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杏から受け取った絵を柊が仕舞った所で、確認の終わった柘榴が部屋に入って来た。
「おぉ、また何や色々増えとるみたいやな」
「柘榴が描いた部分もあるのか?」
「この絨毯、僕が描いたんやで」
「そうだったのか、最初絵と気付かなくて驚いた」
「この絵描いた頃はトリックアートにハマっとってな~」
「なるほど」
「ちぃさんは何処描きよん?」
「灯ちゃんと収納扉の所」
「あぁ、せやから檻の位置が変わっとるんね」
「前はどんな感じだったんだ?」
「前は扉んトコは壁になっとったで」
「と言う事は、この檻の向こう側の景色を描き足したって事か?」
「うん」
「反対の部屋も絵描いてんやで」
杏が見てみたいと言うので3人で反対側にある部屋に移動し、柘榴が開けた扉の先には学校の美術室みたいな風景が描かれた部屋が広がっていた。
「凄く懐かしい感じがするな」
「やんな、桜ノ宮の旧美術室がイメージらしいで~」
「俺が入った時には既に旧館は壊された後だったから実物を見た事は無いが、窓の外の景色は確かに桜ノ宮だな」
柊は部屋の隅に描かれた掃除用具入れの前に立ち杏を呼ぶ。
「何かあるのか?」
「あぁ、扉んとこ押してみんとわかるで。中がお手洗いになってんよ」
言われた通りに杏がロッカーの絵の部分を押してみると、壁が開いた。
中には海が広がり、床には海面が描かれている。
「……綺麗だが、使いにくくはないか?」
「そこ見よるん全員が落ち着かん言いよるで~」
「だろうな」
「現像室の中にも何か描かれていたりするのか?」
「こん部屋は暗いけん、何も描かれとらんよ」
そう言って柘榴が美術準備室のプレートのかけられたドアを開けて暗い室内を見せる。
薄暗い部屋の明かりを柘榴が点けると、室内には現像用の機械やコピー機、最新の3Dプリンターなどが揃えられていて機械オタクの杏の目が光った。
「少しここで見てても良いか?」
「えぇけど、勝手に改造したりはせんとってな?」
「あぁ、分かってる……」
機械に釘付けな杏を残して、柘榴と柊は現像室を出る。
「暇んなってしもうたな〜、一緒にお絵描きでもしよか?」
「ん」
画材の仕舞ってある部屋からスケッチブックと色鉛筆を引っ張り出して、作品部屋からクッションを運んで来て、アトリエの円形ステージへ一緒に寝転がる。
持って来たスケッチブックを開き、両側から描き込んで行く。
最初はお互いに好き勝手描き散らしていたが、その内一緒に1枚の絵を描き始める。
自然と横並びになって好きな様に色を付けたり描き足したりして楽しむ。
*
気が付いたら時間を忘れて一緒に絵を描いてる柘榴と柊の側で杏がスケッチブックを覗き込んでいた。
「あ、集中しとって気付かんかった」
「いや、見てるだけで十分楽しめたから気にしないでくれ」
「悪いけんど、これだけ描き上げてしまうけん、もう少ぅし待っとて〜」
「あぁ、構わない」
柘榴と柊は最後の絵に仕上げの色を塗ってから、色鉛筆をケースに仕舞う。
柊が杏と一緒にクッションを片しに行く間に柘榴が色鉛筆を片しに行く。
最後に全員で戸締まりの確認をして、アトリエを後にする。
杏と柘榴が手を繋いで弾む様な足取りで歩く柊を微笑ましげに眺めながら、固まった体をほぐす為に屋上庭園を全員で軽く一周して、2階に続く階段を下りる。
本棚の裏から出て柊達が1階に下りると、用事を終わらせて帰って来ていた灯と飛沫がリビングで休憩していた。反対側のソファーには燕と弥生が座っている。
「アトリエ行ってたんだって?」
「ん、おかえり」
「おう、ただいま」
