03 *滞在2日目
朝目が覚めると、柊は灯と祈に抱きしめられたままだった。
2人ともまだ眠ってる様なので起こさない様にそっと移動しようとすると、後ろから伸びて来た腕に抱きとめられた。起こしてしまったのかと慌てて振り返ると、思ったよりも確りと目の覚めた祈が柊を見つめていた。
「おはよ〜」
「……おはよ」
祈の緩い挨拶に返事をすると、祈が柊を抱えたままベットから起き上がる。
「どこ行くの?」
「ん〜?ルイスのとこだよ〜」
祈は柊を抱き上げてご機嫌の様だ。
そのままゆったりした足取りで1階のダイニングのルイスの所に顔を出す。
「おや、おはようございます。2人とも早起きですね」
朝食の準備をしているのかエプロン姿のルイスに柊が挨拶を返していると、祈がさっさと移動し始めた。ルイスは慣れているのか、笑って見送っている。
そのまま洗面所で身なりを整えられ、2階の守役の泊まっている方の部屋へ入る。
祈は扉のすぐ横に置かれた旅行用の大きなトランクを机の上に置き、中身を広げ始めた。
次々取り出される洋服を柊の体に合わせて、頷いたり首をひねったりしている。
さほど待たず納得いく組み合わせが出来たのか、祈は手早く柊を着替えさせる。
その間に物音と気配で目を覚ました杏路が側に来て、祈が広げた荷物を片付けていた。
「ん、かわい」
祈の選んだ服は、グレーのマリンシャツに短めの紺のサルエルパンツ、丈の長い白のサマーカーディガンだ。
「お、似合ってんな」
朝シャンにでも行っていたのか、奏がタオルで頭を拭きながら部屋へ入って来た。
「奏さんも早く服着て下さいね」
「はいよ。祈、ついでに俺の服も選んでくれ」
「え〜男の服か〜」
「柊も男だろうが」
「ソフトマッチョは守備範囲外だから……」
祈は柊を膝の上に抱き込みながら、そっと目をそらす。
「何か俺、振られた?」
杏路が笑いながら奥から取って来た奏の洋服を手渡す。
「残念でしたね」
着替えた奏と杏路と一緒に祈に縦抱きにされてリビングに下りると、灯も起きて来ていた。向かいのソファーには見覚えの無い男性が2人座っている。
「柊、おはよう」
「おはよ」
灯に手招きされて呼ばれたので、祈にソファーの隣へ降ろしてもらう。
柊の額にキスをして、灯が目の前に座っている2人を指差す。
「柊は会った事無かったろ?こいつ等は俺の守役だ」
「初めまして、自分は久遠 睦月です」
「初めまして、俺は花森 弥生です」
そう言って灯に紹介された睦月と弥生は、顔がそっくりだった。
「実は同じ顔をした人間がもう1人いるんですよ」
「三つ子?」
「おう、京の守役にいんぞ」
「見分け方は、髪型と眼鏡の有無ですかね?」
「眼鏡をかけているのが睦月、髪が長いのが弥生、と覚えて頂ければ」
「わかりました」
「守役には敬語も敬称も不要ですよ」
「そうなの?」
柊は初めて指摘されたので、隣に座った祈に聞いてみる。
「さぁ?俺は特に誰にも使った事ないかな〜」
「「それはお前だけだ」」
「まぁ、祈は特殊だな。基本的に、朽木の人間が分家連中に敬語使ったりはしねぇな」
「そうですね……時々さん付けで呼ばれる事はあっても、敬語を使われる事はまず無いですね」
「わかった」
その後はルイスが食事を運んで来たので、灯と柊の守役も一緒に皆で仲良く朝食を食る。
食後は書庫で気になる本を選んでから、中庭にある半屋内プールへ移動する。
プールでは先に来ていた守役の4人が遊んでいた。
浮き輪で漂ってる祈を奏が押している横では、睦月と弥生が本格的に競争をしている。
柊はプールサイドに設置されたリクライニングチェアで灯とのんびり読書を楽しむ事に。
