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02


挨拶の終わった(そう)(ひいらぎ)の脇の下に手を入れてリヒャルトの腕の中からソファーに下ろす。


「コーヒー飲めるか?」

「あぁ、問題ない」

「柊はココアな」

「ん、ありがと」

「そんで、リトの従者は何処にいんだ?」

「本邸で荷物の整理をしていたんだが、置いて来た。そろそろ来るだろう」

「こっちに泊まるのか?」

「いや、夕食に呼ばれただけだ」

「なんだ、泊まって行きゃ良いのに」


奏の言葉にリヒャルトが(よう)の方を見ると、動いたり抱き上げられた時に崩れた柊の寝間着を直していた。目線は手元を見つめたままで返事が返って来る。


「もう顔合わせは済んでるんだ、柊が良いなら好きにすると良い」

「ん、良いよ」

「そうか、では稲穂(いなほ)に荷物をこちらに運ぶ様に連絡しなくてはな」


リヒャルトはそう言ってポケットの中のスマホでメッセージを送信して電源を落とす。


「切って良いのか?」

「どうせこっちに来るんだ、無駄だろう?」

「悪い主だなー」

「大体、俺は大抵の事は自分で出来るから従者は必要ないと言ったんだ」

「それでも心配になるのが親心と言うものだ」

「だから文句も言わずに連れて来てやっただろう」

「素直じゃないな、友人として一緒に留学したかっただけだろう」

「当たり前だ、高等部への留学の話の時に俺がその条件を認めさせるのにどれだけ苦労したと思っている」

「従者とは親しいのか?」

「新生児室からの付き合いだ」

「それは凄いな」

「なのに母上が直前になって渋って、結局従者として付いて来る事になったんだぞ」

「仕方が無いだろう、13才を1人で異国の地に放り込む事になったら不安にならない母親は居ない。従者を1人付けるだけでここに来れた事を喜ぶんだな」

「……分かってる」

「まぁ、そんなに不満に思う事はねえよ。多分柊付き守役の中からリトの護衛も出るからな、連れて来た従者と多少はしゃいだ所で問題は無いだろうし」

「碌に知らない人間に周りを囲まれた所でな……」

「そこは心配いらないだろう」

「そうそう、さっき会った杏路かもう1人いる(つばめ)って奴が付くとかだぞ」

「それは大丈夫なのか?」

「ま、杏路は見るからに強者って感じでは無いから不思議に思うかもしれないが、アレで反則級に強い。しかも能力者だしな」

「そうだったのか、女性的ではないが十分華奢な部類に見えたが……、人は見かけによらないと言う事だな」

「まさにその表現を体現した様なやつだからな……」

「味方にしておいてあれほど安全な男は居ないぞ」

「そうか、さっき軽く会った感じでは合わないという事は無さそうだから良かった」


そこまで話した所で、リビングの扉が開いて小柄な青年が入って来た。


「失礼致します」

「遅かったな、稲穂」


声を掛けられた稲穂はリヒャルトを冷めた目で一瞥した後、葉の座っている側に立つ。


「挨拶が遅くなり申し訳ありません葉様、本日よりお世話になります」

「自分の家だと思って、ゆっくりして行きなさい」

「ありがとうございます」

「そう堅くならなくて良い、ここには五月蝿い人間はいないからな」

「はい」

「この子は柊だ」


葉はそう言って葉の背中に半分以上隠れる様にピッタリくっついていた柊を膝に乗せた。


「初めまして柊様、朝霧 稲穂と申します。私の事は稲穂と呼び捨てて頂いて構いませんので」

「僕も、柊で良いよ」


柊の後ろの葉が小さく頷いたのを見て、稲穂は柊に優しく笑いかける。


「では、柊と呼ばせて頂きますね」

「ん」

「リトの事で困ったら遠慮なく私に言って下さい」

「それは流石に酷くはないか?」

「いつまでも子供じみた反抗を続ける人間には正しい評価だと思いますが?」

「電源切った事、そんなに怒っているのか?」

「私が怒っているのはスマホの電源を落としたことではなく、本邸での対応を押し付けて縁側なんかで眠っていた事についてです」

「なんだ、そっちか」

「何だとは何です?大体貴方は何時も……」


柊の前から立ち上がった稲穂がリヒャルトに説教を始めたので、挨拶しようとしていた奏は稲穂の分のコーヒーをリヒャルトのカップの横に置き、柊と葉の隣に座った。


リヒャルトが視線で助けを求めたが、奏は片眉を一瞬上げると関係ないとばかりにカップを口につけた。奏は笑って手をひらひらさせているので助ける気が無いと判断し柊に視線を移したが、柊は小首をかしげてリビングの扉を指差した。柊の仕草を"自分達は邪魔だから外に出てようか?"と言う意味に取ったリヒャルトは諦めて大人しく説教を受けている。


稲穂はここぞとばかりに色々ぶちまけている。最初の方にリヒャルトが面倒くさそうに相手をしたせいでヒートアップして周りが目に入っていない様だ。


大人しくリヒャルトが説教を受け始めた所で、奏が柊に小さな声で話しかける。


「で、何で扉を指したんだ?」

「もうすぐ杏路が来るから」

「そう言えば、食事の用意しに行ったんだっけか」

「稲穂が着いた事は伝えたか?」

「葉様に挨拶している間にメッセージ飛ばしたんで」

「なら良い」


そのまま説教の様子を眺めていると、大して待たずにリビングのドアが開いた。

そこから杏路がワゴンを押して部屋の中に入って来る。


「お食事の用意ができましたので、お持ちしました。テーブルに並べても?」


杏路の登場に自分が何処に居てどう言う状況なのか思い出した稲穂の顔が赤くなったり青くなったりする。稲穂はとりあえず配膳の手伝いをする為、杏路の方に駆け寄った。


「すみません、私がやりますので」

「お客様にお手伝いさせる訳には行きませんので、大丈夫ですよ。お気持ちだけありがたく受け取っておきますね」

「いえ、そんな……」


食い下がろうとした稲穂は笑顔で手早く用意を始めた杏路の姿を見て言葉を飲み込む。


「……ではお言葉に甘えて、よろしくお願いします」


稲穂はリヒャルトの隣に腰掛けて、向かいのソファーに座る葉達に深々と頭を下げた。


「お見苦しい所をお見せしてすみませんでした」

「誰も気にしていないから、顔を上げなさい」

「何かあったのですか?」

「祈にキレる綾瀬みたいになってただけだから、別に大した事じゃ無いぞ」

「本当にすみません……」

「気にしなくて良い、それより挨拶がまだだったよな?柊の守役で花森(はなもり) 奏だ」

「あ……挨拶が遅くなってすみません、朝霧 稲穂と申します」

「おー、よろしく」

「よろしくお願いします」


話している間に杏路はリヒャルトと稲穂の前に食事、葉と奏の前にお酒とおつまみ、柊の前にアイスを並べた。奏がテーブルの上に用意された自分の分を向かい側のリヒャルトの隣に移動させて席を空けたので、杏路は自分の分の飲み物を持って柊の隣に座る。


「冷める前に食べてしまいなさい」

「はい、頂きます」

「頂きます」


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