近づいて来た柊を膝の上に乗せて、灯が笑う。
柘榴と杏も近づいて来て、向かいのソファーの空いているスペースに座った。
「お邪魔しとります」
「柘榴か、久しぶりだな」
「暫くご厄介んなりますわ〜」
「中、見て来たんだろ?」
「ざっと見ただけやけ、また増えとるようで今から楽しみにしとりますよ〜」
「好きに使って良いぞ。後で飛沫の鍵貰っておけ」
「ほんなら、お言葉に甘えます」
「それより腹減ってねぇか?昼食食べ損ねて用意させたんだが、柊達も食べるだろ?」
そう言って灯が示したテーブルの上には、灯にはカフェオレ、弥生にはブラックコーヒー、飛沫と燕にはミルクティーが置かれ、真ん中にはケーキスタンドが用意されている。
ケーキスタンドの1段目には、一口サイズの卵と胡瓜、ローストビーフのサンドウィッチと生ハムとサーモンのオープンサンド。2段目には、皮付きのポテトと白身魚のフライにディップ用のタルタルソースに半月型のミートパイ。3段目には、マカロンやフロランタン、檸檬のカップケーキやチョコレートムースケーキなどが乗せられている。スタンドの脇にはスコーンの入った籠と、クロテッドクリームとチョコレートホイップの入ったカップに、カットバターの並んだ小皿とメープルシロップの入った瓶が並べられている。
「じゃあ俺、飲み物用意してくるっすよ。何が良いっすか?」
「悪いけんどレモンティーお願いするわ」
「俺は甘めのミルクティーを」
「はいはい、少々お待ち下さいっすよー」
そう言って燕はダイニングの方に歩いて行く。
「このスコーン、ちぃさん達が焼いたんやなか?」
「あぁ、そんな事言っていたな」
「昼過ぎに俺と燕と柊で焼いたんだ」
「美味かったぞ」
「ありがと」
燕が飲み物を乗せたトレーを持ってダイニングから戻って来た。
柘榴の前にはレモンティー、杏の前にはミルクティーを置き、灯の膝の上に座る柊の手には甘いカフェオレを持たせる。
「3人は上でずっと何してたんっすか?」
「部屋ん中見て回った後は、ずっとちぃさんと2人で絵描きよったで〜」
「俺は現像室で機材の確認をしていた」
「もしかして、柘榴が持ってるスケッチブックか?」
「何を描いたのか気になるな」
「見せてみろ」
そう言って灯が出した手に柘榴がスケッチブックを渡す。柊はテーブルに自分のカップを置き、灯が受け取ったスケッチブックを素早く奪い取ってお腹に抱えた。
「柊、あーん」
そう言って弥生がタルタルソースたっぷりのフライを口元に持って来た。
柊が食べてる隙に奪い返そうと考えた様だが、流石にそれに引っ掛かる程馬鹿じゃないので、スケッチブックをガードしつつ、ありがたくフォークの先のフライを味わった。
「流石に無理があるだろ」
「やっぱ?」
「普通に頼んで見せてもらえば良いだろう」
「ひぃ様ー、恥ずかしがらずに見せてくださいっすよー」
柊は笑って灯の膝の上から飛び降りると、ちょうどリビングに入って来た杏路の元へ行き、だっこをねだる。不思議そうに柊を抱き上げた杏路が柊の腕の中のスケッチブックを見て状況を把握したのか、そのままリビングを出て行ってしまった。
残った大人達が残念そうにケーキスタンドに並べられた物を消費していると、暫くしてスケッチブックを手に杏路が戻って来て、灯に手渡す。
「夕食までには戻して下さいね」
「杏路さんそんな事して良いんすか?」
「えぇ、ちゃんと本人からは許可を貰ってありますので」
「え、どんな手をつかったんっすか?」
「秘密です」
杏路は口元に指を立てて、静かに微笑んだ。
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