、祈が14位、睦月と弥生が同率17位、奏が21位という結果になったみたいだ。
閉会式と表彰は最後の試合が終了してから30分後に始まるので、試合の終わった選手達は早々に控え室に戻っているか医務室に移動したようだ。
モニターの中では試合の為に区切られていたスペースを元に戻したり壇上に椅子を並べたりして表彰式の準備が進められている。
柊達は表彰式もモニター越しに見る予定なのでソファーでゆっくりする。
柘榴は珊瑚に手伝ってもらいながら手に入れた装置の設定を行い、飛沫は読み途中だったカタログを開いて真剣に眺めている。
柊はインターバル中に守役用専用の鍵付きのホームページに上がっている各試合の動画や観客席にいた綾瀬から送られて来る動画を珊瑚に借りたタブレットに取り込んで1人分ずつ丁寧に編集していた物に最後の試合の動画も編集して追加した。
出来上がった動画を守役のグループチャットに上げた後は表彰式を見て、離れに戻った。
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