02
お昼ご飯が食べ終わると、葉と灯は飛沫と蒼士と弥生と一緒に本邸へ向かった。
柊は奏と杏路と燕と一緒に図書塔に向かう。
廊下を歩いていると、窓の外を見て燕が声を上げた。
「お、雪降って来たっすね」
燕の声に釣られて窓の外を見ると、大き目の牡丹雪が降り始めていた。
「積もらなきゃ良いけどな……」
「雪道は運転に気を使いますからね」
「でも雪降ってんなら、参拝客は少なくなるんじゃないっすか?」
「地元の方は慣れてるのであまり関係なくいらっしゃいますよ」
「一昨年も大雪の中で普通に混んでたしな」
「へぇー、そんなもんすか」
「初詣行った事ないのか?」
「俺年末年始は大体海外組だったんで……ガキの頃には何回か行った事あるっすけど、あんま詳しく覚えてないっすね」
「あー、なるほど」
「実は年越し蕎麦も年単位で久しぶりなんで、結構楽しみなんっすよ」
「それは良かったですね」
「今日のそば打ちは香坂さんだしな」
「夕食の時にリクエストしておけば、変わり種でも用意して下さいますよ」
「え?そんなサービスがあるんすか?」
「結構臨機応変に対応してくれるぞ。鴨南蛮とかカレー蕎麦とか」
「あと蕎麦が食べられない人用にうどんもありますしね」
「そうなんっすか?何か俺、もっと格式張った感じで想像してたんっすけど」
「どんな年越し想像してたか知らねえが、何処にでもある普通の大晦日だぞ」
図書塔に着いたので、朝とは違い地下の秘密部屋の方に入る。
杏路は柊の世話を焼きながら一緒に読書をし、奏は持ち込んだノートパソコンで書類仕事、燕はイヤホンをして携帯ゲーム機で遊び始める。
途中で燕に後ろから抱き込まれたり、奏の翻訳に間違いが無いか確認したり、杏路が用意していたおやつで休憩を取ったりしながら過ごしていると、部屋の内線がなった。
柊の隣に座っていた杏路が立ち上がり、受話器のある所へ向かって行く。
少しの間何事か話して、受話器を置いた。
「誰からっすか?」
「香坂さんですよ。夕飯は普段より早めに始めるそうなので、そろそろ上がって来いと」
「あれ、もうそんな時間なんっすねー」
「あー……少し待ってくれ、あと2枚だから」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ、まだ17:30なので」
「ここ居ると、時間の感覚が曖昧になるっすよねー」
「えぇ、なので灯様が窓を付けるか検討中だと言ってました」
「窓っすか?」
「本物の窓じゃ無いですよ?壁にモニターを設置して、外の景色を映し出したら良いんじゃないかって話でした」
杏路と燕が話している間に柊は奏の膝に座って、残りの書類をざっと眺める。
内容を把握したら鮮やかなブラインドタッチでさくっと入力し、保存ボタンをおす。
「おー、さんきゅ」
「ん」
「では上がりましょうか」
「ゲーム機忘れんなよー」
「分かってるっすよ」
柊は奏に抱き上げられて階段を上がる。上に着いても奏は柊を下ろさずにそのまま歩き出したので、柊は奏の肩に額を押し付けて小さくあくびをする。
「あれ、ひぃ様おねむっすか?」
「へーき」
「夕食の後に少し仮眠を取りましょう」
「年越し寝過ごすよりはその方が良いだろ?」
「……うん」
「お蕎麦食べる頃には起こしてあげるっすよー」
ダイニングにはまだ誰も揃ってなかったが、柊達は先に食事を頂いた。
食事が終わったら、杏路が早めに食べ終えて部屋から運んで来た毛布に柊を包んでソファーに寝かせる。杏路の膝を枕にして、柊はすぐに静かな寝息をたてる。
杏路は時々柊のずれた毛布を掛け直したり落ちて来た前髪を整えたりしながら針仕事をして、奏は燕と一緒に音量を控えめにしたTVで大晦日特番を眺めている。
