03
そんな話をしている内に休憩時間が終わった様だ。
荷物をまとめた生徒達が、ぞろぞろと広場の出口に向かって移動して行くが、柊達は最後尾の少し後を移動するので、もう少しゆっくりしてられる。
周りの人間が動き出す中でのんびりとしている柊達の所に、3人の友人達に何か言われながら秋羅が近づいてくる。そっと杏路が柊の斜め前に体を半分隠す様に移動する。
秋羅の友人達は少し離れた所に立ち止まり、秋羅だけが近づいてくる。
「まだ休んでん所にごめんな」
「ううん、大丈夫だよ」
秋羅は言いづらいのか、一瞬目を泳がせながら首の後ろをかく。
「あー、駄目元で聞いてみて欲しいって言われてさ……」
「?」
「あいつら、柊と一緒に山降りたいらしくて」
柊は示された友人達の方を帽子の影からそっと見つめて、声に出さず守役に確認する。
実はGWの後に試してみた所、驚いた事に奏も燕も共鳴者の素質がある事が分かった。
なので、声に出さずに会話をするくらいなら問題なく出来たりする。
『どうすれば良い?』
『そいつらが何の思惑があって近づいて来てるか分かるか?』
『秋羅の幼馴染みが気になるのと、能力者が珍しくてって事みたいだけど……』
『悪意や行き過ぎた下心が無いなら柊の判断で構いませんよ』
『無理そうなら今みたいに知らせてくれれば自然な形で引き離す事も可能っすから』
『わかった』
その間、秋羅は不安そうに柊を伺っている。
「柊?」
「ペース、遅くても良いなら……」
「マジで良いの?無理しなくて良いぞ」
「ん」
「わかった。おいっ!大丈夫らしいから、こっち来て良いぞ」
そう言って秋羅が友人達を呼んだが、本当に了承されるとは思っていなかった為か戸惑った空気が流れている。お互いの顔を見合わせてから、柊が返事をするなり仕事モードに一瞬で切り替えた守役の雰囲気に圧倒されたのか、3人は恐る恐る近づいて来た。
「本当に大丈夫なのか?」
「何かすげえ警戒されてっけど」
「だから止めておけと言っただろう」
秋羅の横に並びながら、小さな声でごそごそ言い合っている。
「どうでも良いから、自己紹介しろよ」
「あ、」
3人の中で一番背の小さい男子が柊の前に進み出る。
柊は杏路の体に自分の体を半分隠したまま、被ってたキャップのつばを引き下げた。
「えっと、僕は秋羅と同じクラスの名取 七花です。よろしくね」
「俺は榎本 朔夜だ。よろしくな」
「犬飼 大和だ。よろしく」
七花はミルクティー色の髪に碧い瞳の小柄な感じで、朔夜は茶髪にアンバーの瞳の少し目付きの鋭い感じで、大和は黒髪黒目のきりっとした感じの男の子だ。
「ん、よろしく」
奏はスマホで何処かに連絡を取り、燕は人数分の飲み物を用意して、席を勧める。
杏路は着席した柊の斜め後ろに立って静かに控えている。
「あっと、柊って呼んでも良いか?」
「うん」
「柊って能力者ってマジ?」
「朔夜、いきなり失礼だよ」
「何だよ、お前等だって気になってたからここに居るんだろ」
「それは、そうだけど……」
「精神感応能力」
「えっ?」
「分かりやすく言うなら、読心術が使えるよ」
「読心術って、」
「それって俺等の心の中が全部分かるって事?」
「見ても良いなら」
「柊は能力者の中でもかなり強いの持ってるから」
「まじかよ」
七花からは少し戸惑った雰囲気が、朔夜からは興味津々な雰囲気が伝わってくる。
「そうか、俺は犬飼家由来の能力持ちだ」
そう言った大和は、柊よりも杏路の方に興味があるみたいだ。
七花と朔夜は能力の事は聞かされてなかったのか、大和の方を見てとても驚いていた。
「はぁっ!?俺聞いて無いんだけど!」
「言って無かったからな」
「僕も聞いてなかった……秋羅は、聞いてたの?」
「いや、俺も本人から聞いた事はないけど?」
「その割にはおまえ、驚いてないよな」
「だって普通にデバイスの色で分かってたし」
秋羅に言われて大和の左腕に嵌められたデバイスを見た2人は、今頃思い至ったようで一気に脱力した。
「あっ」
「まじか……そうだよ、何でそんな初歩的な事に気付かなかったんだ、俺」
「僕も完全に失念してたよ」
実は桜ノ宮で生徒手帳の代わりとして配られるデバイスは、人によって色が違う。
各学年によってカラーが決まっており、1年生は赤、2年生は青、3年生は黄色、4年生は緑、5年生は橙、6年生は紫だ。それ+生徒会役員は白、風紀委員は黒となっている。
特待生と支援生も色が異なり、特待生の場合は白地に金、支援生の場合は黒地にシルバーが使われている。
「大和は風紀に入ってたから、それで黒なんだと思い込んでた」
「俺も」
「まあ、普通は能力者が普通に教室に通うとは思わないしな」
「そうだよね。何で大和は普通教室なの?」
「犬飼の能力は、頑丈な体と力が強いってだけで、大して日常生活に支障は無いからな」
「そうなんだ」
「まさかこんな近くに能力者が2人も居るなんてな」
「うん、ビックリした」
朔夜と七花の様子を見て、大和は柊の後ろに立つ杏路に視線をやったが、本人の許可無く勝手にバラすべきでは無いと判断して口を噤んだ。
そこにスマホで色々と連絡を取っていた奏が近づいて来た。
「柊様、下山の準備が整いましたので、そろそろお話は切り上げて頂けますか?」
「ずっと思ってたんだけど、何で奏さん達、よそ行きモードなの?相手は俺達なんだし、いつも通りにすれば良いのに」
普段と違う守役の様子に、秋羅が不思議そうに尋ねる。
返事の代わりに奏と燕から冷たい視線を向けられ、秋羅は吃驚して後ずさる。
「普通にして、良いよ」
柊が苦笑しつつそう声をかけると、ようやく守役の雰囲気が通常モードになる。
「吃驚した、何で俺今睨まれたの?」
「お前が守役の勉強を真面目に受けてないからだ」
「はっ?俺ちゃんと受けてるし」
「教育係、誰っすか?」
奏に反論した秋羅を笑ってない瞳で見つめながら、燕が首を傾げる。
「皐月さんだけど……」
「ああ、だからですか」
ずっと黙っていた杏路が納得した様に呟いた。秋羅がむっとした様に言い返す。
「何だよ、俺の何処がそんなにいけない訳?」
「その問題を理解出来てない所じゃ無いんっすか~?」
燕が嘲る様にそう言い残して、机の上の皿やコップを片付けに行く。
その後は不機嫌そうにムッツリと押し黙った秋羅の様子を見て、柊に悪影響だと判断した奏が4人を先に山から降ろし、少しだけ後味の悪い遠足となった。
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