03
柊が灯の膝の上で生ガトーショコラを食べていると、杏がリビングに顔を出した。
「あれ、杏さん?珊瑚どうしたんっすか?」
「綾瀬が来たから引き渡した」
「暇なら一緒に食うか?」
「何を食べているんだ?」
「生ガトーショコラっすよー」
「そうか、1切れ頂こう」
「味3種類あるが、どれにする」
「ノーマルとホワイトチョコと黒ごまっすね」
「ではノーマルにしよう」
そう言って灯と柊の向かいに座った杏の前に杏路が生ガトーショコラの乗った皿を置く。
「ありがとう」
「いえ、飲み物はカフェオレで良かったですよね」
微笑み合う杏と杏路を見て、弥生が腰を浮かせる。
「席変わろうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
弥生と杏路の遣り取りに杏は少しだけ不思議そうに燕を見た。
「兄弟同士で並んで座るなら、燕と変わるが?」
蒼士と燕の確執を知らない杏の一言に、蒼士は眉間に皺を寄せ、燕は一瞬体を揺らした。
「結構だ」
「申し訳ないっすけど、遠慮するっす」
思ったのと違った2人の反応に杏はゆっくり瞬きをした後、柊の方を見た。
「……何か拙かったか?」
「気にしなくて良いぞ、そこの兄弟は未だにお互い反抗期を拗らせてるだけだからな」
「そうか」
「……灯様のその説明で納得されると、俺としては複雑な物があるんっすけど」
「あ?本当の事だろうが」
「えー、拗らせてんのはあっちだけっすよ」
燕の持つフォークが皿に当たって、小さくカツンッと音を立てた。
「俺は純粋に、大っ嫌いなだけなんで」
そう言ってにっこり笑った燕に蒼士は皿を睨みつけていた視線を合わせて口角を上げる。
『奇遇だな、俺もだ』
表面上はにこやかに笑い合いながら火花を散らす2人からそっと視線をそらす。
「柊、もう1切れ食うか?」
「大丈夫」
「そう言えば、歌合戦どうなってんだ」
「TVのリモコンなら弥生さんの後ろにありますよ」
「今は白が勝ってんのか」
「お、もうすぐ柊の好きな奴出んじゃねぇか」
「タイミング良かったですね」
わいわい言いながら皆で歌合戦を見たり、途中で交代で風呂に行ったりしながら過ごしていると、厨房にいる香坂から内線が入った。
「お蕎麦の用意が出来たそうなので、ダイニングに移動して欲しいとの事です」
「おー、んじゃ移動するか」
柊が灯の膝から降りて歩き出そうとすると、燕に抱き上げられた。
「楽しみっすねー、香坂さんのお蕎麦」
「柊はうどんだけどな」
「あー……まぁ、似た様なもんっすよねー」
「ねー?」
柊達がダイニングに着くと、香坂が全員分の蕎麦とうどんをちょうど運び終わった所だった。
香坂は燕に抱き上げられた柊に近づいて来て、大きな手で頭を豪快に撫でる。
「おう、柊!お前のは格別美味いのにしてやったからな」
「ありがと」
灯の席には鴨南蛮、飛沫と蒼士の席には天ぷら蕎麦、弥生と燕の席にはカレー蕎麦、奏と杏路と杏の席にはとろろ蕎麦。灯と杏路の間に用意された柊の席には、おうどんに磯辺揚げとお揚げと卵が乗せられ上に小ネギが散らされている。
灯と杏と杏路と燕の大食い組には大盛り、飛沫と弥生と奏には普通より少し少なめに盛られている。柊のうどんは夕飯を少なめに取っていたが先ほど生ガトーショコラを食べた後なので、お茶碗1杯分より少し少ないくらいの量だ。
テーブルの上にはそばとうどんの他に、いなり寿司、ねぎ塩鶏唐揚げ、短冊長芋、肉じゃが、ポテト&牛肉コロッケなども置かれている。
「これ、おかわりの時って内線かければ良いんっすか?」
「食う前から次の心配かよ」
「右の受話器が厨房への直通となっていますよ」
「ふふ、了解っす」
「夕飯とおつまみと生ガトーショコラ食っといて良くそこまで入るな……」
「それ言ったら、俺より食べてる上に柊の分まで引き取ってた杏路さんの方はどうなるんすか?」
「……そんな食ってたか?」
「杏路は能力の関係で消費しているだけだからな、問題ない」
「あ、杏さんには聞いてないっす」
「何を言う、杏路の事なら俺が一番良く知っているぞ」
「どうでも良いからさっさと食べません?」
「そうだな」
「では、両手を合わせて」
「えっ、わざわざ一緒にやるんっすか」
「つべこべ言わない」
「飛沫さん、燕は放っといてさっさと号令かけて貰って良いんで」
「そうか、では……頂きます」
「「「頂きます」」」
全員でぴったり声を揃えて年越し蕎麦を食べ始める。
「はぁ、美味い」
「香坂さんのカレー蕎麦は和風だしベースで美味いんだよなぁ」
「思ったよりあっさり目でつるつる行けるっすねー」
「大盛りなのにあっという間だな」
「次何にしますか」
「あ、俺アレが食べたいんっすよね、餅が入った奴!」
「ちから蕎麦ですか?」
「そうそう、それっす」
「では私のと一緒に頼んでおきますね」
「よろしくっす」
「なにげに燕より杏路の方が早いって言う……」
「全然気付かなかった」
守り役達が大食い組の吸収率に驚いている横で、柊は灯といなり寿司を半分こにする。
「それ山葵稲荷だぞ」
「ん、好き」
「柊は案外大人な奴が好きなんだな」
「美味しい、よ?」
「鮭も好きだろ」
「うん」
灯と柊がほのぼのおかずを分け合いながら蕎麦とうどんを食べ終わる頃には、大食い組はおかわりも処理し終わってのんびり付け合わせのおかずを消費している所だった。
唐揚げを小皿に取りながら、飛沫がふと呟いた。
「そう言えば、トーナメント戦は結局エントリーしたのか?今日中で締め切りだっただろう?」
「今日のお昼に、手が空いている柘榴に出しておいてもらいました」
「そうか、団体戦は誰が出るんだ?」
「うちからは杏路さんと杏さんと俺っすよー」
「それは強そうだな」
「灯様ん所は今年も出ないんっすか?」
「俺が出れないから、多分もう団体は出ないだろう」
「そうなんっすか?飛沫さんいなくても良い線行きそうっすけど」
「個人戦の方には出てるぞ」
「へー、じゃあ本戦で当たるっすかねー」
「どうだろうな?夏目様の守役もなかなか強い奴がいるからなぁ」
「そっか、夏目様の守役は今年から参加ですっけ」
「確か役無しの試合で杏路が抜けた後にトップだった奴だろ?」
「ふぅん……何か今年は楽しそうな試合になりそうっすねー」
燕がそう言った所で、時計がちょうど0:00を知らせる。
「「「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」」」
「ん、あけましておめでとう、今年もよろしく」
「あけましておめでとう、今年もよろしくな」
新年の挨拶も終わったので、初詣に出掛ける時間になるまで仮眠を取る事になったので、柊は灯と飛沫と一緒に部屋に向かった。
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