06
図書塔にの地下にある秘密の部屋に着いてすぐに灯は柊をカウチソファーに降ろした。
背もたれに掛けてあるブランケットで柊を包んで、膝の上に乗せる。
「離れから人払いしといてくれ」
「わかりました」
部屋の壁に設置された内線から指示を出し終わった杏路が灯に質問する。
「どうしてこちらへ移動したのですか?」
「今の柊は能力が不安定になってるから、ここなら物理的に俺ら以外誰も入って来れないって分かって、無駄に警戒しなくて済むだろ?それに熱が出たら能力が全開になる可能性がある。人払いしたのはその為だ。」
朽木家由来の能力は精神感応といって、側にいる人間の心(考え・イメージ・感情など)を感じ取る事ができたり、相手の心の中に直接情報を伝えたりする事の出来る能力だ。
感じ取る能力を受信、伝える能力を発信と言い分けている。
人によって能力の範囲は違う。
灯の場合は受信より発信の方が得意な為、相手の感情をはっきりと感じ取る事が出来るが、考えていることはぼんやりとしか分からない。柊の場合は発信よりも受信の方が得意で、相手の心を感じ取る能力がかなり強く、発信も現在は灯限定で使う事が出来る。
現在の柊は怪我と新の感情に当てられた影響で、普段はセーブしている能力が暴走状態になっているため、側にいる人間の心を無差別に受信している状態なので、能力が安定するまでは側に人の居ない環境で過ごす方が回復が早いのだ。
「私も外へ出ていた方が良いですか?」
「今は俺の能力である程度コントロールしてっからそこまで深刻な状況じゃねぇよ。まぁ完全に抑えられる訳じゃねぇから見られて困るもんでもあんなら別だが」
「いえ、柊なら好きなだけ見て頂いて構いませんので」
「なら問題ねぇな」
「そうですね。飲み物ご用意しますよ。何か希望はありますか?」
「おう、じゃあコーヒー頼むわ」
「はい」
そう言って杏路は、地下室の隅の本棚の影に隠れたシェルターの扉をくぐる。
灯は膝の上にいる柊頭を肩にそっと押し当てる。
「で、上で何があったんだ」
……あれは、何がしたかったんだろう?
「怪我させたのは、新で良いんだよな?」
返事をする代わりに、軽く頷く。そこに、奥の部屋から杏路が戻ってきた。
「お待たせしました」
「ありがとな」
「いえ」
杏路から柊の手に渡された黒いマグカップの中には、ココアが小さく湯気を立てている。
「……おいし」
ココアを口に運びながら、そっと息を吐き出す。
一息ついてから、灯と杏路に先ほどの出来事を能力を使って伝える。
「今のが、」
「見えたのか?」
「はい。かなり鮮明に感じられるものなのですね」
「いや、普通は同じ能力持ち以外には薄ぼんやりとしか感じられない筈なんだが……」
「そうなのですか?」
「随分、信頼されてんだな」
柊のマグカップをテーブルに置きながら、灯が面白そうに笑う。
「俺達の持つ朽木の能力は強力だ。相手の隠したい部分や自分でも気が付いていない本音を、そいつの意思に関わらず読み解く事が出来る。だからまぁ、この力せいで受け入れてもらえない事の方が多い。誰にでも隠しておきたい事の2つか3つはあるもんだからな、それはしょうがねぇ。でもそんな中でも、極稀にお前みたいなのが現れたりする。相手の全部を背負う覚悟を持って、その上自分の全部を与えられる奴がな。柊にとってのお前は、共鳴者って事だ」
「共鳴者、ですか?」
「心が読めるってのは、誰も俺達の前では嘘がつけねぇって事だ。見られても構わねぇ、疾しい事なんか何もねぇって言う奴は確かにいない訳じゃねぇよ?でも俺達は、そいつの無意識の怯えや拒絶まで鮮明に感じ取る事が出来る。それは家族や恋人ですらも、例外じゃねぇ」
「それは、」
「仕方ねぇ事だけどな。で、俺達の伝心能力ってのは不思議な事に、相手がどれだけ俺達を受け入れられるかによって、伝わる映像や感情なんかの鮮明度が違う」
「それはつまり、私が完全に柊の事を受け入れているからこそ、先ほどの感覚が鮮明だったという訳ですか……」
「まぁ、そう言う事になるな。何せ共鳴者は、能力者同士と同じぐらいの感覚で受信ができるって事だからな」
「……灯様にもいらっしゃるのですか?」
「俺の場合は葉だな。詳しく知りたきゃ、あいつに聞けば良い」
「時期を見て確認しておきます」
「おー、そうしろ」
階段の脇に設置されている部屋の内線が鳴って、側にいた杏路が受話器を取る。
「お2人が到着される様なので、私はお2人を出迎えに行って来ます」
「柊は心配いらねぇって言っとけ」
「はい」
杏路が駆け付けてくる才と夏目の対応の為に席を外したタイミングで、灯が切り出す。
「で、新に何かあるのか?」
「どうして?」
「勘」
簡潔すぎる答えだった。柊が否定する間もなく、既に確信している様だ。
柊は自分でも整理しきれていない部分なので、何と答えれば良いのか分からなかった。
それでも、灯が柊の言う事を頭から否定する様な事だけは絶対に無いと分かっていた。
だから、今分かっている全ての情報を柊は灯に打ち明けた。
ゲームの事、攻略対象の事、この先起こると思われる事、自分と言うイレギュラーの事。
「なるほどな」
「そんなに簡単に納得できるの?」
「能力者や転生者がいるんだ、今更だろ。たとえこの世界がゲームの舞台だったとして、今ここに生きてるのは紛れもねぇ俺だって事さえ忘れなければ特に困る事も無いしな」
「そう……」
「それより問題なのは、柊の言う強制力とやらがあった場合の対処法だな」
「僕がメインのゲームなら、無さそうだけど」
実は、水鷹が前世で完全コンプリートしたのはBLゲームの方だけだ。
乙女ゲームの方は笹原 維千歌ルートと有栖川 真白のルートしかやってなかったりする。
なので、乙女ゲームの情報は、パッケージ裏と掲示板で軽く読んだ知識しかない。
「確か初恋ルート?のシナリオでは小4の夏休みにフランスで初めて会うんだっけか?」
「回想シーンではそうなってたよ」
「なら今会うって事は柊の方の強制力は弱いって事か……」
「乙女ゲームの方じゃなければ」
「まぁ、今此所でぐだぐだ言ってもどうにかなるもんでもねぇしな」
「そうだね」
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