「杏路さん、さっきから何作ってんっすか?」
「祈のアトリエに寄った時に借りた本を見ながら刺繍の練習です」
「何でまた刺繍?」
「柊とパターン集を見た時にどんな図面が良いか話していたので、せっかくですから挑戦してみようかと」
「相変わらず、ぶれないっすねー」
「主至上主義もそこまで行くとある意味凄いな……」
「そうですか?私としては燕程では無いと思っているのですが」
「どっちもどっちだろ」
奏は不満そうに唸った燕を鼻で笑ってこたつの上のみかんを口に放り込む。
そこにリビングの扉が開いて灯と飛沫が顔を出した。
灯はだるそうに近づいて来ると、柊の顔を覗き込んで目元を綻ばせる。
「なんかお疲れっすねー」
「本邸でクソ爺どもの相手して来たからな」
「灯様、言葉遣いに気をつけて下さい」
「知るか」
「お疲れ様っす、まぁこれでも食べて元気出して下さいっすよ」
そう言って燕はこたつの上に並べられたおつまみの皿を差し出す。
「お酒、何にします?」
「奏と同じので良いぞ」
「飛沫さんはどうしますか?」
「俺は運転があるので止めておく」
「あれ?てっきりうちの車で一緒に行くもんだと思ってたんっすけど」
「燕は雪道の運転は慣れてないだろう?」
「あ、俺のせいっすか」
「気にしなくて良い、元々酒はあまり好きではないからな」
「なら燕は飲ませても問題ねぇな」
「一応何かあった時の為に素面の方が良いんっすけど」
「この2人に何かあった時は既に詰んでるから気にしなくて良いだろ」
「まぁ、それもそうなんですけど……」
「ごちゃごちゃ言わずさっさと付き合え」
「はいはい、分かったすよー」
灯と一緒に奏と燕が晩酌していると、蒼士と弥生もリビングに顔を出した。
「ただいま戻りましたー」
「おー、早かったな」
弥生はデパートの紙袋を灯のテーブルの脇に置き、こたつに潜り込む。
蒼士は側まで近づいて来てソファーに眠ってる柊に気付いて立ち止まっている。
「……眠っているのか」
「それ、あんたに関係あります?」
燕がTVを見ながら鼻で笑うと、蒼士は一瞬眉間に皺を寄せ、黙って弥生の隣に座る。
険悪な雰囲気を感じたのか、柊が杏路の膝の上で目を覚ました。
緩く瞬きを繰り返し、自分の顔を覗き込んでいる杏路をぼーっと見つめ返す。
「起こしてしまいましたか?まだ眠っていても大丈夫ですよ」
そう言って落ちて来た前髪をそっと整える杏路の掌に目を細めて、柊は毛布を被ったまま起き上がる。小さくあくびをしてからこたつの方を振り返り、小首をかしげた。
「おはよう?」
「ちょうど良かったな、柊も食うだろ?」
そう言って灯は弥生の持って来た紙袋を開けて、中から箱を取り出す。
「食べ物だったんっすね」
「今日から3日まで限定の生ガトーショコラだぞ」
「なんでも、冷やすと生チョコ、常温だとテリーヌショコラみたいな食感で、軽く温めるとフォンダンショコラみたいな感じらしい」
「味はノーマルとホワイトチョコと黒ごまだな」
「3本ずつあっから、1本温めて来てくれ。残りは1本はこのまま常温で食って、1本は冷蔵庫に入れておいて明日食べれば良いだろ?」
「では温めて来ますね」
「ナイフとフォークとか皿もいるだろうし、俺も行くっすよー」
杏路と燕が厨房の方へ向かったので、柊は毛布の中から出てこたつに移動する。
灯が崩れた所を直して、柊を膝の上に座らせた。
すぐに温めた生ガトーショコラの乗ったトレーを持った杏路とカトラリーを持った燕が戻って来たので、皆でこたつに入って杏路の持って来た方を食べ始める。
その間に杏路はテーブルの上に置かれている常温の方を綺麗に切り分けた。
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