04
祈の緩い暴露に、守役全員の時間が一瞬止まった。
「あ?本登録届けは承認式の後に出すもんだろ??」
「貴方が言っているのはまさか、正式な異動願いの事じゃありませんよね?」
「それも出したよ~。あれ、皆知らないの?なんか、本登録されるのは承認式の後になるけど申請だけは先に出来るって言われて書いたんだけど」
「そうなのか?」
「聞いた事無いですよ、そんな話」
「でも葉様が言ってたよ~」
「そうなんですか?灯様」
「おう、申請だけなら先に出来るぞ」
「マジっすか、俺全然知らなかったっす」
「戻ったらすぐに出さないと」
「祈より後に申請ってのは納得いかないが……」
「私もです」
「杏路にも教えとかないと」
「あいつならとっくに出してるから心配いらねぇぞ」
「そうなんっすか?」
「おう、実は俺も杏路が申請書持って来て初めて知ったんだけどな」
「でもぶっちゃけ、出来るのって申請だけなんっすよね?」
「俺等の時は申請中だと守役候補よりも権限が増えるって言われて出したよな」
「えぇ、先任の静流さんに教わりました」
「普通はこれだけ早い段階で守役が付く事自体珍しいからな。まだ教えなくても良いって判断されたんじゃねぇの?」
「中学入学する前に任命式するのは、能力持ちの人間だけですから」
「各当主と次期当主、後は灯様と京様の守役ぐらいしか知らないんじゃないですかね」
それまで黙って話を聞いていたルイスが、不思議そうに尋ねる。
「素朴な疑問なのですが、その話は柊様の前でしてもよろしいのですか?」
「「「あっ!」」」
祈以外の守役全員がしまったという顔をして柊の方を見る。
「心配すんな、どうせ能力持ちには隠せねぇからな」
灯が面白そうにそう言うと、全員がほっとした様に息を吐いた。
「ただ今戻りました」
そこへ買い出しに出掛けていた杏路が帰って来た。
「お帰りなさい」
「ご苦労様でした。昼食はどうされますか?」
「下で食べてきましたので、大丈夫です」
「そうですか、では飲み物だけご用意しますね」
「では、コーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
「盛り上がっていた様ですが、何の話をされていたのですか?」
「本登録が申請だけなら出来るって話だ」
「なるほど」
「杏路さんはもう出したんっすよね?」
「えぇ、異動願いと一緒に」
「俺等も帰ったら出さないとなって話してたんだよ」
「?貴方達2人は私と一緒に出している筈ですよ」
「あいにくと、出した覚えが無いんだが」
「俺も覚えてないっすねー」
「異動願いを書く時に一緒に申請書も渡しましたよ?」
「あ?もしかして、2枚目と3枚目が本登録届けか?」
「そうですよ」
「まじっすか……何だ、焦って損したっす」
「全然気付かなかったわ」
「では、まだ提出していないのは私だけの様ですね」
「順番はさして重要じゃないからそこまで気にする事も無いとは思うけどな」
「珊瑚と杏と柘榴はまだ会ってすらいないですしね」
「長期休暇の間には会えんだろ」
「一応、今いる人間が夏期休暇中は、補充要員が必要ですしね」
「だな」
切りのいい所でちょうど全員の食事が終わったので、午後はまたプールで遊ぶ。
少しして持って来た本が読み終わったので、柊も部屋に戻って水着に着替える。柊は日に焼けても赤くなってひりひりするだけなので、杏路に日焼け止めを塗ってもらう。
用意が終わってプールサイドへ戻ると、奏が知らない人と話をしているのが目に入った。
確か灯の守役があと2人いると聞いているので、その内の1人だろう。
背の高い奏と比べても頭1つ分程高い身長にと切れ長で鋭い目をしているので、見かけだけならかなり近寄りがたい外見をしている。柊も能力で安全だと分かって無ければ、人見知りを発動して絶対に近づかないと思う。
2人を眺めて立ち止まっている事に気が付いた燕が、柊を手招いて呼ぶ。
柊は2人の後ろをすり抜けて、燕の元に向かった。
「ひぃ様は水着姿もキュートっすねー」
「ありがと?」
「プール入る前に、俺とストレッチしましょうねー」
「ん」
着替えて来た杏路も合流して、3人でストレッチを行う。
「ひぃ様はプールは初めてっすよね?」
「うん」
「泳ぎ方はそこに立ってる厳ついおっさんが教えてくれますから心配いらないっすよー」
燕はそう言って、奏と話してる男性を指差す。
指された方はぎょっとした様に振り向き、燕を凝視している。
「あんな顔してますけど大の子供好きなんで、優しく教えてくれるっすよ」
「わかった」
柊が承諾すると、燕を半ば睨みつける様に凝視していた視線を、驚いた様に柊に向けた。
その様子を見て後ろのリクライニングチェアで灯が本の影で爆笑している。
「灯様、そんなに笑っては可哀想ですよ」
「だってあいつの頭ん中死ぬ程混乱して意味わかんねぇ言語が飛び交ってんだもんよ」
灯はそう言って笑いながら近づいて来て柊を抱き上げ、その男性に近づいて行く。
「こいつは俺の守役で飛沫だ」
灯は紹介しながら、柊の体をひょいっと飛沫の腕に預ける。
条件反射で受け取った飛沫は、普段接する機会のある子供達の様な頑丈でパワフルなタイプと違い華奢で大人しい柊の事をどう扱えば良いのか困惑している様だ。
泣き出しやしないかとハラハラしながら、受け取った柊を丁寧に抱き直してその小ささと軽さにさらに動揺し出した。
灯は側にいた奏の肩に顔を伏せて二の腕を叩きながら震えている。
「灯様、面白いのは十分理解したんで、ちょっとばかり力緩めて下さい」
奏が迷惑そうに自分の二の腕と肩に埋まった灯の後頭部に視線を彷徨わせている。
「とりあえず、まずは自己紹介したら?」
プールから上がって来た弥生に指摘され、飛沫は柊の顔をそっと覗き込む。
腕の中の柊に、全く自分に脅えた気配が無い様子を確認して少し落ち着いたみたいだ。
「俺は灯様の守役で緋野 飛沫と言う」
「ん、僕は柊」
そのまま黙り込んだ2人を見かねて、燕が飛沫から柊を引き取る。
「そんなに見つめたら穴が開くっすよー。ね、ひぃ様」
睦月も弥生の後ろからプールから上がって来て、飛沫の隣に並んで言葉をかける。
「そんな考え込まなくても、道場の子供と同じ様に接すれば良いんですよ」
「それは……拙くはないか?」
「遊び方を同じにしろって訳じゃねぇよ」
「あぁ、そうか。てっきり……」
「流石に柊をプールに放り込むのは考えなくても拙いって分かるだろ」
「そうだな」
3人を放って、燕と柊は杏路と一緒にストレッチの続きを始めた。
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