12 *8月の第3週
最初はぎこちなかった柊と杏も、杏が持って来た機材を一緒に組み立てたり、燕と奏と杏と4人で別荘近くにある大型ショッピングモールにスイーツ巡りに出掛けたり、実は泳げなかった杏の練習に付き合ったりしている内にかなり打ち解けた。
柊の守役は、新しく柘榴が合流し、燕と杏が継続。杏路が戻り、奏が休暇に入る。
灯の守役は、休暇明けで弥生が戻り、飛沫と睦月が継続。蒼士はまだ休暇中。
杏路が、新しく合流する柘榴と弥生を本邸まで迎えに行った。合流は午後になる予定だ。
なので今日からの1週間は10人が別荘の正式な滞在人数になる予定だ。
*
柊と灯は早めに目が覚めたので玄関前のロータリーで杏路を見送った。
まだ起きるには早い時間なので、灯と柊はベットの上で一緒にのんびりする。
呼びに来た飛沫と燕と一緒に1階に降りて、ダイニングに行く。
皆でマカロニサラダにクルトンたっぷりのコーンスープ、ベーコンチーズとメープルシロップたっぷりの2種類のフレンチトーストとギリシャヨーグルトで少し遅めの朝食を取る。
柊は本家に呼び出された灯と飛沫と睦月と一緒に帰省する奏をロータリーで見送ったあとは、杏と燕と一緒に地下1階の遊戯室に移動した。
杏が別荘のセキュリティーシステムをアップグレードするついでに何処からか許可を取り付けて、遊戯室のシアタースペースで現在上映中の映画も見られる様に設定したので、3人で昨日公開の映画を見るつもりだ。
全員甘党なので飲み物は濃いめのカルピスに練乳アイスを浮かべた物を燕が用意する。
テーブルの上には宝石の様なチョコレートとねこのにくきゅうの形のギモーヴ、明太バター味とサワークリームオニオン味のポテトチップスなどのお菓子が並べられている。
燕が部屋の照明を薄暗くし、手早くモニターの準備をする。
映画は、戦闘機のエースパイロットだった主人公が訓練中に事故に遭い左耳が聞こえなくなる所から始まる。幼い頃からパイロットになる為だけに人生を捧げて来た主人公の絶望は深く、退院したその足で母親の墓参りに行き、自殺を決意する。墓参りの終わった帰り道に最後に好きな物を食べようと思い立った主人公がファミレスに立ち寄ると、相席を頼まれる。了承されて案内された席には男が座っていた。料理を待つ間に意気投合した主人公は、食事の後に男の泊まっていると言うホテルのバーへ行き、泥酔する程酒を飲みフラフラになった主人公は、男の部屋に着いた所で記憶が途切れる。翌朝目が覚めると、隣のベットには見知らぬ女の死体が転がっており、驚いた主人公が慌ててフロントに連絡する。すぐに駆け付けた警察に犯人扱いされた主人公は証拠不十分で何とか拘束を解かれたが、自身の無実を証明するため独自のつてを使い事件を調べ始める。女の身元や消えた男を調べて行く内に、主人公の事故に繋がる情報へ辿り着く。主人公は真相を暴くため危ない橋を捨て身で渡り、やがて自身の隠された出自の謎や信じていた親友の裏切りを知る。
主人公が犯人のアジトと思われる廃墟に踏み込んだ所で、映画は終わる。
実はこの映画、前編後編の2本立てなのだ。燕が不完全燃焼気味に悲鳴を上げる。
「えぇ、ここで切るとか無いっすよー」
「結末が知りたければ、後編を見るしか無いという事だな」
柊は手元のスマホを操作して、画面に映画の情報を表示させて燕に渡す。
「後編は来週の土曜から公開する予定みたいっすねー」
「残念だったな」
燕は見終わったスマホを柊に返す。
「昼食にはちょうど良い時間っすねー」
「そうだな、そろそろ上がるか」
杏がモニターと照明を戻している間に、燕と柊で一緒にテーブルの上を片付ける。
忘れ物が無いのか確認を済ませて、柊は燕と杏と両手を繋いでダイニングに向かう。
3人が席についてすぐに、ルイスはチーズたっぷりのオムグラタンとオニオンスープ、カリカリベーコンとレタスの卵乗せサラダを目の前に運んで来る。
ルイスも一緒に4人での食事を終えて、デザートのティラミスを食べる。
「杏路さん達が着くまで、あと1時間ぐらいっすかね?」
「映画を見るには流石に短いな」
「午後は何します?」
「もし何もする事が無いのであれば、お菓子作りなどはいかがですか?」
「お菓子作り?」
「えぇ、クッキーとスコーンを焼こうかと思っていまして」
厨房へ移動し、ルイスの指導のもとお菓子を作る。
と言っても材料は既に揃えられているので、柊達がやるのは混ぜて焼く部分だけだ。
スコーンは三角形の形に整え、プレーン、チョコチップ、抹茶の3種類の味を用意。
クッキーは各自好きな形で型抜きをしたりアイシングをしたりして天板に並べて行く。
最初のクッキーとスコーンが焼き上がる頃に、杏路から柊のスマホに連絡が入った。
後15分くらいで着くという事なので、残りの生地も焼いて行く。
味見して綺麗な物をお皿に乗せた所で、門のブザーがなった。
ルイスが外に出迎えに行き、杏と燕と柊は後片付けをしてリビングへ移動する。
少しして、ダイニングへ杏路と弥生の後に続いて栗色の天然パーマとライトブラウン瞳を持つ小柄な男性が入って来た。手荷物をソファーの空いているスペースに置く。
「僕は草薙 柘榴ゆうん、よろしな〜」
「うん、よろしく」
「ちっさい頃から色んなトコ行きよったかんな~、方言ごちゃ混ぜやん堪忍ね」
「ん」
「ちぃさんとはちみっこ仲間やな」
「柘榴さんと違ってひぃ様は将来的に伸びる可能性大ですけどねー」
「自分、一言多いな〜」
柘榴は燕の脇腹を笑いながら軽く叩く。
「じゃれ合うのは後にして、焼きたてのクッキーとスコーンでもいかがですか?」
ルイスが人数分の飲み物と粗熱の取れたクッキーとスコーンをテーブルに並べる。
「午前中、お菓子作りしてたのか?」
「いや、朝は映画を見ていた」
「お菓子を作ったのはお昼ご飯の後っすよー」
柘榴はテーブルの上のクッキーを、弥生はスコーンを手に取って口に運ぶ。
「美味いな」
「バターの風味がしっかりしとんにくどないで、美味しいで」
「まぁ、両方とも生地はほとんどルイスさんが作った様な物っすからねー」
「混ぜて飾り付けして焼いただけだな」
「ほうなん?見かけも売っとんのとそない変わらんけどなぁ」
「スコーンもさくさくで美味いぞ」
「ジャムも色々あるので、お好きな物を付けて食べて下さいね」
「良い食べっぷりっすねー」
「3人は昼食は取って無いのか?」
「いえ、下で食べてきました」
「へぇー何食べて来たんっすか?」
「回転寿しば食べて来やったんよ〜」
「久しぶりに行ったら、すし以外にも色々あって結構楽しかったぞ」
「そっちは何食べてん?」
「ルイスさんお手製のチーズたっぷりオムグラタンっすよ〜」
「羨ましかねぇ」
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