05
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柊がストレッチが終わって周りを見渡すと、所在無さげに側をうろうろしている飛沫を残して、皆はプールで遊んでいる。
「あのオッサンは運動神経抜群なんで、安心して遊んでもらうと良いっすよー」
柊にそう言い残して、燕も騒がしいプールに混ざりに行く。
横にいた杏路が少し苦笑いしながら、飛沫に柊を預ける。
「水泳を実践するのは初めてですが、柊には知識も経験もあるので、何か問題が無いか見守っていて下さるだけで構いません」
「あぁ、わかった。……ん?実践した事が無いのに、経験がある??」
不思議そうに首をひねっている飛沫に笑いかけて、杏路は部屋の中に戻って行く。
「あー、じゃあやるか?」
「うん」
っと言っても、柊は特に飛沫に教わる事は無い。
前世でも泳ぎは得意な方だったし、柊の身体能力は水鷹のときよりも遥かに高いので。
柊の身長だと足が着かないので、先に入った飛沫に支えられてプールの中に入る。
冷たさに覚悟をしていたが、体に触れた水は思ったよりも冷たくは無かった。
一度水面に顔を付けてゴーグルの具合を確かめると、柊は掴まっていた手を放した。
水の感覚を確かめていると、慌てた様に飛沫に水中から引き上げられたが、柊のきょとんとした顔を見て溺れた訳ではないと分かったようだ。
「……大丈夫そうだな」
「ごねんね?」
「いや、溺れた訳で無いのなら良い」
飛沫はそう言って柊を抱え上げていた腕を降ろした。
「水に潜るのは問題無さそうだな」
「うん」
「バタ足の練習は必要か?」
「平気」
「分かった、何かあったら呼べ」
「ん」
問題ないと分かったので、柊は潜水して床にタッチしてみたり最長でどのくらい潜っていられるのかを確認して自由に水中を楽しむ事にする。
すぐ側で見守っていた飛沫も問題ないと判断したのか、特に何か言われる事もない。
柊は想像したよりも軽い体で、水の中を自由自在に泳ぐ。
面白がって捕まえてこようとする燕や睦月や弥生の腕をするりと躱して逃げる。
水深が深めのプールなので、床のすれすれを泳いでみたり、壁を蹴った反動で躱したりしていると、灯や奏まで参戦して来たが、小回りの利く体で上手く翻弄する事が出来た。
疲れたら飛沫の後ろに回って休憩を取る。
そこにいる間は飛沫が大人達をスマートに撃退してくれるので、浮き輪で揺れている祈の上に引き上げられて、水面に投げ飛ばされる大人達を一緒に眺める。
飛沫との攻防に気を取られている内に祈の影で潜水して、離れた所で顔を出す。
「御探しの人物は、あちらですよ」
「はっ?いつの間に」
「今度こそ捕まえるっすよ」
「俺等は燕が捕まえ損ねた所を、挟み撃ちでもするか」
「そうだな」
「灯様なら何処へ躱そうとするか分かるんじゃないっすか?」
「無理言うな、柊は能力の中で遮断が一番得意なんだぞ。それにその場で咄嗟に対応しているから、読めた時には躱された後だ」
「どうでも良いが、追っかけないのか?」
「あ、行きますよー」
そのまま水中鬼ごっこの続きを暫く楽しんでいると、背後から伸びて来た腕に水面に優しく引き上げられた。どうやら引き上げたのは杏路の様だ。
「時間を忘れて楽しんでいる所申し訳ありませんが、そろそろ準備の時間ですよ」
「おっ、もうそんな時間か」
「時間が経つのはあっという間でしたね」
「じゃあ、切り上げて上がりますかね」
全員潔くプールサイドに上がって行く。柊も杏路に片腕に座らされたままプールを出る。
プールサイドから大浴場に直接繋がる扉をくぐり、手早く着替えてリビングに集合する。
部屋に残っていたルイスと綾瀬も合流した。
「そうだな、飛沫、睦月、弥生、奏の年長組は俺と設営の手伝いだ」
「では、綾瀬、杏路、燕、柊様は私と一緒に料理の下拵えを手伝って頂きましょうか」
灯とルイスの号令で、各自自分の持ち場に分散する。
料理の手伝いは苦労するかと思ったが、ルイスが吃驚するくらいには問題なく進んだ。
綾瀬は医師と言う職業柄、手先は器用な様だ。杏路は香坂直伝の料理スキルがあるし、燕は一時期お菓子作りに嵌ってた事があるらしく、慣れた手つきで処理して行く。
体が小さくて若干やりにくさは感じたが、柊も前世の経験を生かして何とか貢献できた。
「皆さん器用で助かりますね」
「いえ、御役に立てて何よりです」
「全員料理経験が?」
「俺の場合は緋野の強化合宿で料理の基礎とある程度の自炊能力は鍛えられましたねー」
「私は本邸にいた頃に香坂さんに教わりました」
「私が包丁を握ったのは、今日が初めてですね」
「その割には切るの早くて的確っすよね」
「まぁ、体を切るのは慣れているので。似た様な物です」
「いや、絶対違うっすよね?」
「似た様な物です」
「えー」
「柊様も手際が良いですね」
「時々、家でお手伝いしてるから……」
「そうなんですか、偉いですね」
「ふふ」
柊がくすぐったそうに照れ笑いを浮かべると、柔らかな雰囲気が広がった。
手際よく作業が進められたので、空いた時間に野菜を型抜きで色々な形にくり抜いたりデザートの種類を増やしたりしていると、奏が呼びに来た。
「設置完了したんで、もう焼けますよ」
「そうですか、少し早いですが材料を運んで焼き始めてしまいましょうか」
「俺も手伝いますよ」
「ありがとうございます。では、重たいスープや飲料の方を御願いできますか?」
「了解です」
「じゃあ俺、お肉運ぶっすよー」
「では私は魚介類を」
「それなら私は食器やカトラリーを担当します」
「柊様はサラダを運んで頂けますか?」
「ん、わかった」
「では皆さんよろしく御願いします」
ダイニングからは直接庭に出れるので距離はそこまででもないが、とにかく量が多いので何度も往復しなければならないのが地味に大変だった。
何しろ柊の守役の奏、綾瀬、杏路、祈、燕の5人と、灯の守役の飛沫、睦月、弥生にもう1人合流予定なので4人。ルイスと灯と柊の、計12人分の食事なので。
柊の運ぶ物が無くなったので、設営終わりの年長組に混じって大人しく待っている。
手際よく火起こしを終わらせた灯が来て、軍手を外した手で柊の頭を豪快にかき乱す。
柊は側にいた飛沫にだっこをせがんで仕返しに灯の頭もぐしゃぐしゃにする。
それを見て笑っていた睦月と弥生の頭を灯がぐしゃぐしゃにしたので、灯に仕返しする代わりに横にいた奏と祈の頭をぐしゃぐしゃにする。
2人は唯一被害に会っていない飛沫を狙ったが、柊を抱えたまま簡単にあしらわれたので、代わりに腕の中にいた柊がぐしゃぐしゃにしてみた。飛沫は少し驚いた様だが、笑って柊の頭をぐしゃぐしゃにしようとしたので、灯に手を伸ばして逃げ出した。
灯の腕から降りた柊が逃げ出すのを追いかけているうちに鬼ごっこが始まり、その後はルイスに声をかけられるまでずっと走り回っていた。