*
読書の手を止めてプールの中を眺めている途中で、燕と綾瀬が合流した。
「お久しぶりです、柊様。合流が遅れて申し訳ありません」
「ううん、来てくれてありがと」
「いえ、」
「ひぃ様〜お久しぶりっすね〜」
「ん、久しぶり」
綾瀬の挨拶を遮って燕が割り込んで来る。綾瀬は一瞬燕に冷めた目を向けたが、特に何も言わずに柊へ小さく会釈してから室内に戻って行った。
「本当はすぐにでも合流したかったんっすけど祈さんが勝手に車使っちゃったせいで、綾瀬さん不機嫌なんっすよねぇー」
「奏から明日って聞いてた」
「灯様の予備の車を御借りしたんで、何とか今日来れました」
「お疲れ様」
「俺は早くひぃ様に会えてラッキーっすけどねぇ〜」
「僕も嬉しいよ」
「ふふ……そういえば、昨日の夜は大変だったみたいっすねぇ。」
燕は柔らかい瞳で見つめてから、そっと柊の頭を撫でる。
「じゃあ、俺も荷物置いて来ちゃいます」
燕と入れ替わる様にルイスがやって来て、横のテーブルに食事と飲み物を並べる。
「皆さん、そろそろ昼食にしてはいかがですか?」
ルイスの掛けた声に、遊んでいた守役の4人がプールから上がって来る。
「美味しそうですね」
「動き回ってお腹が減ってたので、ありがたいです」
「俺も手伝いますよ」
ルイスと奏と睦月によってテーブルの上には大盛りのサラダとスープに、ボリュームたっぷりのサンドウィッチがこれでもかと並べられ、弥生が全員分の飲み物を配る。
祈はちゃっかり移動した柊と灯の隣に座って、おしぼりで手を拭いている。
「食べ盛りの男性が多いので、しっかり食べられそうな具を多めに用意してみました。サラダとスープも沢山あるので、野菜もきちんと食べて下さいね」
それぞれ返事をしながら空いている場所に座り、昼食を食べ始める。
「遅れていた柊様の守役の2人が御着きになりましたので、今夜はBBQですよ」
「おっ、良いですね」
「新鮮な魚介類も睦月と弥生が朝市で仕入れて来てくれたので、楽しみにしていて下さいね」
「そう言えば、杏路さんが鉄板で作る塩焼きそばがとても美味しいと聞いたのですが」
「それ、まじっすよー」
荷物を置いて来た燕と綾瀬が祈の横に座りながら、肯定する。
「本家で食べたっすけど、めちゃくちゃ美味かったっす」
「私も頂きましたが、大変美味しかったですよ」
「へぇ、是非食べてみたいですね」
「そう言えば俺まだ会ってないんっすけど、杏路さん何処にいるんっすか?」
「杏路なら、下まで買い物に出掛けてるぞ」
「何か足りないものがあればこちらで用意したのですが」
「いや、柊のものじゃなくて、祈のものだからな……」
「衣装用の布とかですか?」
「いや、洋服とか生活雑貨なんかだ。こいつが唯一持って来たトランクには柊の服しか詰まってなかったからな」
「それは……」
「というか、自分で買いに行かせるべきでは?」
「俺もそう思ったんだが、祈に行かせたら本来の目的を忘れて服の材料しか買ってこないだろうからって言われてな」
「あー、まぁ祈だしね」
「なんか普通に納得できるのが凄い所っすよねー」
「良く守役候補になれましたね」
「むしろ柊様は良く受け入れましたよね、祈を」
「まだ仮異動の段階ですからね」
綾瀬がそう言った所で、今まで柊とサンドウィッチを半分こにしていて話を全く聞いていなかった祈が、急に守役のいる方に顔を向けた。
「あ、俺もう葉様に本登録出したよ〜」
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