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集合時間になったので、全員でバス乗り場へ移動する。
学園の所有するスポーツ施設へは、40分程かけてバスで行く。現地に着いたら、決められたハイキングコースを歩き、山の上の方に広がる広場のテーブルで1時間半の昼食休憩。その後は来た道を引き返し、バスで学園まで戻ってくる行程になっている。
1〜3年生で特別支援制度を利用している生徒は、柊しか居ないので、バスを分けるのではなく、奏の運転する車で現地まで向かう事になる。
柊達が早めに車に乗り込んで待っていると、バス乗り場に生徒が集合し始めた。
車の外からは中が見えない仕様になっているので暇つぶしに集まった生徒達を観察する。
1年2組のバスの前に、数人の生徒と一緒にはしゃいでいる秋羅の姿を見つけた。
順調に気の合うお友達が出来ているみたいだ。
そうやって暫く眺めて時間を潰していたので、柊は出発するまで退屈せずにすんだ。
目的地までの道をバスの最後尾を走る車の中では、全員でしりとりをしたり、杏路と一緒に歌ったり、燕と持って来ていたゲームで遊んだりして過ごす。
そうして楽しく過ごしている内に、車は山の麓にある施設の駐車場に着いた。
柊達はバスから降りた生徒達を見送ってから、少し遅れて出発する予定だ。
空には穏やかな晴れ間が広がっており、絶好の遠足日和になっている。
事前に心配されていた雨の気配も今の所影も無く、雨具を使う機会は無さそうだ。
車から降りる前に、黒のキャップを被り、お気に入りの猫のパーカーを羽織る。
パーカーは丈が長めのモノで、猫耳付きの大きめのフードが付いていて、黒地の背中にはグレーの足跡がデザインされていて、お尻の位置に尻尾の付いた仕様だ。
最後に柊には少し大きめのグレーのリュックを背負って、車から降りる。
「おっ、用意できたっすか?それじゃあ、行きますか〜」
「体調悪くなったらすぐに言えよ」
「うん」
先頭を杏路、真ん中に燕と手を繋いだ柊、最後尾に奏の順番で登って行く。
途中でひと休みしたり、杏路の持って来たカメラで写真を撮らせて貰ったりしながら、最後尾の生徒に追いつかない程度の距離感で、時間をかけてのんびりと登る。
コースの途中には監視兼補助役の教師や学園の警備隊が立っていて、トラブルが起こっても迅速に対応できる様になっているみたいだ。
学園の警備隊には、普通よりも細かい身元確認やかなり厳しい能力テストをクリアしなければならないのでそこまで多くはないが、生徒の保護者から派遣された人員もいる。
なので、朽木家の本邸や離れで見かけた人間が時々紛れていたりする。
顔見知りの隊員に燕の後ろから小さく手を振ってみると、何故だかとても感激された。
そうして柊達がゆっくりと登り切って昼食の広場に着く頃には、既に昼食を終えた生徒もちらほら見かけるくらいの時間だった。
広場の奥の方には大きめのログハウスが建っており、その1階部分が昼食の引き渡し場所になっている様だ。全員分の昼食と飲み物を取りに行った奏と燕を、柊と杏路は人混みから離れた教員と兼用の机に荷物を置いて一緒に待つ。
「取って来たぞ」
「4種類から好きなの選べるみたいだったんで、全種類貰って来たっすよ。シェアして食べましょう」
「弁当の種類は、魚とチンジャオロースにハンバーグと唐揚げの4種類だ」
「どれも美味しそうですね」
「まあ、メニューは子供向きだが、お高い奴だからな」
杏路は側にある鞄の中から、人数分のお手拭きと紙皿を取り出す。
奏が飲み物を配っている間に、燕は机の中央に弁当を並べ、蓋を外して行く。
ほんのり湯気の立つ弁当からは、美味しそうなにおいがして来た。
6月の山頂付近は少し肌寒いくらいの気温なので、暖かいご飯は純粋に嬉しい。
豪華なお弁当を食べたら、後はおやつを食べながらまったり休憩する。
柊の本日のおやつは、GWの時に連れて行ってもらった南雲屋の本店の和菓子だ。
灯がお土産を買うついでに、柊達の家に毎月季節の和菓子が届く様に手配してくれたので、今日は6月の季節菓子である若鮎と紫陽花の練り切りを持って来た。
若鮎はカステラ風の生地で求肥を巻き込んだスタンダードなものと、白あんを加えたものの2種類だ。紫陽花の練り切りは、上に花びらと葉が乗せてある淡い色味のものだ。
桜ノ宮ではおやつの金額的な制限が無いので、ほとんどの生徒は有名なブランドのお菓子を広げている。特待生などの一部の生徒は隅の方でまとまって駄菓子を広げているが。
庶民派の生徒の輪にちゃっかり秋羅とその友達が混じっていて、奏と燕が笑っている。
「そうだよな、子供なんて高級な焼き菓子より駄菓子の方が喜ぶよな」
「駄菓子って子供心をくすぐる魅惑のアイテムっすよねぇ」
「俺も遠足前は蘇芳と命と一緒に、本邸の側の駄菓子屋に買いに行ってたわ」
「厳ついじーさんが店主の所っすよね」
「そうそう、1人500円づつ当主のじっさま達に貰ってな」
「俺も時もそうでしたね〜、杏路さんは何持って行ってたんっすか?」
「私も駄菓子を持って行っていましたよ」
「えっ、何か想像できないっすね」
「兄に付き合って駄菓子屋に行った時に自分の分も買っていましたからね。兄が卒業してからは、香坂さんと一緒に作ったものを持って行ってましたね」
「あー、何かそっちの方がイメージあるわ」
「お兄さんって言うと、杏さんっすか?」
「そうですよ」
「まともに話したのは顔合わせ会が初めてだったが、杏路とはタイプの違う緩い雰囲気の人って感じだったよな」
「あれは猫を被っていただけですよ。本来はぼうっとした見かけに反して無駄に行動的で、重度の機械オタクなので」
「マジか」
「イメージ出来ないっすね」
「まぁ、同じ柊の守役ですから、これから知る機会は沢山ありますよ」
「そうっすねー」
「柊はまだ話した事無かったよな?」
「うん」
「後は守役で柊が話してないのは、柘榴と珊瑚か」
「祈も作品は届くけど、本人にはまだ会ってないよ?」
「あいつはなー」
「顔合わせに来てたのも奇跡的って言われてたレベルで引きこもりっすからね」
「多分、時々食事の世話に行ってる綾瀬が一番会ってるんじゃねぇか?」
「元々作品以外の事にはほとんど興味も関心も無い人でしたからね」
「正直、あの人が誰かの守役になるって想像できなかったっす」
「任命式で名前呼ばれた時は、確かに驚いたな」
「葉様が柊の写真を見せたら一発で釣れたと灯様が笑ってましたよ」
「そうなんですか?」
「なんでも、自分の理想のデザインのイメージにぴったり合致するんだとか」
「あ、判断基準はそこなんすね」
「だから任命式にも出て来たのか」
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