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03


自分の事については正直、柊はかなりのハイスペックだと思う。


記憶力が良く一度見たものは忘れないし、見て覚えたものに対する再現率がとても高く、どの分野も人並み以上にこなす事ができる。運動神経も良いし、顔は客観的に見ても才と榛奈の良い所だけを集めて、完璧な配置をしたみたいな容姿なので文句無しに極上といえるし、はっきり言って柊は一番のチートキャラではないだろうか?


しかも柊は、あの誕生日の後から朽木家由来の精神感応能力を使えるようになった。


柊の能力は一族の中でも群を抜いて強いものらしく、一目見ただけでその人が信用できる人間かどうか何となく理解できる。おかげで水鷹だった頃の様に、自分以外の全人類を警戒するレベルの人間不信は発症せずにすんでいる。


まぁ、欠点を上げるとするならその能力のせいで他人の感情に敏感すぎる所だろうか?


朽木家由来の能力持ちの人間は総じて、精神的な事が体調に直結している為、力のコントロールがまだ完全ではない柊はそれを元に体調を崩しやすくなっているらしく、柊が倒れて入院する事になったのもこの力が発現したのが原因だそうだ。


才が今までほとんど交流を断っていた親戚との関係を修復しようと思った理由は、仕事が忙しく常に側についている事が出来ない為、柊にもし何かあった時に能力者についての対処に困らないようにという事のようだ。元々、才が一方的に後ろめたく思って距離を取っていただけで、朽木家の人間も才との関係を修復する事に異存はないようだ。現在朽木家で確認されている能力者が他に3人しかいない事もあり、大歓迎ムードらしい。


色々調べたり読んだりしている内にあっという間に時間が過ぎていて、柊がパソコンの時間表示を確認すると12:00を少し過ぎた所だった。


柊はパソコンの電源を切って読みかけの本を本棚に戻し、1階に向かった。



柊が昼食を食べ終わって千春とのんびりお茶をしていると、13:00ちょうどに玄関のチャイムが鳴った。昨日才が迎えに来ると言っていた緋野さんだろう。


一応、別人だったら困るので、柊は千春に頼んでモニターをきちんと確認する。


「はい」

「はじめまして、緋野(ひの) 杏路(きょうじ)と申します。柊様をお迎えにあがりました」

「はいはい、緋野さんね?才様から話は伺ってますわ、今向かいますから少々お待ち頂けるかしら」

「はい。お待ちしてますので、急がずにいらしてください」


柊の出掛ける準備は既に整っていたので、千春と一緒に玄関へ向かう。


玄関で靴を履いて扉に手をかけた柊が開けるのを躊躇っていると、千春は不安そうに振り向いた柊に向かって親指を立てて空いている方の手を振って微笑んだ。


柊は小さく頷いた後、千春に手を振り返して玄関の扉を押し開けた。


玄関扉より少し離れた所にはきっちりスーツを着た20代前半だと思われる若い男の人が立っている。綺麗な黒髪は後ろで一つにまとめられていて、清潔感があり、長身だが、体型的には細マッチョなので、あまり威圧感はない。


男性の後ろにある門の脇には、黒のワゴンが止められていた。


柊を迎えに来たと思われる男性はゆっくりと近づいて来て、柊よりも少し手前で立ち止まり、膝を折って目線を合わせてくれる。


「初めまして、緋野 杏路(きょうじ)と申します。柊様をお迎えにあがりました」


どんな人間が迎えに来るのか不安だったが、エメラルドグリーンの瞳が優しく緩むのを見て、何となく"この人は()()だ"と思えた柊は、ほっと息を吐いた。


「朽木 柊です。よろしくおねがいします」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は分家の人間なので、普段通りの話し方で大丈夫ですよ。」

「ん」

「では行きましょう。前と後ろ、どちらにお乗りになりますか?」


柊は小さな足で車に近づくと、助手席のドアに手を伸ばす。


「かしこまりました」


後ろから追いかけて来た杏路が柊の代わりにドアを開け、抱き上げて助手席に乗せる。

運転席に座って柊の分のシートベルトもしっかり閉めて杏路は車を緩やかに発進させた。


目的地に到着するまで特に会話は無かったが、柊は不思議と苦痛だとは思わなかった。



才の経営する「四季グループ」が所持している商業施設は、季節の数と同じ4つあるショッピングモールと百貨店、会員制専門用品店の6つの施設で構成されている。


今日ランドセルを購入する為にやって来たのは百貨店の方だ。

こちらは厳選された高級(ハイ)ブランドや、オーダーメイドのお店が数多く中に入っている。


特別会員専用の玄関に車を止めた杏路は助手席のドアを開け、柊のシートベルトを外してから、抱き上げた柊の体を地面にそっと降ろしてくれた。


特別会員限定で係員が代わりに車を止めて来てくれるサービスがあるようで、杏路は車に気が付いて出迎えに来た案内係の人間に車の鍵を預ける。案内人は横に立っていた制服姿の男性に車を移動するよう指示し、柊達を中へ案内する。


入ってすぐの所にある受付で身元を照会後、才の予約した部屋まで案内される。


杏路の差し出した手を握って案内人の後について行くと部屋の中には既に才が着いており、書類を整理していた手を止めて近づいて来た柊の体を膝の上に抱き上げた。


「体調は問題ない?」

「ん」


柊の頭を撫でた才は、自分の護衛と一緒に壁際へ並んだ杏路に視線を合わせる。


「ここまで連れて来てくれてありがとう」

「いえ、それが私の職務ですので」


杏路はそう言って優しい目で柊を見つめ、ほんのりと微笑んだ。


「柊はここに来るのは初めてだよね?」

「うん」

「帰りに受付で、指紋登録しておこう。あと会員ナンバーとパスワードも教えるから、一応覚えておいてね?そうすれば手持ちが無くても買い物が出来るようにしておくから」


多分一人で来るような事はそうそうないとは思うが、柊は少し首を傾げた後に頷いた。


「まぁ、念のためにね」


才は柊の鼻の頭を人差し指で軽く押してから、扉の側に控える販売員に声を掛ける。


「じゃあ、本命のランドセルから見ようかな?」

「では事前予約分の商品をお持ちしますので、少々お待ち下さいませ」


販売員が出て行ってすぐに、目の前の広いテーブルに商品が運び込まれる。

シンプルなものから少し凝ったものまで、6種類のランドセルが机に並べられた。


「気になるものがあったら、中を見させてもらうと良いよ」

「……ん、これ」


店員が手早く箱から商品を取り出し、説明をしながら中を見せてくれる。

その後は結局全部の商品を細部まで見せてもらった結果、1番初めに見たものにした。


「こちらの商品、現在4種類のカラーバリエーションがございますが、どうされますか?」


柊はランドセルの入っていた箱のショコラブラウンと書かれた部分を指差した。


「かしこまりました。すぐにご用意致しますので少々お待ち下さいませ」


こうして無事、柊のランドセルを買う事ができた。

その他にも柊の初等部入学に際して必要な持ち物を揃えて、柊達は部屋を後にする。


才は帰りがけに受付で柊の指紋登録と諸々の手続きを忘れずに済ませてから柊の体を抱き上げ、特別会員専用の出入り口へと向かう。


柊は来た時とは違い才付きの護衛兼運転手の(すずめ)が運転する車で帰る事になったので、先に店を出ていた雀が回して来た車に乗り込む。


ちなみに、杏路は柊が乗って来た車を運転して後ろから付いて来る事になっている。


才の乗っている車は運転席と後部座席に仕切りがあるタイプのとても機密性が高い車だったので、ずっと気になっていた事を色々と聞いてみる事にする。


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