表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/87

05 *3日目


朝食の後は前日と同じ様に図書塔へ行く。


守役は交代で休憩に入るので、今日は(つばめ)がお休みだ。杏路(きょうじ)はやる事があるし、(あかり)はまだ起きて来ていないので、先に(ひいらぎ)1人で図書塔に向かう。


重厚な扉を開けて中に入ると、一階の読書スペースには先客がいた。

同年代くらいの男の子だ。こちらを振り向いた顔に、何となく既視感を覚える。


(あ、密恋(みつこい)(あらた)だ)


扉を開けたままの姿勢でそんな事を思い出していたので、ソファーから降りた男の子が近づいて来ていた事に、一瞬反応が遅れた。


「おまえ、だれだ」

「…」

「しゃべれねえの?」

「……柊」

「おれは新だ。なぁ、おまえ(さい)のとこのすえっこか?」

「うん」

「ふぅん」


まるで値踏みでもするかの様な目で見つめられた。


「べつに、たいしたことないな」


とても失礼な事を言われた気がしたが、言葉よりも雄弁に伝わってくる感情に気分が悪くなって来ていて、柊には反応する余裕が無かった。柊のそんな様子に満足したのか、


「まぁ、いいや。おまえ、おれのじゃまするなよ」


と言って、新は座っていたソファーへ戻って行く。


とにかく早く静かな所に行きたい一心で、秘密の部屋の入り口へ向かう。

真ん中の本の背表紙を手前に引き、本棚の仕掛けを動かす。


昨日、灯から貰った鍵を取り出して、扉のロックを外そうとしたら、ソファーの所にいた新が駆け寄って来た。突然思いっきり突き飛ばされて、尻餅をつく。


「なにやってんだ、そこは入っちゃいけないんだぞ!」


いきなりの暴挙に、柊はビックリしてそのまま座り込んでしまった。


「おい、きいてんのか!」


返事を返さない事に怒りだした新が、座り込んだ柊の肩を強く押した。踏ん張りの利かない柊の体が、側にある本棚に叩き付けられる鈍い音が室内に鈍く響いた。


ぶつかった衝撃と痛みに額を押さえると、生暖かい液体が滑り落ちて行く感触がした。


「おっ、おまえがわるいんだかんな!!!」


新はそう言うと、読んでいた本も片付けずに、図書塔を飛び出して行った。


少しの間ぼうっとしていたが、ポケットからハンカチを取り出して傷口に当てる。

ぶつかった時に床に落ちた本を棚に戻して、仕掛けも戻す。


とりあえず杏路のところへ行こうと扉に向かうと、外から誰かが入ってくる。

新が戻って来たのかと思って、とっさに身構えたが、入って来たのは灯だった。


「柊!?」


血まみれのハンカチで額を押さえる柊に慌てて駆け寄ってくる。


「どうしたんだ、その怪我」

「本棚にぶつけた」

「……あの馬鹿か、」


灯はそう呟くと、一瞬険しい顔を浮かべた。

時間的に考えて、飛び出して行った新に会ったのかもしれない。


「まあ、今はそんな事どうでも良い」


そう言って柊を慎重に抱き上げる。


「本邸の方に氷歌(ひょうか)がいるから、少し我慢してくれ」


ハンカチで押さえている柊の手の上に、そっと自分の手を重ねて歩き出す。


図書塔を出て少しした所で、休憩用の飲み物セットを抱えた杏路に会った。

灯の腕の中にいる柊の状態を見て、急いで近づいて来る。


花森(はなもり)家直通の緊急アラートを鳴らしましたので、本邸の医務室の方へ。私は他のご家族に連絡してきます」


余計な事は一切聞かずに、柊の背中に一瞬だけ優しく触れて、去って行く。


「柊の守役は優秀だな」

「ん」


本邸の方の医務室には、氷歌の他に帰省中だった(そう)綾瀬(あやせ)の姿もあった。

手前の長椅子に降ろされて、氷歌と綾瀬が手早く傷口を確認する。


「頭なので出血は派手ですが、傷口はそれほど酷くありませんね」

「これなら縫う必要は無さそうですね」


奏が温めた濡れタオルで傷口付近の血液を拭ってくれる。

その後は綾瀬がささっと消毒を済ませ、傷口にガーゼを当て、包帯を巻いて行く。


「今、杏路が着替えを持って来てくれるそうなので、着いたら着替えましょうね」


氷歌が優しく、ぶつけたのとは反対側の頭を撫でる。


「にしても、何があったんだ?」


奏の質問に、反射的に柊の体が強張る。その体を優しく抱き上げて、灯が話し出す。


「俺が図書塔に入った時には、既に怪我した後だった」

「事故ですか?」

「今は離れには才様の家族と灯様、本邸には葉様しかおられませんし」

「いや、昨日遅くに京様がいらしてた筈だ」

「……と言う事は、新様ですか」

「だろうな、分家の方に走って行くのが見えたから、まず間違いねぇだろ」

「見かけたのですか?」

「後ろ姿だけだが、間違いねぇと思うぜ。図書塔の隠しカメラでも確認させろ」

「そうですね。2人は京様が今何処にいらっしゃるか把握してますか?」

「俺の記憶が確かなら、八雲本家の催し物に葉様の付き添いで行ってる筈ですよ」

「呼び戻すのは無理そうですね」


氷歌はそう言って、灯の首筋に顔を埋めてぎゅっとしがみつく柊の背中を撫でる。


「とりあえず、休ませるのが先でしたね」

「そうだな」

「熱が出るかもしれないので、ここでも良いんですが……」

「いや、今は極力人の居ない所の方が良いな。図書塔の地下で隔離するか」

「そうですね、あそこなら灯様の他に葉様しか開く事は出来ませんし、最適ですかね」


そこに杏路が入って来た。


「失礼します。柊の着替えをお持ちしました」


灯の腕の中から降ろされ、杏路が持って来た服に着替える。その間に報告も済ませる。


「才様と夏目様は本社の方に着いたばかりで、すぐには戻って来れないようです。茜様は道場の方へ連絡を入れた所、新様の確保の為に、心当たりのある場所を当たって下さるとの事です。分家の当主へは簡易ですが報告を済ませてあります」

「では証拠が必要ですね」

「柊、怪我させられたのは図書塔の何処でだ?」

「……地下の入り口」

「と言うことは、1番セキュリティーの厳重な場所ですね」

「隠しカメラの確認は頼んだぞ」

「ええ。映像の方は確認が取れ次第連絡します」

「地下に潜ったら内線以外は基本繋がらねぇから、そっちで連絡くれ」

「かしこまりました」


医務室から奏と綾瀬に見送られ、人の少ない本邸の中を灯に抱えられながら移動する。

朽木家の本邸と分家の方の本邸は中門で繋がっている為、報告と防犯用の隠しカメラを確認しに行く氷歌とは途中まで一緒に向かう。


離れへと続く廊下で氷歌と分かれ、図書塔の秘密部屋に杏路と灯と一緒に移動した。


*ブクマ&評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