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「それで、新の方はどうすんだ?」
「まずは母親から引き離す事にする。今回の事で連絡を受けた時に偶々ヨナスが側にいてな……ドイツの方で面倒見ても良いと言って来たんで、頼もうと思っている」
「あそこなら心配いらねぇな」
「ドイツと言うと、お爺様の関係者ですか?」
「3番目の元嫁の連れ子だ」
「音楽家の支援を趣味にしてる人だよ。確かコンサートホールを個人所有してるんだよね」
「お抱えの楽団もあるぞ」
「そこに入れるの?」
「確かに新にはバイオリンの才能はあるが、決してトップではない。もっと上の人間がいる事を知れば、歪んだ価値観も多少は矯正できるだろう」
「でもまだ6才でしょう?」
「母親と一緒に預ける方向で話がついているから問題ない」
「拠点をドイツに移すって事?」
「そう言う事になるな」
「お前はどうすんだ」
「私は今のプロジェクトが軌道に乗るまでは今まで通りフランスで活動する事になる。一応空いた時間に顔を出すつもりではいるが」
「というか、そもそも何処を見て新は柊の事を大した事無いって判断した訳?」
「見かけだろ」
「は?」
「ひーちゃんは綺麗な顔立ちをしてるけど、普段は長めの前髪で目元が隠れている上、初対面だと人見知りを発動して俯く癖があるからね……」
「新は同級生の中でも背が高い方だからな」
「つまり、小さくてひ弱そうに見えるひー君は自分の敵じゃないって事ですか?」
「だろうね」
「……すまない」
「前髪、切る?」
「それはそれで心配事が増えるだけの様な気がするなぁ」
「目立ちたい訳じゃないならそのままにしておけ」
「分かった」
「新には葉様から柊と離れに対する接近禁止が言い渡されているから、安心して良い」
「守るかどうかは別だがな」
「会おうにも、明日の早朝には飛行機の中だからな」
「その前に分家の人間が邪魔するでしょ」
「はい。守役の誰か1人は必ず側に付く様にしますのでご安心下さい」
「明日は杏路は休みだったよね?」
「代わりに花森から奏が来る事になっています」
「そいつも休暇中じゃねぇのか?」
「本邸の医務室勤務の予定でしたが、氷歌様より許可が出ましたので」
「今は人も少ないから、氷歌1人でも回せるだろうしね」
「ですので、明日の朝食後に引き継ぎの報告を済ませ次第、交代となりますね」
一通りの確認は終わったが、大人達はお酒を持ち出してまだ話し合う事がある様だ。
流石に夜も遅くなって来たので、子供達は杏路に促されてお風呂に入りに行く。
兄弟で楽しく入浴した後は、柊の部屋で3人仲良く川の字で眠った。
***
―― GW 4日目
今朝は二度寝する茜に合わせて、ゆっくりとした始まりになった。
朝食を食べ、仕事場に行く才と夏目を玄関で見送って、道場に行く茜と別れる。
柊の側には早めに杏路と交代した奏が付いている。
図書塔の地下で待っていた灯と、昨日に引き続き一緒に本を読む。
朝はゆっくりだったので、お昼は少し遅めに灯と取り、再び読書に戻る。
おやつの後はうとうとしだした柊をブランケットに包んでソファーに寝かせ、灯はPCの写真データを整理したり、知り合いの論文をチェックしたりする。
灯が作業に一区切り付けて時計を確認すると、既に夕方になっていた。
地下室は時間の経過が曖昧だな、と考えながら未だすやすやと昼寝中の柊の顔を覗く。
あんまりすやすや眠っているので、もう少しそっとしておこうかと思った所で、違和感を抱く。試しに耳を近付ければ微かな、しかし何やら苦し気な荒い呼吸が聞こえてくる。
「柊?」
「……ん、」
トロンと潤んだ瞳で灯を見上げ、数回瞬きをする。
柊はどうやら意識がハッキリしないようで、どことなくぼーっとしている。
「ひぃらぎっ!?」
ソファーから起き上がろうとした体が傾き、危うく落ちそうになった柊を、咄嗟に灯が抱き留た。灯はそのまま柊の前髪を掻き分け、おでこに手を当てる。
「かなり熱いな……柊、どこか辛い所はあるか?」
大きな声を出さないよう耳元で囁くと、柊の瞳が薄く開いた。
「……ぃ」
「うん?」
「……気持ち、悪い」
蚊の鳴くようなか細い声でやっと発したのは、体調不良を訴える言葉だった。
口を開くのも億劫な様子で、余程辛いのかぐったりとしている。
腕の中から動けない柊を見て、奥の部屋から奏が必要な物を手に戻ってくる。
灯は奏の差し出した体温計を手に取るとシャツのボタンを外し脇へ差し入れた。
灯が暫くしてアラームが鳴った体温計を確認し、表示を上にして奏に渡す。
「39.1℃…!?」
灯が柊の体を軽々と持ち上げる。
「寝室に移動するぞ。ベットの方が休めんだろうしな」
柊が灯の首に弱々しく腕を回し、胸元に顔を寄せる。
苦し気に吐き出される吐息に胸が詰まるが、なるべく揺らさない様にして丁寧に運ぶ。
運んでる間に眠りに就いた柊を、灯は寝室のベッドへと優しく寝かせる。
奏は遠慮がちに柊を揺すり起こし、まだ飲んでいない薬と水をベッドサイドへと置く。
「せっかく眠ったとこ悪いんだが……薬、飲めるか?」
ゆっくりと目を開けた柊が起き上がろうとするが、体に力が入らないようなので、奏が体を支えて起こし、グラスを口元へと持っていってやる。
口の端から溢れた水を拭ってやりながら、何とか一錠だけ薬を飲ませる。
それだけで限界のようだったが、とりあえず飲めた事に奏は安堵の息を吐いた。思ったよりも熱が高く、体が水さえ受け付けない可能性もあった事を考えれば上出来だろう。
薬の飲み終わった柊を寝かせた後は、関係者に連絡を入れる。
最初に葉に報告を済ませたら、分家の責任者と医務室の氷歌にも詳しく説明する。
四季グループの社長室直通の番号に電話をし、道場に内線を入れて茜に繋いでもらう。
最後に守役のグループチャットで情報を共有したら、報告完了だ。
その後は、眠っている柊の額のタオルを交換したり、汗を拭いたり、部屋の温度を調節したり、起きた時に必要になる物を用意したりして、灯と2人で看病に専念する。
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